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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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思いがけない質問


 Aランクからの指導は、初めは戦いながらやるつもりだったのが、仕舞いにはほぼ話すだけとなり、静と朱莉は合流して世間話と言うか他の街の話題で盛り上がり、康太はドットと力比べに勤しみ、雅紀はラルフといつものような乱取りになっていた。そして今、雅紀とラルフの打ち合いが終わりを迎えた。


 何度も振り下ろしては振り上げての攻撃をするも、ゆらりゆらりと柳のように避けられてしまって当たる気配がないので、ここらで得意とする強烈な横薙ぎの一撃を入れるため、肩に担いで勢いよく袈裟斬りを繰り出すと、雅紀の剣で軌道を上方に変えられて上体を反らすことで避けられるも、雅紀の剣は後ろに弾かれ気味で自分の方はまだ繋げられる範疇だと判断して、必殺の横降りを繰り出す。


 弾かれていない方で受ければ、身体の正面で受けることになってしまって飛ばされるの予想できたため、雅紀は弾かれた右の剣で対処する。つまり気味の右腕の肘と手首と回して剣の先端を迫りくる大剣の腹に当て、そのまま上に力を加えつつも身を捩じり、高い位置での横降りだったので頭の上を通す。そのまま肘が立ち、倒れていって剣の腹同士が重なりかけた位置で腕を跳ね上げ、剣を弾き飛ばす。


 それを見て、まじか、と呟いているラルフを衝撃が少なくなるように気を付けながら、思いっきり殴り飛ばし、きわどいところだったと思いながら、雅紀は息を吐いて額の汗をぬぐうのだった。




 その後、その吹き飛ばされた音をきっかけに康太とドットも引き上げて、全員でギルドの裏庭の水浴び場で汗と土を落としていた。どうしてわざわざ土まで再現したのかとぶつくさと言いながらも、気温が上がり始めたこの季節の水浴びを嫌がる様子はない。水を浴びながら遊びつつも汗を流してきれいさっぱりして、服を着替えるかというとき、


「突然ですまんが、礼服って持ってるか?」


と聞かれてそちらを見ると、いつもの冒険者の仕事用の服ではなくフォーマルなパーティー服に身を包んだラルフ。すっきりしたから後は普段着を着ようかと思っていて、突然のことに首を傾げる雅紀。


「これから領主様との会食をするわけだが、そのための服って持ってるか?」


 その説明で先の質問の意図を理解する雅紀と康太。伯爵と言う身分の高い貴族と会うのに普段着で、というわけにもいかない。以前会った時は、ギルドでの一室のことだったうえに突然だったため、特に問題とはされなかったが、今回のようなその貴族の屋敷での会食ではそうともいかない。


 そういう公式の場面で着るべきなのは学生としては制服なのだろうが、今持っている制服はこちらに飛ばされたときに着ていたブレザーの夏服しかなく、ズボンはともかく上は半袖ワイシャツしかない。そう思って隣のラルフたちの姿を見てみれば、スラックスに長袖のワイシャツという思いのほかラフだった。


「その上に何か羽織ったりするのか?」


「そうだなぁ、何か羽織ることが多いがこの季節だと初めは着てても、そのうち脱ぐな。ここの領主様も非合理的なことを強要することはないしな」


 その答えに、この後のためにワイシャツと上のブレザーを早めに手に入れなくてはと確信する。時間を確認すれば、この後すぐというわけでもない様なので、裁縫担当の静と朱莉との合流を急ぐことにするのだった。


 静と朱莉も同じ結論に達して、作るのも厳しいと焦った顔をしていたが、幸いにも生地でも既製品でも、貴族街の服屋に行けば取り扱いはあるとのことだったので急ぎで生地と型を頼み込んで借り受けて高速で制服の模倣品を作り上げた。ただ、スカートが短いのでナイロンを運動着をもとに合成してストッキングを作り上げるという、訓練時よりも魔術を使うことになり、メルタとサーシャの眼が死んでいた。


 ちなみに、女性はドレスが基本らしく服屋に駆け込んだ際にも勧められたが、住んでいた地域のマナーがこれだったと押しきった。2人ともドレスには憧れるようだが、選ぶなら時間をかけて選びたいらしい。その時には男性陣の声も求められるのはわかりきっており、その時が来ないことを祈っていたが、後日に結局デザインを決めるだけで何時間もかかってこちらの男性陣も目から生気が感じられなくなるのだった。


 その後、ようやく受付で報酬を受け取り、スーシーだけでなく受付にいたケイティにまで飽きられてしまうという場面もあったが、ギルドにつけた馬車に乗って彼らの姿は領主の館にあった。そしてその中にはギルドマスターのガストとスーシーの姿もあった。どうやらこの度の会食はスタンピードの祝勝会という面があるらしい。


「今日は急な呼び出しに応じてくれて感謝するぞう。まずは堅苦しいこと抜きに食事を楽しんどくれ」


 辺境伯もその家の人間も静と朱莉の姿に思うところがないわけでもないようだが、その地域の正装と言われれば納得したようだった。制服のように短いスカートはこの国の正装としてはそのままでは破廉恥とされる風習があるようだが、見慣れないストッキングだが、それで肌の露出が抑えられてさえいれば気にしないらしい。


 雅紀たち、特に静は料理人として、貴族の料理を味わう機会としか考えておらず、貴族の近くで食事していることを気にした様子もなく、普段は味わえないだろうその味を全力で楽しんでいた。その食事する姿をみてラルフを始めその場に居合わせていた人たちは、雅紀たちの普段の生活の端々から見て取れることから特に驚きもしていない。


 食事をしながら世間話として、辺境伯はラルフたちに今後の活動の予定を聞いている。エリンエルを代表する冒険者故にその防衛力を当てにする場面も想定しているのかいろいろと聞き、紅の獅子のメンバー全員がこの度Aランクに昇格できたことを改めて報告している。


 雅紀たちが料理に興味があるということを聞いていたようで、料理についての感想を求めてみたり、昨日まで街で売っていたカツについて尋ねたり、各地で食べてきた珍しい料理を教えたりと会話を途切れさせることなく食事を楽しませることへの慣れは貴族であるが故なのだろうか。静も気になった料理について質問して会話を途切れさせることはなかった。


 コース形式で品数は多かった料理も、最後まで話が途切れることも無く楽しげな雰囲気のままで終わり、食後のお茶となった。こちらの世界にも地球のお茶の木に似た植物があるようで、紅茶のような匂いを漂わせる茶が出される。貴族の嗜みなのか、紅茶の種類は豊富に用意されており、お茶菓子も甘味が抑えられた品の良い品だった。


 少しして料理の余韻を楽しむのは終わりにしたのか、辺境伯の顔が若者との活躍を聞く老人の顔から領主としての顔に変わる。その顔は領に不利益をもたらす輩ならば容赦はしないと雄弁に語る。


「さてと、お主らは勇者なのか?」


 その言葉で、楽しい食事の時間は終わりを迎えた。





 エリンエルの辺境伯からの突然の質問ではあったが、雅紀たちは何一つ顔色を変えることなく、「何のことですか?」と、言っている意味が分からないかのような表情をする。


「いや、なに、予知持ちや教会の筋から話は聞いとるんじゃよ、お主らは勇者じゃ、と。そもそも勇者でもない人間が魔術を使えるわけなんてなかろうて」


「いえ、本当に何のことだか。ラルフも何か言ってくれ」


「いや真面目な話なんだが、こないだ聖都に行った、て言っただろ。その時に教会の奴らとか流れてた噂とかでな」


 その全方向から否定の言葉も出ない状況に顔を覆う。その表情は笑っているが、その奥に込められているものを読み取ることはできない。


「本気ですか?」


「うむ」


 そうか、と苦笑いしながら小さく呟く。それを機に雅紀たちの気配が一変する。


 雅紀の周りの空間が歪んで抽象画のように物の輪郭がぼやけ、物の色まで変わり、ねじ曲がったところの境に何も見通すことのできない黒い領域が生じている。


 静の周りはいくつもの紅茶の球がまわるだけでなく、フォークやナイフを含む物という物が浮かび上がり、身体の傍にいくつも波紋が生じてそこから鎖が姿を見せる。


 康太の周りのものがカタカタと揺れ、振れている面積が大ききものには揺れるだけではなくその表面にひびが入りはじめる。


 朱莉の周りに輪郭があいまいだが剣が何本も浮かび、屋敷の床に緑が足元から広がりその草は幻想的な花が咲き、きらめきがその花弁の中から零れる。


 そのまま睨み続ける。


 雅紀たちの射殺さんと言わんばかりの視線と魔力に晒される。


「それで、これで理解したか?」


 それを受けて、辺境伯が重々しく頷く。


「うむ、分かったゆえ、その苦しいまでの魔力を抑えてくれると助かるのう」


 領主も重苦しい空気の中でも変わることなく、答えるのだった。


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