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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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騒動の種


 ボス猿コボルトがかき集めていたものを一通り確かめ、馬車の破片や馬と思われる魔物の骨は見つけたが、幸いにも人間のものは無かったことに胸を撫で下ろした。道中でコボルトに襲われたのだろうが、命があればまたやり直せるだろう、今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます、とお祈りかなんかのようなことを思って頭から追い出す。


 使えそうなものをアイテムボックスに詰め込み、巣を後にする。巣から出てみれば、巣の中で暴れる前に外へと飛ばしたコボルトが血気盛んに威嚇してくるが、大きさとその姿からでは怖さを感じるほどではない。もちろん、こんなことをした以上は殺すつもりはないようで、檻を消し去る。


 檻を消せば、先ほどまで張り付くようにしていた連中が噛みついてこようとするのだが、それを許すはずもなく、膨大な魔力を叩きつけてその場に崩れ落ちさせる。足腰が立たなくなった状態で、本能に恐怖を刻み込むようにさらに魔力を高めていき、これ見よがしに一歩足を踏み出せばコボルトたちは倒れていた仲間を抱えて森の奥へと逃げ出していった。


 それを見送る雅紀たち。その姿は何処か人の手で育てられた動物を野生に戻す際の別れ際を思い起こさせるようだった。この襲撃者たちにとって、コボルトは大型犬のようなものだったのだろう。見えなくなったところで、依頼が終わった、と街へと帰ろうとする。逃げ出したことに関しては、今回の依頼はコボルトの間引きか何かだと思うことにしたのだろう。実際、殲滅しろとは書かれておらず、数匹ごとにいくら、という表記である。


 巣穴を振り返り、再び何かの巣穴にされては困ると潰していくのも忘れない。街へと帰ろうということになって雅紀が再びバイクを取り出そうとするが、静がそれを止める。雅紀のはっちゃけ具合を見て、やりたいことがあるらしかった。


 代わりに取り出したのは箒。ファンタジー世界で箒と言えば、思い当たることは限られる、というよりもほぼ一つだけといってもいい。魔女っ娘の空飛ぶ箒だろう。


 いつもはあれだけ世界を物理現象で見ようとしている割に、どうしてかどこか子供の頃に見た夢をあきらめていない傾向がある。それに対して生暖かい視線が向けられて静はあれこれと捲し立て挙げて誤魔化そうとするが、却ってその温度が高くなったように思えた。


「ごほん。箒に乗るとき、お尻痛くならないのかなって思っただけだよ」


 そう言うが、視線は変わらず生暖かい。


「ダヨ?」


 無理やり下げにかかる静。これ以上やるとやばいと経験が鐘を鳴り響かせているので速攻で引き下がる雅紀。雅紀だけに向けられたそれに別の理由で反応するが、視線はずれた。箒が一本しかないからと静が初手でやり始め、箒なしでも空を飛べるので容易く箒に跨って浮かぶが、すぐに降りてくる。


 見ている前に無言で地面に降り立ち、箒からも降りたかと思えばその場にしゃがみ込む。涙を目に浮かべてプルプルしながら、ぽつりとこぼす。


 股、痛い……


 分かり切っていたともいえるそれにどう反応すればいいのか分からず、頬を掻いて苦笑いするしかない。そう聞いたところで終わりにするのかと思えば、静が雅紀に箒を突き出す。受け取らねばしばく。それ以外に読みようのない瞳であった。


 痛がっているのを見せた上でやらせるのだから大したものである。涙目で睨まれては逃げ出せず、しぶしぶ箒に跨って浮かんでみればそんなことはどうでもよくなる。箒がもろに食い込んでくる。その痛みに冷や汗が出始め、こりゃやばい、とやり方を変えることで無事に地面に降り立つ。


 箒だけで支えるから食い込むのであって、自分も浮かべば解決。そうは思ったが、それでは箒の乗るというよりも、箒を持って浮かぶといった方が正しいことになる。その残念さは言わずもがな。それで懲りたのか、被害者が再び出る前にさっさと箒をしまい込み、静を立ち上がらせて街へと戻りことにする。箒に失敗したからか、今度は素直にバイクに乗り込んで街へと戻ることになった。


 街についてから、朱莉の一言で声を上げる。


「跨らずとも、横向きに座ればよかったのでは?」




 朱莉の一言に思うところがなかったわけでもないようだが、箒に乗って飛んでいるところを見られるわけにもいかず、箒に乗るのはこれっきりだけにするつもりらしい。夕方の人込みの内訳が変わった大通りを通り抜け、冒険者ギルドへと向かう。大量の香辛料と目的のコメと大豆を手に入れた以上は買うものは無いのだが、それでも見て回らないという選択肢はないようでのんびりと歩く。


 冒険者ギルド内は朝とは違い、そこそこの人数が中にいた。その多くはデュクスまでの護衛を終えた後のようで打ち上げをしている。同じく仕事を終えて新しいのを探している人の姿も見える。そして、ようやく冒険者ギルドに人が多い時間帯にやってこれたため、近くで獣人の冒険者を目にすることができた。


 それに目を配りながら受付で処理を済ませる。巣があったことを報告すれば受付(男)の顔が強張るが、潰したことと中に被害者の存在がなかったことを伝えれば胸を撫で下ろしている。コボルトがいかに弱いと言えども、アウェーの巣穴の中で多くを相手取るのは面倒くさいらしい。そこそこの依頼達成報酬にはなった。


 大柄だったコボルトについて聞いてみれば、コボルト大型になったとしても巣の中に数匹でリーダー格であり、上位種が複数巣の中にいるなんていう報告例はほぼないらしい。それはともかく、巣穴で手に入れたものは巣穴の攻略(?)した人にものだそうなので、あの山の中から拝借してきたものを売り払う。とはいっても、売れるのは魔石位のものだった。


「こりゃ、シェーダ商会のものじゃねえか。売り払うに限るぜ。ん?ああ、どうしてそう言うかって?」


 魔石の入った袋を見た受付が嫌そうな顔をするが、それに不思議そうな顔を向ける雅紀たちに気が付いたのか、説明をくれる。


「この商会はドケチってことで有名でな、もしお前らがこれを持っていると知ったら、確実に返せと言ってくるだろうな。もちろん対価なしで、だ。そうなる前にギルドに渡しちまうってのは正しいってことだよ」


 その言葉を聞いて、うへぇ、とげんなりした顔をして見せる雅紀たち。その間も受付の男は話し続ける。商会について話しているうちに、普段から思っていることが口から出て行くことを止められなくなっているようだった。


「ったく、あの商会、魔石は買い叩こうとしやがって、何のために魔石の計測を導入したと思ってんだ。安く買い叩いて性能も微妙のくせして値段だけはご立派なこって。他の魔道具が運送費で高いからって、足元見やがって」


 途中で止める間もなく、滔々と話が続く。さらっとギルドとしての見解を聞くことができたことは運がよかったと言えるのだろうが、この街もやはり裏側でいろいろな駆け引きがなされているらしい。これを聞いてしまい、この街を早く出て行きたくはなるが、流石に今出て行くのは教会での件に責任が無さ過ぎで気が引ける。


 さっさと孤児院の件を片付けて迷宮都市に向かうか、と思っていると、いつの間にか冒険者ギルド内が人であふれかえっている。その中心にいるのは、冒険者とは思えない白を纏っている人間、その顔は教会で見た覚えのある聖神教の連中だった。


 そちらに顔を向けていると何やら怒鳴り声が響く。何があったのか背伸びをして覗こうするが、この世界の住民は身長が高いせいで四苦八苦する羽目になり、ようやく見えたときには争いが始まってしまい、弾けた木の破片、恐らく机だろうか、が飛んでくる。そこでようやく、商会の愚痴をこぼしていた受付が戻ってくる。


 どれだけ恨みつらみが溜まっていたのか心配になる一方で、獣人の身体能力の高さに感心する。あれならば、冒険者稼業でも優位に立ちやすいのではないだろうか。そう思っているが、悲鳴が上がることもなく、ギルドとしてギルド内での諍いを取り締まってはいるが、よくあることとなってしまっているこのが分かる。


 手を出してからも宣教師は獣人に対しての侮辱を止めることはなく、初めは流していた他の獣人の冒険者も混ざり始めてしまう。幸い、冒険者として働いている人間の中には獣人との軋轢を望んでいるものはいないようで、宣教師を止めようとしている。冒険者は隣の者の出自は気にしない、と言われるほどであり、種族がなんだろうと職がなんだろうと気にしない。教会で聞いた軋轢を生み出しているのは、獣人との交流が少ない地方からやってきた商人が大きな部分を占めているようだ。



 圧倒的にアウェーの中にいるというにも関わらず、魔法の盾で身を守って一方的に罵倒を浴びせ続ける。そして、言いたいことを言い切ったのか手にしていた杖を掲げ、「決壊、発射(ブレイク、シュート)」と呟いて杖を振り下ろす。突然のことに、ギルド職員も止めに入るのが間に合わず発動を許してしまう。


 白くも黄色くもあった盾がある程度の大きさのピースへと砕け、杖の振り下ろされた方向へと飛んでいく。結界だけあって硬く、砕け方によっては鋭くもあり、鍛え抜かれた冒険者の肌にも突き刺さる。加速を必要としなかったようで、宣教師に近かった分だけ傷が深くなっている。


 床に転がっている獣人を見て汚らわしいものを見る顔を隠すことなく、もう一度杖を掲げ、濃い魔力を纏ったそれが振り下ろされようとしたとき、二階から大声が制止に入る。宣教師もそちらに気を取られた隙に、杖が纏っていた魔力が霧散する。


「お止めなさい!ギルド内で争うものではありません。怪我人を早く治療室へ。それで、何の用ですか、聖神教」


 階段を降りてきながら現状を収めようと指示を飛ばしていく。その身は細く、荒事に向いているようには思えなかったが、繊細な魔力操作でいつでも魔法が使える準備をしているのが見て取れた。さすがは大都市の冒険者ギルドの元締め、と感心するだけの技量を持つ男だった。


「いえいえ、私たちもこの街のお困りごとに手助けができれば、と思って参上した次第ですよ。領主様に話を持って行っても素気無く断られてしまいましてね」


「困りごとはありませんよ。もしあったとしてもあなた方には頼りませんよ。うちの連中に手を出すような輩に頼るとでも思ってんのか。……あんまりなめてんじゃねぇ、ですよ」


「ギルド長、遅いです。誤魔化し切れてません」


「いえいえ、噂では森で大きな影を見たとか商人が街道で襲われたとか。そういったお話ですよ」


「それでしたら、すでに無力化を確認していますから安心してください」


 その後も続く舌戦を聞き、最終的にギルド長が宣教師どもを追い払うことに成功し、冒険者は湧き上がっている。その頃には怪我していた冒険者も応急処置を終えて戻ってきた。ギルド長もそれを確認し、ギルド内の被害にため息をつきながら、受付の一つにいる冒険者に目を向けて部屋へと戻る。向けられた側は、再開した手続きをこなしていて気付いた素振りは見せなかった。



 宣教師とギルド長の話を雅紀だけでなく受付の男も聞いていたようで、宣教師が帰ってようやく手が動き始め、依頼の報酬と魔石の売却分のお金を持ってくる。雅紀たちはそれを見ていると、朱莉が上からの視線に気づいたようだが、心当たりもないので無視を決め込む。


 それよりも、この街で行く先で片っ端からあの教会の連中の顔を見ることになってしまい、心の底からうんざりしてしまう。この街から早く出て行きたいが、そうするにはスラムの子供たちに対して何か手を打たねばならず、そうした時に教会の連中と顔を合わせてしまえば、獣人の子供に何をしでかすかが予想もつかない。


 どうしたものかと頭を悩ませて帰途につくが、翌日、早朝からそうしたことが頭の中から吹っ飛ぶことになる。



「衛兵だ。貴様らを逮捕する!」


 いきなりのことに、驚きの声を隠せない。


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