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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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久方ぶりの仕事


 朝一、というには少し日が高すぎる時間。雅紀たちは久しぶりにギルドに訪れていた。


 この街のギルドには、朝一で行かなければ討伐のような冒険者らしい仕事が手に入らないことは、この街に初めて来たときのギルドからわかっていたのだが、久しぶりに人込みというものを味わいたかった。人がこぞって買いに走る品々に興味があった。


 そういう理由で朝一の市をぎゅうぎゅうされながら見て回ってからだったので、時間は朝と昼の真ん中を過ぎていた。もちろん、ギルドの掲示板には既に依頼の張り紙がちらほらとしか残っておらず、ギルド併設の酒場にも人の姿はない。


 絡まれることも無く依頼を引きはがして受付へ持って行く。その途中で入り口からは見えなかった部屋、医務室、そう書かれた部屋の前に冒険者が溜まっている。冒険者ギルドに出入りする人間のほとんどは怪我の治療に教会に行くと聞いていたが、その数が多い。


 そうしたものが見えたが、それに気を取られることはなく雅紀たちは受付嬢にはがした紙を渡し、受理してもらうのみ。それさえ済めば、すぐさまギルドを去って街の外へと向かう。大量の荷物を馬車に積んで街を出て行く者、街に入って来た者。そうした彼らを追い越し、すれ違って街の外に出る。



 街の外に出た雅紀たちは草原を見渡し、そして肩を落とす。エリンエルの街とは違い、見える範囲には草しか生えておらず動いているものは街道に沿ってしか見えない。依頼を思い出す。


「コボルト退治……。早まったな」


 依頼の内容を思い出し、手っ取り早くそれをこなせるとは思っていなかったが、どうやらかなり先に見える森の中へと入りこまなければ終わらせることは出来なさそうだ、とため息を吐く。康太も同じように考えていたのか、雅紀の視線を受けて苦笑いしながら肩をすくめる。


 静と朱莉はといえば、ほうほう、と言いながら周りを見渡している。


「う~ん、やっぱり風が気持ちいいね~」


 目を閉じたまま、静の言葉に頷きながら足元の草を覗き込もうとする。目を閉じた状態で何が見えているのか、それなりに気になる。気にはなるが、今日中に依頼を終わらせなければならないので、そろそろ動き始めなければと思う。


 康太を先頭に歩き始め、街道から姿が見えづらくなったあたりで雅紀が声を掛ける。その声からは、隠しているようであったが隠し切れない感情が読み取れる。こうした声に聞き覚えのある他の三人は、露骨に嫌そうな顔をする。


 その顔を見ても負の感情を見せることはない雅紀。その姿は、雅紀の自称親友のオタクのあいつを思い起こさせる。どこぞのテレビショッピングのような身振り手振りで、ゴソゴソと大きなものを取り出す。


「はい、ここに取り出しましたはバイク。脚が無くて困っているあなたにお勧め。出せるスピードも燃費も世界最高、この世に二つとない代物だ」


 そう言いながら取り出したのは、()()のバイク。その見た目は日本でも有名な会社のそれに似ている。印ももじったものが刻まれている。


「ガソリン要らずで環境にもお財布にも優しい。今なら…」


「それよりも、いつの間に作ったの、って昨日しかないか」


 売り込み続ける雅紀に静が遮ぎるように言葉を重ねるが、自分が解決する。昨日のすっきりしたような顔は、こんなものを作っていたからだと理解する。しかし、これだけで済ませているとは思えないが、聞いたところではぐらかせるのは目に見えている。それを披露してきたときに考えればいいか、と先延ばしにする。


 雅紀は売りに出していたはずのバイクに跨って、エンジンをふかしている。音を聞きながら、取り出したヘルメットを静、康太、朱莉に渡す。渡されたそれを抱えたまま、静は雅紀のその姿を不思議そうに見ている。


 雅紀のその仕草は慣れたものではあったが、実は、バイクに跨っている姿を見るのは初めてだったりする。日本で過ごしていた頃、雅紀が自動二輪の免許を持っている素振りを見せたことはなかった。故に、雅紀が無免のくせしてバイクを自作している阿呆のように、静には見えた。


「雅紀、犯罪はダメだぞ?」


 腰に手を当てて下から覗き込むような姿勢で、お姉さんぶる。その姿に止まる雅紀だったが、突然腕が動いたかと思えばスマホを構えてシャッター音が響く。それに呆けた顔をするしかなかった静は、その音に抜けた声をあげるしかなく、撮ったそれを見て満足そうにしているのを見て再起動する。


 それを始めさせてしまえばしばらく止まることがないのを理解しているため、朱莉が止めに入る。


「無免許での運転は道交法で認められていませんよ」


「安心してくれ、免許は持ってる。実は春休みの間に取っていてな」


「ですが、運転に慣れているわけではないのでは?」


 それを見て笑顔を返す雅紀。


 同じく笑顔を返す静。


 それから目を逸らす雅紀。


 隠し事をしていることが見て取れ、静が食いつく。またしても進まなくなりそうになって、朱莉が割って入る。


「数か月かそこらで、一般道に出せるようになるものですか」


「年単位だぞ?」


 ギロッと目を動かして睨まれる。そこでようやく雅紀が諦めたようで、両手を上げて降参の意を示す。しかし、すぐにその顔つきが変わる。


「私有地は道交法外だ」


 ドヤ顔で言い放ちやがった。雅紀の言わんとすることを理解する。要は、警察の入ってこれない私有地で乗り回していたのだろう。そこで、康太の方を見てみれば康太も同じように慣れた手つきで動かしている。


 この二人、共犯だ。


 どうして黙っていたのかは、危ないとわかっていたからだろうか。危ないと自覚していたのなら、待っていることは……。その雰囲気から逃げ出したくなるがバイクに跨っている以上にを逸らすしかなく、迫りくるその手から逃れることができない。


 止める者のいない二人は止まることなく、されている二人も止めることなどできようもない。ただお話しされるしかない。それが終わったとき時間が予想以上に経っていることに気付く。急がねば、と思ってヘルメットを投げて渡す。受け取った二人がまたしても顔を顰める。


「二人乗りは免許取ってから一年だよ?」


 今度も同じような笑みを浮かべて言い放つ。


「私有地は道交法外だ」


 その言葉に呆れるしかない。




 この世のすべての土地は所有権が貴族に属する。もちろん、街の中の土地は誰かが持っているものだが、それでも貴族はそれよりも深いところで所有権を持っている。生活する上や土地の売買の上では身にはならないが、それでも治める領の土地はその貴族に属し、国内の土地は王に属する。街道などはともかく、他の土地は私有地と言えるのだ。


 という説明を決め顔で受ける。決め顔といってもバイクに乗っている以上ヘルメットを付けており、顔を見ることはできない。声はヘルメット内蔵の魔術無線で聞こえるため、会話には困らない。


 そうした話を受けた状態で、雅紀と康太はバイクを飛ばしている。自分の足で走った方が速そうなものだが、バイクに乗るという行為を楽しんでいる。早く移動したいのであれば電車でいいのだろうが、気分的に自転車がいい、というのと似ているだろうか。車の自動運転化に反対する人の心情のようなものか。


 足元はデコボコとして草が生え茂っているというのだが、それを気にしない走りを見せる雅紀謹製の自動二輪。その速さは二人乗りを初めて経験するだろう後ろのお供に気をかけてか、一般道レベルの速さしか出しておらず、そのために周りの景色を楽しむだけの余裕はある。


 無理やりに二人乗りにさせられてしまった二人に考慮して安全運転を心がけていたが、すぐに森の中へと侵入することになる。着ていた服がワイバーンコートであり、戦闘行為を考慮してダボダボということも無く走行中に邪魔になることも無かった。


 森の中に入ってからも浮き出ている木の根を避けるようにして、止まることなく走り続ける。流石に太い根は避けるが、細い根や窪みを避けきることはできなかったようで上下に揺れまくる。運転している側は楽しんでいるようだが、後ろでしがみついているだけの少女たちは声を上げている。


 うねうねと左右に揺れながら森の中を走らせているうちに、流石に木の密度が高くなってバイクを走らせるのが困難になってバイクを降りる。ここまで走らせてある程度深くまで入ったというのに、コボルトの姿も見えない。バイクといっても電動モーターなのだから、騒音で逃げられたというわけでもなさそうだ。


 騎乗するのに邪魔だったものを再装備している間にも、視界の中に移るものはなかった。ここで待っているだけではどうやっても依頼を終わらせるようには思えず、気を引き締めて歩き出す。



 そうして気張ったはいいが、朱莉の目を使っても簡単に見える範囲にもコボルトがおらず、そのうちに森の中の散策へと変わっていた。コボルトだけではない。他にも生命反応が感じられない。どうしようもなく、ただ森の中を楽しむしかない。こちらの世界に来た時よりは気軽であった。


 ここの森は危険が高いわけでもなく、そこそこの実力の冒険者が出入りすることがあるようで、ときどき人間がいた痕跡が見える。それでも森の恵みは残っていたため、雅紀たちはその採集に勤しみ始める。どれもこの街で売っているのを見たことのあるものであって、採ったそばから口に運んでいる。


 足元も頭上も余すことなく目を配り、果実も草も刈り取る。この後に訪れるだろう人のことを考えて一部を残しておく。山菜と同じで少し残しておけば、そのうちに元に戻る。


 こうして歩いている間に、ようやくお探しのものが見つかる。それは、周りを警戒している素振りも見せずに落ちている果実を拾っていた。


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