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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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デュクスの騒動4


 ”子供たちのことをお願い”

 ”気を付けて”


 その言葉に触発された四人は返ってきたばかりだというのに、全力で外へと駆け出す。


 ”子供たち”と言われて四人の頭に浮かんでくるのは、短い付き合いしかないが孤児院の子供たち。その子供たちのことを頼まれたということは、迫り来る何かから守ってほしいということだろう。ここまで関わっておいて見過ごすわけにはいかない。差出人不明という点が不安ではあるが、警戒のし過ぎで損はない。


 今すぐに転移で教会まで飛ぶか、そう考えはしたが、街中で起きている騒動が関わってきているかもしれないため、多少の時間ロスには目をつぶることにして走り出す。誰もいない街道をランニング程度の速さで走る。


 宿を出てすぐは先ほどと何も変わりがなかったが、街の中央に近づくにつれてそうはいかなくなった。数は少ないが衛兵が大声を上げて走っているのが聞こえ、店の明かりで上空へと伸びる白い煙が見える。立ち上る煙の塔は離れてみれば太い一本に見えたのだが、発生源に近づけば三か所から出たのが上空で混じり合っていることが分かる。


 衛兵の中で立場のある奴らのほとんどが力を持ち合わせているということで討伐に駆り出されている中での火事。これは街が荒れそうだと思わざるを得ず、さらなる混乱が残っていた住民の中に広がっていく。しかし……


「これは火事じゃないな」


「火事なら黒い煙が昇るはずだからね」


「焦げた匂いなんてさっぱりだぜ」


「火の元が三か所で広まらないなんてことはあり得ませんね」


 この四人はそれに流されることも無く、現状の把握に努める。自分たちが教会から宿に戻るまでのほんのわずかな時間でないが起こったのかがものすごく気になる。


 街に残っている戦力は、言い方は悪いが力を持たない衛兵と冒険者だけ。それも数がどうしようもなく少なく、状況に流されずに仕事をこなすだけの能力も怪しい。街を任されたトップが統率を測れるかにかかってくるだろう。


 街の状況も気になるところではあったが、雅紀たちにとってはより上位の優先事項があるため、すぐさまその場を後にして隣の街道へと移動して教会へと駆け込む。教会の扉を開け放って中へと足を踏み入れ、その時、四人の視界は真っ白に染まった。




 視界が白く染まり何も見えない中、周りバタバタ駆け回る存在を感じながらも見ることは叶わない。


 複数の住民から火事が起こっていると通報があり、場所もずれていたため広がるのが早いと歯噛みしながら現場に駆け付けたわけではあるが、そこにあったのは火の赤ではなく煙の白。中に取り残されて存在はいないかと深くまで入り込んでも感じない焦げ臭さ。ここまで来れば誰でもこれが火事ではないことに気が付く。


 しかし、火事だと焦って出てきたこの衛兵の頭はここで煙に浸食されたかのように真っ白になってしまう。頭が動き出しても何か解決策が出てくるわけでもなく、わたわたと動くことしかできない。短くない時間が過ぎ、その間にも何かが割れる音が響き、下品な笑い声が聞こえる。そういうことには敏感なのか衛兵として捕らえることができる。


 あちこちでこのようなその場しのぎしかできない中、これでもかとばかりに張り上げられた大きな声が聞こえてくる。


「さっさと煙を上空に散らさんかい、このボンクラどもがぁ!!!」


 お世辞にも綺麗とは言えない言葉が響き、その声を聴いたのかあちこちから衛兵の声が上がる。風の魔法を使うように指示が飛び始める。対火事部隊が基本として水魔法しか使っていなかったため、衛兵の多くが思いつくことがなかった。一部では始めていたようだが煙の量が数人ではどうしようもなかった。


 風が吹き始めてようやく数メートル先が見えるほどまで薄まったところで、またしても邪なことを考えているバカ者どもが視界に映りだしたのかあちこちから衛兵の声が響く。


 魔法使いに向き不向きがあるとは言えども、風を起こす程度の初級にも満たない魔法ならば水魔法を得意とする魔法使いでもこなすことはできる。魔法使いにはそのまま風を起こし続けるように指示が飛び、救出用の重装備を着込んだ衛兵たちが煙の出処だと思われる店に突入する。


 店の中が密閉されているため視界が逆戻りしてしまうが、他の感覚を総動員して探し出す。シックスセンスで見つけ出した、と後日語る衛兵もいたようだが、そのほとんどが手当たり次第に掴んだ結果であったことはばらさずともわかることだった。


 突然の煙に驚いたのか気絶したのか床に横たわっている人を救出したりと、火事のときと同じような対応をとりながら、原因となったものを回収することに成功した衛兵たち。回収したとはいえ、それは煙を吐き続けるので魔法使いで囲むようにして煙が上空にだけ広がるようにするしかないのだが。


 衛兵たちの間に再びあの大声が響き、衛兵の多くが煙の出処となった店の周囲を取り囲むように待機し、火事騒動の原因は魔法使いが取り囲んでの移動となる。移動した先には大声の持ち主の衛兵の隊長と原因があった店の店長たちが待っていた。


 まだ動き続けた状態で移動したものだから上空は先ほど以上に広い範囲で白くなってしまっているが、誰も気にしてはいない。集まったそれを確認し、衛兵隊長が複数人いる店長たちに視線を向ければ頷きが返ってくる。隊長が剣を抜いて近づいてくるのを見て、ここまで来た魔法使いが慌ててその場を離れる。


 振り下ろされた剣と飛び散る色とりどりの欠片。


 飛び散った欠片から最期の分とプスプスと出たところで煙が止まる。剣をしまう隊長であったが、魔法使いたちは縮こまってしまっている。再び睨みつけられてようやく魔法を起こし始める。


 魔法使いたちの必死の働きで視界が元に戻ったところで、隊長が店長たちを見下ろす。別にそうしたわけではなく、向かい合うと体格的にそうなってしまうだけなのだが。その状態で話し出す。近くにいた衛兵は、普段の指示もそのくらいの声の大きさでお願いします、と思わずにはいられないくらい普通だった。


「では、これがどういうことが説明をお願いできますか」


 隊長の視線の先にあったのは、大量の魔石の欠片とその台座の金属片だった。




 視界が真っ白になった雅紀たち。


 開けた先から流れてきたわけでもなく、自分たちの内側、服の中からのそれ。突然のことに耐性が付いているつもりの雅紀たちではあったが、起点が違うだけでこうも対応に差が出てしまう。


 それを狙ったかのように、なにかが飛来する。


 煙に視界を遮られた中で悪意を感じさせる何かが近づいてくる状況。数時間だけ時間が遡ったかのような気分になるが、今回は既に意識が切り替わっており、接近してくるそれを先頭にいた康太が木っ端みじんに粉砕する。


 続けて何本ものナイフが投擲されるが、康太の一睨みで彼方へと吹き飛んでいく。


 キン、キン、と金属と石がぶつかる音が広がる中、下から噴き出してきた煙を思い切り吸い込んでしまい、一人だけ咳き込み続ける。咳き込んでしまい体が思うように動かせず、煙から逃れられないという負のスパイラルに嵌ってしまっている。


 ゴホゴホと咳き込む音が続く中、突如、「ひゃっ」と抜けた声が挟まり、何かをこらえるような唸り声が代わりに聞こえる。


 それは非常に短い間のことであり、豪、と突風が吹き荒れるのを機として咳き込む声に戻る。しかし、それもすぐに消え去り、苦しさから逃げるような深呼吸に変わって次第にフェードアウトする。


 煙が晴れて見えるようになった教会内には、いつの間にか近づいていたのを康太が倒したのか全身を黒で固めた男が地面に寝そべり、同じような格好をしているのが教会の椅子に叩きつけられて絶妙な加減によって意識を失わずに痛みにあえいでいる。


 一方で煙を晴らしたとき雅紀たちはというと、康太だけが全力で戦闘状態に入っており、朱莉は巨大な扇子を構えている。そして雅紀たちは……


「「……」」


 顔を真っ赤に染めて、お互いに顔をそっぽに向けている。雅紀の腕は所在無さげにときどき頬を掻いている。静は恥ずかしそうにローブの口を両手で抑え、火が出るのではというくらい雅紀以上に顔を真っ赤にして口元まで沈み込んでいる。


 何があったかを隣で感じていた朱莉は二人のこの状態にため息をつき、いつの間にかお手頃サイズに戻っている扇子で頭を叩きつける。その扇子を手のひらにゆったりと何度も何度も叩きつけるその姿は、口では言わずとも何を言いたいかは明らか。


 いちゃついてないで、働け。


 叩かれて向いた先で、それが目の前に迫る。何も言えず、うす、と答えるしかない。


 雅紀が剣を一振りすればあちこちから爆発音が響き、なにかを叫びながら教会の広い部屋へと姿を現す。そこを狙い撃つように構える静と朱莉。一振りしてからのわずかな時間とはいえ、戦闘中には破格の時間に用意された武器が襲い掛かる。


 抵抗虚しくそろいもそろって地面にくぎ付けにされた覆面たち。その姿からいくつかの仕事が連想され、どれも好ましいものではないがどうにかなったのだから良しとしておく。そして、予想通りに紙装甲であったことは、その予想が外れていないということだろう。


 つまり、暗殺を主とする殺し屋。


 ここで襲われたことは子供たちのいる孤児院に近づいたからなのか、それとも自分たちが目的だったのか、どちらなのかあいまいにしてしまう。手帳からは子供たちが狙われているようだが、どうなのだろうかと悩まずにはいられない。


 とりあえず、今度はスラム街とは違って簡単に切り捨てられるような下っ端ではないだろう。これを尋問してみれば明らかになることだと、痛みで気を失えないでいる男を掴み上げる。身長差のせいで掴み上げているのだが足を引きずることになってしまっているのだが、格好がつかないなどという無粋なことはここでは黙っておく。


 四人で一人を囲み、静が背中に手を当てた状態で話し出す。


「お前らの目的は」


「ぐっ。はあ、言うと思うか?」


 康太の視線を受けて静が指を動かす。背中を叩かれる感覚に警戒するが、直後、その意識が飛びそうなほどの激痛が走る。先ほどの痛みが可愛らしく思えるほどの痛み。神経についての知識があれば、無駄な怪我を負わせることなく更なる痛みを与えられる。ここだけ聞くと悪事に聞こえるかもしれないが、要はツボ押しである。押し方から優しさを取り除けばこうなる。


 拷問するのは心にクルが、ツボ押しマッサージでお代に情報を貰えると考えることのなんと精神衛生上素晴らしいことか。


 何度も襲い来る襲い来る痛みと見えない背中の現状を思い、覆面男がようやく口を割る。その顔は雅紀たちを加害者としての被害者のものだが、実際はそんなことにはなっていないことに加えて立場は逆である。


「注文は、ケモノのガキだ」


 ようやく吐いた情報で雅紀たちは動き出す。


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