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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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吉報か凶報か


「聞け、異教徒の者どもよ!!この度、我らが神たるユーテリア様がこの世に救いをもたらしてくれた!!」


 先ほどよりも大きな声で叫ぶ。異教徒呼ばわりされた住民は顔を顰めるが、自分の立場に酔っているのかそうしたものは見えていないらしい。


「我が神はこの世界に勇者を遣わしてくださった。この世界に訪れようとしている災厄に対する要として我が国は勇者をお迎えした!!」


「だがまだ勇者には力が足りない。この世界を救うだけの力はまだ持っていない。神の使徒たる勇者がなぜ弱いのか?」


「簡単だ。我らが神を崇めずして、その恩寵を受けようとする不埒ものがいるせいだ。神を信じずして、この世界を救ってもらおうなんぞ、図々しいにもほどがある!!」


「異教徒よ、世界の救いを求めるならば、我らが神を信じよ!!我らはいつでも汝らの正しき信仰を待っている」


 勇者について、その力を誇るように語り、勇者の他にも強い仲間がいることを言って聞かせる。それは、あたかも聖神教が新しく手に入れた武力を誇るようであった。他にも言いたい放題言い残し、騎士たちを引き連れて去っていく。


 話しているうちに興奮してきたのか手や足が出始め、細々としたものが破壊されてしまう。それを見て司祭が話に割り込もうとしたが、騎士に剣を喉に突き付けられてしまって声も出せない。異教のものなど壊れても構わんと、最後に教会のシンボルにまで手を出そうとしたが、教会の中に獣人がいることに気が付いたのか、汚らわしいと隠すことなく吐き捨てて出ていく。


 ただそれを見ているしかなかった司祭は悔しそうな顔を見せるが、雅紀たちはどうすることもできず、帰るしかなかった。


 聖神教が出てきた以上、誰に庇護も受けられない獣人の子供を救うのは時間との戦いへと変わっていった。




 教会から戻った夜、聖神教が出てくるとは思ってもいなかった雅紀たちは、宣教師とも言える昼間の一行の語った勇者の力について話していた。


「神様はスキルは称号って言ってたが、”勇者”っていうスキルは何なんだろうな」


「それよりも技量をスキルのレベルで表しているなら、スキルを与えられるってどういうこと?」


「確かにそれは不気味な話ですね。スキルを持つということは技量の証、与えられたスキルは初めてでもそのレベルに見合った技が出来るのでしょうか?」


「生まれたときに持っているスキル、ってのも気になるけどな」


「赤ん坊がそこまで出来るとは思えないけどな。こう、やり方が分かる、みたいな感じか」


「体の動かし方が分かるならば、確かに技が出せるとは思いますが……」


「けどさ、私たちも貰ったのを言語の加護って言っていたから、スキルを与えたわけじゃないと思うんだよ」


「加護ねぇ。それじゃ、加護で知識を貰ったうえで体も強化されて、少し訓練すればスキルレベルに見合うだけの腕になる、と」


「才能みたいなものか」


「スキルは潜在的能力(ポテンシャル)すらも測る、と。違和感はないね」


 言葉にしづらかった部分をまとめることができ、雅紀たちは思う。


「「「「……加護で魂弄られるとかされなくてよかった」」」」



 SFのように進んだ技術に恐怖を覚えてしまって部屋の空気が沈むが、それを変えようと夕飯作りにかかる。


 パンとうどんを試してから小麦については西洋の小麦に近いことが分かっていたので、パスタならば非常に容易く食べなれたものに近づけられるとわかり、静の頭の中では様々なレシピが試したいものリストに追加されていく。パンは牛乳やバターの問題もあって再現するのに苦労したが、店で出すのに十分すぎるレベルでフワフワに仕上げていた。


 この世界の人には食べなれたパンの味なのだろうが、静としては地球のパン作りに向いた小麦でパンを作って、パンとして満足させてあげたかった。小麦の違いでいつもの味が出し切れていなかった、と本人は悔しそうにしていた。けれども、パスタに向いている小麦であるならば、パスタとして食卓を彩れると気合が入る。


 乾麺にすれば今後も利用できるので、教会帰りで微妙に時間が余っている今のうちに総出で作っていく。単純な作業ではあったが普段は市販の乾麺しか目にしないものだから、楽しそうにコネコネしている。中に入れたものが腐らないアイテムボックスがあるが、乾麺用と生麺用と両方を作っていく。


 こうした作業に付き物なのが、どう考えてもパスタに合わなさそうな形のものを作ったり、茹でるのに困りそうな形に成型したりといったことであり、この連中は……


「Yes, I did it, very long version」


「You did it? OK, mine is very wide version」


「何してんのよ、もう。どう考えてもフライパンに入らないでしょ」


 調理担当の二人が呆れるようなパスタを作り上げる食べる担当の二人。調理担当の静と朱莉の二人は、スパゲッティと言われるようなよく見かけるロングパスタを始めとして、平面やフィットチーネ、ラザニアに形作っていたのに対し、男どもは初めは同じように作っていたのだが一度は食べてみたいとか言い出して巨大サイズを作り始めた。


 流暢に英語を口にして成果を見せていた二人だが、静の呆れたような言葉に、「やっぱり?」と返して大人しく作品を見慣れたサイズまで縮小していく。英語で話していたのは気分のようで、話すならイタリア語あたりが妥当ではないかと思うが、知るわけもないので外国語なら何でもいいか、となってのことらしい。


 作った生地の成形がほとんどが終わったところで、静と雅紀が調理に入って康太と朱莉が乾麺の分を干していく。パスタの調理に朱莉が入らないのは、朱莉の作る料理はどうにも和風に寄りがちで、パスタのような料理も例外ではなく醤油を使って本領が発揮されるからであり、醤油が手に入るまでは朱莉は調理を雅紀と交代するようにしていた。


 雅紀が手慣れているのは、パスタが手軽に作れる料理だからである。母親の智恵に任せていると何が出てくるのか分からず、もちろん時間がどれくらいかかるかは出来上がるまで分からず、と腹減っているときに頼めるわけもなかったから。普段は朝食と夕食、弁当はほぼ定刻通りに仕上がったのだが、休日の昼食を頼むと昼食用とは思えない品が出てきてしまうことも多く、食べたいものがあるときは自分で作らねばならなかったからである。


 二人が調理を始めて漂ってくるニンニクの香りとベーコンの油のはじける音に食欲を刺激されながら、机の上に大量に積み上げられた麺を乾燥させていく。普通の乾燥と同じように乾いた風を浴びせていたのだが、綺麗に乾かそうとするとなかなか進まないことに唸っていると、空間を乾燥室にするかと雅紀から助言が入る。


 雅紀の作ってくれた空間の中に大量のパスタをつるし、雅紀に部屋の環境制御盤を出してもらって整えていると静からパスタが上がったことを伝える声がかかる。


 戻ってみれば、机の上に置かれているのは、見慣れた赤色のパスタではなく緑が多めの野菜パスタだった。挨拶してから食べ始めて麺から口にする中、康太が具の方から口に運ぶ。


 初め口に入れたときの味はニンニクの風味とベーコンの出汁が効いていて、美味しいと伝えようともう一噛みすると口の中にここのところ感じたことのなかった刺激を感じる。慌てて傍の水を飲みほして静に顔を向ける。


 いきなり顔を向けられた静だが、特に答えることもせずもう一口、と勧める。それを受けた康太は、静の料理に腕前を考えれば失敗したわけでもなさそうだが、先ほどの痛みを考えると気軽にもう一口とはいけず、恐る恐る小さな一巻きを口に入れる。


 またあの刺激が来るのかと待ち構えていた康太の口の中に広がったのは、野菜のほのかな甘みとわずかな塩で整えられた肉の味。先ほどの一口とは似ても似つかない味に困惑しながらも、もう一口といってみれば再びあの痛みが口の中に広がる。


 この料理は何だ!? と康太が聞いてみれば、静が誇らしそうに答える。


「そうね、今日の料理は小悪魔風ペペロンチーノかな。面白い香辛料を見つけたから試したくなったってのと、こっちで見かけるトマトが手を加えない料理に使うには微妙だったってことかな。どうにも硬くて水分が前提のパスタのソースに使えそうにもなかったし。それに煮込みにも合わないかも…」


 話の途中で、こっちで見かけたトマトの合う料理を考え始めたのか話がずれていこうとするのを、なんとか戻す。


「それでね、他の野菜も品種改良とかされてないのか生か半生で食べるのは美味しくなさそうでね、向こうと違いがなさそうなのが葉野菜だけだったの」


「それよりも、この異常な刺激について聞きてえんだが」


 刺激を痛がってはいるものの、それを口に運ぶスピードが落ちる気配はない。


「それが面白かった香辛料。見た目は小さな玉葱みたいだけど、実際は唐辛子以上の辛さだったから、上手く合わせれば唐辛子の代わりに使えるかなって。で、食べてみたら、あら不思議。気付かない?」


「それのどこがおもしろいんだ」


「あはは、意識してないと気付かないか。これを食べた後に水飲むと辛さを感じずに、甘さが強調されるの。ペペロンチーノの辛さも野菜の甘さも楽しめるパスタ。どう、面白くない?」


 一口目と二口目で味が大きく異なったのはそのせいか、とわかってもう一度試そうとしたところ、雅紀がぽかんとした顔で静を見ている。手からずり落ちたフォークは乾いた音を立ててさらにぶつかり、皿の上が空であることを語る。


 辛いものにも抵抗がない雅紀は、辛さの中にほのかに感じる甘さが売りのパスタかと思って完食したところで、静のネタバレを聞いて物凄く勿体ないことをしたという顔をしている。静の料理を全部味わうことができあかったことに絶望すらしそうな雰囲気を醸し出す。静がやけに水を飲むなとは思っていたが、そんな理由があったとは気付きようがない。


 そんな雅紀を見て慌てて慰めるように雅紀に水を飲ませて、自分の分を雅紀の皿に移そうとして雅紀も余分にもらえるのかと嬉しそうな顔をするが、何を思ったのかその動きが止まって、自分のフォークにパスタを巻き始める。貰えないのかと肩を落とす雅紀の視界に入り込むのは、静のフォーク。静の顔を見てみれば、口を開けて、と書かれている。


 餌付けするかのように見える行いだが、二人を知るものの間ではこの程度の愛情表現に驚きを示すものもいない。それを傍目に康太と朱莉は刺激的な辛さと優しい甘味の両方を楽しむのだった。



 ちなみにその晩、習慣の鍛錬で思考の加速のコツを掴んだらしい静の前に、三人がかりで攻撃しても恐ろしい速度でつながれる技で防がれてしまって攻撃を当てることが叶わないという結果に終わり、非常に落ち込むことになるのだった。


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