最終戦4
全身から魔力を取り込んで練り上げ、すべてを光へと変えて放出。Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation、頭文字をとってLaser、光を武力として用いるのに最も適した方法の1つ。光の速さと直進性を利用した単純だが、出力を上げられさえすれば止められるものは数えられるほどしかない。
もちろん、ただ放つだけではない。レーザーの通り道は、何もない空間。空気を含む一切の物質の存在がなかったことにされた空間。その中を何人も捉えられない高速で突き進んでいく。
放出した瞬間から思考は別の場所へと移る。
オークの王の頭上にたった今帯電させられた領域。そして導くは、抵抗を書き換えられた空気の道とオークの身体。抵抗を極限まで落とされた物体へと一瞬で電子の移動が始まる。
空気中に電荷を溜めておけば、あとは自然の摂理に従って地面へと流れようとする。そうして起こる雷は、通常ならば空気中の成分による抵抗の違いに影響されて複雑に動いてどこへ落ちるかは予想もつかない。しかし、そんな絶縁体に近い空気の中に金属のような通り道ができればすべてそこへと流れ込むこととなり、低い抵抗故に流れる電流は跳ね上がる。
生物の生命活動が止まるのは、高電圧がかかった時というよりも強い電流が流れたときである。流れる電流によって細胞の活動は狂わせられ、また、生じるジュール熱によって細胞自体も焼かれる。
魔力を厚く纏っているために、掛けるつもりだったよりも効果が薄かったことが残念だったが、その身をほぼ焼き尽くすことに成功する。魔力を攻撃にすべて回してしまったために身体の回復は痛々しいままで止まっており、魔力が薄れてきたこともあって傷が開いてしまう箇所も見受けられる。
腕に垂れてくる血を眺め、目を閉じてその身体の中を見るようにして、分け隔たりなく流れ込んでくる情報に四苦八苦しながら身体の情報次元を読み込んでいく。
情報次元。雅紀が魔術を使って情報を改変する際に、対象とする次元。運動などの三次元で起きている事象のすべての情報が記述されている情報空間、というのが近い。そしてそのなかにはニュートンの法則もマクセルの法則も記述されている。この情報空間で法則を書き換えれば、その現実空間は別の理に支配されることになる。
そして、なによりもこの情報の書き換え自体には膨大な魔力が要求されない。その情報に従うように、漂う魔力を使うことによって、世界が変わる。空間に何もないことにすれば、そこにあった物質は周辺の空間に押しのけられ、空間を切ったという情報を書き込めば切れたという結果が現実を上書きし、過去のことをなかったことにすればそれによって生じた結果も消え、過去の状態を今に持ち越せる。
雅紀の身体が元に戻る。
膨大な魔力を必要としないといっても、それを通常の魔法で行おうとするのに比べたらということであり、過去改変は世界でもほんの一握りしかできない。それでも、魔法使いが使う魔法はそれ以下の魔力で同じことを可能になる。
もちろん、この世界ユーテリアに同じことをできる人間はいない。それは魔術師がいないということもあるが、情報という概念が普及したデジタル世界の住人であった転生者や転移者でなければ知りもしないということ、そして膨大な情報が流れ込んできてもそれに耐えられる精神と頭が必要とされるからである。
その点、雅紀たち、巻き込んでごめんね(by良識ある女神)、の一同は人よりも高位の存在の空間に、保護もなしに魂もろとも肉体が転がり込んでしまい、短い間だったとはいえその空間のものを取り込み、適応しようとしたという過去を持つ。故に、情報の洪水にも精神が追いつくことが可能となり、改竄ともいえる魔術が現実のものになった。
情報次元での改竄で必要となった魔力は自然にあふれている魔力を拝借することで賄い、そのまま吸収を続け、体調も魔力も戦い以前まで戻す。体の違和感が消えたことにほっと息を吐くも、すぐに何かを思いついたようで、悪い笑顔を浮かべてさらに魔力を取り込んでいく。優秀な魔法使いの持つ魔力と同程度の魔力を取り込み、今度は逆にその魔力をゆっくりゆっくりと自身を起点として前方へと広げていく。
そのまま、放出した分だけ追加で取り込んではまた放出するということを続けていく。その魔力が広がるものの、特に現象として何かが起こるわけでもなく、パッと見た感じでは何も起こっていないようだが、もしも防壁の上から攻撃に夢中になっている魔法使いが感知にも力を入れていたのならば、その魔力の動きに気持ち悪さを隠し切れなかっただろう。
時間にすると30秒にも満たない間ではあったが、その間集中していたようで雅紀の額には汗が浮かび、表情も何かに耐えているようあるが、なにかを掴んだようで止めようとするつもりはないようで、深呼吸をついたと思えば、目まで閉じて今以上に作業を高速化して後方にまでも魔の手を広げる。
そして、突然雅紀の顔が上がる。作業に伴って目を閉じてからゆっくり下を向きはじめたが、目を閉じているにも関わらず何かを感じたようで、新しい展開が始まって合法的に仕切りなおせる、と喜色満面の笑みを浮かべるのだった。
そして現在。
治療施設から見て一枚壁の向こう。たったの9人だけを連れて頭を付き合わせている。何も分からずに連れて来られた被害者は、ラルフたちの獅子メンバーと騎士団長を除く3人であり、各パーティーのなかでまだ戦える冒険者と騎士団の副隊長が拉致されていた。合わせて魔法使い2人に弓兵1人の後衛3人に、前衛他7人と、これまた非常に脳筋過ぎるほどの偏りが出てしまう。
またまた起こった突然の変化についてこれていない被害者をそのままにして、簡単に連絡を伝え始める。
「さっきの転移はマサキか?」
「なんか気が付いたらやばそうだったから、無理やりに飛ばした」
「では、その前のあの太陽もですの?」
「ただのレーザーと雷だろ?魔法であるだろ、見慣れてないのか?」
「あれは雷魔法じゃないです!魔法の雷はもっと、こう、バチッとなるだけなんです!!」
ですです、と信じられないことを聞いたかのように、もう一人の魔法使いがメルタと共に噛みついてくる。
「レーザーって何だ?光魔法かなにかか?」
無意識のうちに日本の用語を普通に混ぜて話していたことに気が付く。今までは大きな問題なく会話できていたために気にしたことがなかったが、神のプレゼント能力もあくまでこの世界の会話に対応するものであったことが分かる。
誤魔化すようになるも肯定を返すも、その返答に何も疑問を抱かれていない様子が見て取れてしまい、なんか、こう、変なことを言って行うのが当たり前の人だと思われている、と実感してしまいその場に膝から崩れ落ちてしまう。何か慰めの言葉をかけようとするラルフたちに手を翳して遮る。
すぐに気を取り直すも、熟練冒険者と話して突然崩れ落ちる見慣れない冒険者として、他に連れてきた冒険者たちには認識されてしまうことになってしまったことに気付けなかった。
顔に陰りを見せながらも、とうとうと今後の予定を話す。
「えー、はい。今ここは外から2番目と3番目の防壁の間です。で、そろそろ復活したオークの王が2番目を、あ、今」
説明を途中で止めて、指さしたその先の防壁が吹き飛ばされ、転移する前よりも元の姿へと近づいていた。筋肉がはち切れんばかりに付いていた腕と背中、手に持った大剣が今まで以上に禍々しくなっている。ついさっきまでともに進行していたオークもいなくなったというのに、その歩みはドシン、ドシンと非常に緩慢なものであった。
「はい、ご登場したのがかつて王だったオークです。思ったより回復してんな、なんでだ?ここらの魔力全部もらったつもりだったんだがな。で、魔力のほとんどを使い果たして、後は体力だけが余りまくったオークの討伐、ってことで」
「待て、魔力を使い果たした、ってどういうことだ?」
「ん?全身焼き払っただろ?その回復に全魔力使わせたと思うんだが」
「それで、俺たちだけであれを倒すのか?連れてきたこの人数でか?」
いくら弱っているようには見えても、仮にもスタンピードの主であり、その脅威はとてもではないが雅紀が連れてきたこの少数人数だけでどうにかなるとはラルフには思えなかった。
しかし、返ってくる返事はその答えとは思えなかった。
「いや、あんたらは見届け役だけしてるくれりゃあ、それでいい。あとは俺らがやる」
その宣言で身に纏う気配が、のほほんとした日常から、相対したら殺気だけで心臓が誰かに握り潰されたかのように、早鐘のように鳴り響く。心臓だけでなく全身の筋肉に外から刺激が入ってきたかのように、思うように動かせなくなる。
「慢心はしない。その決意をさせてくれた礼だ、全力で潰す」
そう呟きながら右手の親指と人差し指を伸ばし、残りの3本を握る形、要するに銃の形にして、ばん、と呟く。その行いは集めた人の視線を出てきたオークに視線を集めるためでもあった。気の抜けたような音であったが、それが引き金となり、オークの左腕が突然引きちぎられ弾け飛ぶ。
そのまま何も振り返ることなく、地面を隆起させ即席の壁で見届け役を保護してオークへと、超高速で近寄ってそのまま切って通り抜ける。躊躇いなく分解を剣へとかけているものの、魔力がほぼないと言えども魔物ゆえに体内に魔力を通しているために、数センチしか刃が潜らない。返す剣で敵の大剣を叩き跳ね上げ、流れるように舞うように胴体へといくつもの裂傷を刻み、締めとして全身のばねを使って蹴りをめり込ませる。
慣性質量のみを軽くすることによって通常以上に飛びやすくし、空間の連続性を断ち切ることで生じる絶対不朽の壁へと叩きつける。相手を自身の魔力で覆って魔力を浸透させることにより、離れたところからでは困難であった魔力を持つ生物の情報もその空間ごと書き換えてみせる。
空気は薄まり、重力は増し、空気は凍て付き、音は消える。
自身に有利なフィールドで、自分の勝っている能力のみで戦うように強いる。決まって王者は王者が王者たらしめる環境でしか戦わない。負ける戦を馬鹿正直にやるわけがないのである。
「俺の戦場へようこそ」
魔力までもが動きを潜め、ここに雅紀の独壇場が完成した。




