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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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スーシーの苦労


 自分の功績の大きさを案の定全く理解していなかったこと、そしてその前に夜通し作業した件の報酬のことも忘れていたことも分かり、疲れてもないのに頭痛に悩まされてしまう。


「そんな小さなことではないでしょうに。教会では手伝いどころか主導で治療を行っていたと聞いてますよ」


「あ、免許持ってないので主導してるとばれたら捕まるので隠しておいてください」


 変なところで地球の法律を持ち出してくる静。


「ここではそんな法はありません。朱莉さんは冒険者を抜けて街へ向かった魔物を一人でことごとく打ち抜いていたらしいじゃないですか」


「そんなこともあったかもしれませんね。まあ、どの魔物を倒したかなんて覚えていませんし」


「康太さんも、いろんな冒険者が助けてもらって助かったと言っていましたし」


「獲物の横取りしないようにだれもまだ手を付けていないのを片っ端から殴り飛ばしてたんだが、そんなことになってたのか」


 朱莉と康太はただただ作業をしていたつもりしか持っておらず、それが周りにとってどういう扱いをされているかが全く頭の中には無かった。そして、極めつけと言わんばかりに雅紀を睨みつける。


「魔法の雨とその後のオークの攻撃から守ること2回。それに、紅の獅子と騎士団長から何があったのか詳しく聞いています。……あの人たちがキングの討伐報酬を固辞してあなたにということなので、それもあります」


「まあ、くれるっていうなら貰うけどあまり目立ちたくないのよ」


「今更何を馬鹿なことをと思いますけど、今回の件を公表して拍車をかけるつもりはありません」


 後半を他の冒険者には聞こえないように小声で伝えてくる。


「ということなので早急に受け取りに来てください。ここまでが報酬の話で、伝言はラルフさんたちから聞いた日から三日後、まあ明日の午後ですけど時間が取れたらギルドまで来てほしいとのことです。領主様からもその日の夜、いろいろと話したいことがあるようです」


「まあ、この店も1日単位で商業ギルドに登録してるから全く問題はないです」


「はあ、どうして店なんかやることにしたんですか……。そのせいでギルドに来れなかったのでしょう?」


「えっとですね、1日くらい空けるかと思ってやってみたら楽しくて、ギルドのことはすっかり忘れてました」


「もう、どうして忘れるんですか……。それにしてもどうしてレストランを?」


 どの冒険者も報酬に期待して、次の日の朝から押しかけてきたというのにそれが頭の中から消えていたことに呆れるほかない。どうして冒険者になったのかと問い詰めたい。


「一段落して落ち着けたところで、そろそろ腕が鈍りそうだったし、このあたりの食材も気になっていたので試してみようかなと。それで自分たちじゃ4人だけで消費しきれるとは思っていなかったので、まあ、売りに出してみるかな、と軽い気持ちで。その証拠に、ほら、値段、他の店より高いでしょ?」


「この味で何を言っているのか、このレベルになれば貴族街でも通用するでしょうに。ちなみに調理のレベルは?」


「6だったかな?それにしてもこのあたりは小麦が美味しいね、パンの風味がいつもと違ったもの」


「その高レベルで、この冒険者街を荒らさないで欲しかったです。それでこのカツ、でしたか。どのような料理なのですか?」


「付いてくるサラダは省略させてもらうけど、カツはオークの肉に、パン粉っていうパンをすりおろしたのを付けて油で揚げただけだよ。パンの方はこのあたりのハードタイプと違うふわふわのにしたよ。」


「油で揚げる、ですか。オーク肉は焼くのが基本だと思っていたのですが。こういった食べ方もあるんですね」


 今までギルドの仕事や領主の厚意で食べることのあったオーク肉はすべてステーキか煮込みで、肉自体に油が十分なので、その上揚げようとは誰も考えなかった。


「それだけど、売っていた料理器具だと出せる温度的に揚げ物をするには微妙だったんだよ。炭とかは均一に保てないし、魔道具の方は出力が厳しいうえに消費が重くて使えたものじゃなかったし」


「では、どうしているのですか?現にこうして作っているじゃないですか」


「うん、魔法使ってる」


 この世界の一般人のもつ魔力は低位の魔物の魔石よりは大きいが、Dランクが討伐してくる魔物の魔石と同程度で、魔道具に使えるのもこのランクからとなる。屋台をやっている人もしくは料理人というのは魔力を持っていない一般人で、魔道具を使っての調理が基本であるがゆえに、こうして魔法を使う必要がある調理方法など真似ることはできない。魔法は冒険者でも重宝されるのにそれをこうして料理に使うと聞いて、またしても頭を抱えるスーシー。


「火魔法で調整しているのですか?」


「まあ、そんなところ。それで、伝言も終わり?」


「ああ、忘れるところでしたね。明々後日から昇級試験を行いますので、受けるつもりがあるならばそれまでに、できれば明日中にギルドで手続してください」


「Dランクつっても、今のままでも生活できるからなあ。何かお得だったりするか?」


「そうですね、依頼料も上がりますし、ランクで制限されている区画にも入れるようになります。迷宮が代表ですね」


「迷宮は許可制なのですね。それならば受けない理由はありませんね」


「そうだな、ということで明日、というより今日で店は終わらせていろいろ準備しないとな。それで、説明等は今聞いてもいいですか?」


 このままでもいいかと思っていた日本人たちだが、この世界の旅で是非とも行ってみたかった迷宮に入るためにDランクにならねばならないと知り、すんなりとランクを上げることにする。そこからは仕事モードに切り替わり、纏う気配がレストランの温かいものからキレる冒険者のそれへと変わり、知っていたスーシーはともかく、料理人だと思っていたエンスタンスはその雰囲気に飲み込まれる。


「それで、試験の概要は?」


「今回の件で手に入った大量のオーク肉を、隣の領の大都市まで売りに行く商人の護衛です。一応高ランク冒険者が試験官兼いざという時のための護衛役として付きますが、頼ればほぼ合格はないと思ってください」


「なるほど、護衛か。Dランクからはその手の依頼が増えるわけだ、となれば魔物の情報と盗賊についても調べておいた方がいいか。それで、隣町ってどこまでかっていうことと、その移動手段は自前か、商人持ちか?それと試験とは言えど護衛するんだ、報酬は出るんだろうな」


「順に答えると、エリンエル領の北のデーニッツ領の領境の街まで、移動手段は馬車の荷台に乗って欲しい、ただ1人は表で警戒に当たってほしいとのことで、もちろん報酬は出ます。相場よりは少し安くなってしまいますけど」


 その返事を聞いて、すぐに作戦会議に入る雅紀たち。その冒険者としての姿を眺めるしかできないエンスタンスの面々だが、ここで話を聞いていたことで移動について全く考慮していなかったことに気付く。目の前の冒険者が、自分たちよりも若く見えようとも、その中身は比べ物にならないと知る。


「そうですよ、エンスタンスの皆さんはどこまでかとルートを聞いてきた点はよかったのですが、移動手段について何も聞かなかった。これは当日走りで馬についていくことになりかねない。次からは是非とも気を付けてください。っと、思ったよりも長居してしまいましたし、今日はここで退散させてもらいます。ごちそうさまでした、それでいくらになりますか」


「えっと、サラダついてないしカツも形悪かったから、定食の半分でどうかな?」


「また相場を乱すようなことを……。とりあえず定食と同額は受け取ってください、それ以上は仕事で返すことにさせてもらいます。これで最後というのが残念な味でした。それでは、皆さんの健闘を祈っております」


 そう残してスーシーがギルドへ戻っていき、話の途中でも朱莉が目立たないように他の客の対応をしていたため、残るのはカウンター近くに集まっている人たちだけになっており、道には仕事を終えて上がろうとする冒険者とそれを捕まえようとする酒場と屋台の声が響いていた。


「では、僕たちもここで引き上げることにします。いろいろサービスして貰ってしまってすいません、お代はこれで。それでは、試験でまたお会いしましょう」


 他の人たちも別れの挨拶を投げかけて去っていき、店の中に今度こそ誰も客がいなくなり、机を拭いて仕舞ったり調理器具を片したりと店仕舞いを始める雅紀たちであった。




 そして翌日の朝、雅紀たちの姿はギルドにあった。しかし、その服装は市民のそれと変わりなく、情報収集がギルドを訪れた目的らしい。その服は周りの服から浮かないようにしつつも地球の頃のデザインを基調としており、密に注目を集めている。こちらの世界は基本的に洋服が基になっているようで朱莉もそれに合わせており、制服以外でこうも早く拝めることができ、男どもはガシッと握手していた。


 冒険者には見えない少女がギルドに入ってきたことに、朝一でいい仕事が取れずにぐれていた輩が目を付ける。それに声をかけようと席を立とうする者がいるも、入ってきた若者たちの顔と間柄を暴走のときに知っている冒険者に焦ったように大半が止められる。


 残りの一部がすり抜けて声をかけようとするも、あと一歩のところで雅紀に視線を向けられ、変な笑みを浮かべて手を中途半端に上げた姿のまま固まり、雅紀たちが資料室に入ってからしばらくするまで間抜けな姿のまま取り残されるのだった。


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