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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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その頃の勇者1


 地球ではめったにお目にかかれないような仰々しい鎧を着込んだ人間が、掛け声を上げながら走っている。その中に、周りの騎士らしい姿をした人よりも若く、装備が動きやすい布地の服だけの一団が混じっていた。


 モクモクと真剣にやっている人間、地球にいたときよりも好タイムが出せていることに喜んでいる人間、わざわざ運動しなければならないことに不満を抱いている人間。この3タイプに大まかに分けられた集団は、突然異世界に召喚された勇者であり、帰還のために魔王退治に出なければならないと告げられ、そのための訓練を付けると宣言された学生である。


 しばらくして、誰よりも重装備を着込んで先頭を走っていた厳つい中年の男が少し乱れた呼吸を整えながら、後続集団に終了を伝え、それを受けて騎士たちは走り込みを切り上げて次の訓練へと移っていく。一方で学生は訓練場の逆に向かうように別れ、騎士かローブを着ている、恐らく魔法使いの下へと向かう。騎士に向かうのは、前者の2タイプの体を動かすのが得意か好きな人が多く、魔法使いの下へは後者の運動が苦手なインドアタイプが多く見られる。


 素振りと魔力操作から訓練を始めて、徐々に実践に近づけて乱取りや射的へと移っていく。やはり学生は子供ということか、基礎をやっているときは仏頂面であっても、自由にできるようになるとその表情はたちまちに明るくなる。


 騎士たちの下では、大抵の学生が騎士への打ち込みをメインに練習していくなか、広めにとった空間の中央で’勇者’のスキルを女神から授かった伊崎晃平が、先ほどの走り込みで先頭にいた男、周りの対応を見るに騎士団長へと鋭く切りかかっていく。他の人の訓練と違うのは、相手の騎士からの反撃が混ざっているところで、甘くなったところから団長の攻撃が始まって剣を飛ばされるか喉元に突き付けられている。


 そこで、一回の区切りのようで、剣を拾って距離を取り直して再び斬り合いを始める。数人を除いて、周りとは隔絶した才能を見て、副団長が唸っている。周りにもできる奴はいるが、それでも筋のいいものが練習をしてすぐにしては、であり、それに比べて一部の連中の技能がかけ離れている。


「それにしても、皆さんの剣筋を見ると似ているように思えるのですが、心当たりはありますか?」


 騎士団の副団長であれば相当に身分が高いのだろうが、勇者相手ということで敬意が込められた言葉遣いで話しかける。争いのない世界から来たという割にはやけに剣を振るうのに慣れているという矛盾に加えて、剣を嗜む者ならばすぐに気づくことを尋ねる。


「それはですね、私たちが剣を習っていたのが同じ場所だからです。剣と言っても私たちの国特有の刀っていう片刃の剣なんですけどね」


「それは長い時間ですか?」


「そうですね、伊崎君なんかは小学校の頃からで、その隣の麻衣ちゃんもそのすぐ後からです」


「ショウガッコウ、と言うことは十歳やそこらということですか、納得できます。ところで、あなたは?」


「え、僕ですか?そんな大したことはないですよ」


「あなたが大したことないなんてことになれば、ここの騎士の半分くらいがダメになってしまいますよ」


 謙遜をする女の子(だと副団長は思っている)が晃平の通っていた宮城道場に詳しいのは、それは単純に自分も時々顔を見せていたからであり、誰であろう親友たちに連れて行かれること十年強、恐らくこの中では最も経歴が長いだろう長谷川飛鳥である。


「幼稚園の頃からぼちぼちとだけですから、大した腕じゃないですよ。時間でいけば伊崎君の方が長いですし」


「ということは、あちらで魔法を撃っているあの双子もそうですか」


(りん)ちゃんと(すず)ちゃんもそうですね。あの二人は剣ではないですけれども、よくわかりましたね。中学の頃からの後輩なので短いですけど」


 そこで顔を少し曇らせる。


「でもやっぱり一番は雅紀、康太、静ちゃん、朱莉ちゃんの四人です。学校の誰も勝てませんでしたから」


「初めて聞くお名前ですが、一緒ではなかったのですか?」


「いえ、向こうでは大抵は一緒にいたんですけれども、こちらに来る時にはぐれてしまって……。まあ、恐らく元気にやっていると思います」


 電話で話をしたことを意図的に隠したままにする飛鳥。こちらから掛けることができない以上伝えてもしょうがないうえ、何となく切り札として持っていた方がいいように思えたためである。副団長も目の前にいる勇者の伊崎晃平も勝てなかったと聞いて気にかかるが、それは勇者としての力を授かる前のことで、女神の祝福を受け取った今ならば勝っているだろうと、言い聞かせる。


「おっと、話し込んでしまってすいませんでした。私たちも始めましょう」


「ええ、お願いします」


「ですが、私でいいんですか?あなたならば、団長とやった方がためになると思いますが」


「私は今は全力を出せないんです。この剣もそうですが、私の剣は守るためのものですから」


 それだけ言い残して、剣を構える飛鳥。気になる言葉ではあったが、目の前に剣を構えられてそれに呼応するように副団長も構える。両者が構えて飛鳥が声をかけてから斬りかかって訓練が始まり、昼食で呼ばれるまで途切れることなく打ち合いが続いた。



 一方で魔法使いの方へと向かった勇者たちは、豪華なローブを着た宮廷魔導士筆頭の指導の下で魔力操作の訓練に入っていく。やることとしては体内の魔力を感じて巡らせ、流れを整えたのちに体から抜けていく魔力を体の表面に留めることへと移り、最終的には体外での魔力の操作へと移っていく。魔力が目に見えるわけでもなく座り込んでの作業故に、ただ休憩しているようにも見えるし、実際がっつり休憩しようとして指摘されているのもいる。


 その中でも飛鳥が名前を挙げていた双子と真面目そうなメガネ男子が走り込みに慣れているのか休める体勢を取らずに、体を動かしながら何かを試し、そのまま的の案山子が用意されている一角へと早々に移っていく。座り込んでいた生徒たちも体表に留めることができる程度まで回復したところで、魔法を撃ち込む練習へと切り替えている。


 こちらは剣の代わりに魔法の発動媒体を借りているようで、その形状は杖や本や指輪などのファンタジー装備品のラインナップとほとんど変わりはないが、笛などの楽器系の媒体を使う人はいない。それぞれがぶつぶつと何かを唱えて、的へと媒体を向けて一際気合の入った声で叫んでいる。しかし、その表情を見るに男女関係なく、どうやら羞恥心が働いているようで、頬を赤らめたり、最後の方で声が尻すぼみしたりしている。


 こちらに来た時に渡されたスキルが魔法系に偏っていた勇者でも、レベルが高くても4か5で一流に片足を踏み入れるかどうか。そしてもちろん、始めからそのレベルに見合った魔法を使えば失敗するのは当然であり、レベル1相当の魔法から始めて、その魔法の詠唱もそこまで長いわけではなかったが、耐えられない人が続出している。


 宮廷魔法使いもその様子を見ながら、「精霊様としっかりと魔力のやり取りをするのです」とか「イメージとともに魔力を渡してください」と基本的な魔法の使い方を教えている。ときには、魔力の流れを補助する形で補佐に入っている。


 そんな中でも躊躇いなく大声で叫び、笑っている眼鏡男がいる。この度の召喚で賢者のスキルを渡された眼鏡の委員長、と見せかけた日本現代文化の理解者(オタク)で、ラノベ作家としても活動している男、小滝尭(こたき あきら)である。


 この男、地球にいた頃、雅紀がアイデアに悩んでいるところに布教した挙句、雅紀たちの日常をネタにして文章を書き上げる、ということをしていた。それ以来、ファンタジーのあれこれを現実重視で相談することが多々起こるようになり、雅紀の転移後の魔法の検証はそれをもとにしていたりする。


 そんな男が賢者のスキルを授かってしまった時には、それはもう疑う余地もなく地球で見てきたあれこれを再現することは明らかであり、この訓練の度ににテンションが天井をぶち抜き、その日の夜は部屋から怪しい笑い声が響いてくることまでがセットである。


 そして今日、召喚されてから2週間近くかけて再現しようとしていたことの1つが出来上がった。


「ハッハッハ、諸君らに朗報だ!そこの羞恥に襲われている林君、黒歴史がほじくり返されたような顔をしている君もだ。見ているんだ」


 そう微妙に上からだが(クラスの人は慣れた)宣言して手を的へとかざすと、その手のひらに火の玉が現れて的へと向かって飛んでいき、ぶつかって爆発を引き起こす。大きな爆発ではあったが、魔法の練習をしていた生徒たちの視線は尭に集まり、早く説明しろと雄弁に物語っている。


「そう、これが無詠唱魔法の技術である。人前で長々と詠唱する必要も魔法名も叫ぶ必要もなくなるのだ。そう、魔法を使うのが恥ずかしかった原因がこれで取り除かれるのだ。そして、俺のステータスボードに無詠唱レベル1と出ている、つまり賢者の技術ではない、君たちもできるようなるということだ。さあ、練習しよう、そうして君たちの魔法を俺に見せてくれ」


 期待の視線を受けて何かを言い聞かせるように説明する姿は、困りごとを解決しようとした良い奴その者であったのだが、最後の最後でやはりこいつの目的はそこか、と落ち着く。こいつの性格は少しでも一緒にいれば、見た目とは大きくかけ離れたものだとすぐにわかり、クラス内の共通認識になっていた。


 その後、イメージをしっかり持つとか、始めは心の中で唱えるようにして練習するとか、一見誰もがやったことにあるだろうことから始めて、事細かにアドバイスを伝え始める。それを見ていた宮廷魔法使いは、無詠唱は一子相伝の技術でそう簡単に漏らしていいものではない、と情報の安売りをしている賢者に呆れるも、その情報のおこぼれを有り難くいただいている。


 その後も、「今のは〇ラゾーマではない、メ〇だ」や「〇に代わってお仕置きよ」、「…ジョン!!」などとやりたい放題やり、所見の異世界人からはきょとんとした目で見られる一方で、元ネタを知っている日本人一同からはこれより冷たくなることはないのではというレベルの視線が向けられる。それでもへこたれることも気にすることも無く進み続ける、それが小滝尭。



 その夜、久しぶりに電話が雅紀からかかってくるとともに、メールの添付ファイルとして飛鳥に合わせて作られた刀が送られてきて、たまたま居合わせた尭が盛り上がることになるのだった。


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