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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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待望の品


 初日の買い物で商人から聞いていた西方からの品が届いたのかどうかを確かめに来た日本人一行。


 他にも買い付けに来たらしい商人がいる中で、商人の多くが目をくれずに素通りしていた倉庫の端で彼らはこの上なく目立っていた。目に入ったものに驚きを隠せなかったのか、大きな声を上げてしまったせいで周りの商人から視線が向けられることになったのだが、それすらも気にならないほど興奮している。


「これが西の方の穀物なんだが、いいのか?あっちの交易品の方がいいと思うんだが」


 一応は個人で買いに来る人がいるのか、大手の商会が取り扱うにしては少ない量を西から毎年買い付けているようだが、仕入れた商会の人間も売れるとは思っていないようで、買いに来た人を前にして別の品を勧める始末である。それでも四人、特に静の反応は凄まじかった。


「はい!はい!これです。全部下さい、買い占めます!」


 異常なテンションを見せるよう静に少し引きながら、そんなに魅力のある品なのかと、積み上げられた少し変わった袋を見る。


 穀物を入れるのは麻布が一般的な中、細い草で編まれた筒状の袋の詰められて積み上げられた穀物。


 藁で作られた袋、俵に詰められた穀物。そう、この世界に来てから雅紀たち日本人一行が切望してやまなかった日本のソウルフード、お米であった。




 康太と朱莉が香辛料を買い漁った商会が穀物を探してあれこれを見ていた二人に教えてくれた情報。西方から、このあたりでは見ない穀物が明後日ごろに届く。商会としては金を落としてくれそうな客だったので、また足を運んでもらえれば、くらいの軽い気持ちだったのだろう。


 しかし、実際に届いた商品を見せてみれば目を輝かせ、すべて買い占めると言い出す。商会としてはときたま売れるから仕入れてきている程度の品なので全部売ってしまってもいいとは思うが、他にも買いに来る客がいないとも限らないので、さすがにすべてを売り払うわけにはいかなかった。


「買ってくれるってのに悪いが、さすがに全部ってのはな。すまねえな」


「あ、いえ。こちらこそ無理を言ってすいませんでした。それで、どれくらいなら売ってもらえるんですか!?」


 素直に伝えれば、少し落ち着いた静も無理を言っていた自覚があったのか引き下がるが、その目の輝きはちっとも変わっておらず、商会の人間は少し上の人間に聞いてくると言い残して席を外す。


 近くで見ている人が居なくなったため、静は振り返って同じように顔を綻ばせている雅紀たちに話しかける。少しばかり恥ずかしそうに肩を小さくしているのに気付いたのか、ハッとして口を抑えて、小声で叫ぶようにして話しかける。


「お米だよ、お米!これでいつもの食事が作れるんだよ!でも、醤油も味噌も欲しいかな。酒はこれで作れる、ってこの世界で勝手にお酒作っても大丈夫なのかな?」


 次から次へと言葉が出てくる静を止めるタイミングが見つからず、声は響いていないがそれでも注目されてしまい、恥ずかしそうに静の肩を掴んで倉庫のさらに端へと連行する。三人がかりで隠されながら連れていかれる静だったが、三人の願いが届くことはなく、「お米があったんなら、大豆もあるんじゃないかな」と呟いて周りを見ようと三人の隙間からぴょこぴょこ顔を出そうと試していた。


 それを阻止しようとしたり出し抜こうとしていたりするうちに、先ほどの担当者が新しく一人を連れて戻ってくる。


「待たせてすまねえな。で、だ。このリーツェ麦、ああこいつの名前な、だが、そこまで売れるわけでもないらしいからな。一袋が、仕入れ値に運送費、人件費他もろもろ込みでこんくらいか。どうよ」


 連れてきた人間にはじき出した値段を聞いてみれば、妥当だとばかりに頷く。静もお米が手に入るなら値段なんぞ気にしないとばかりに、了承している。それをもって商談成立とし、続いて量についての話に移っていく。


「聞いたところだが、ここの分と裏にある分の半分くらいなら売れるとのことだ。裏にあるのがこの5、6倍だな。どうする」


「全部で、買える分」


 これまた速攻返ってきた答えに、詰まりながら応じる。西方から運んで来ただけあって運送費がかかり、このあたりの小麦よりも値段が高くなってしまっているものを二つ返事で買い占めようとすることに驚きを隠せない。見た目と中身が一致していないような感覚があるが、商人として買ってもらえるならば客である。


 表にある分はそのまま置いておきたいので、裏にある分からまとめて持って行ってくれとのことなので、雅紀と康太がもう一人について裏に回る。静はさっさと支払いを済ませてしまい、お米がどこで採れているものなのかを聞き出そうとする。


「このリーツェ麦はどこで採れているものなんですか?西方ってどれくらい離れていますか?」


「この麦は西も西、水の国との国境あたりだよ。王都の辺りでも珍しい穀物だな」


「水の国、ですか?」


「あん?水の国ってのはウェリアスのことだよ。あそこは水の神の力が強いからな」


 水の神と言われてアクルスが思い浮かぶが、国ごとで神様の力が強い弱いがあることが初耳だった。聞いた限りでは四大神以外にも細々と神がいるようなことを言っていたが、それらの影響も気にはなるが、話が続いている今は置いておく。


「この国が土の国、隣の帝国が火の国。帝国の南に聖王国、さらに南に風の国があるわけよ。それでうちの商会はここより西の品を主に扱っているわけだな」


「国ごとでそこまで違うんですか?」


「そりゃ、もう全然違うぜ。うちの国は土壌が豊かだから穀物が旨いし、水の国は水産物が旨いな、きっと水が旨いんだろ。で、風の国が牧畜と魔道具で、火の国が鉱石と砂漠から取れた珍しいもんだな」


 商人目線ではあるが思いもよらなかったところで観光に使えそうな情報を聞くことができ、ふむふむと頭に書き込んでいく。それで、お米の産地は、と聞こうとするもまたタイミングを逃す。


「それにまた、国境沿いがおもしろいんだわ。行ったことがあるのがこの国との国境だけだがな、火の国のとは火山で流れるマグマも見れたしな。自然の力ってのは恐ろしいな」


 声からは全く恐れているようには思えない。それに加えて、商売に行ったのかと聞きたい。


「水の国のは、山と川とか滝の絶景だった、自然の作り出すもんはデカかったなあ。っと、悪い。どこでこれが採れるだったか。水の国との国境だよ。どうにもこいつは水がたくさんないと作れないみたいでなあ、山から大きな川が流れてきている国境沿いのいくつかの領だな」


 ようやく教えてもらった生産地の話で、育て方も実の形も日本のものと大して違いはなかったことに安心する。実は同じ形でも育て方が違うならば、味はきっと別物になるだろう。


 他にも西の方の話を聞いていると、雅紀と康太が戻ってくる。行きはいたはずの人は既にいなくなていた。合流してすぐに別れを告げて商会を後にする。聞いた話をまとめると、この世界の気候は地形よりも神様の影響が大きいようで、地球の知識が通じるのはごく一部の地域だけになりそうだった。


 そして、求めていた大豆は気候的には乾燥した土地、つまり火の国と土の国の国境あたりの品を取り扱っているところを探してみれば、あっさりと見つかる。輸入品ともなると個人の店ではなく大きめのところに行かないと見つからないらしい。



 こちらに飛ばされてから求めてやまなかったものが手に入った今、雅紀たちがやることは決まっている。それをやるにはいろいろと準備しなければならないことがあるが、そこは魔術頼りである。昼飯は時間的に諦めざるを得ず、洋食になってしまったが夕食こそはと気合が入っている。


 醤油や味噌を作る過程で酵母を頼るとなるとどうしても静に仕事がまわってしまい、他の下ごしらえを代わりにこなしたとしても手持ち無沙汰になってしまう。静は気にすることはないと言ってくれたが、そういうわけにもいかない三人はそれぞれができることに手を付ける。


 朱莉はこの街で新しく手に入った書籍からこの世界の法や常識を洗い直し、康太はどこで見つけたのかレシピに沿ってポーションを作ろうとしている。それを非常に羨ましそうに見つめる静。実験の匂いがするものに惹かれるようだが、その役目は朱莉が引き継いでいる。


 そんな中、雅紀だけがガタゴトと大きな物音を立てていた。床の上に広げられた布の上に置かれているのは、火の国から輸入してきたといういくつかの鉱物とお土産に人気だとかいう黄色い粉、黒いダイヤモンド。


 鉱物はそれぞれがからふるないろをもっていて、何も知らなければ綺麗と言いそうだが、少しでも化学を齧っていればこうした鮮やかな色は重金属由来であるとわかって敬遠するものである。その鉱物を雅紀は粉々に砕いたと思えば、少量だけ取り出して液体に溶かしてサンプルを作り出す。そこにいくつもの試薬をぶち込んでどの鉱物が含まれているのかを確かめていく。


 空気中の窒素を無理矢理酸化して作った硝酸に、同じく水素と窒素から作ったアンモニア、塩水の電気分解で作った水酸化ナトリウム、エタノールを酸化させた酢酸。触媒があればよかったのだが、金属が手に入らなかったので諦めて裏技に頼った。そして、お土産の黄色い粉を酸化させて作った硫酸。


 劇物だらけであり、見つかればお縄につく代物ばかりである。それをもって確かめれば、ほとんどの鉱石が純度が一級品であった。これを分離するのは静の担当分野なのだが、発酵させようとして唸っているのを邪魔するのは忍びないと独力でこなす。


 主に今回雅紀が取り出したのは、安全なところで鉄や銀や銅、危険物では鉛や水銀であった。科学が進んでいないならば水銀も鉛も規制なく使われていそうだが、静も朱莉も化粧品を買う気がないようなので把握はしていない。還元してそれぞれの金属の単体を取り出し、危険物の水銀はガラス瓶に入れて封をして奥底へ。


 取り出した水銀を見て静が悪い顔をするが、危険物触れるなとばかりに、誰にも触れられない場所へと仕舞う。石炭はそのままだが、ここまででようやく準備が整ったと雅紀がようやく工作を始める。


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