デュクスの騒動2
タイトルが、タイトルが……、ということで堪忍してください
軽く昼食を食べたら食堂を出て行くつもりだった雅紀たちだったが、昼が過ぎてもその姿はまだギルド向かいの食堂の中にあった。
初めに頼んだ料理を食べ、メニューに載っているのを少量づつ頼めないか、とリシィを捕まえて聞いてみれば問題ないとのことだったので、追加で大量に頼んだからだ。その量は四人で食べるには多いように思えたが、この世界の食堂ではよく見られる光景である。特に、パーティーに魔法使いがいると当たり前だった。
体を動かす仕事が基本である上に、魔力というものを回復させるのに周囲から取り込まなければならず、その過程で大量のエネルギーが消費される、というのが静の調べて辿り着いた結果である。故に、同じく魔術を使う雅紀たちも大量の料理を食べたとしても、それが脂肪に変わってしまい太るなどと覆いうことはない。そもそも雅紀たちはこれまでも体を作ってきているわけであって、基礎代謝が高く、日本でもよく食べていたのだが。
中が小さく区切られた大皿に乗って、様々な料理が出てくる。その色は思っていたよりも多彩だった。食堂でよく提供される料理と言えば大量に作れる炒め物か煮込み料理なのだろうが、色が茶色系統に偏ることはなかった。日本では醤油で味を整えれば、醤油の色だけでなく焦げの色でそうなってしまうのだが、それまでは思いついてない。
素材の味を生かした料理を味わいつつ、気になったものについてはこれまたリシィが来た際に尋ねる。リシィも初めはすらすらと答えてくれていたのだが、徐々にどんな料理だったか忘れたようで厨房まで聞きに行きだす。そして、その度に雷が落ちている。人気メニュー外はそれを知っている常連しか頼まないからしょうがない、というのがリシィの弁。
普段の昼食時の食堂でやれば邪魔者扱いが当然ともいえるこの行為。それが何故こうもあっさりと受け入れられているかというと、簡単な話で食堂内の人数が両手で数えられる程度しかいないからである。先ほどまでこの食堂にいた人たちもいなくなっている。そんな暇な状況だったからこそ、雅紀、というよりも静の要望が通って美味しくいろんなものを食べることができたのである。
そうなった理由は、地竜討伐の日時が公開されたことで冒険者はその準備、商人はその隙に他の門から出る準備を始めたからである。後者の商人たちは運よくこの街を経由する護衛依頼を発注していたので新しく護衛を探す必要がなかった者たちだけであり、そうしていなかった者たちはとった宿でただ待つしかなかった。
討伐隊は午後三時にこの街を出るということで高ランク冒険者はその準備、それ以下の冒険者は追い出されはしたものの追加で出された街中での依頼に流れていった。地竜は攻撃こそそこまででもないが、大きな体が堅固な鎧ともいえる鱗に守られていて防御という面で非常に厄介らしい。討伐で出る被害は少ないそうだが、大人数を投入しても時間が非常にかかってしまうそうだ。同じ亜竜のワイバーンとは違い、そういう理由で高いランクに分類されている。
そんなバタバタと人が行き交う街、ギルドのある大通りに面した食堂の中でのんびりと舌鼓をうつ雅紀たち。なんともまあ、良いご身分である。そして今も、コック長の新作料理の品評会が繰り広げられている。焼き方の問題でうま味が流れているだの、付け合わせが何か足りないだの、遠慮なくダメ出ししている。
コック長が静と朱莉を厨房に連れ去って試行錯誤し始めるほどの客の少なさは、ランチタイムが終わるまで変わることはなかった。ランチタイム前から終わるまでずっと料理を食べ続けた雅紀たちだが、時間をかけての食事だったためか満腹を迎えることはなかった。それだけの量と食べたのだから支払いはそれなりだったのだが、こいつらの懐はちょっとやそっとの豪華では尽きることがない領域である。
支払いを終えて店を出ようとすると呼び止められ、何だろうと思って振り返ると忘れものだと言って手帳が渡される。もちろん誰にも心当たりがないので返そうとするも、中に何も書いてないから貰っちゃえ、と強引に押し付けられてしまう。粘ろうとするも店仕舞いで忙しいからと逃げられてしまってはどうしようもなく、そのまま持ち帰ることにする。
街から出ようとする人が駆け回る中、宿に戻ろうとしていたが、スラム街の子供たちに孤児院を紹介することにする。雅紀と静がスラム街で手を差し伸べた獣人の子供たちは孤児院で保護されたようだが、自分たちの助けた子供たちの姿がなかったことが、康太の気がかりだった。このままた宿に戻るのだったら手伝ってほしいとのこと。
もちろん断る理由もないので探すことにし、康太と朱莉がその子供と会った場所に向かうのだが、食品系の裏通りということで門に向かうことになる。どうやら、向かうことになったその門が地竜が出てきた街道につながるようで、門の外には多くの冒険者だけではなく騎士団までも待機している。
その門の方角はエリンエルの方角と同じであり、雅紀たちがこの街に入って来た時の門であった。入ってくるときの話と言えば、今と同じように滅多に見ないオーガが出たということだろうか。嫌な偶然もあったもんだ、と他人事のように話しながら歩いていると、大きな笛の音共に声が響き、短い号令の後に地響きが起こる。冒険者と騎士なので隊列が組まれているわけではないが、数が数だけに見ものだった。
頑張れー、と叫んで見送っている住民の後ろを通ってスラム街に近づいていく。いいのか悪いのか、スラム街は、街中が大変なことになっていても変わりはなかった。薄暗い他にも何かがあるような空気が変わらず場を支配している。
スラムについたわけだが、その目的の子供を探す手がかりがあるわけでもなくふらふらと歩いてしらみつぶしに探すしかない。スラム街に決まった区画などあるわけもなく、小道に入ってしまえば元の位置まで戻って来ることができないように思える。道も幅が統一されているわけでもなく、邪魔なものをどかした後が道になったと言った方が正しく思える。
ただ歩けば迷子になること請け合いの中で適当にぶらぶらするわけもなく、神経を尖らせて気を辿る。道の左右で分担すればそれなりの広さを感知できるので、それで探すしかない。雅紀と静は誰を探しているのかは知らないので、康太と朱莉に場所を伝えて判断してもらうしかない。魔力でいいならばより広い範囲をカバーできるのだが、一般市民、それも獣人となれば保有する魔力はほぼゼロであり、探知するのは厳しくなってしまう。魔物探しでは確実に役立つのだが、人相手では相手に著しく左右されてしまう。
探している子供だけでなく、見つけた子供たちにも声を掛けようとしていたのだが、悉くに逃げられてしまった。獣人種だけあって生まれつきの才能で近づく存在を感じ取ったのか、姿を見るのも難しかった。敵対的な雰囲気を醸し出しているわけでもないのに、逃げられてしまってはどうしようもない。
もちろん全員が全員そういうわけでもなく、こちらの姿を確認して素直に助けを求めてきた子供もいるわけで、そうした子供は雅紀と静が抱えて運んでいる。つまりは、両手で抱えることにできるだけの数以外には逃げられてしまっているということではあるのだが。
そうして保護した子供から話を聞くも、やはりスラム街では子供と言えども縄張りみたいなものがあり、その外のことはあまり知らないらしい。康太が容姿を教えて見覚えがあるか聞いてみるも空振りだった。そして、どうしたものかと頭を掻いているうちにスラム街の終わりが見えてくる。中央を突っ切ったとはいえかなりの範囲をカバーできたと思っていただけに、唸らずにはいられない。
もう一度戻っても同じことになるのはわかり切ったことなので、今日は諦めて帰ろうかと足を進めようとし、全力で後ろに跳ぶ。雅紀たちは警戒していただけに当たり前の動きだったが、抱えていた子供たちは驚いて大声を上げている。飛ぶ前の位置に何かが飛来し、白煙が広がる。
静も雅紀も手が埋まっているため、抑えていた魔力を解放して戦闘態勢に入り、康太も朱莉も背中に雅紀と静を庇うように構える。白煙は発生し続け、素早く辺りを覆ってしまう。風が吹かないため、煙は濃くなる一方で視界が悪くなる。
構えてから一拍。素早く何かが近づいてくるのを感じ取てこの状況を作った理由も察し、容赦なく拳を突き出す。煙で見えてないと思っているのか、まっすぐ近づいてくる奴に避け様に一発、バランスを崩したところで腕をとって後続の一人に叩きつける。
スラム街の道だけあって狭く、一度に襲ってくる数が限られてくる。これは襲撃を受ける側、雅紀たちにとってはいいことなのだが、狭い道というのは両側を抑えてしまえば逃げられないという点は襲撃者側にとっての利点である。
後ろでも朱莉が、襲撃者の関節を容赦なく破壊してのす。逃がさないという点は襲撃者側の利点ではあるが、狭いために同時に投入できる戦力には上限が生じ、相手の方が強い時はこのようにどうしようもない利点に格下げされる。
合わせて七人をのした二人だが、気になる言葉が最後に聞こえた。
”話が違う”
そうつぶやいた男だが、もちろん朱莉に関節を砕かれた痛みで気を失っている。お替わりがないことを感じ取って、ようやく煙が晴れる。煙が広がってすぐにやればよかったのだろうが、今のままでも問題ないのならば邪魔になるかもしれない、とそのままだった。終えてから思えば、抱えている子供にバイオレンスなものを見せずに済んだのだから良しとしている。
気絶させたは良いが事情を聴くには起こすしかない、と気になる言葉を残した男に水をぶっかけて起こす。痛みに毒づきながら顔を上げれば包囲されている。その現状から逃げようとするも、朱莉にやられている以上は走れるわけもなく少し動いてまた崩れる。
康太がにらみを利かせながら理由を聞こうとすると、表の道から衛兵が走ってくる。見た目はスラム街の住人を康太が脅しているようにも見える運の悪い一瞬。もちろんそう思われたようで、声を張り上げてくる。
しっかり説明すれば、証拠もあるわけであり、納得してくれた。気になる言葉についても、衛兵が言うにはスラム街に入ってくる人間の情報を売っている奴もいるらしく、どうせ女には戦闘能力がないと聞かされていたのだろう、とのこと。
スラムの住人も生きるのに必死んなんだよ、と何故か襲った側を擁護していた衛兵は仲間を読んできて襲ってきた男たちを連れ去っていった。




