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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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再びのあの方


 雅紀の忘却によって今までの苦労が虚しきものに変わってしまい、昼飯をぎくしゃくとしながら済ませた4人は街へと繰り出していた。日自体はまだ高いが、時間的には何かを始めるには微妙だったので街の市場をまたぶらぶらすることにした。


 昨日の買い物では康太と朱莉は外周部に向かって進んでいたため、見て回った通りは食料品を主に取り扱っていたらしく、香辛料はしばらくは困らない量と家庭料理を作るのに困らないだけの種類を確保するのに成功したとのこと。その中でも西の方と取引している店からは、面白い穀物がすぐに入荷するとのことだったので、そのうち顔を出すらしい。


 雅紀と静も買い物で回った店について話し、そこでようやく魔道具店で買ったはいいが帰った時の雰囲気から渡し損ねていたペンダントを渡しておく。外で歩きながら渡すものではないが、今ここで済ましておかないとまたまたアイテムボックスのそこで眠りにつくことになりそうだったので済ませておく。


 道すがらに売っていた果物を絞ったものを片手に、人口密度が少しは落ち着いた道を進む。色と味が予想の範疇から大きく外れていなかったことに安堵しつつ、柑橘系を混ぜたような味を楽しむ。少し開けた場所、どうやら街の中でも馬車が多く行き来道の交差点らしい、の端で花壇のレンガに腰を掛けて魔道具を付けてみる。


 つけるとペンダントから冷気が放たれ、その冷えた空気が胸の方へと下っていく。それによって冷やされた肌の感覚を楽しむ。こちらの世界に来た時よりも気温が高くなり、肌も汗ばむようになる季節において持ち運べるクーラーは非常にうれしい装備である。特に女性陣は胸に豊かに分類されるものを持っていて、下着の材質の問題から夏場の汗は大敵なのである。


 暑い中のクーラーを楽しんでいると、静がスプーンを取り出してジュースをかき混ぜ始め、ある程度回した後で口に運び、いい音を立てて口を動かす。嬉しそうな顔も束の間、頭痛をこらえる顔に変わる。それを見て何をしたのか分かったのか、自分のコップを静の前に突き出す。


 コップの上に手をかざして数秒、コップの中を見てみれば果実のシャーベットが出来上がっている。蜜柑やオレンジ、レモンが合わさったような味に、果物の名前を聞いておけばよかったと思いながら、それぞれの好みの硬さに溶かして味わい、一様に頭に走る痛みに唸る。一緒に唸るのを見て、笑いがこぼれる。


 しばらく歩いているよ冒険者ギルドの近くまで来てしまう。この付近は武器や防具を取り扱う店が多く、それらで不足を感じていない雅紀たちには見て回るところがない。どうしたものかと周りを見ていると、朱莉がギルドの奥に教会のシンボルを見つけたらしい。


 教会と言われ、エリンエルでは孤児院が併設されていたことを思い出し、どうしても聞きたいことができてしまう雅紀。康太と朱莉も確認したいことができたらしい。ここで一つ、昨日の話をしておくことにする。


「昨日さ、住宅街の奥、スラムっていうのか。そこでガラの悪い冒険者が子供に怪我させていた。近くの通りの店も怯えてみたいだった」


「そっちもか。こっちもスラムのガキたちから巻き上げていやがった。まあ、朱莉が奪い返したんだがな」


 街の裏で、同じようなことがいくつも起こっているとわかってしまい、腹立たしさを覚える。ある程度大きな街ではスラム街が広がってしまうのは理解できるが、そのスラム街に暮らす人を虐げることがまかり通ってしまっていることが理解できない。


 スラム街での出来事について教会と孤児院はどう考えているのか。そこのところを確かめておきたい、というのが共通の思いである。


 ぐるりと通りをまわって教会の正面。教会自体は掲げているものも大きさもエリンエルと変わりはない。中へと入ってみると時間が時間なので祈りをささげている人はおらず、何人かの怪我人が治療待ちをしているが、その数はエリンエルよりも少ない。ここが特別少ないわけではなく、魔の森の魔物とドンパチしているエリンエルの街の怪我人の数がおかしいだけである。


 治療している人の中に一番位が高そうな人も混ざっているので、話しかけるのは怪我人が減ってきてから、と先にお祈りを始める。祈るスペースはきれいなステンドグラスで彩られているが、色に偏りがあって黄色の類が目立つ。これに掛けられた金額を想像しながらお祈りを始める。その仕草は見様見真似であり、目を閉じて姿勢はそれっぽくしているだけ。


「ちょうどいい時に来た」


 それでも神様は応じてくれる。




 白い空間が広がる中にポツンと机が1つだけ置かれている。この光景は前と同じだが、そこに腰掛けていた神は一柱だけだった。それならばさっきの言葉の主が誰だかはっきりするが、机に寄ろうとも、勝手に椅子に座ろうと、勝手に飲み食いしようと、話し出す気配も目を開ける気配すらない。やる気の欠片も見せないグローテ。


 ただ待つのも暇だからと、試しにアイテムボックスから出してみようとしてみれば取り出すことができたので、お茶をして待つ。この空間でも匂いはするのか、温度という概念は通用するのかいろいろと気になる点があったが、そのあたりのことは変わりはないらしい。お茶片手にこの空間で魔術が使えるか試していると、いつの間にか席にもう一人座っている。


 疲労感が漂っているせいか、前に見たときよりもやつれて見えるアクルスが誰にも気づかれずに席につき、動く気配のないグローテを揺り起こそうとしている。しばらくゆすっても、それでも起きる気配を見せないので容赦なく殴りつける。それなりに速さの乗って拳骨を食らっても体を動かすには至らなかったが、痛みでようやく目を覚ます。


「皆様にお願いしたいことがあって、お呼びさせていただきました」


 隣のぐうたらが起きたのを確認し、アクルスが姿勢を正して話し始める。


「あなた方が旅をしていた間に聖王国が勇者の存在を公表しました。それによって聖王国が大義名分を得てこの世界の龍脈に手を出そうとしています。恐らく勇者の力を高めるだの聖なる武器を解放するだのと、好き勝手に言い張って龍脈に細工して魔力を吸い上げ、この大陸の魔力を大きく乱すことになるでしょう」


「それでどうして私たちが?」


「私たちが整えていた魔力の流れが乱されてしまうと、この大陸の環境に大木は変化が生じる可能性と封印していた魔物が起きてしまう可能性があるのです。ここだけの話ですが、迷宮と呼ばれる存在はその封印の一つです。他にも魔力を物質に変えることも目的の一つではありますが、これ以上の目的です」


「魔力が環境に影響を及ぼすのは何となく理解できましたが、迷宮が封印ですか」


「迷宮はその昔に大災害を引き起こした凶悪な生物を最下層に縛り付けています。確かに、迷宮は周囲の魔力を吸い上げて物質に変化させ、邪神の周りの魔力をこちらの大陸に流れこませるための装置であることも確かで、大半の迷宮は封印を持たずにこの目的で作られたものです。そして、今回手を出された龍脈がこのグローテの封印である迷宮に深く関わるものだったのです」


「そういうことでしたか。それで私たちにお願いしたいことがある、そういうことですか?」


「恥ずかしながらそうなります。お願いしたいことは、あなた方のいる王国の迷宮都市に存在する迷宮の最奥の魔物の討伐です。他の封印はしばらくは持ちそうなのですが、その封印は古いうえに縛り付けているのが未だに破ろうとしているため、劣化がひどく早めに対応しなければ破られます」


「封印されているのは?」


「竜です」


 Oh、と頭を抱えたくなる雅紀たち。竜といえば、ファンタジー世界でも最強の一角であり、地球のお伽噺では悪逆非道の限りを尽くした存在も書かれている。いきなりそんな存在の討伐を頼まれても困惑するしかない。


「そこまで強いわけではないので、そんなに怖がらなくても。当時の魔術師が討伐、といいますか封印に成功しているので大丈夫かと。その魔術師はあなた方のように多彩な技を持っていたわけでも、魔力を吸収する術を持っていたわけでもないのですから。それに、場所的にも封印は続いていますし、何よりもあなた方は4人です」


 心配していたことも説明を受けた限りでは、そこまで苦労するようには思えない。出来るとは確証が持てないので、やれるだけやってみると約束しておく。その答えにホッとしたように息を吐く。肩の荷が下りたようで、疲れた上に気を張っていた顔が緩んで本来の柔らかさを携えた笑みに変わる。教会に飾られている石像のような顔に、ご利益があるかもと手を合わせておく。


「それで制限時間は」


「ここ一年以内に蹴りをつけていただければと」


 神々の時間間隔はもっと大雑把なものだと思っていたが、これは聖王国のやり方のせいだと思っておく。


「はあ、本来ならば貴方が頼むことなのですよ、グローテ」


「眠い」


「まったく」


 ため息を吐く姿に色気が漂い、雅紀と康太が気まずそうに顔を背けて静と朱莉は手を握る。雅紀はそれから逃れるように、先ほどまでの言葉で気になっていたことを尋ねる。


「龍脈から私たちが魔力を好きに吸い上げてもいいのですか?」


「あなた方が吸い取る魔力は龍脈を含む周囲の空間から吸い取っているだけで、龍脈を弄っているわけではないので問題ありません。むしろ、邪神から魔力を吸いつくす方向でもっとやってください」


「では、迷宮の真似事をしても?」


「人の身でやるには。と言いたいところですが、あなた方の身体と精神は普通ではないですからねぇ。失敗しても周囲に被害が出ないようにしていただけるならば、私たちがそれを止めることはありません」


 魔力というエネルギーを利用して人類の夢に手をかけられるかもしれないことに目がぎらつく。


「それと勇者についてですが、私たちも勇者を選定して協力することになりました。勇者について緊急事態があれば、あなたたちが教会に顔を出し次第お伝えするつもりではあるのですが、頻繁に会う名目として裏からでいいので協力していただきたいのです。今の魔王は強力な魔物ではなく邪神の一部が変化したもののようでして、邪神を倒す第一歩になると思われます」


「それはもちろん、友人が死ぬのをただ見ているだけにするつもりはありませんから。ただ、あいつらに邪神を倒す手伝いを望めるだけの力はあるのですか?」


「勇者が辛うじてこの世界の力の枠から外れるようになれば、としか。あなた方は既にこの世界ならば人類の枠を外れていると言えますね」


 ポロッと人類辞めかけている発言をされてしまい、その後のことが話半分になったが、さらに飛鳥たちの情報を出回っていないレベルで貰って帰ることにする。最後の最後で雅紀が空間に手を出してみるが、今の技量ではほとんど手が出せないことに、向上心に火をつけて現実に戻っていく。


 いつかは、俺たちが勝手にお邪魔させてもらう。


 そんなことを語るような目を最後に残して姿を消す。


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