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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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レッツ豪遊


 ある部屋の中。まだ若い男女二人の会話が聞こえる。


「「ねえ、今日は男女で別れて買い物に行ってみない?」


 「うん、それはダメ」


 「え。どうして?たまにはいいじゃない」


 「言わないとわからない?」


 「う~ん、わからないかな。だから、ほら、どうして?」


 「その顔……、絶対わかって言ってるだろ…。んん、可愛い彼女が他の男に話しかけられるのが耐えられないんだっ!!…これでいい?」


 「でも女子だけで買おうとしてたのも……。もしかして選んでくれるの?そっか、やっとその気になってくれたんだね。うん、嬉しい。今日はお赤h…」」


パシッ


「俺をあの地獄に送るつもりか」


 女の声に艶が出てきたところで、何かで叩かれる音が響いてその女の声も途切れる。


 せっかくいいところだったのに、と叩かれた頭を痛くもないだろうに擦って顔を上げれば、雅紀が丸めた紙を持って腕組みをしてそっぽを向いている。気にしていない風を装っているが、耳が赤くなっており恥ずかしがっているのは丸わかりである。準備ができていざ静のもとに向かえば、わざわざ声真似までして恥ずかしい一人劇をしていたのである。その内容が内容である。


 静もそれを見つけてにこにこ笑顔になり、雅紀も見られるのが気まずかったようで会話に移る。


「静。俺にあの爺とアンナさんの死が渦巻く空間に行けと?」


「私の愛した人はどんな試練も乗り越えてくれると信じています」


 聖女のような慈愛に満ちた面持ちの上、手を胸の前で握って神に祈るような仕草に顔を覆う雅紀。今日の静はどうやら恋愛脳に傾いているらしい。どんな夢を見たんだ、と気になりつつもこの状態の静はなかなかいつもの理知的な状態に戻らないので、どうしたものかと途方に暮れている。


 ちなみに雅紀の言う地獄とは、静を孫のように可愛がる師匠と静の母による特訓という制裁である。あれは中学の頃、静が雅紀の父の真一のお土産のチョコレートを食べ、不幸なことにそのチョコレートがお酒入りの俗に言うウィスキーボンボンで、少量の酒であったが静が酔っ払って雅紀を襲いかけたのである。その様子をばっちりと目撃した二人によってなされた制裁である。


 制裁なら制裁らしくしてくれればいいのだが、朝から道場に呼び出されたかと思えば食事は出る上に休憩までさせてもらえる。ただただ長時間加減なしの二人に晒されるだけだったが、時折見えたそんな優しさが逆に恐怖を高めていた時間だった。


 この事件の元凶の真一はお土産をくれたかと思えば、翌日にはまたどこかへ飛んで行った。その時のやけに機嫌のいい笑い声はこの手のハプニングを期待しての確信犯だったと、海外で楽しそうに笑いながら、どうしてか「アディオス」とのたまっている顔が浮かぶ男を心の底から呪った。



 幸いなことに静の一人劇場は周りの人には聞こえていなかったようで、向けられる視線に悩まされるのを避けられはしたが、静の精神状態は変わらずである。


 同じく待っていて静の垂れ流しの妄想を聞いていた朱莉も康太も諦めており、時間で回復するのを待つだけである。


「それで今日はどうやって分かれる?」


 女性陣の買い物に付き合わされたくはないが、もしも女子だけで買い物させて静が触れていたようなことになればそれはそれで耐えられない。悩みに悩み、雅紀の方に視線を送るが同じように天秤にかけている。


「それでは、今日は久しぶりに女子会をやってみましょう」


 朱莉の顔。それを見れば、いや、見なくとも流れを読めてさえいれば、ここで朱莉が求めている答えがなんであるのか、どう答えるのが正解なのかは簡単にわかる。しかし、それをここで口にするのは何か負けた気がする。なればこそ…


「荷物持ちが要るだろ?付いて行ってやるよ」


 男のツンデレ。要らない。


 そうして康太の美しい犠牲によって女性陣を何とか現実に戻すことができ、朝から騒ぎを起こしはしたが無事に買い物が始まる。




 この街は、何処かの通りを30分も歩けば欲しいものが全部買える、と言われているほど店の並びに秩序がない。つまり、どこかの通りをのんびり散策していれば、この街で手に入るものはだいたい目にすることができるのである。


 雅紀と静、康太と朱莉はそれぞれ宿を出て逆に進むことにした。雅紀と静は初めは宿の前を通っている大通りを見ていたのだが、どうにも立派な店構えをしているが、看板も商会名しか記載されておらず何を売っているのかが分からない店をスルーし続けた結果、その姿は街の中央付近の高級店街にあった。ここまで来ると、高価なガラスをふんだんに使ったショーウィンドウが見受けられた。


 このレベルの店が連なるとその客層も貴族やそれに準ずる大商人となり、その遣いも馬車を使うのが当然のようで雅紀たちの他に歩いている者の姿は1人か2人である。もちろんそれに気づいたがウィンドウショッピングを楽しむことにしたようで、馬車を使う気は皆無であった。


 服屋に入って気に入った服を何着か買い、やらかした原因のドレスをいざという時のために見繕っておく。午前を服屋だけで潰し、食事をとった後はいくつかの店に入ってみるも見て終わりにする。


 そうして貴族向けの服や家具の店と商会の建物を道を挟んであちこちしていると、今までの店とは雰囲気が違う店が見える。高級品を取り扱っているのは変わらないが、その中でも抜きんでて高価そうな空気を醸し出している。看板には”リデル魔道具”と書かれている。


 魔道具。その言葉に惹かれた2人は今日初めて店の扉を開ける。


 中に入って何よりも驚いたのは、その明るさである。この世界の屋内は基本的に昼間は日光、夜間は蝋燭で明かりをとり、ちょっと繁盛している宿の酒場やギルドなどは、魔石を利用した明かり用の魔道具を使っている。その魔道具も電球型でただ光るだけであった。


 それに対してこの店の明かりは、ただ照らすためだけではなく飾りとしての役割を兼ねていた。シャンデリアのように光を反射させて効果的に映えさせるための構造が採られている。ガラスが高価なうえに、そのガラスを小さな細工として大量に使っているのだから、その価値は計り知れない。地球でもシャンデリアは高級品なのだから、魔道具云々を抜きにしても、技術が劣っているこちらの世界ではなおさらだ。


 上に目をとられたが、店の中を見てみれば壁全面に棚が備え付けられて大量の魔道具が陳列されている。使っている魔石の属性ごとに並べられているようで、壁に沿ってカラーチャートのようなグラデーションが出来上がっている。


「いらっしゃいませ。本日はどのような魔道具をお求めで」


 店の内装に見入っていると、店の従業員が声をかけてくる。他の客も従業員に案内されているか、あらかじめ決まっていたのかカウンターで直接頼んでいる客もいた。ただ冒険者らしい客については、言い方は悪いが実力者かどうかで対応が変わっている、ように見えた。


 となれば、従業員から声をかけられた雅紀と静はどのように見えているのか。


 顔からわかる健康状態と輝いている髪から、金に余裕のある裕福な家の子供であると判断。続いては服装は、糊が効いて皴一つない綺麗なシャツの上に羽織っているカーディガン、そして絹のような白さを誇るブラウスと藍色のスカート。どう見てもちょっとした商人では手が出せるものではない。ならば、その上、貴族のご子息とご令嬢であるに違いない。きっと幼い婚約者同士がその中を深めるために一緒に買い物をしているのだろう!


 という考えの下、店員は雅紀と静に声をかけてきていた。そんな内心を知らない2人はとりあえずお勧めのものを頼むが、脳内で勝手に話を飛躍させている店員にとってのお勧めはデートのときに役立つ魔道具となる。その店員がまず初めに持ってきたのが、綺麗な石を中心に持つペンダント。


「こちらは”冷却”の魔道具でございます。これからの暑い時期、お出かけの際にも快適にお過ごしになるのにお勧めです」


 意匠自体は派手なものではなく、むしろ地味目で家の中でも日常使いできる品である。店員はこの同じ作者のペンダントを()()で勧めてくる。効果自体はさほど珍しいものでもなく魔術でどうにでもなることではあるが、いざという時のカモフラージュ用にと購入する。ペアの装飾品を持っておくのも悪くないという思いも大きな部分を占めてはいるが。


 その後、いくつかの小物を勧められたがあまり興味を惹かれるものもなく、商品棚でも大きな場所をとっている魔道具について尋ねる。聞けば大きな魔道具は貴族の邸宅に置くことが前提になっているものが多く、効果自体よりもその稀少性に重きを置いているとか。その効果自体は生活の質を向上するのにおいて一般的なものだが、大きさゆえに効果もそこそこで効率も改善されていて、魔道具としては優秀なものらしい。


 もちろん若い二人に家具サイズのものを勧めるつもりもないようで、聞かれたことに答える形で買い物を続けていき、ふと思いだしたように雅紀が問いかける。


「魔石ではなくて本人の魔力で動く魔道具、ってないんですか?魔剣みたいな」


「当店では取り扱っておりません。魔道具を動かせるだけの魔力を持っている人は少ないですので」


「では、一般人が日常生活で使うような魔道具はありますか?」


「そちらでしたらこちらとあちら、それとあちらにございます。…ただ、こちらの品は日常使いのものとは言えません」


 詳しく聞けば、この店の裏にも魔道具店があり、そっちでは魔道具作りの若手の作品が販売されていて値段もお手頃価格なのだとか。それに対してこちらの店には熟練の作り手の作品が見栄えも考えて細工され、値段が上がるも効率はいいらしい。魔石の交換で使い続けられる品なので買う時は、安くて壊れやすいのか、高くて壊れにくいのか、日本にいた頃に経験のある選択を迫られているらしい。


 何やらばつの悪い顔をしている店員だが、雅紀と静は効率だとか見た目だとか関係なく魔道具の中身に興味があるので、気にせずに水を出す、火を出す、風を起こす、の3種類の魔道具を熟練のも若手のもまとめて購入する。加えて、コンロや小型の暖炉と火を出す魔道具と似たような効果の魔道具を買い、同じように水と風の魔道具でも行う。


 魔道具をまとめて買ってもらえることは有難いのだが、その分金額が恐ろしいことになる。若手の作品は銀貨数枚で手に入るが、熟練の品となれば数十枚。細かい装飾がされているものは金貨が飛び、材料によっては数十枚は飛んでいく。家具サイズとなると金貨が少なくとも二桁。


 合わせて金貨で三桁にも上る買い物に、どういう反応が返ってくるのか心配になりながら恐る恐る金額を伝える。子供とは言え貴族が自分でお金を持ち歩くとは思えないので、執事か誰かがいるのではと周りを見渡してもそれらしい人物は誰もいない。顔を青ざめさせて2人の子供を見れば、袋に手を突っ込んでその中を覗いて「あっ」と声を上げる。


 やはり持ち合わせが足りなかったのか、上客になるかと思ったのに。そう肩を落として顔を上げれば、腰ぎんちゃくを中が見えるように広げ、目がくらむような金色を見せて、こう言う。


「申し訳ないが、もう一組同じ効果のペンダントを見繕ってはくれないか?」


 この婚約者カップルがこの店を選んでくれたことを心の底から感謝するのだった。


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