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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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デュクスの騒動3


「うまくいかなかったそうだな」


「別に一度で成功させずともいいのでは?やりようによっては目を他のところに向けさせることができますし」


 非難の意を込めて言い捨てたのは机に向かって何かを書き続けている男。次いでの言葉はその机の前に置かれた高級そうなソファに身を沈めて寛いでいる男。どちらも同じ部屋で話しているというにも関わらず顔を合わせようとする気がないことは、この部屋に入れば誰でもわかることなのだが、現在この部屋にはこの二人の男しかいない。


「そういうことならば構わん。仕事をしっかりとこなしてもらえるならば結構。それで、どうなんだ。いけるのか?」


「まあ、初めは様子見です。情報が無ければどうしようもないので。聞いた限りではそれなりの腕前なのでしょうが、あの程度なら問題ないそうですよ」


 見るからに高そうなカップでお茶の香りを楽しみながら男は答える。


 情報が無ければどうしようもないとは言っているが、今回の地竜騒動に駆り出されていないということは高ランク冒険者というわけではないので警戒はそこまでしていなかった。冒険者の中には仕事期間が短いため実力とランクが見合っていない者もいるが、そういう輩もギルドは経験を積むためと言って連れて行っているのだから残っているターゲットはチンピラを完封できる程度と考えれば余裕である。


「つぎ込む力を出し惜しみして失敗というのが最も損害の大きい終わりだ。これを持って行け。全力で仕留めろ」


 ここでようやく筆を動かしていた男が顔を上げたと思えば、机の引き出しから革袋を取り出して放り投げる。柔らかいソファでも音がするほどの重さを持つ革袋。話の流れから中に何が入っているかは明らかだが、そうだとすればそれはとんでもない価値を持つことになる。これほどのものが取引されるとすれば場所は大きく絞られる。


 渡されたものに満足そうに頷き、受け取るものも受け取った、と残っていたものも流し込んで席を立つ。もう話すことはないと袋を投げ渡した男もすでに下を向いている。


「では、仕事に行ってきます」


「ああ、次はここの下でな」


 それだけをお互いに残して、この部屋には筆と紙の擦れる音だけが残る。





 いつの間にこれほど日が沈んでいたのか、暗くなった道に出る。


 真ん中を突っ切ったとはいえスラム街はそれなりの大きさ故に、街の中を大移動したことになり、近い門も変わって店構えも変わってくる。いつも通りならば今まで見てきたところとはまた変わった賑やかさを楽しめたのだろうが、最近の門が違うとはいえ街中を駆けめぐった話のせいで店のほとんどが閉まっている。開いているのが多少あるのが見えるが、並んで店の数からしてみれば誤差の範囲でしかない。


 本来ならばのんびりと買い物を楽しめただろうに、と残念そうな顔をすると抱えていた子供が不思議そうに見てくるので、何でもないよ、と頭を撫でてあげれば気持ちよさそうに目を細める。その姿の可愛いことと言ったら、ちょっとやそっとのものでは例えられそうもない。


 街を巡回する馬車で拠点にしている宿とその近くの教会へと向かう。街の中心に向かう馬車の中はものすごく広かった。ときどきすれ違う外周行きの馬車とは密度が桁違いとなっている。


 たかが地竜が出た程度でどうしてこうも街が慌ただしくなるのか、同じ亜竜であるワイバーンを倒した経験のある雅紀たちには不思議だった。これはあくまでも馬鹿げた火力を持ち合わせる雅紀たちだからこそである。ワイバーンだろうとハイオークキングだろうと構わずぶった切るだけの力があれば気にすることではないかもしれない。


 ワイバーンならば倒すことのできる火力を持っていようと、地竜を同じように討伐するだけの火力を持つ人間は数が限られてくる。そうなれば倒し切るまでに時間がかかることになってしまい、それだけ魔物の進行を許すことになってしまうのである。進行する先にあるのが街となれば恐れるのは当たり前である。


 この街は遠くない昔に、魔の森から流れてきた魔物の進行によって街に被害を出してしまったことがある。それを含めての反省から速攻で逃げ出す人間が多いのである。エリンエルでは逃げてもどうしようもないと立ち向かう人間が多く、それしか知らない雅紀から見れば不思議に見えたのだろう。


 乗合馬車で教会まで向かい、孤児院に直接行くよりも教会に顔を出しておくか、と覗いてみれば、ここも例外ではないようで中は人が少なく冷え冷えとしていた。今まで覗いた時に待機していた教会関係者が半減している。もちろん教会に来る住民も少なくなっているので問題はないようだが。


 ありがたいことに、お願いすることになるだろう司祭が教会の中にいてくれたので、子供たちを抱えたままお邪魔させてもらうことにする。馬車に乗っていた時は流れていく景色に楽しそうにしていた子供たちだったが、一人を除いて揺られているうちに眠ってしまっていた。


 起きたままの年長の子供を司祭に紹介してお願いし、雅紀たちのお願いとあれば、と受け入れてもらえる。年長の子供も司祭に助けてもらったことがあったのか、すんなりと受け入れた。司祭に助けてもらった経験があったからこそ、獣人でない人に助けてもらうという決断に至ったと言える。


 教会も地竜討伐隊に回復要員として何人か送り込んだが、残りの人間で街のセーフティとして働くつもりらしい。加減してもらいたいところなのだが、特製増し増しポーションがあると押しきられてしまい、オーバーワークで倒れないことを祈るしかない。


 寝ている子供を孤児院に運び、途中でメイに背中に隠れたままではあったが弟を紹介されはしたが、そのまま孤児院を後にする。




 体を自在に動かせる状況になり、思考がまず初めに向かう先は言うまでもないことではあるが先ほどの襲撃である。子供たちを怖がらせたくない思いから話していなかったが、頭の端に引っかかり続けていた。


「さっきのスラム街でのあいつらだけど、どうだ?衛兵たちの言う追いはぎ的な奴だと思うか?」


「正直、そうは全く思えねえ。追いはぎなら金目の物目当てだろうが、今の俺たちの姿を見てそう思うわけねえだろ」


 ギルドに行った姿のままなのだから、見た目が地味目のコート。外から判断する材料はこれしかない。そう思う康太はあの衛兵の言葉を鵜呑みにはできない。雅紀も康太はこう思っていて気が付いていないが、静の透けるような銀髪も朱莉の濡羽色の髪も注目を集めている。かつらにすれば売れそうなので狙われるかもしれないが、今回の相手の目的がそうではなかったのでしばらくは気が付かないだろう。


「それに面白いもの使ってたよね。あれ、なんていうの、催涙弾?」


「言うならスモークグレネード、相手の視界を奪うタイプの手榴弾だな。知っているものたはだいぶ違った、というよりも別物だったが」


「あれは魔道具でしょう。投げ込まれたのは感じた通り魔石でしたから」


「魔導具って高いんだよなあ?なら、とてもじゃねえがスラム街の追いはぎが使うもんとは思えねえ」


 康太のこの考えは皆の中にもあったようで、今回の襲撃がスラムの追いはぎによる偶発的な出来事ではないという可能性が膨れ上がってくる。魔石を使った高価な魔道具を流した人間が後ろにいるのは明らかだと言ってもいい。


 では、次に問題となるのは、何が目的で武器を流したのか。いや、あの時の言葉も考えれば雅紀たちの戦闘能力についての情報も流れたと思っていいだろう。そうでなければあの言葉は出てこない。


 あの襲撃の目的で康太たちにとっても嬉しいものとしては、スラム街から獣人を外に連れ出そうとするのを同族の誼として止めたがっている場合。これならば生活でいざという時でも仲間の助けが望めるだろう。しかし、スラム街で見かけた恐喝や他の件からしてみれば夢物語に過ぎない。もしも、同族の誼という建前の下でグループ内で下の者から搾取しているとなれば、これは見逃すことはできない。


 次に良しとできる理由が追いはぎとなる。これならばあの区域に近づかなければ、これ以上のことは起きない。終わりを迎えることができる。


 最悪なのが、裏で手を引いている奴らの目的が雅紀たちの命だった場合。逃げても逃げても追ってくることになるだろう。黒幕の存在を明らかにして徹底的に排除しなければ、安心して過ごせることはない。大きい街には裏を牛耳るマフィアがいる、みたいな話だとすれば、この街から遠く離れた街へ逃げればどうにかなりそうだが、個人に狙われているならば何処までも追ってくることになりそうで頭を抱えたくなる。


 とりあえず、少なくとも誰かに狙われていることは確定と言ってもいいことなので、各自が警戒レベルを上げることは確定事項となる。今のところはそれくらいしかできない。先制したくとも相手が分からなければ受け身の姿勢しか取れない。


 暗くなった人気のない大通り。


 暗殺にはもってこいな環境ではあったが、命的に幸い、情報的には残念なことに、何事もなく宿に戻った一行。のんびりとしていたのに何事もなかった。ここはお抱えの料理人がいるような人向けの宿なので、護衛もいるのだろう、宿にはまだ多くの人が残っていた。大物になれば胆も座るのか、街が襲われることになるとしても今日ではないのだから今日は楽しもう、そう言いながら酒を飲んでいるおじさんが多い。


 それを傍目に部屋へと戻り、一日中着ていたコートを脱ぐ。着やすく改造したとは言っても、この夏らしい気候の中で一日着こんでいれば体はそれなりに疲れる。体をバキボキと鳴らしてほぐしていると、椅子の背もたれからコートが落ちていく。何事かと思ってコートを手に取ったところで、いつもと違う重さを感じてゴソゴソすると手帳が出てくる。


 昼に食堂を出るときに押し付けられたと言っていいものをすっかり忘れていた雅紀。誰のものだろうなー、と気軽にページをめくっていると、あるところで手が止まる。


 気配が変わる。


 何事!?、と同じく覗き込んだ康太たちも表情が変わる。


 再びコートを身に纏い、街へと急いで繰り出していく。手帳を大事そうに胸ポケットにしまう。


 ”子供たちのことをお願い”

 ”気を付けて”


 これから夕食だというのに、どうやら今日もまた、食事を楽しめない日らしい。


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