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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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デュクスの騒動7


 康太は先を走る朱莉を全力を出して後を付いて行っていた。


 運動能力では圧倒的に康太の方が勝っているのだが、朱莉が康太を振り切るほどの速さを出せるようになっているのは、やはり足元の光が関係しているのだろう。康太は身体強化だけで対応しているが、汎用的な方法よりも特化型の方が状況によっては勝るということの実例でしかない。


 朱莉が使っているのはもちろん朱莉特有の魔術。今までは武器に伝説の武器を重ねる形で能力を付与していたが、今では素体とするものがなくとも魔術を使えるようになっていた。


 朱莉が召喚しているのは”タラリア”。ギリシャ神話のヘルメス所有の飛べる靴。


 朱莉は飛びつつ空中に足場を設けて加速もしているのだが、康太は道の上を走っている。その道のりが同じはずもなく、直線では互角でも全体では辛うじて、となっている。


 誰もいない道を駆け抜け、右に左に曲がり、時には道を戻るような進み方をし、朱莉は見つけたところに辿り着く。


 朱莉が曲がって直線を進み、その先に一軒家の成れの果てがあり、召喚した靴を還して朱莉が何かを叫びながらそれに向かって走り出す。康太は地面に降りてきたことからこの先にある家が目的地だと確信し、この直線で追いつく、と最後に全力を出す。


 地面に細かい日々が入るほどの鋭い踏み込み。それによって康太の身体は朱莉に並び、そのまま先へと進んで康太も前も向いて気を入れ直す。そして、朱莉を確認してから突入しよう、と振り向く。


 九十度横に進んでいる朱莉。


「へ……?」


 止まることも忘れて一軒家に突撃する康太。幸いなのだろうか、脆くなっていたのかレンガの壁が衝撃に耐えきれず、そのまま貫通する。しかし、もう一方の壁の奥には建物が続いているわけであり、今度は固い壁にめり込むことになる。




 朱莉は何故か直進し続ける康太を見て呆気にとられながらも、目標に話しかける。


「大丈夫ですかっ!?どこを怪我していますか?」


 普段からは想像もつかない話し方。それだけに状況の緊急性が感じられる。腕に抱えられていたのは、傷だらけの子供。体のあちこちに擦り傷、切り傷、あざが広がっている。髪の毛も切られたのか長さが揃っていないだけでなく、血液と土でぐちゃぐちゃの状態で固まっている。その髪の毛の間から覗く耳を見れば、その子供が獣人であることは明らかだった。


 朱莉が腕の中の子供を見て手伝いに呼ぼうと声を上げようとすると、呼ぶ前だが返事代わりに肩に手が置かれ、康太が手際よく子供を寝かせて応急処置を始める。その服からはポロポロと小さな石の欠片が零れてきている。おおかた突撃した先で埋まったのだろうと見てみれば、ギャグマンガのような大の字の穴が開いているわけがなく、こちらに気をとられていたのか前傾姿勢で埋まったことが分かる跡が残っていた。こちらの方が現実的なのだろうが、これほど埋まるとなるとそれはそれで現実的でないのか、と考えてしまう。


 そこをねぐらとしている人がいたのならば気の毒なことだが、それを気にしている余裕はなかった。怪我をしていた子供の対応が最優先だった。



 この子供の他にもスラム街で同じような状況に置かれている子供がいる中、この二人がどうしてこの子供のところに来たのかと言えば、この子供が康太たちが一度助けたことのある子供だからである。正確には、この子供と一緒にいたはずの子供であるが。


 この街に来てすぐ、雅紀の提案で二人づつに分かれて買い物デートに勤しんでいた日のこと。返ってきた康太が雅紀同様に機嫌が悪かった日のこと。


 その不機嫌の原因がその子供に関わってくる、とは言うものの、ほとんど話の流れは雅紀と静が経験したものと違いはない。違うとすれば、子供たちに目を付けていた野郎どもが雅紀たちのそれよりも下種だったことになる。


 雅紀たちの見たところ以上となると、それは子供を殺すことに躊躇いがないという明らかに頭のねじが外れている奴らしかいない。


 そいつらに追い詰められている子供を見つけて見捨てるのも寝覚めが悪いからと乱入したが、ガラの悪い方をあしらっているうちにいつの間にかその場からいなくなっていた。すれ違いざまに、「私に関わらないでください」と子供がするものではない表情で言われていた。怪我を治してあげようかとも思っていたのだが、逃げられてしまってはどうしようもなかった。


 もちろんそれで見捨てるわけもなく、スラム街に足を運んで探していたが見つかることはなかった。


 そして、今日、騒ぎが起きてから朱莉が本気を出して探し出すことでようやく見つけることができた。しかし、その時に見た状況と現状には大きな隔たりがあるようだった。


 そう、あの日、悲しいことを言い残して去って行った子供がいなくなっていた。



 朱莉が目を覚ましてからここに辿り着くまでの十分もないだろう短い時間に何があったのか。場所に目印を立てて眼を離してしまったことを後悔する朱莉。


 しかし、ここで朱莉はあるミスを犯していた。自身では見つけたところで起きたつもりであったが、朱莉は眼に全力で力を入れていたために映像処理が対応できず徐々に、現実と眼に入って来た映像に時間的な乖離が生じてしまっていた。静のような思考加速をしなかったために起きてしまった現象である。


 故に、実際は十分は越えていた。二十分を超えるほどの処理落ちは起こしていなかったことは、腕の中の子供流す血が固まり切っていないことからわかる。眼を離してからの二十分弱で二人の片方に怪我を負わせ、もう片方を連れ去ったのだろう。


 怪我の手当てをしている時間も惜しいが、ここで追いかけることにしてしまうと二の舞を踏むような気がしてしまって進めない。


 康太が安静な体勢に寝かして怪我の手当てをしているので、それをサポートするように必要なものを並べていく。水や氷、清潔な布に包帯。対処してほとんど時間が経っていないのだが、子供が身じろぎする。


 見た限りの傷や汚れの状態からは重傷としか思えないのだが、目を空けようとするのは獣人だからだろうかと考えながら、汚れを落としつつ内出血を抑えるために水をかけた服を脱がす。そして、そこにあったものに今さっきの考えを捨て、内心で毒づく。


 軽傷で済んだのではなく、軽症で済まされた。


 体に残された傷を見れば、命を奪うことよりも痛みを与えることに重きを置いていたのだろう。深い傷ではなく、浅い傷が重なるように何本も刻まれている。命の危機だからではなく、気が抜けたため気を失ったのだろう。そこに体が急に冷やされたため、意識が戻ってきたらしい。


 すぐそばにいる康太に気が付いたのか、力が入っておらず揺れている腕で袖を掴む。人がいることには気が付いていたようだが、しっかりと見えているわけではないようで視線がしっかりと捉えられていない。


「…すけて…。シーを…おね…がい…」


「何があった、話せるか」


「あいつら…シーを連れ……」


「どっちだ。…分かった、あとは任せてゆっくり休んでろ」


 そこまで聞いたところで、意識がまた沈んだようで方向を指していた腕が落ちるが康太がしっかりと支える。朱莉も話しているうちに傷が広がらないように手当てを終え、指さされた方角を見ていた。


「見えたか?」


「いえ、スラム街にはもういないようです。恐らく街に入ったのでしょう、あちらは私の目が届かない場所が多いですから。さて、追いかけることにしたいのですが、この子をどうしましょうか」


「流石に連れて行くわけにもいかねえが、ここに置いてくってのも心配なのは変わんねぇ。静に任せるか」


 連れ去られた子供、目の前の子供がシーと呼ぶ子供を追いかけることにするが、来るまでと来てからでかなり離されてしまっていた。すぐに移動したいが、怪我人を放置するわけにもいかないと考えていると、ポケットから振動を感じる。


『お、呼んだか』


 スマホを出したというのに、響いてきたのは直接頭の中にだった。何処でその方法を身に着けたというのか。


「お前は呼んでねえよ、雅紀。だが、ナイスタイミング、この」


『ほい、回収完了。他に手伝うか?』


「…十分だ。このタイミングって何かあったのか」


『うーん、まあお客さんが来ただけだな』


「言いたくないならいいが、何か情報ないか?獣人の子供が攫われた」


 会話が途切れ、返ってくるのは低く感情が込められていない声。


『…やっぱりそっちもか。なんかいくつかの集団が動いてるみたいで分かりづらいんだよ。…朱莉はどうだ?』


「と、言うことらしいが朱莉?…朱莉?」


「あ、少し待ってください。よいしょ、これなんですが、何かわかりますか」


『あー、十秒くれ』


 朱莉が持ってきたものが消えて、雅紀から疲れたような声が返ってくる。それだけの時間がかかるということは、情報を遡るのだろう。


「で、ありゃ、何だ」


「シーちゃんを連れ去った人たちの服の一部です。マーカーとして撃った矢が切り裂いてました」


「たまたま、当たったんじゃなくて狙ったんだろうが」


「そういう言い方もありますね」


「いや、そうとしか言わねえが」


『いやあ、お二人さん、熱いですね。見たところ、そこから…』


 有力情報を手に入れた雅紀が交ざってくる。その言葉の裏に込められた思いがバレバレではあったが、服の持ち主がいた場所の座標を伝える。何処が中心の座標なのかは雅紀も分かっていないようだが、その座標を現在のこの街に重ねたときの場所に直す。


『…の地下だった。…他にも連れ去られた子供がいるようだな。…潰せ』


「ハッ。…言われるまでもねえよ」


 二人の声を聞けば誰しもが体を震わせるのだろうが、この二人を特別に想っている者たちにとってはそうでもないようで、何かに悶えるようにしている。


『あ、やべっ。鼻血出てきた』


「静の柔らかさでも思い出しましたか?」


『……』


「流れ出る量増えてません?」


『…どうしよう、止まらんのだが』


 雅紀は格好良く決めようとそれを木っ端微塵にしてしまう何かを持っているようだった。


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