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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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悪癖再発


 雅紀と康太が嬉し恥ずかしの膝枕をしてもらい、その夜はいろいろな意味で眠れず、快調とは言えない顔をして迎えた翌日。雅紀たちの部屋からは人の話す声は一切せず、ただただ何かがこすれたり当たる音が響いてきていた。廊下を通る他の客も気にした様子もないが時折聞こえた爆発音には驚き、何が行われているのかを従業員が確認に入っても、きれいな部屋の中で本を読んでいる光景でしかなく、疑問が絶えない。


 時折部屋に突撃してくる従業員の目をごまかし、帰って行ったのを確認してから机の上で何かをめくるようにすると白い布が現れ、その下には机の上いっぱいに魔道具の数々が広げられたいる。めくった布を適当に畳んで手に持っていた本と一緒にソファに放り投げ、再び机の上に広げられた魔道具に向き合う。


 その発端は、昨日雅紀と静が大人買いしてきた魔道具の数々にある。


 そして、彼らが目を血走らせて覗き込んでいるのは魔道具の核、刻み込まれている魔法陣。金属の板に刻んだ凹みに変わった色の液体を流し込んで書かれた魔法陣は、その魔法陣から延びる線の先には魔石が埋め込まれていただろう穴もある。


 魔道具というのは魔法を使えるようにする道具なのかと思って使ってみれば、火を熾したり水を出したりとあると便利な100均アイテムであった。魔法を発動させる魔道具の原理について暴いてやろうと言って、雅紀が手慣れた手つきで部品にまでバラバラにしたところで見つけたものである。


 初めにしたことは魔法陣を注視して書かれている図柄を手持ちの紙に大きく書き写し、似た効果を持つ魔法陣を書いた紙をうまく拡大縮小して重ね合わせ、その図柄を比べている。似たような箇所を見つけては赤いインクで印をつけている。


 初めは4人でワイワイと楽しくやっていたのだが、雅紀、静、朱莉の3人がだんだんと先走り始めてそれぞれが1つの属性の魔道具を担当し始めてからは、康太は諦めて自分のできることとして先日追加で手に入れたスパイスを潰す作業に戻った。


 ある程度魔法陣の解析が進んだところでサンプルの数に不足を感じて作業を中断し、魔道具の再現へと移っていき、ただの鉛筆で書いた魔法陣や削って描いた魔法陣を試し始める。残念ながら、魔道具に使われているインクと違って魔力を含まないもので書かれた魔法陣や刻まれただけの魔法陣では、魔石を繋いでも発動せずに終わった。


 掻かれた図形に魔力を流すようにしてみれば、鉛筆だろうと木彫りだろうとしっかりと発動したのを確認して思う。


 なら魔力を含んでいるものなら何でもいいのでは、と。


 ここでまた4人で作業を始める。魔力で書けばそれでいいのだろうと、魔術で出した火で書かれた魔法陣は、書き終わったそばから魔石の有無に関係なくその効果を発揮する。突然炎が噴き出すという思いもしなかった現象に、えっ、と声を上げているあいだに爆発音が響く。


 突然のことに爆発を抑えきることはできず、机の上に置いてあったものも余波で吹き飛んでいる。初めに試すなら、室内ではなく屋外で、もっと安全な魔法陣にするべきだったかなと後悔する。


 続いて、魔力で生み出した空気の流れや動かして土や水で図形を作っても同じ現象が起きることを確認する。ただ、その度に部屋の中から聞こえてくるはずのない音が廊下にまで響く。その度に従業員が飛び込んでくるので誤魔化すのに慌てふためく。


 こうして冒頭のように周りの人をかき回して雅紀たちは実験を繰り返していき、ある程度魔法陣についての理解を独学ではあるが深めた。


 最後の最後で、康太のつぶやきでまだ試していないことに気が付き、試そうとしたところで嫌な予感がぬぐい切れず雅紀が部屋の中に防音のために結界を展開する。それを見届けて静が実験を始める。


 ただ両手を胸の高さまで持ち上げて手のひらを上に向ける。傍から見ればリラクゼーションしているのか宇宙人と交信しているのかわからない体勢だが、その手のひらからは目に見えない魔力が伸びていき、徐々に魔法陣の形を成していく。見える人にしかわからないそれが完成した瞬間、それは起こった。


 魔法陣に風を起こすものを選んでいたため、光が放たれるといったことはなかったが、今回も案の定大きい破裂音とともに突風が巻き起こって体が浮き上がりかけ、机の上の小物の類が漏れなく宙を飛び交い、家具もあおりを受けてガタガタと揺れる。4人は必死に飛ばされないようにこらえ、顔に叩きつけるように吹く風と大量の紙に顔を顰める。


 ようやく収まったその部屋の惨状は、ここだけ台風が通り抜けていったようで、ここを見られたら言い訳のしようがない、とあらかじめ結界を張った雅紀とグッジョブと力なく親指を立てるのだった。



 吹き飛ばされて床に散らばったものを元に戻していく。この流れは地球で何度も繰り返したことがあるようで苦笑い、ときどき疲れたように無表情。部屋の隅に積もっている千切れた紙切れを積み上げてため息を吐く。折角描き上げた成果がサヨナラしてしまった。図柄はイメージで記憶できているため、もう一度作り直すのに思い出すのはそれほど苦労しないとは思うが、もう一度と思うだけで気分が重い。


 どんよりとした中でのそのそと手を動かしながら、魔法陣の性質についてまとめる。どの図柄がどの魔法に対応するかは基礎的な部分しか解析できなかったが、魔法陣の発動条件なんかはわかったことが多い。


「あ~、最後の最後でスマン」


「気にするなって。こうなると予想できなかった俺たち全員の責任だ。でもさ、かなり面白いことが分かったな」


 人一倍落ち込んでいる康太を慰める雅紀。吹き飛んでいった机が戻され、その上の紙屑の山は成長を続ける。


「そうそう、康太のせいじゃないんだから。これが終わったらご飯たべようか。ねぇ、朱莉」


「そうですよ。いつもその機転に助けられているのですから」


 離れている台所で散らばっている小物を片しながら、静も朱莉も声を掛ける。研究が止まってようやくお腹が空いていたことに気が付く。


「うぅ、まじでスマン」


 声を掛けられても立ち直れない、むしろさらに縮こまっていく姿を見て雅紀は話の内容を変えていく。


「魔法陣は魔力が陣の通りに流れればそれで発動する、と」


「発動条件はそれでいいと思うんだけど、発動した魔法の大きさが桁違いだったね」


「そこはやはり普通の魔法と同様、使った魔力の量によるものでしょう」


「朱莉は何か見えたか?」


「えぇ、魔法陣を(かたど)っていた魔力が一瞬で消えました」


 雅紀たちも魔力を感じることはできるが、見るとなると難易度が上がって落ち着いた状況でないとできない。魔法陣が完成した瞬間の出来事にそこまでの余裕はなく、ただ朱莉だけが魔法陣を模していた魔力がはっきりと見えていた。


「感じた感じだと消えたのか散らかったのかわからなかったな」


「周囲に溶け込んだわけではなさそうなので、魔法に使われたのでしょう」


「なるほど、威力は魔力量依存と。火で魔法陣作った時に火が消えたのもそれか」


「恐らく。水や土で作った時に崩れたのも、です」


「魔道具が何回も使えるのは、魔法陣を書いているインクが魔力を保持するだけで消えるわけでないこと、そして魔石がそのインクに常に魔力を供給し続けることによるのかな。でも魔石の魔力がすぐに切れないのは何で?」


「魔法陣の部分に流れている分だけを消費するからでは?そして使っていないときに魔石から流れてきた魔力が再び陣を満たす、のでしょうか?」


「いや、それだと連続的に使うのができないだろう。それに魔力の移動速度はおそらく光速並みだからすぐに魔石がダメになる」


 魔道具の魔力事情に悩んでいると、ここでようやく立ち直り始めた康太が加わる。


「魔法陣つっても魔術、じゃなくて魔法使うのは精霊だろ?ならその精霊の違いなんじゃないか」


 魔術ばかりを使って精霊を介しての魔法に触れてこなかったばかりに気付けなかった盲点。


「精霊による魔法。なら威力は精霊の数か?」


「魔法陣の近くにいる精霊の数じゃない?逆に言えば大きい魔法陣の方が威力が大きい?」


「試してみないと何とも言えないが、今日試した3つの大きさならその順だった」


「魔法なんて使ったことありませんでしたね」


「「「流石は康太。俺たちの良心」」」


「良心って何!?」


 他の3人からの謎の称賛に困惑する康太だが、詰まっていたところが解決されればそちらに集中して話は毛頭耳に入っていない。


「…だな。おっしゃ、完成」


「はあ、これですっきりしましたね」


「瞬間的な威力は魔法陣の大きさ、持続時間は込められた魔力、総合的な威力はその積。これだけわかれば戦闘でも使えるかも」


「魔術より魔力を食うのはマイナスだが、思考を割かずに魔法を使えるのは楽だな」


「魔法陣内の魔力の消費速度にも違いが出てたのですね…。見落としていたなんて不覚……」


 今日の実験の結果をまとめ上げることができてすっきりした顔をしている雅紀、すでにその応用について考え始める静、見ることに関しては自信があったのにと肩を落とす朱莉。三者三葉の反応を見て、現状についてボソッと呟く康太。


「そりゃよかったんだが、片付けは?」


 康太の一言で光が見えて掃除をしていたはずの手は止まってまったく進んでおらず、外からは昼どころかその次の鐘が聞こえてくる。顔を見合わせて、


「楽しくて、つい。後悔はしてない」


と、良い笑顔を返してくる幼馴染たちに呆れるしかない。将来、趣味に没頭して餓死すらしてしまうんじゃないかと非常に心配になる。


 その後は気を取られることも無く掃除はサクサクと進み、後はバラバラになった紙切れだけとなる。どうしたものかと考えるも、もう一度書き直すしかないよね、と静が疲れた顔をして答えを出して長い溜息を吐くと、雅紀が待ってましたとばかりに口を出す。


「こんなところで役に立つとは思えなかったが、俺の魔術で何とかなる」


「どうするの?」


「この紙切れを繋ぐんじゃなく、事故の前の時間まで戻す。よいしょ、ほい完成」


「おお、どやったの?」


「ただこの紙を元あった場所に戻しただけだが?」


「やっぱり魔術は便利だねぇ。この紙以外にも使えるの」


「そりゃもちろん」


「そうか。うん、思い出すの遅いよ!?どうして片付けが終わってからなの!」


「へ?あ……」


 できることを忘れて別の道で頑張る姿を見て、こいつ本当にやらかさないよな、と康太は親友の将来を心配するのだった。


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