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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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雅紀's labo


雅紀は机の上に広げた材料に加え、地球から来た時に持っていた道具を取り出して握り、ニヤッと楽しそうな笑みを浮かべる。鼻歌を鼻歌交じりにトポトポと液体を流し、シャッシャッと固体を切り分ける。


 その辺の道端で売っていたガラスの破片をこねくり回して繋ぎ直したガラス容器に、見た目が水の劇薬、硫酸を注いでいく。そこに先ほど精製した鉛の棒を二本ぶち込み、その棒で容器の中をかき混ぜる。小さな泡がほんのわずかな間だけ生じたが、すぐにそれも止まってしまう。


 そこまでの反応を確かめたのち、手に持っていた棒を振るってその形を変えていく。薄い板が何枚も重なったような形、それでいてその間はしっかりと空けられている。形を変えると、再び泡が出てくる。形的に容器の底に安置できるようになったので、そこで魔力を動かして体内で魔力を消費し、右手の棒から左手の棒へと電子を流す。電流が流れたことで起こるのはバッテリーの充電反応。


 雅紀が作ったのは簡易版鉛蓄電池。現代の車などに使われているのは、電極が改良されていて放電が抑えられるように作られているが、この世界で手に入った金属では初期設計の鉛版電極しか作れなかった。一応は電極の表面積を増やすことで容量自体は増やしたが、放電する分を考えればトントンだろうか。それでも、電圧自体は出るのだから雅紀にとっては大して問題ではなかった。


 すっかり電極版がそれぞれ灰色と黄色に染まり、鉛を硫酸に突っ込んだ時の白さは消えていた。それを見て満足そうにして、同じような容器をいくつか作る。パッケージもこだわったのか、外見は車整備工場で見かけるような箱がいくつも机の上に並ぶ。


 できたバッテリーでシャープペンシルの芯に繋ぎ、赤く光るのを見て満足そうに見る。光らせた状態で新しいモノを作る。アルゴンを充填させたガラス玉の中に、工作キットに入っていた抵抗をばらして手にしたタングステンを固定し、導線に繋ぐ。芯が赤く灼け、ついにはパキッと折れる音が響くが、その時には新しい光が灯る。


 その光の下、続いて買ってきた銅で導線を作って鉄の棒にぐるぐる巻きにする。巻いたその両端を持って先ほどと同じように高電圧を抵抗を減少させつつかけ、強い電流を流す。もちろん、鉄棒には電流が流れないように硝酸で不働態で覆うことも忘れない。強い電流によって生じた一瞬の強磁場のおかげで鉄原子の磁界の方向が揃い、鉄の棒は超強力磁石へと進化する。


 できた強力磁石を筆箱に入っていたカッターで短い磁石に切り分けていく。その動きは止まることなく、温められたバターを切り裂く包丁のようだった。この磁石も蓄電池も作った目的は、雅紀たちの生活空間だけでも電化しようとすることだった。その一歩として、雅紀たちがスイッチ一つで動かせる家電を作り出そうとしていた。


 動力源としては電気なのだが、売っていた魔道具の中には電気を流す道具もなく、電気を生じさせる魔法陣も見つからなかった。魔道具で動力を確保しようと思えばできたが、それでは何かを間に挟まねばならずどうにも効率が悪かった。そのため、安定した出力の期待できるバッテリーに手を出した。


 鉄の容器に磁石をはめ込み、先ほどよりも硬めの導線を細い棒にぐるぐるに巻き付ける。何重にも何重にも巻き付けた被覆付き導線と磁石、超お手軽モーターの完成。磁石二つだけのお手軽モーターに羽を付けただけの扇風機で、「ワレワレハ~」とお約束を果たすが白い眼が決行痛い。


 風量を増やし、風で視線を遮ろうとするがどうしようもなく、咳払いをしてごまかす。次に手を出したのは、黒い石と透明な液体。石炭を真空状態で加熱し、出てきた液体を分留して透明な液体を新しく手に知れる。


 そのタンスの中のような匂いが鼻につくが、ここだけ日本に戻ったような気分になれる。決してその匂いそのものに酔っているわけではなく、臭いを嗅ぐ状況に酔っているだけである。取り分けた透明な液体の一つに、先ほどの水酸化ナトリウムを手に入れる際に副次的に手に入れた塩素をぶち込み、ついでに本命だった水酸化ナトリウムもぶち込む。


 こうして手に入れたフェノールに、酒臭い液体に熱した銅をぶち込んで酸化させて手に入れたホルムアルデヒドを混ぜる。ホルムアルデヒド、それは理科室にあるホルマリン漬けの漬物液の素である。フェノールとアルデヒドを混ぜてコネコネし、次第にそれは固くなっていく。


 できたものを紙に染み込ませ、銅製の導線を張り巡らせる。液を染み込ませることで紙とは思えない硬度を手に入れた板にいくつかの機材を繋げ、鉛と錫で固めていく。はんだごてを使わずに竹串の先で基盤の上をつつき、できたそれを振って冷やしにかかる。


 電子基板を作って扇風機で乾かしている間に、先ほどよりも大きなモーターを作って鉄の器に繋げ、モーターの先に羽を付ける。羽というにはごつく、なにかを砕くのにぴったしな形ではあった。静がいつの間にか大量生産していたプラスチックで大枠を作り、モーターと鉄の器、基盤とスイッチを嵌め、静に投げつける。


 その大きさは中に入れるもののことを考え、それなりの大きさで重そうだったが、静は放り投げられたそれを難なく受け止める。目は手元のツボの中に向けたまま、手だけを動かして、である。


「ほい、静。確か、家に精米機あったろ?真似てみたから使ってみてくれ」


「え。どうして、何に使うの?」


「何って、運んで来た米って籾殻ついてるだろ」


「あ…、すっかり忘れてた。籾のままでお米って運ばれるんだったね。お米で興奮してて…」


「米炊こうとして絶望するよりはいいだろ。で、康太はミキサー使うか?」


「ん?いんや、頑張って自分で潰した方がなんか効果高かった」


「もう試したのか」


「やはりこの世界は、何事においても魔力がカギとなっているようですね」


「それで雅紀、次は何作るの」


「発電所」


 手元の作業用の道具をプレゼントしてくれたものの、それでも手を止めることなく動かし続けながらのその発言に、こいつは何言ってんだ、と言わんばかりの先ほど以上の真っ白い視線が向けられる。いきなりの近代化に驚きを隠せない。


 視線から逃げるつもりではないようだが、雅紀は、新しい空間を広げてその中へと今しがた作り上げたバッテリーを放り投げ、ポチポチとスマホを操作しながら、お楽しみに~、と手を振って入っていく。



 空気も地面も魔力も外と同じように設定した空間。その質量はどこから来たものなのかはいづれはっきりとさせたいところなのだが、今日のところはおいておく。雅紀が作るのは、現代科学でも最も普及している発電方法、火力発電。


 地面に設計図のような光の線が走り、それに沿って地面から壁がせりあがる。地面をもとにしたコンクリートで外壁を建て、中に幾重もの真空層を挟む。コンクリートだけでなく炉の部分までもを土塊で形どる。


 とてもではないがそのようなつくりでは耐えられない温度まで上がるのだが、そこは気にしない。ここは、雅紀の世界である。水の沸点も空気の粘性もタービンの抵抗も容易に改変できる。空間内でさえあれば意識を向けずとも、一度変えたことは変わったまま変わらない。


 一度、雅紀の空間内でのシステムを構築してしまえば、雅紀の魔力を喰らって永遠に動き続ける機構、これも一つの魔道具、いや魔導具とも呼べる代物が完成する。


 本来ならば、魔力を消費して直接に電子を動かすことで発電してもよかったのだが、さすがに見ることも聞くこともできない世界のことを操作はできなかった。空間に電荷の偏りを情報として書き込むことができれば容易く電流を流して充電が可能となるのだったが、システム構築するには経験不足であった。


 物体の運動はイメージが楽だった。何段階かに分ければシステム構築ができた。


 これによって、土塊だろうとこの世界で最硬の素材となってこの世界で最も滑らかなものとなる。空気の膨張率も跳ね上がって粘性も下がり、タービンはよく回る。タービンにつながるモーターもそれに倣っての最高品質ともなれば、それを用いての火力発電は効率が跳ね上がる。


 もちろんこの施設を常時回し続ければ、時間が時間だけに得られるものは大きそうだが、消費魔力との兼ね合いでサイズはかなり小さい。得られるものは一つの家庭で使い切るには多いので、出力を整えることも考えて大量の蓄電設備を備え付ける。アルミニウムと硫黄による蓄電設備、太陽光発電や風力発電が注目を浴びた際、共に注目が集まった設備。


 いつか使う時が来るだろうと、溜められるときに溜めておくことにする。魔力を電気エネルギーに変えようと、神様から魔力消費を増やす許可、というよりも増やすように言われているようなものである。この世界の調整のため、と言い訳して世界からエネルギーを雅紀の懐にしまい込む。魔力ではないから雅紀が制御できる量を超えて、懐を温められる。


 供給の目処が立ったのであれば、次にするべきことはもちろん電化製品の生産。魔法陣が分かれば、そちらを利用したものに置き換えられるだろうが、魔法陣の詳しい情報が手に入るとすればこの国では王都か学院だけだと言われてしまっているので、しばらくは役に立つだろう。


 今の状況は、雅紀にとって最高のモノづくりの環境である。莫大な資金にものを言わせた大量の材料に場所も時間もある。本来ならば受験が迫りくるのだが、この世界に来てからどうにも思考の回転も速くなって物忘れも減ってきたように思える。こちらに来る前に詰め込んだことも変わらず思い出せる。


 法律があろうと、誰の目にも入らない場所ならやってしまってもいいのだろう?


 そう言っているのが誰でもわかる悪い表情で、雅紀は先ほどとは違ってギッタンバッタンと金物をぶつけたような金属を削るような音が響く。誰もそれを聞く者はいなかったが、食事に呼ばれて出てきた時の雅紀の顔を見て何を仕出かしたのか予想できたようだが、もう手の施しようがないと諦められるのだった。


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