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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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噂のレストラン


 3日目の営業の閉店がまじかになって店内の客がようやくまばらになり、仕事が一段落してカウンター越しに店員が楽しそうに話していた時、見た感じまだ若い冒険者たちが慌てたように駆け込んでくる。


「ハァ、ハァ。すいません、ま、まだ、やってますか?」


「はい、まだ営業中です。何名様ですか?」


「えっと、五人です」


「それではこちらのテーブルへどうぞ」


「あ、ありがとうございます。……ほんとにメイド服着てるんですね」


 とりあえず滑り込みで入店できたところで、メイド姿をした店員に案内されているという事実に驚いたように声を上げる。噂をあくまで噂として思っていたことがわかる言葉に、クスッと笑いながらカウンター近くの、と言うよりはカウンターに横付けされた机へと案内する。


 椅子について一息入れたところで、パーティーなのだろう5人の中で一番元気そうな女の子が大きな声で、「噂のオークのカツを5つください!」と注文を入れる。年齢的にも一番下にも見える子の注文に仕方に、皆が和む。朱莉が伝えるまでもなく厨房まで聞こえてきた声に、静がすぐさまカツを揚げ始め、雅紀が付け合わせのサラダやパンを盛って行く。


 すぐに出来上がった五人前を暇していた康太が手伝って一度に運びきる。執事の格好で左手に一皿、右手に二皿抱えて運ぶその姿が格好良かったのか、女性客から声が漏れている。目の前での調理の臭いで、すでにお腹をこれ以上なく刺激されていたようで、提供された皿の料理へと飛びつく。


 サラダはシンプルだが、ドレッシングに市場で見つけたハーブを入れることで生野菜の風味を殺さずさっぱりと食べられるように、焼き立てのパンもちぎったところから湯気が出ている。メインのカツも上げた手で衣がザクザクといい音を立て、肉からは揚げるのに使った油とは別の油が肉汁として口の中に広がるが、決してくどくなることのないように衣を仕上げている。そして再びサラダで口の中をさっぱりと。


 見事な食べっぷりで15分もかからずに皿の上を空っぽにし、考えていた以上のうまさの余韻につかるように目を瞑っている。そんな中、「これで試験に……」と、ぽつりとこぼし、その言葉を耳ざとく拾った朱莉が気になって問いかける。


「試験が近いんですか?」


「え、ああ、はい。僕たちEランク冒険者で、今回の暴走で功績が認められてDランクへの昇格試験を受けさせてもらえることになったんです」


 まだEランクであることに恥ずかしがっているのか、きれいなウェイトレスに話しかけられたことに緊張しているのか、頬を染めながら答え、そこで自己紹介がまだだったことに気付いて慌てて、「僕はこのエンスタンスのリーダーのジジャです。それでメンバーの……」と紹介を始める。


「これは丁寧にありがとうございます。私はフロア担当のアカリです。左から宣伝担当のコウタ、調理補佐のマサキ、そしてこの店のコックのシズカです」


 名前を呼ばれると、手を挙げて顔を見せる。全員が全員、とてもではないが貴族街でもない区画では見かけることのない服装をしている。


「それで昇格試験ですか、おめでとうございます」


「ありがとう、でも後ろで少しの魔物を倒しただけだったからそこまで実感もないんだけどね」


「うん、私たち含めて3つのパーティー全員とソロの数人が一緒に受けるみたい!」


「えっとそれで、噂で、元気の出る料理を出していると聞いて、なんとか時間の都合がついた今日慌てて来たんです」


 店に入ってくるのにどうしてそんなに急いでいるのか気になっていたが、願掛けをしたかったようだとわかり、その手伝いができたのならば幸いと笑顔になる。そんな中、元気っ子のお腹から豪快に音が鳴る。


「もう一皿、と言いたい!けど、そこまで手持ちがない!!」


「フフッ。それなら今日の賄の予定だったこのカツで、もっと勝負にぴったりのものを作ってあげる」


「え、でもお金ないし」


「気にしないでいいよ、利益は昼間の客で十分に出てるんだし。雅紀、バーガー作るからパンの準備手伝って」


 客のお腹を満たすことなく終わらせるわけにはいかないと、願掛け繋がりの料理をもう一品出すことにする静。静のいう特別なバーガーならばあれだろうと理解して、パンを切ってバターとマスタードを塗りながら、他に使いそうな材料を取り出していく。静もカツとは別にジャガイモっぽい芋も用意する。


 朱莉と康太は帰って行く客の対応へとまわり、入り口付近に掲げていた看板を閉店を示すものに変える。店の中に残ったのは、子連れの親子と静かにお酒を飲んでいる冒険者の数組だけとなった。


「でも、安いってもオーク肉は高いでしょ。この値段とこの味なら利益そこまで出てないんじゃないの?」


「ううん、そんなことないよ。味の方は特に特別なもの使ってないもの。もちろん、オーク肉が格安で手に入ったからこそできる値段だけどね」


「そう?この値段だって屋台とかより高いけど、味からしてみれば破格のものよ」


「自分で狩ったオークだから元手ゼロ扱いだし」


「えっ?あなた冒険者なの?」


「うん、あなた達と同じEランク」


 下ごしらえをしながら話を続ける静。話の相手は、安くオークが手に入ったというのは冒険者の伝のことで、静たちの本職は料理人とその店員だと思っていた。そこに落とされる、本職冒険者でオークを狩れるほどの力ながらまだEランク、という不自然な関係の真実。他の3人も戸惑いの顔を浮かべている。元気っ子だけは調理しているのを見るのが楽しいのか、静の手元を楽しそうにのぞき込んでいる。


 そのまま仕上げていき、雅紀の用意した大きめのバンズにカツ、チーズ、トマトとレタス(っぽい野菜)、挟むようにバンズ、またカツ、チーズをのせて最後に指先からの火でチーズに焦げ目をつけ、バンズで蓋をして串で固定する。よく見るバーガー系の高さの倍近くはあるそれを5つ素早く組み立てて、朱莉が運ぶ。


「はい、カフェ”アマンタ”特製カツバーガー出来上がり。私たちの国ではカツってそれ自体で勝負の願掛けにいいんだけど、今回はこれ。うちの店のこれを食べれば勝負ごとには負けないよ、ソースは私」


「はい、ありがとうございますです、いただきます!」


「あ、ちょっと待てって。本当にいいんですか?こんなにすごいものをいただいちゃって」


「良いんですよ、私も懐かしいものを作るきっかけになりましたし。それに試験頑張ってほしいですし」


「へ~~え、それでは、私にもそれ、い、た、だ、け、ま、す、よ、ね?ネ?」


「ん~~……」



 カツン、カツン、と言う音とともに席のさらに奥から響いてくる、やけに聞き覚えのある話し方で声をかけられ、だらだらと汗が流れるのが止まらない雅紀たち。脳裏に移るは早く寝たかったところを捕まり、眠気をこらえながら恐怖に耐えたあの時間。故に、抗うこともせずにカウンター席に案内して、供物を納めるように特製バーガーを提供する。一口食べて、その美味しさに深くため息を吐く。


「はあ~~~。で、いつになったらギルドに顔を出すんですかね?え?後日また、とか言ってもう三日が経ちましたよね?確かにあの時は忙しくて対応できなかったのは申し訳なかったですけど、その次の日には手も空いたので、来るかな、と待てど暮らせども現れない。そのうち、オーク肉のうまい店が出たという噂の方が先に来ましたよ。ええ、初めは容姿からしてまさかとは思いましたけど、やることなすことはそのままですし。ってことは商業ギルドには顔出してたんですよね、屋台(?)というかこの店やるのに。冒険者のはずなのに商業ギルドに負けましたー、あー、悲しー、そうは思いません?エンスタンスの皆さん」


 現れてからその口から止まることなく言葉が吐き出され続けるスーシーから、現れたときの衝撃から固まったままのエンスタンスに急に話を振られて、目の前の人が本物かどうか、そこから驚きであり、やはり答えられない。そんな中でも元気っ子は満面の笑みで、美味しそうにカツバーガーにかぶりついている。


「本当にどう思います?この人たちと一緒に昇格試験受けるんですよ、何か聞きたいこととかありますか?」


 続く言葉の衝撃で、目の前の人の正体についてが吹き飛ぶ。この料理人たちが他のパーティーのうちの1つ。そのことに辿り着いて、口がいっぱいの子供以外が叫び声をあげる。



 ひとまず出されたものに手を付けて、カツだけのときとは違った美味しさに舌鼓をうつ。


「それで、いつになったらギルドに来てくれるんですか?渡すべき報酬もあり、伝言もあり、領主様からの呼び出しもかかってるんですよ」


「それってどういうことですか?この人たちはEランク冒険者ではないんですか?」


「そう思いますか?この人たち暴走の裏でいろいろとやってくれたのに、その報酬を受け取りに来ないんですよ。もう、邪魔なんで早く持って行ってほしいです」


 そう見えるかと聞かれれば、そもそも冒険者に見えない。ギルドから早く持って行ってほしいと言われるほどの場所をとる報酬の山。それを思い浮かべ、その夢のような金額になるだろう金を取りに来ないでレストランを開いている目の前の変人たちに、理解できないものを見るような目を向ける。


「いや、報酬って参加分だけだし、オーク肉の下取りで大半が相殺されたんじゃないのか?」


「あなた達、自分が何やったのかわかってますか?」


「八つ当たり」


「間引き」


「教会の手伝い」


「静の手伝い」


 雅紀、康太、静、朱莉の順に一言で纏める。その言葉に何の疑問も抱いていないことが分かってしまい、頭が痛くなって頭を抱えるようにしてカウンターに突っ伏してしまうスーシー。その口からは今日一番長いため息が吐き出されるも、その場に居合わせた冒険者たちは、何をそんなに、とコテンと首を傾げるのだった。


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