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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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嵐の前の静けさ


 朝一で衛兵にしょっぴかれ、昼も過ぎてしまった雅紀たちはギルドで仕事を探す気になるわけもなく拠点へと戻り、この街で手に入れたもので欲しいものを作り出そうと躍起になる。欲しいものを手にすることで相殺しようとするつもりなのだろう。


 雅紀の魔術を教えてもらうことで四人とも自室ともいえる空間を確保しているが、一番スペースを確保できる雅紀の作り出したものを利用している。荷物もアイテムボックスに入れているので、その空間は作るだけ作ってみたが利用することはほとんどない。


 街の人に見られるのがいけないのならば、絶対に目の届かない場所でやる分には何も言われないだろう、と中に入った四人は自由気ままに動き始める。


 静と朱莉は仕舞いっぱなしにしていたいくつかの魔物の肉を切り出す傍らで、何か所にも火を熾して木をくべて黙々と煙を立ち上らせている。その姿はいつもの食に過剰なほどの熱をかけているときのものと変わりはなく、午前中にあったことはただただ時間がとられた程度にしか思っていないことが分かる。


 しかし、雅紀と康太はそこまで達観できるわけもなく、よく見るタイプのナンパ男とは何かが違ったあの次男坊への怒りを発散させねば気が済まなかった。纏めればそこに行き着く怒りだが、その中はごちゃ混ぜになっており、人殺し扱いを受けかねない行動を考えなしに取ってしまった自分、貴族の一声で決まってしまう世の中とそれに対抗できるだけの立場の欠如、他にもいくつもの要素への怒りがないまぜになっていた。


 何重にも用意した壁に向かい、拳を全力で叩きつけ、剣で切り裂き、光学兵器でぶち抜き、魔術で存在自体を消し去る。壁も繰り返すうちに分厚くなっていき、切り上げようとしたときにはビルのような高さと分厚さへと成長していた。


 切り上げて汗を流した後の、怒りの代わりに情けなさを感じながらも覚悟を決めたその姿は静と朱莉に大層喜ばれることになったのだとか。




 

 翌日、今度こそ朝食に和食をいただくことに成功して食事をしただけだというのに何かやり切ったような穏やかな空気が流れるなか、康太がそろそろ孤児院に作った畑を見に行ってみないかと切り出す。それを受けた三人が思い出したように返事をするが、それだけだと早く終わった時にまた時間を持て余すことになってしまうので簡単な仕事を済ませてから、と決まる。


 討伐などの街の外へ出る必要のある依頼や危険の伴う依頼を除いた仕事を探そうとギルドへと向かう。探している依頼は基本的に難易度が低く、ランクにしてEやFの仕事であるので、一応ランクがその上の雅紀たちは朝一を避けるようにして依頼を探す。残り物に手を出す分には何ら問題視されない。


 そうした仕事をするつもりだったので、ギルドを訪れた雅紀たちの格好は非常に浮いていた。日本の頃の普段着、雅紀と康太は変わらず長ズボンにポロシャツかオックスフォードシャツ、静は七分のズボンに薄手のパーカー、朱莉は黒のワンピースの下にズボンで軽くカーディガンを羽織っている。スカートはお出かけ用で、動くときは決まって全員がズボンを好んでいた。


 簡単な仕事でもギルドに探しに来る時は仕事着といえる戦闘用の装いが当たり前だと思われている中に、そのような格好となれば当たり前のことだった。


 しかし思わぬところで効果があったようで他の冒険者が誰も絡んでこない。時間は朝一番とはいかないが、取り合いにならないDやCランクの依頼がまだ残っている時間であったが、他の冒険者が近づいてこようとしない。仕事用の服で入った時には時間がもう少し遅くても絡んでくるのだが、今日はないことに首を捻る。


 これは、普段着でギルドに訪れるものはほとんどが依頼を出す側の一般人で絡む奴は冒険者の敵、という共通認識があったからであり、依頼板を眺めている四人は冒険者に憧れて依頼を見に来た少年少女と見なされていたからだった。


 普段向けられるものとは違って温かく見守られている中、街中の依頼で危険がこの上なく低そうなものを見つける。


「この、食堂の手伝いはどうだ?募集人数は5人だから全員で入れて、時間が昼前から昼過ぎまでだから終わってからでも大丈夫」


「そうだね、それなら大丈夫そうだね。私は良いと思うけど、どう?」


「私もいいと思いますが、康太さんは何を見ているのですか?」


「ああ、俺もそれでいいとは思うんだが、こっちと何か違うんか、厨房スタッフ募集ってあるんだが。食堂名も同じみたいだし」


「厨房も足りてないの?この食堂大丈夫…?」


「依頼出してるわけだし、そこは大丈夫。だと信じたい、ってことでこれでいいか」


「あ、それなら私は厨房入りたいな。ここらの食堂のレシピも知りたいからね」


「私たちの料理は今までのものに引きづられてしまいますから。何か変わった食材か何かの刺激が欲しいところです」


「悪いが俺は食べる専門なんで、大人しくホールだな」


 こうして一般市民だと思われたまま依頼を受け、いざ、と思ってギルドを出るものの、目的地がギルド目の前の食堂であったので、右見て左見て手を上げて横断の作法にしかかかることはなかった。





「いや~、突然の退場に焦って依頼出してみたけど来るもんだね。出しといてあれだけど、良かった良かった」


「いや、それよりも後ろ、ヤバい感じの色の煙あがっているんですが」


「おお、本当だ。滅多に厨房に入らないもんでね。料理って大変だね~。まあ、それっぽく作ってりゃいいと思うんだけどね、上手けりゃそれでいい、みたいな?」


 今ので美味しくできるのかと聞かれれば、否と全力で言いたいところで、厨房の奥の小部屋から「手前は厨房出禁つっただろうがアホが!!」と怒声が響いてくる。声の聞こえてきた部屋から視線を目の前の、それなりに若い女性に戻してみれば、明後日の方向を向いて口笛を吹こうとしている。過去にやらかした経験ありだとわかりやすい態度であった。


「じゃあ、気を取り直して仕事をお願いしようか。えっと、少年たちがホールで少女ちゃんたちが厨房だったね。厨房はあの仏頂面に聞いてちょうだい。それじゃ、少年たちは私について来なさいな、開店前の掃除といこうか」


「誰が仏頂面だ。俺にだって名前が」


「あんたの名前長すぎんのよ、いつも通りコック長ならそれでいいでしょ」


 募集していた人数は集まっていないのだが、店を開くらしい。その日の昼間の営業が終わってから厨房主が言うには、「厨房も合わせて5人は欲しいと言ったんだが、その内訳を言おうとしたときにはあの阿呆は既に走り去った後でな、戻ってきてから依頼を訂正してこいと送り戻したんだが、どうしてか新しい依頼で出してきやがったんだよ」、とのこと。そう言いながら疲れた顔を覆う。「あぁ、リーダー早く戻ってきてくれないかな」と、初日にして疲れ果てた顔で呟いていたのが非常に印象に残るのだった。



 ホールに連れて行かれた雅紀と康太は掃除用の箒とモップを渡され、言われるままに掃除を進めていく。リシィと名乗る女性は布巾を持って机と椅子、カウンターを磨いているが、その動きは先ほどの料理を作っていたときとは別物だった。家事全般が壊滅というわけではないのかと雅紀と康太が思っていると、その視線に気が付いたのかリシィが口を開く。


「いや、私だって女だよ。お母さん見習って家事の練習位したって。でもね、どうしてか料理だけがうまくいかなかっただけで洗濯とかは普通にできるんだよ。他には、うん、()()、は得意かな」


「……リシィさん、終わった道具はどこに仕舞えば?」


「そりゃ、さっき出したとこ見てるんだからわかるでしょ。そこの箱に突っ込んどいて」


「いや、だから、やばい位ものが詰まってるのにどう仕舞えというんです?」


「そりゃ、こうやって、よいしょっと。ほら入った入った、君のも頂戴」


 自己申告している割には片付けできていない。それとも、この人の中では掃除と片付けは別なのだろうか。そう思わずにはいられないほど掃除道具入れはやばかった。その日の暮れ、他の店員が出払っていると聞き、その人たちの頑張りに敬意を払うのだった。




「嬢ちゃんたちが厨房の手伝いってことだが、流石にそのひらひらは脱いでくれ。服は汚れるのがいやだったら、そこの裏に従業員用の服があるからそれに着替えてくれ、更衣室はあっちな」


「私もこのような格好で火の前に立つつもりはありませんよ」


「服はこのままでいいので、このエプロンだけ借ります。はい、朱莉も。それで、どう手伝いましょうか、味が変わるのも問題でしょうし、私たちが下ごしらえでコック長が仕上げにしましょうか」


「別に味が一日くらい変わってもいいと思うんだが、それで様子見だな。おっと、その前に料理のスキルレベルどれくらいだ?自慢じゃないがな、流通のいい街だけあってそこそこいいもん使ってんだよ」


「少し失礼して、えっと、今レベルが上がって7ですね」


「私はその一つ下ですね。静に料理を任せすぎでしょうか、ですが米が手に入った以上は私も」


「……どうして冒険者やっているんだい?貴族お抱えの料理人にだってなれると思うんだが。いや、それよりもその年でそのレベルって大丈夫か?無理させられてないか、脅されたりしてないか?」


 突然の心配に目を白黒させて、「えっ?へ?」、と何も分からないまま答えるしかない。静も何とか落ち着いてもらい、仕事の話へと戻る。過去を探られると、またも思わぬところから転移の件がばれてしまうかもしれないと、過剰に慎重になる。


「それなら大丈夫、と言いたいところなんだが、逆にそれだけの料理出されちまうと評判が立ちすぎてしまうか。申し訳ないが初めに言っていたように下処理に集中してくれ、嬢ちゃんたちの腕と比べられることになったら負ける自信があるんでな」


 負けると口では言っているものの、そうは思わせない態度で厨房での仕事を始める。


 賄いとして作ってもらった新作料理に完敗を喫したのは、当たり前といえば当たり前だった。


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