秘密の情報
交わされる言葉の裏に込められた意味を理解したのか、座っていなければ耐えられるわけもなかった魔力と殺気がすぐに抑えられる。それでも、その言葉に思うところがあるようでその手のひらの上にそれぞれの魔力が渦巻いている。
「とりあえず、どこまで知っているのか、教えてもらっても?」
「ふむ、どうして気付いたのか聞いてもよいかのう?」
「いつカマかけてると気付いたのか、ですか?見てれば分かりますって」
「嘘をついてる兆候は見て取れましたから。けれど、貴族と言うのはさすがですね、嘘つくのに慣れているんでしょうか。表情ではわかりづらかったですよ、それでもは心拍の方は正直でしたけれど」
「なるほどのう、こりゃ手ごわいわい」
カッカッカ、と暗くなった空気を笑い飛ばす辺境伯。
「では、現在分かっていることを話しておこう。お主らが勇者ではない、しかし、その勇者と何らかの関わりがあるということはわかっておる」
その言葉に、やっぱりか、と手を振って魔力を散らす雅紀たち。勇者との関わりがどこから明らかになったと頭を悩ませるも、思い当たることがどうしてもなく視線で問う。
「お主らも無意識だったようじゃな。ラルフたちの勇者と言う言葉に反応を示したらしいのう」
「それだけか?」
「さっきも言ったじゃろうが、魔術を使う者は基本勇者の関係者と言うこともある。それに、ときどきここらでは聞いたことのない言葉。そして極めつけはその服じゃ。かつて呼ばれた勇者が現れたときに着ていた服にそっくりじゃ」
何も考えずに制服を選択したが、まさかその制服が身バレの大きな原因になった、と知り、雅紀たちは机に肘をついて顔を覆ってそれぞれに嘆いている。
「それで、私たちに何を求めるんですか?」
「何も。突然我が領地に現れ、暴走に終息をもたらす程の実力者の正体を知りたいと思ったのは確かじゃ。しかし、我が領地に災いをもたらすわけではないのじゃったら、何かを求めることはない。何せお主らは冒険者じゃしのう?」
「領主から危険人物として目を付けられたわけではなくて、一安心、と言えばいいんですかね?」
「危険人物ではなくても目は付けとるよ。ラルフたちが敵わないと感じるほどの冒険者じゃ、力を借りたいと思うとこもこの先にはあるかもしれない、というよりも既に街の拡張では力を借りとったな。報酬の方はギルド経由で出しといたからのう」
変に隠し事をして関係を険悪なものしたくはないようで、聞かれたことに加えて他にも気になっていることへ答えを返していく。領主を引退した身とはいえ、この領を思っていることに変わりはなく、いざという時のコネを繋いでおきたいという、この会食の目的の1つも明らかにする。
雅紀たちも力に変に目を付けられたわけでもなく、今後の仕事のクライアントの当てが1つ増えたということにして、今回の失態との折り合いをつけることにしたらしい。それでも、こちらの世界での勇者と言う立場を考えると、勇者と関わりを持つものというのはそれなりに厄介になりそうだというのは容易に予想はつく。それ故に聞きたいことは増えていく。
「私たちの認識では、自分たちは転移者という認識ですが、周りからはどう思われているのか、またそれに伴って貴族たちに政治に巻き込まれたりしないか。これを聞いておきたいです」
「儂らはお主たちがその服や言葉から勇者の関係者だと見抜いたが、それがなければ強い冒険者としか思えないのう。それに転移者と分かっても、その持つ力はバラバラじゃから同じく強い冒険者としてしか見られないじゃろう。ただ政治となると話は変わる。強い冒険者と言う認識しかなければ、貴族もコネを繋いでそれぞれの領や家の切り札としてしか見ることはない。しかしじゃ、もしも勇者の関係者だと広まればその肩書が持つ意味合いは大きく異なる」
気配が領のことを考える前領主から国の政治に参加する一貴族へと変わる。長い説明で乾いた喉を茶で湿らしてから、再び口を開き、先ずは、と前提の共有から始める。
「勇者はこの世界に訪れる厄災を打ち払う者、それ故、勇者が現れた際には彼らに最大限の補助をするというのがこの世界の常識じゃ。その補助には物資や人材も含まれている。しかし、強力な力を持った勇者と言っても個人では、この大量の物資を再拝するのは無理じゃ。じゃから、大抵は初めに勇者を保護した国が後見人の立場を得て、代わりに他国との取り決めをこなすことになる。そうなればその国は世界情勢の中で優位に立つことができるようになるのはわかっておるのでな、どの国も勇者を見つければ全力で保護に回る」
ここまでは勇者の存在理由を考えれば理解できる。
「これは勇者だけでなくSランクの冒険者も似たことになっておる。そして、勇者の関係者を有する国は、彼らと勇者の関係次第では勇者を有する国と密接な関係が望め、彼らがSランクのような戦力になるとすればほぼ勇者と同じ扱いとなるじゃろう。お主らはここに分類されるじゃろう」
だからと言って、勇者でもないのにその関係者と言うだけでここまで政治にどっぷりと引きずり込もうとするのは勘弁して欲しい。まさか、ここまで過激なことになるとは思いもしない巻き込まれた転移者は表情がとても豊かである
「安心せい、儂も国王にはまだ報告しとらんし、するつもりもない。お主らは冒険者じゃ、縛り付けるものではないというのはよくわかっている。じゃが、それでも儂はこの国を守りたいとも思っている。じゃからのう、もしも、もしもじゃ、お主らがこの国を気に入ってくれたのなら、守るのに力を貸してもいいと思えたのなら、その力を借りたい。勇者関係者としてではなくとも、Sランク冒険者としてでも」
その顔は国を動かす貴族としてであり、領主としてであり、この国に暮らす一人としてであった。そこまで真摯に頼まれてしまえば、袖にすることもできない。勇者の関係者として上に報告しないでいてくれたことは、のんびりと旅をするつもりの雅紀たちにとっては助かる。
「これからあちこち旅すると思うので確約はできませんが、私たちが守りたいと思ったものに関しては手を貸すことに否はありません」
「そうか、それは有難いのう。さて、ここからはラルフたちからの情報を改めて確認といこう」
「了解しました。雅紀たちの知りたいだろう勇者の実態ってやつだ」
ここでようやくラルフたちが対価として教えてくれる情報の内容が分かる。確かに勇者として召喚された人の中には長谷川飛鳥を始めとして親しい友人も含まれる。そして、飛鳥と連絡が取れるので内情が分かることにはわかるが、あくまで勇者にとってのものであり、国が対外的に示していることについてはそれとは別のものである。
雅紀たちがこれを価値あるものと判断しなければ、諦めて美味しいお店やあれこれを教えるつもりだが、恐らく食いつくだろうという確信はあったし、顔を見ればその選択に間違いはなかったことはわかる。たまたま護衛のついでに聖都に赴いていただけだが、思わぬ収穫になったと内心はほくそ笑んでいる。
「聖都では勇者の話は持ちきりでした。教会の人間以外にも街の一般人の間でも話されているほど、勇者が召喚されたということは広まっていました。勇者を始めとして、それを支える頼もしい仲間も含めて20人強召喚されたということまでが、広く知られたことです。ところが、これは他国には重要な連絡として広まっていない、ですよね?」
「うむ、我らが国王はそのような話は届いていないと仰っていた。このような重要な話を隠すお方でもないしのう、恐らくじゃが聖王国が伝えていないのだろう」
「その理由はやはり……?」
「勇者の独占、これが目的じゃろう。正式に伝えていないから追及されてもはぐらかせる。そして、勇者がある程度成長してから改めて公表するつもりじゃろう。完全に情報を封じないのは、ある程度他の国に物資を準備させておくためじゃろうな。全く汚いやり口じゃ」
「それが、他国の考えですが、聖都では踏み込んだ情報が流れていました。今回召喚された勇者は魔王の討伐に赴かれる、薄汚い獣どもの暮らす地を切り開く、光の女神の教えを広める、といろいろなことが言われていました。魔王が現れたという情報は聞いていないのですが、どうやら今回の勇者は今までの勇者たちよりも強いという噂が流れていました。なんでも召喚されてすぐに聖剣の力を引き出したとか」
雅紀たちは、魔王だの聖剣だのとファンタジーワードが初めて出てきて、やはりこの世界では普通のことなのかと実感している。勇者のやろうとしていることを聞くと、自分たちが光の女神とやら以外の神様たちから聞いた話とは似ても似つかず、帰る条件が違うのではと思ってしまう。
勇者ならば魔王を倒すことだけが役目のように思えるが、噂を聞く限りではその威光やら力やらで聖王国の利益を求めているようにも思える。以前、飛鳥との電話では戦闘への参加は強要されていないと聞いていたが、それも怪しく思えてくる。
そう考えている間もラルフたちが現地で聞いてきた話は続く。
「……団や宮廷魔法士たちが訓練を課しているようです。勇者以外にも力を持つのが複数人いるようで、どうやらその勇者たちは皆が同じ場所で訓練を受けていたようです。その場所については口をそろえて同じ答えを返しているようです。剣も槍も弓もとはすごいですね」
どうしてか馴染みのある単語が出てくる。
「名前にもついては少しは出てました。勇者の名前はコウヘイといい、聖剣をもう使いこなし始めているとか。それを支えるようにして賢者のアキラ、剣士のマイときて、リンリン?が聖なる武器を使えるようになったとか。あとは、勇者は動けないが、聖女ならば聖王国内だけでなく他国にも早いうちに顔を見せられるだろうと、聖女アスカ、これがここ一番で関わりがありそうです」
馴染みのある名前が出てくるも腑に落ちていた肩書であったが、最後の最後で出てきた名前とその呼称には驚かずにはいられず、お茶を口に含んでいた雅紀は噴き出して咳き込んでしまうのであった。




