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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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デュクスの騒動6


 戦場で聞くとは思えない言葉で注意を促し、静が参戦する。静の立ち位置は変わらず、建物の隙間から漏れているかすかな光が遮られ、さらに暗くなる。高さはそこまでではないが、地上から狙おうとすればかなりの角度となって狙いが定まらないが、上からは丸見えなので狙い放題となっている。


 康太も崩した体勢を戻して朱莉の腕もしっかりと抱え直し、上にだけ注意を払っている経験不足が明らかな方を狙って動き始める。二人ほど蹴飛ばすことはできたが、隣の奴が飛んでいくのを見てパニックに陥ったのか、ありったけのナイフを投げてくる。


 面での攻撃は康太の苦手とする攻撃ではあるが、今は一人ではない。風切り音が聞こえ、パニックになって焦りが現れていた男の顔が歪む。


 二十本近くもどう投げたのか自分でもわからないほどのナイフだったが、良い音を立てて横へと軌道をずらされ、その壁の向こうから半身になってタメを作っている康太が近づいてくる。手持ちの装備は投げつくしてしまって構えるものもなく身を丸めて耐えようとするが、それを無意味だと痛感させるような蹴りがガードの上から刺さる。


 面攻撃で他の黒ずくめたちの攻撃も緩んでいたため、ボーリングのように複数人を巻き込むようにして飛んでいく。巻き込まれた方は怪我はしていない者の、気絶した男に下敷きにされるか、それをどかそうとする男どもに潰され、すぐには戻ってこれない。


 慌てて康太に魔法を放とうとする頭ではあったが、構えた瞬間には杖から衝撃を感じ、手のグリップ虚しく杖が飛ばされる。杖の行方を目で追えば、杖だけでなく壁に貼り付けられたいくつものナイフが視界に入ってくる。


 暗い中ではわからづらいが、方向によってははっきりとわかる。透明だが光を跳ね返す氷。


 それが金属を貫通し、磔にしている。ナイフも質よりも数を優先させた鋳造品とはいえ手抜きの品ではないのだが、それを貫通している極細の氷の針。それを大量に撃ち出す能力も恐ろしいが、それよりもその射出能力。全弾において面に垂直になるように調整して命中させる力量。


 見えてさえいれば狙いは外さない、と誰もが見てわかる力量。


 それを可能にしているのは、本人の能力なのか、補助の魔道具なのか、杖なのか。そう思って手のしびれに苛立ちながら顔を戻せば、静が建物の家から飛び降りようとしている。空中は良い的になるだけ、そう指示を出そうとするも、その手に持っているもののシルエットに見覚えを感じる。


 瞬きの間に距離を詰められたのか、目の前にそのきらめきを捉えて意識を飛ばすのだった。




 振りぬいた槍を戻しながら意識を失った黒ずくめの頭を見下ろす静。人を斬りつけたはずの槍だが、それには一滴の血液もついていない。寝転がされた男も痛みをこらえるような呼吸はしているが、死にかけのような状態にはない。


 電子の槍。槍の先端に電子を集めて魔力で固定することで本来よりも大きな刃を形づくり、相手の人体近くで解放すれば電流が流れることになり気絶させることができる。簡単に言えば槍の形をしたスタンガンなのだが、魔力で斬りつける側面もあり、相手の魔力を乱すことになっているのだが、そこまでは気づいていない。柄は槍だが、刃は調整可能で薙刀のそれと同じ程度にもできて使い分けできる。


 静の飛び降りとそこからの高速移動に目をとられている間だが康太が立っているだけのわけもなく、手ごろな奴から倒している。それに気が付いて康太に向き直るのだが、そうなると静が槍を振るい始めるので、どちらかに集中するわけにもいかず、中途半端な戦力ではどうにもならず間もなく全員が地面に身を横たえることとなった。



 倒した黒ずくめたちではあったが、他にもやることがあるのだが衛兵は当てにならない。どうしたものかと話しながら、縄で全員を縛り上げていく。目を覚まして攻撃を加えられても迷惑だからと康太は暗器を回収している。黒ずくめたちの着ていたものが軽装であったので見つけやすいのだが、人数が多いので時間もかかってしまう。朱莉は壁にもたれかかるように座っている。


 そうして集めた暗器についてはほとんどが隠しナイフの類であり、ましだったものは静が初めに貫いた魔道具が三本だけであった。ナイフは使うからと静が回収していると、朱莉がようやく目を開ける。バチッ、と音がしそうなほど勢いよく目を開いて立ち上がる。


「おう、気分はど…」


「見つけました」


「何処だ?」


 小休憩で緩んでいた康太の気配が再び引き締まる。


「静、ここは任せてもいいですか。スラム街の子供たちの近くには私の魔力で矢を撃ち込んでおきましたので、それを目印に保護をお願いできますか?」


「いいよ、私に任せて。全力で守るから、行ってきなよ」


「お願いしますね。康太さん、急ぎますので遅れないようにしてください」


「俺に言うことか、と言いたいが、そういうことなんだろ。本気出していいぜ」


 壁の隙間に手と足をかけるようにしてあっという間に建物の屋上までたどり着き、離れていく二人を見送る静。雅紀の言う通りに来てよかった、と安心しつつ、朱莉に託された仕事へと移る。


 縛り上げた黒ずくめたちを隠すように魔術で見かけをごまかし、壁と壁を交互に足場にして登り、そのままスラムで一番高い建物へと向けて、その場で跳躍する。自身にかかる重力などはそのままに軌道上にある空気をどかし、摩擦を極限まで減らして減速することなく空中を移動する。


 自分の周りの空気までどかしてしまえば酸欠になるだけでなく、真空中で肉体が破裂することになる危険な方法であり、転移よりも時間がかかる方法であったが理由はある。移動中のわずかな時間だが、スラム上空に向かっていくつもの魔力弾を撃ち放ち、最後に額をこつんと叩く。


 スラム街を見下ろす静だが、その目はスラム街を見ているようで見ていない。静の目がスラム街ではなく、スラム街各地の映像。いくつもの視点から見たスラム街の様子を静は捉えている。


 燃えさかっているスラム街、逃げ惑う人々、その最中に子供に手を上げようとしている人。


 さまざまな人が映し出されていて、その数は百に届くのではないかという映像が静は捉えている。先ほど撃ち放った魔力弾のそのすべてを視点とし、そこから見えたものを処理して広範囲の状況を把握する。この作業をするためにわざわざ空を飛ぶことにした。


 先ほど朱莉が長時間かけて行ったことを同時並行して処理している。とてもではないが人間の頭で処理できる情報量ではなく、手に負えなくなるか、意識を失うかするのが当たり前の作業。


 それを行う静かであったが、その表情は何かをこらえるようなものではなく、手ごたえを感じているらしい。見えているなにかに対処するように、槍を振るう。もちろん、静が何かを切ろうとしているわけではなく、動かされるたびにスラムの中から喜びの声が上がってくる。


 思考加速(オーバークロック)


 何回かの神様たちとの対話で経験したあの現象。それを魔術によって再現したもの。極度の集中状態に持ち込んで思考を加速させるなど、いくつものそうした現象をまとめ上げて生み出した魔術。


 その結果、静の頭脳は高速戦闘でも余裕をもって考えることができるようになり、身体の速さに頭が追いつかないが故の技のずれを消し去ることもできるようになった。


 人が二台のゲーム機を渡されて同時にプレイしろと言われても無理だが、その画面が非常に遅く進むのであれば、数秒ごとに持ち替えればクリアはともかくプレイはできる。この魔術で思考を加速させれば、現実を認識することにおいてこれと同じことができるようになる。


 クロックを上げれば、同時にやるべきことが増えても対応できる。


 先ほどの射撃もそうした技能があるからこそできる技である。入射角や速度を合わせなければ、すべてを縫い付けることはできない。


 複数の映像を見てのスラム街の把握、火事の鎮火、朱莉の残した魔力の感知、荒くれ者の対処。


 魔法ならば精霊を介することになり、精霊の具合によっては発動までに時間がかかってしまうかもしれないが、魔術はその点で違う。書き換えるのにかかる時間は皆無であり、それは加速中の知覚でも気にならない程度であり、それに従っての世界の修正力も一瞬で働く。


 静は自身の得意とする魔術を行使する。


 火がこれ以上燃え広がることがないよう低温の窒素を火の周りに集める。発火点を下回ればそれで火事は収束するので、温度という情報を書き換えようともしたのだが、残念ながらこの火が魔力で増幅されていたようで魔術での書き換えが困難で効率を考えて諦めた。温度を下げるならば低温のものを混ぜればいいだけなので、それを外で用意してぶつけても目的は達せられる。


 周りに人がいないことをいいことに低温の象徴の液体窒素を生成し始める。温度を下げて生成するのでもよかったのだが、窒素の状態を液体だとすることでも得られる。どちらにおいても同じように得られるが、その過程で余った熱量の行方についてはとても興味が惹かれる静だった。


 周囲に集められた窒素がどんどん液化していき、周囲の熱を奪っては気化する。気化した窒素は再び静に集められることになる。火事がひどくならないことから、余った熱量が熱として放出されていないことは明らかだった。


 発火点以上の温度を維持するのも厳しくなり、周囲を窒素で囲まれたために酸素も不足し出す。炎は勢いを取り戻すことなく、立ち上るのは余熱による水分だけとなる。


 ちなみに、火事が落ち着いたスラム街だったが、逃げまどっていた住民たちからしてみれば突然冬の風よりも凍える風が吹き始め、それだけでなく白い煙、液体窒素で冷やされた水滴を含む空気が魔の手のように襲ってきたのだから、変わらずスラム街を逃げ出そうと必死になるのだった。


 立ち上っていた煙がいくつかは黒くなってしまっていたが、スラム街を巻き込んでの焚き火を抑えるのを終わらせ、数多の映像の一つで朱莉と康太が入り組んだ迷路のスラム街を駆け抜けているのを捉えるも、追いかけることはせずに屋根から飛び降りる。


 空中で槍を振るって感覚を確かめ、未だに暗躍し続けようとする黒ずくめを終わらせるためにその場を後にするのだった。


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