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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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掃討作戦


 ようやく見つけた仕事の対象。しかし、それは予想していたものとは違った。


 冒険者ギルドで手に入れた情報では、コボルトは低級の魔物であって常に数匹の集団で行動するとのこと。弱さを数で補う種類の魔物だと聞いていたというのに、見つけたそれは一匹だけであった。それも、満身創痍で今にも倒れて動かなくなってしまいそうだった。


 のろのろと動きながら、地面に落ちている果物を拾って食べようとしている。しかし、それはなされなかった。


 もちろん、雅紀たちが手を出したわけではない。


 そのコボルトは何を思ったのか、果物を拾いはしたが食べることはせず、抱えたまま森の中へと去っていく。その一通りの行動の中に、警戒といった野生の動物じみたものは感じられなかった。



 それを見ていた雅紀たちは、動き出せずにいた。


「どうする?」


「どうしてだ?」


「どこへ行くのでしょうか?」


「とりあえず動こうぜ」


 魔物のそれとは思えない行動。それに戸惑い、倒せず、置いて行かれる。


「追いかけるしかないね」


「食べさせる奴がいるのか」


「巣、と考えるのが妥当ですね」


「お~い、いい加減に動かね?」


 考えるのに頭を使ってしまい、すでに去って行ったコボルトに意識を向けるのは康太だけだった。


 魔物らしからぬ行動に、追いかけて調べ、抱えた果物を食べさせる相手を確認し、それが存在する場所を確かめるしかない。


 魔物を見かけたらすぐに手を下すのが当然ともされる業界において、このときに倒さなかった、倒せなかった理由は、巣を見つけて撲滅するためであり、もしかしたらその姿に思うところがあったからかもしれない。


 ときどき倒れながらも歩き続けてゆっくりと何処かへ向かい、そしてようやく辿り着いた。


 森の中なので山や崖にある洞穴と言えるものではなかったが、アリ塚のような地下に続く巣があった。その入り口に立っていたのは、コボルトだがただのコボルトではない魔物だった。恐らく上位種ではないが、何らかの原因で強化されているのだろう。


 ボロボロのコボルトはその穴の中へと入ろうとしたが、入り口に立っていたコボルトはそれを見過ごさない。手に持っていた棒で殴打する。ぼろぼろのコボルトは吹き飛ばされる。堪える力すら残っていなかった。抱えていたものが零れ、それは拾われて口に入れられる。その顔は、違う種族の雅紀たちからしてもいやらしいものに見えた。


 それを見て雅紀たちは動き始める。巣の奥深くまでは見ていないが、感じるだけでも依頼を達成するのに十分な数が中にいる。今しがた吹き飛ばされたコボルトにまで手を下す必要はない。吹き飛ばされたコボルトは森の中にまで離されて、動きが止まっている。


 剣を抜いて踏み込み、入り口に立って今はもぐもぐしている警戒担当だったのだろうコボルトの背中に回って一太刀。音も立てずに血の海に沈める。雅紀の切り捨てたコボルトは血の海には沈んでおらず、康太は太刀を肩に担ぎ、静は薙刀、朱莉は小太刀の血を地面に払っている。


 康太は使い慣れていた日本刀でも慣れ始めた籠手でもなく身の丈大の太刀を背負い、朱莉は弓でなく小太刀を獲物としていた。朱莉は近接戦闘用の物として慣れた品、それでいて目立たない品、小太刀を選んだ。康太は康太で、身体強化を含めて自身の力を生かせる物を選んだ。


 声を上げさせることなく一撃で切り捨て、巣の中へと入っていく。康太もさすがに高さに制限がある中で太刀を振り回すわけにもいかず、籠手に付け替えた。コボルトの大きさを基準に作られた巣なのだから、雅紀と康太にはやや低くかったため屈みながらの探索となった。


 巣の中には光がほとんど入ってきていなかったため、目を凝らしてもほとんど見えず、別の方法で周囲を把握している。中腰になっているため、男二人が前にいてはいざという時に、動きが悪くなるからと女二人が先行している。後ろからは来ないのを把握するぐらいのことは担当できた。


 出入口との一本道ですれ違うことができるような広さもなく、繋がっている道からコボルトが姿を見えた瞬間には静と朱莉が暗殺者の様に始末する。出てきたコボルトの大きさにも装備にも関わらず、一切合切を切り捨てる。言語を解することもできず、情報を得られるわけでもないから躊躇いはない。


 切り捨て、切り捨て、先へと進む。太い道に繋がっていた脇道の先には小部屋しかなく、中には何もなかった。進むうちに階段があり、天井はそのままで通路が広くなる。ようやく雅紀と康太がいつものように歩くことができるようになり、強張った背筋を伸ばしてバキボキと鳴らしてしまい避難の目が向けられる。


 シュンと萎れながらも立ち位置を交代し、雅紀と康太が片っ端からコボルトを切り捨て、部屋という部屋を巡っていく。どの部屋の中にも、コボルトが森の中から拾ってきたと思われる襤褸切れや木の枝しかない。それに手を出すことは無い。


 どのコボルトも護衛中に見たコボルトよりも一回り大きさが違った。巣の前に立っていたコボルトのように大きかっただけではない。痩せこけて成長できていない個体もいたのであった。部屋に寝ていたのは大きいコボルトと痩せこけたコボルト、雅紀と康太の前に出てきたのは大きいコボルトだけ。


 痩せこけたコボルトはやはりボロボロであり、外で寝ているだろうコボルトと姿が重なる。怪我していて骨ばっているのが見てわかり、あのコボルトがこのコボルトのために動いていただろうと予想できた。それに気づいてしまえば、このコボルトに手を出すつもりにもなれない。


 コボルトの討伐に問題はない。冒険者としての職務を考えれば、コボルトの巣を崩壊させておけばそれで問題ない。加えて逃げ出した奴らに人間への恐怖を叩きこんでおけば、森の奥へと引きこもって人への害となることはなくなるだろう。それで討伐ではないが、撃退、害の排除は完遂できる。


 傷づいたコボルトたちを部屋ごと外へと飛ばし、檻に閉じ込めておく。そこまですれば、既にこの巣穴の中に雅紀たちの気を引く存在はない。むしゃくしゃするようなものを見てしまった。学校では見なかったが、物凄く嫌な気分になるものを見てしまった。


 それを解決するわけではないが、憂さ晴らしくらいはいいだろう。たまたま討伐していたら、偶然数匹に逃げられてしまった。そうなっても仕方がないだろう。


 剣を構えて魔力を広げていく。気を読むことで朱莉は生命反応を広い範囲で感知できるが、他の三人は手ごろな範囲しかわからない。それでも別の方法、魔力を広げることで自分の領域と言えるものを広げ、感知できる範囲を拡張する。情報を読めさえすれば、周囲のことは容易く深くまで理解できる。


 魔力を感じたのかコボルトたちが次々に姿を現す。既に場所は適度な広さを持つところへと移っていた。予想通りの大量ぶりに雅紀たちはほくそ笑む。コボルトが群れを成して迫ってくるが、同時にかかってくる数が限られている以上は容易く蹴散らせる。


 近づいてきたコボルトを切り捨て、ときどきは剣のひらで宙へと飛ばす。雅紀の一振りで数匹の頭を同時に飛ばされ、康太の一睨みで全身の骨が砕かれて壁にめり込み、静の投げた棒と朱莉の矢で宙に浮いていたコボルトが天井に磔にされる。


 コボルトの中から魔石だけを取り出し、残ったものをそのまま放置して先へと進む。巣全体から集めたと言うのに数自体はさほどでもなかったが、少し歩けばその理由は簡単にわかった。進んだ先にあった部屋の中には、すでに死んだコボルトの姿があった。雅紀たちが手を出したわけでもないのに、すでに死んでいた。


 恐らく、魔物が他の魔物の魔石を食することで力を増そうとしたのだろう。それが、巣の中で行われたのだろう。その敗者が、部屋で死んでいたコボルトであって、外で寝ているボロボロのコボルトであった。今、雅紀たちが倒したのは、その戦いに勝ったコボルトたちだったのだろう。警戒担当よりもさらに大きかった。


 そして、あれほど魔力を垂れ流しにして挑発したというのに、出てこない反応がいくつかある。そのどれもからこの巣の中で最大の魔力が感じられる。あれだけ暴れたというのに、出てくる気配が感じられない。


 しかし、もちろん、雅紀たちはそれを逃すわけもない。出てこない理由が雅紀たちを恐れているからでも、とるに足りないと考えているからだろうと関係ない。


 巣を深くまで進み、ようやく最奥までたどり着く。そこには巣で最強と思われるコボルトたちが肉と酒をあおっている。近くまで寄ろうと雅紀たちに気付く様子もない。どうやら、出てこなかった理由は酔っ払っていただけのようだ。


 本当に背後に立って初めてそのコボルトが煩わしそうに顔を向ける。その口が動こうとした瞬間、雅紀の手が霞む。康太も静の手も霞む。言葉が紡がれることも、武器の振られる音もしなかった。静寂の下、コボルトの巣の制圧が成された。


 ここまでの部屋に至るまでの細かい分かれ道の先の部屋は、どこにも何もなかった。何かの動物の皮が置かれているだけだった。他のもの、食べ物を始めとする価値あるとされたものは、このボス猿の如きコボルトの部屋の奥に積み上げられていた。


 動物の肉に、馬車の破片、馬の骨等々。


 近くの街道を通っていた商人を襲ったのだろう。森の深くにある巣まで運んで来たのだろうか。


 そうして、そこにあったものを漁っているうちに、見慣れなかったもの、この世界にしかないもの、魔石が山ほど入った袋を見つける。その周りには齧られた跡の残る魔石が散らばっていた。


 その袋はやけに綺麗だった。袋に描かれていた印がしっかりと読めるほどに。


 しかし、その印は馬車の破片のものとは違い、街の中での記憶に引っかかるのだった。


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