表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
7/100

とことん詰めました


遭難八日目


 昼食として高級肉、あらためイノシシ肉をバベキューで食べている。これで三日連続、九食連続でのイノシシ飯である。たとえどんなにうまい肉でも、それだけ続けたら飽きるだろうと思うが、雅紀たちは、そんなぜいたくを言っている場合ではなかった。


 以前なら、調理して盛り付けた皿で食べていたのだが、魔法を使うようになってからというもの、むやみやたらとお腹がすくのである。食べたものが魔力になるのだろうと考えているが、魔力を使い切った後の気絶から起きると、尋常でない空腹感が襲ってくるのである。結果、切り分けた肉を焚火の近くに置き、各自勝手に焼いて食べる、セルフサービスとなっていた。


 飛ばされた先が異世界で魔法が使えることが分かった日の昼から、三日間が経った。


 身体を張っての、検証で様々なことがわかってきた。寝る時間すら惜しんで、魔力枯渇での気絶くらいしか寝ておらず、康太を除く三人とも目の下に真っ黒なクマを作っていた。それでもなお、顔に浮かべているのは笑みであった。たとえその笑みが、悪の研究者が浮かべるような不気味な笑みであったとしても、笑みは笑みである。


 三日ぶりに四人で集まって食べる食事で、確認できたことを共有する。血と涙と汗とよだれの結晶ともいえる研究結果である。


「基本法則は次の四つだ。」


零:魔法は魔力でイメージした現象を引き起こすもの

一:魔法は無から有を生み出すわけではなく、魔力というエネルギーによって起こる現象である

二:魔法の規模は込める魔力量とイメージの鮮明さに依存する

三:魔法に必要とされる魔力量はイメージしている現象の複雑さに比例する

四:魔法の対象となるのは、物質の形状、熱、運動、力場、光、位置などの情報である


「最初のは法則には入れなかった。具体的にはだな・・・」


 雅紀の説明が続く。

一:魔力を使って、イメージした状態と現実の差を埋める。例えば、魔力を熱に変えて炎を出すなど。燃料は魔力の物質化によるもの。

二:魔力量は元となるエネルギーが大きくなるから自明。しっかりとしたイメージは魔力がすべて望む変化に使われるから。

三:複雑な現象は現実との差を埋めるのに必要となる魔力が大きくなるから。

四:今まで使ってきたところのは、火と氷なら熱の増減、水、風、土ならそれぞれ液体、気体、個体の操作と運動の操作、光なら光エネルギー、雷は電子の運動、時空間は位置と時間の情報といった対応関係にある。


「・・・と、こんなところか」


「体の強化は、個体の操作を中心にいくつかの複合で、雅紀のあの剣は斥力場の生成かな」


「魔力自体については、枯渇させると体の器が大きく成長するということと、ただ纏うだけで威圧になり、魔力を纏うことでそれは防ぐことができるということでしょう」


 検証しているときから、少しずつは情報交換していたため、大きな祖語は出ず、認識の基礎にすることにする。


 魔法の性質についての研究で気絶した回数は、容量の増加で徐々に減ってきたが平均して一日数十回になった。その度に肉を食べて、回復させる傍から即座に使い果たして気絶するのは、なかなかに面白い光景だった。その努力に見合うだけの結果に満足したのか、静と朱莉は昼食を食べ終わると意識を手放す。雅紀も今にも倒れそうではあるが、興奮しているせいで寝る寝れないでいた。


 静と朱莉を、康太と寝床に運んだ雅紀は、竹刀を構えて木に向かい、魔法と剣術を合わせた戦闘スタイルを築きあげていく。雅紀は刀よりも片手剣の方が合っていて、道場でも剣術をメインに修行していた。魔法が使えるようになり、木を自分好みに成型して数本の木剣を作っていた。今回も魔力を込めすぎたのか、一通りの型を気にぶつけ終えると、木剣が真っ二つに折れた。


 納得のいく型ができたらしく、康太に見張りを任せ、満足そうに寝床に戻る。ここのところ、イノシシの肉が残っていたことから、狩りに出かけておらず、動物を見ないなあ、と思いつつ即座に眠りに落ちる。


 実のところ、三人の魔法検証は徐々にエスカレートしていき、まき散らされる魔力や音、光に驚き、大抵の獣が雅紀たちのキャンプから離れて行ってたりする。


 しかし、そんな動物は静かな森側だけであり、境界を越えた先の森の動物は、魔力に反応し、雅紀たちのキャンプを目指して移動しつつあった。




 静と朱莉が死ぬように寝ること十時間、月が真ん丸となって彼らを真上から照らしている頃。


 十時間ほど寝て満足したのか、静と朱莉は、もぞもぞと起きてきて、汚れたまま寝てしまっていたことを思い出し、風呂に直行し、久々に風呂をゆっくりと堪能していた。寝るのが二人よりも遅かった雅紀も、風呂に入ってキャッキャッとしている声に起こされたのか、少し遅れて起きてくる。

 康太に挨拶と警戒を任せてしまったことを詫びる。康太も康太で魔法と刀術の練習をしていたと、気にしないように言ってくる。周りを見渡すと、少し離れたところの木が少なくなっていて、康太もなかなか派手な技を練習していたようだ。それでも雅紀たちが起きなかったのは、魔法で音を遮断していたからだろう。やはりもてる男は細かいところまで相手のことを思いやるのである。


 康太はまだ起きていられるらしく、雅紀と話している。どうやら、魔力を枯渇させてバタバタと倒れるのはどうなのか、魔力を回復させる手段を見つけた方がいい、と口にしているようだ。雅紀もそこは反省しているらしく、真剣に考える。


 しばらく二人で考えていると、静と朱莉も風呂を上がったようで、二人の会話に入ってくる。


「そんな難しい顔してどうしたの?」


 髪を、魔法で乾かしながら静が尋ねる。魔法の使用は、体が鈍ってしまう等々言っていたが、体を動かす鍛錬を増やすことにして、極力体を動かす仕事は生身でやり、もともと待つだけだった事象を早めることに関しては、便利道具として魔法を使うことにしたらしい。


「魔力の回復方法を模索してたんだけど、心当たりあったりしない?」


「魔力でしたらそこら中にあるではありませんか」


「「あ・・・」」


 自分の中の魔力ばかりに集中していた三日間だったためか、以前朱莉の言っていたことをすっかり忘れていた雅紀と康太。気まずそうに、乾いた笑いをしながら、朱莉から視線をそらす。


 魔力の回復方法の必要性を静と朱莉にも伝え、四人で何か糸口を掴もうとする。基本として、もともとの器を大きくするとして、戦闘中でもできる手軽な方法を考える。


 朱莉の助言を聞き、その中の一つの呼吸法で試してみる二人。魔力を減らすために、小規模のの魔法を何回も使っていく。


「なんか無駄に魔力使ってるよな」


「魔力の貯蔵方法も考えないとだな」


「それは私に任せて、二人はできるか確かめといて」


 なぜかほぼ限界まで使い切って、呼吸法を試そうとする二人。少しでも加減を間違えれば、気絶してしまうやり方に呆れる静。その方がやり易いとわかっていても、気絶を減らそうとする訓練の中で必要のない気絶をしてしまっては、本末転倒に思えてしまう。


 魔力の保存方法については、静に心当たりがあるのか、荷物の中を探し始める。朱莉は、魔力を操作できるようになってから、全力で周囲の警戒領域を広げてないことを思い出し、三人が目の前のことに集中している間、自身の能力の確認も兼ねて眼鏡をはずして、探知をしていく。


 三十分ほどして、康太が、よっしゃ、と声を上げる。朱莉に魔力量の確認を頼んで、呼吸を始めると、回復量が増えていき、十分ほどでほぼ満タンまで回復させるスピードまで増加させる。(練習中も回復した傍から使い切っていた。)今までは、ご飯を食べて三十分ほどで満タンまでもっていっていたのだから、すごい進歩である。しかし、感覚的な部分が大きく、簡単に人に教えられない技術であった。とりあえず、呼吸法で回復できるとわかっただけで良しとし、通常の五倍程度まで行けたところで切り上げる。


 静の方は、考えていたようにことが進んだようで、魔力が込められたイノシシから取れた魔石を見せてくる。誇らしげに胸を張っているが、ここには()()に注目する視線がなく、何となく悲しくなる。雅紀には反応して欲しかったのに、魔石に夢中のようで、負けた気になってしまう。今更だが、イノシシから取れた石は、お約束にのっとり魔石と呼ぶことにした。


 そして、今手渡された魔石は、かつてのぼんやりと感じられたのは段違いの魔力が込められているのがわかる。静は、魔力を感じさせる、させないに関係なく、とりあえず魔力を片っ端から流していたらしく、魔力を持つ生物、もしくは強い魔力を長期に渡って浴びてきたものの相性がいいと確かめていたらしい。現在の手持ちの中では、条件に最も適するのがこの魔石であったのだ。魔石から魔力を取り出すのは、多少ロスが生じるが、捨てるよりもましらしい。魔力を貯める方法も見つけ、魔石を持つ動物を狩っていくことにする四人。


 そしてついに、翌日から街を探して行動を開始することになり、荷物をまとめつつ、どちらに進むか決める。


「北は山だから、ほかの三方向で決めよう。東は南と西よりもやさしい森が広がってる。」


「南か西だね。東はやさしいのだろうけど動物がいなきゃご飯が確保できないもん」


「あのイノシシも西から来たんじゃなかったか?」


「では、西に進みそのイノシシを頂きましょう。大丈夫です、以前とは違って全員魔法が使えるようになっているのですから」


「じゃあ、西に進もう」


 方向を決め、最後のキャンプ地での夜を、そこらへんの葉っぱのお茶を飲みながら、星を見て明かすことにする四人。


 しかし、自重なしにやらかしたつけは回ってくるのである。


 のんびりを星を見ること一時間、朱莉の探知範囲に高速で移動する動物が入ってくる。探知範囲は、今までよりも大幅に伸び、確実性を求めても五百メートルは下らない。接敵まで五十秒、という突然の警告にもやはりかと、予想していたように準備していく。


 最終日も、穏やかには終わらないらしい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ