先達の教え2
雅紀の作った魔法の中では、それぞれの役割に応じてのアドバイスであった。しかし、能力的には何の文句の付け所もなかったため、クエストを受けるうえでの注意や他の冒険者と共同のときの注意が主になり、それも終わってしまえばあとは暇つぶしに打ち合い始めることとなる。
その中でもまともな話がされていたのは、朱莉とオズの斥候として話しているペアだった。
「冒険者は斥候の情報をもとにして動くことが基本だからね、何か気が付いたことがあったんならそれは伝えておいた方がいいよ。心配なら、気のせいかもしれません、とか、もしかしたら、とか付けといて参考程度に言えばそれでオッケ~」
「護衛するときはどれくらい先のことまで教えれば?」
「それなら視界の範囲内で十分かな。ただ、足の速い奴とかだったら早めに、と言いたいんだけど気配察知とか魔力感知の範囲どれくらい」
「ちょっと気合を入れれば、3キロ先位なら」
「大丈夫、というか十分すぎるね。まあ、見えないことを教えても信じてもらえないことって結構あるから、そこはもう諦めて自分たちだけで対応する感じかな。もちろん、突出しちゃダメよ?周りと意見擦り合わせてから行動は決めないと」
そんなことをするとは思っていないのか、軽く茶化すような言い方に真面目に頷く朱莉。その後も斥候の役割、というよりも冒険者としてやっていく上での注意を受けるも、どれも集団行動をするならば当然のことのように思えることばかりだった。そのあたりを尋ねれば、
「冒険者って荒くれ者っていうか、周りに馴染めなくてなる人も結構いてさ、それがね……」
と、どこか遠くを見るような顔になる。誰かにそういうことわされたことがあるのか、それとも昔は自分がそうだったのか。それからは弓の話へと変わって、弓持ちに期待される仕事、特殊な矢とそのおすすめについて、弓の種類の雑談とどんどん話が逸れていくのだった。
静はメルタから魔法戦闘のアドバイスを受けようと思っていたのだが、その教えようとしていた行動詠唱や魔力障壁と言ったことはすでに独自の方法で解決されていたために、これはどうしたものかと向かい合って顔を見合わせる。そこに歩いてきたのがサーシャ。人数的に1人余ってしまい手持無沙汰だったところで、何やら困ったことになっているところを見つけたらしい。
「なら戦闘訓練」
その一言でやることが決まる。アドバイスは動きを見てからじゃないとできない、という至ってまともな言葉もあって、そういうことになる。静の前にサーシャ、その奥にメルタ。サーシャとメルタが2人がかりで静に相対する。
「どうして、新人相手に2人でかからなければならないのかしら?」
「魔術師相手にボコられたこと忘れた?メルタ、馬鹿?」
「確かにそうでしたけれど、魔法の打ち合いなら別に」
「それ、訓練にならない。近接も遠距離もどっちも」
そうごちゃごちゃと言い合っている様子を見ながら、静はとりあえず新調した槍を振るって調整して待ち、2人が納得した頃には体も温まって準備も整う。
「じゃ、行く」
その言葉を合図としてサーシャが勢いよく飛び込み、脇から双剣を次々に繰り出す。静はそれを穂先と石突の両方でうまく合わせて勢いを殺して捌き、最後にずらす形で受け流して攻撃が止んだところで槍を短く持って薙ぐ。双剣でその一撃に乗るように距離を取るサーシャを追いかけようとするも、サーシャの前を通り曲がる軌道で火の玉が飛んできたので魔力を纏わせて槍で払い落とす。
石突で地面を叩くことを詠唱の代わりとしたのか、それによってメルタの周りの地面が隆起して槍のようになって突き刺そうとする。メルタはそれを防ごうとするのでそれを囮として、別に浮かべた石礫を全方位から絶え間なくぶつけるように飛ばす。
魔法に意識を向けたところでサーシャが再び戻ってくるが、魔法をほぼオートで発動し続け、双剣で逸らすように仕向けた突きを放ち、双剣で防いで両手がふさがっているところを槍を手放して空いた手で打撃を入れて吹き飛ばす。魔力の衝撃で振動を伝えて内臓にもダメージを入れる。
メルタの方はどうかと見てみれば、初めは頑張って避けていたみたいで初期位置付近には岩の落ちた後があるが、観念したのか守りに入ったところで岩の山ができていた。外が見えなくても魔法は使えるようなので、火の玉はまだ飛んでくるものの狙いが甘いので簡単に避けることができる。しばらく続けるも不毛な撃ち合いに思えてきたのかそこで切り上げる。
今もその体積を増やし続ける山の中で動けなくなっているらしく、中から唸るような声が聞こえてくる。吹き飛ばした方を見れば、サーシャが腹を抑えながらトボトボと歩いてくる。初回の手合わせはこれで終わりになり、静が岩山の表面を叩いて岩を崩して中からメルタを引きずり出す。暗く狭い場所に閉じ込められ、絶え間なくぶつかり続ける音が響いてきたことが怖かったようで、その目は潤んでいる。
「んっ、ひどい魔法を使うじゃないですか。怖かったですわ」
「お腹痛い」
「ごめんね、これでも飲んで落ち着いて。えっと、お腹触ってもいい?」
許可が出たところで擦って治し、とりあえずのアドバイスを聞く。
「魔法の発動キーがあれほど短いなら問題もありませんし、他の方法もあるのでしょう?」
「間合いが狭い相手なら大丈夫。でも、本来の戦い方じゃない」
「うん、ここしばらくは中距離以降の相手には魔法の他に武器使ってるからね。でも使うとすぐ終わると思うよ?」
「じゃあ、次はそれを使ってやる」
メルタのぐずる声がするもサーシャが準備を始めるので仕方なく構えるも、静が取り出した新しい武器の鎖に泣くことになった。撃った魔法も巻かれた鎖の盾で消され、魔法を避ける必要が無くなったので攻撃の密度が魔法と槍の双方で上がり、魔法が絶え間なく降り注ぐ合間から飛び出した鎖に双剣は絡めとられ、地面の中から飛び出してきた鎖で腕と足を取られて、早々に終わりを迎えることになった。
立体でフィールドを把握できる処理能力をフルに生かした戦いぶりは静らしくも、まだまだ余力を感じさせた。その証拠に魔術を一切使わずに、魔法に収まる範囲しか使っていない。それに気づいてしまって静の料理で釣り上げたテンションは跡形もなくなり、その後は他の冒険者が好んで使う魔法についての話を聞くのだった。
康太はドットと黙って向かい合う。
ゴゴゴ…………
黙って大柄な男2人が向かい合う、顔が笑っていないだけでにらみ合っているように見え、その様子にはそんな効果音が似合う。ただ、口下手なドットの話を待っているだけなのだが、それを見てわかるものはいないだろう。
「魔物との戦闘の攻めと守りのどっちが良い?」
「あいつらは攻めに回るだろうから、守りをお願いする」
「では、殴るから守れ。その度にアドバイスする」
話すことはもうないと盾と剣を置いて、素手での戦いの構えを取る。康太もそれに合わせて、籠手とジャケットだけの姿で向かい合う。そのまま無言で拳を突き出して、乱取りを始める。ドットは魔物の戦闘を意識してか、身体強化よりも重量を増やすことにしている。その一撃は大型魔獣の一撃でも体勢を崩さずに止められるほどの重量によるもので、康太も味わったことのない一撃となる。
初めは逸らそうとするも重さに押し切られ、何度も試していくうちに正面から受け止めた方が成功率が高いことに辿り着く。それでも、攻撃の軌道が変われば受け止める体勢も変える必要があり、いろいろな方向からを経験していく。今までの鍛錬は同じ人が相手であることを想定してのものであり、ゼロから始める訓練となった。
その後長い時間をかけて慣らしていき、足腰の使い方にもテコ入れをして素手での攻撃には合格が出たところで、おもむろに盾を拾い上げ、
「次、面」
と、聞き逃しそうなほど短い宣言の後、すぐさま盾が振り下ろされて慌てて避けてしまう康太と、何をしているんだという目をするドットが再び顔を見合わせる。
その顔に来るものがあったのか、康太は吹っ切れたように突撃していく。慣れれば点だろうと面だろうと対応できるようになり、容赦なく反撃も織り交ぜるようにし、最後には攻撃を攻撃で相殺する方法に辿り着いてからはドットが何度も飛ばされることになるも、その顔は何としてでも飛ばされないようにしてみせると書いてあり、当初の目的から大きく外れたところに落ち着くのだった。
雅紀はラルフから、朱莉も聞いている冒険者をやる上での注意点を教えてもらってから、とにかく剣で競い合っている。ラルフは魔法をバンバン使えるほどの魔力を持っているわけではないので、魔法を組み込んでの訓練は出来なかった。とにかく身体強化を使った状態での戦闘に慣れさせるために、経験を積ませることくらいしかできない。
「身体強化の慣らしに、まずは打ち合うか」
ギルドで貸し出している無骨な剣を持ち出し、身体強化だけで打ち合いを始める。雅紀も身体強化の効果が上がってから少しはその力に振り回され気味だったようで、剣で受けようとしたときや振り下ろすタイミングが少しづれ、ぶつかった剣からは鈍い音が広がっては痺れた手を振って痛みを消していた。
それでも30分も振るっていれば、腕だけでなく足の方の感覚も調整が終わったのか、響かせる音は短い衝撃音か甲高く響くいい音だけとなる。ラルフの力強い振りにも同じ振り方で正面から受け止め、突きは払いのけ、横薙ぎは剣の腹に手を添えて抑え込んでいる。雅紀からの攻撃も似た型の攻撃で、こちらもしっかりとラルフは受け止め切っている。
「マサキ、あん時みてえに、二刀でやんねえのか?」
「へえ、それなら体術も混ぜるが…、負けても泣くなよ?」
しばらく打ち続けてからラルフが調子を戻した雅紀に挑発気味に振り、それに煽り返しながら地面に手をかざして剣の形の土塊を生み出し、それを握る。
そこからの雅紀の戦いぶりはハイオークキングを相手にしていたときのそれになる。どれだけ速く鋭く打ち込もうとも、そのことごとくが雅紀の剣に触れたかと思えば、いつの間にか自分の腕は振り切った体勢になっている。しばらく打ち込んだかと思えば、雅紀の身体が始めはゆっくりだが徐々に早く動き始め、その立ち位置が変わり続けるだけでなく、逸らされた剣に力を加えられたようで振り切ったときの体勢が誘導されてしまいには無茶な体勢となって動きが止まってしまう。
そこで雅紀の手が身体に触れ、ゆっくりだがしっかりと力を加えられて飛ばされる。訓練だから遠くに飛ばされるだけで済んでいるが、実戦ならば掌打を加えたり手に持っている剣できりつけられたりするのだろう。ラルフは攻撃が届かないのに、雅紀からの攻撃はラルフが招いているかのようにその身体を捉えている。
剣技だけでここまで翻弄されてしまい、前にもSランクの一人に同じようなことを言われた記憶が呼び起こされ、最近は魔剣に頼り過ぎていたかと反省し、この際だからここでなまった腕を磨かせてもらおうかと思うのだった。




