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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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最終戦2


 のそのそとついさっきまで従えていた死体を足蹴にしながらも、5匹が近づいてくる。5匹のうちのどれをとっても、その大きさは圧倒的で、優に3メートルを超える巨躯である。


 強制的に防壁まで戻されていた冒険者と騎士たちが、それぞれの思いを抱えながら突撃をかましていく。


 倒すことでのハイランカーに仲間入りする。


 もしくは、勝てる未来が見えなくとも、守るために退くことができない。


 ちゃっかりと先頭を陣取っている男は、腕試しであるが。


 剣と杖をもって、戦闘の火蓋が切って開かれた。



 誰よりも早く、一番デカい獲物に辿り着くことに成功した雅紀は躊躇いなく正面から分子間力中和の魔術、分解を使いながら剣を振り下ろす。もちろん、オークの王もそれをただ受けるだけの愚物であるわけもなく、剣を引きずっていた方の手を持ち上げて受け止める。


 ぶつかり合った剣は、どちらも切り落とされることなくせめぎ合う。偵察中に森の中で出会ったあのオークと同じ状態である。あの時は押し切れたことを考えれば、それよりは分が悪いかもしれない。足場を生み出して力を加えてもびくともせず、両者の動きが止まる。地面だけがその形を変えていく。


 お互いに弾くようにして押し戻し、そのまま何度か打ち合い、破壊をまき散らす。距離を取っては、速さを生かすようにして四方八方から剣を繰り出すが、硬い皮膚と分厚い脂肪でなかなか切ることができない。


 しばらく打ち合った後、何を思ったのか正面から切り結ぶ。体格の違いの問題上、どうしても下から切りかかることになる雅紀に対して、上から押さえつけるようオークの王。それでも、速さを生かすことで力ができらない点で切り結び、硬直状態へ持ち込む。


 どちらも右手が動かない中、左手が動き始める。


 雅紀の手には魔力をただ変換しただけだが膨大な熱量、オークの王は握りしめられ加速された拳。


 高速で振られた拳を何とか体をひねることで躱す雅紀だが、風圧でさらに体勢を崩すことになりながらも左手を開く。指向性を持って放たれた一撃。周囲の温度も一瞬で上昇し、地面に転がっていた氷が蒸気へと変わってしまって視界が遮られる。


 その白い空間から先に出てきたのは、雲を破るように吹き飛ばされた雅紀だった。




 空から現れた白い槍が終わるタイミングをわかっていたのか、またもや一人先走った雅紀を見て、団体行動できるのか、不安を持たずにはいられなかった獅子の面々。


 そんなことを考えつつも、その足は全力で地面を蹴っている。少し遅れ始めたBランクパーティーと騎士が追いかける形になっている。ラルフとロジックとしては最大の敵を叩くにあたって、もう一組のAランクパーティーの力も借りたいところではあったが、さっきまでの連戦で武器にガタが来てしまったとなれば、無理強いはできなかった。


 少し走れば、すぐさま氷が張っている草原に足を踏み入れることになる。ハイオークジェネラルと思われる個体を横目に駆け抜けることになるが、他の連中の武運を願うしかできない。


 足元が凍っているので滑らないように気を付けて全員が氷原に足を踏み入れた辺りで、高くそびえる氷の塔の方から魔力が膨れ上がったかと思えば、白くなって何もできない場所ができてしまう。それに目を奪われるが、なぜか氷の塊までも飛んでくる。


 その中でも、一際大きく煙を吹き散らすようにして影が一瞬で防壁まで到達する。そして、その防壁から聞こえてくる音はとてもではないが、飛んでいったものが形を保てるようには思えなかった。土壁に鉄塊を叩きつけたかのような音が響いてくる。


 先行をかましたはずの冒険者が一撃加えたと思ったら、すぐさまノックアウトされるような攻撃を受けてしまい、オークの王は、わき腹につけられた傷を煩わしそうにしつつも、全力の攻撃でこの程度の傷しか与えられなかったことを見せつけるように煙の中から顔をのぞかせる。


 何度も跳ね返ったようで、地面にも壁にもいくつかのヒビが入っていく。壁の近くで待機していた辛うじて余力を残していた魔法使いからしてみれば、人型の物体が高速で真横やら真上やらに飛んできたような物で、突然の出来事過ぎて呆然としてしまう。


 それは、走り出していた冒険者と騎士たちにも同じことであり、中には足を止めてしまう者が出てきてしまう。足を止めなかった者たちも、その表情はどこからどう見ても間違えようなく引き攣り気味であり、ハイオークキングの力の一端に恐怖を隠し切れない。


 魔物の恐怖が分かりやすい形で見せつけられたなかでも、AランクパーティーはAランク足らしめている力をぶつけていく。雅紀の放った魔法はただの大きな火ではあったものの、メルタの魔法を長いこと見てきた紅の獅子の面々からしてみれば、あの威力はポンポンと何度も繰り返しで打てるものではないのは明らかだった。



 Sランク冒険者になるためには、誰もが称える目に見える功績を成さねばならない、ということは冒険者ギルドで一度でも上を目指そうとした人間ならば誰しもが聞いたことのある話である。そしてこの話は、Aランク冒険者であるラルフには、誰よりも近くに感じている話題である。


 今までのSランクへの昇級の功績の代表例には、Sランクパーティー級の魔物の単独討伐、迷宮の最深階層の更新、スタンビート解決への貢献があった。そして、今回のスタンビートの規模と頭がハイオークキングだったことを踏まえると、功績次第では昇級も夢ではかった。これは他のメンバーが昇級するのも同様であり、危険を冒すのに見合うだけのリターンが期待できた。



 ラルフは魔剣を解放し、ドットはその前に身を挺して盾となり、サーシャが撹乱するように動き回り、その後ろからメルタとオズが狙う。魔物討伐のセオリーとしては頭か心臓、もしくは魔石を狙いたいところではあるが、雅紀のあの威力の魔法を受け切るだけの皮膚を持っているならば、無理に一撃で決めにかかるのは諦めた方が賢明であるように思える。


 ある程度高ランクの魔物討伐となると、そのどれもが自然の中を生き抜いてきた魔物ということだけあって、生き抜くということに関しての能力が飛躍的に上昇していくものである。なればこそ、危険を冒して一撃で仕留めにかかるよりも、得意とするフィールドに引きずり込んで持久戦を仕掛ける方が、いろいろとやり易い。そのため、高ランクの依頼は、場所への移動だけでなく討伐そのものにも時間がかかってしまい、一回の依頼にかける時間が薬草採集などの近場の依頼とは比べ物にならない。


 高ランク冒険者として経験を積んできたラルフは、今までのどの討伐と比べてみても見劣りしない程度に時を必要とされると深く考えずともわかってしまう。



 炎をまき散らして敵の注目を浴びるラルフの横からサーシャが素早く飛び出し、雅紀のつけた火傷をなぞるように短剣を滑らせる。


 ラルフを叩き潰そうとしていたオークの王からは、炎と掲げられた盾の陰から飛び出してきた小さな生き物は目に入らなかったものの、向けられた敵意にイラつく。既に傷つけられていた右わき腹のを狙う敵へと無理やりに剣筋を変えようとするが、微妙に力の入らなくなった剣はドットが割り込むようにして地面に誘導されてしまう。


 地面にめり込んだ剣の横にはオズが重心を落として壁と化し、がら空きになった逆方向へと魔剣を振り下ろす。当然のように拳が迫るが、初めての傷に焦りを抱いているのか心を無理やりに落ち着かせて、ギリギリで避ける。雅紀は吹き飛ばされた一撃だったが、冒険者らしく重装備を纏って地面に足を付けていたためか特に態勢を崩されることも無く、無事に炎の刃をめり込ませる。


 雅紀の一撃より密度が高かったようで肉と脂肪の焦げる臭いが充満し、嗅いだことのない臭いに悲鳴を響かせ、地面を抉るようにして剣が振りぬかれる。ラルフの後に続くように届いたオズの矢とメルタの紅い矢は、腕は振りぬかれた状態の無防備の顔に炸裂する。


 注意が後ろに向いてしまわないようにと、ちょこまかとサーシャは動き回り、ドットは殺気ををぶつける。


 その後も何度か繰り返し、振り下ろし気味の攻撃ならば、逸らして一撃加えるパターンを確立させるが、横なぎの攻撃となると上にも下にも逸らせず、どうしても後ろに押されてしまう。そして、その一回一回の後退の度合いが、一足で詰められる距離ではあったが無視できない。


 そして、増設された防壁が見えるところまで押し戻されてしまう。


 メルタの抑え気味とはいえ普段からしてみれば必殺とも思える攻撃も、いくつかは守りをすり抜け直撃させることができた。しかしながら当然のように無傷ではあり、先ほどまでより苛立ちをその顔に含ませ、あの誰の心にも恐怖を刻み込んだ咆哮を再び轟かせる。


 空が割れ、地が割れる。


 咆哮は空気の圧となって冒険者に襲い掛かる。始めに聞こえたのは距離のあった森の中からのもので、目の前の咆哮は全身を波立たせるような衝撃となる。誰しもが耳を穿つような音に耳を塞ごうとしてしまう。もちろんその隙を見逃すような敵ではなく、今までとは違う歩みを始め、徐々にそれは駆け足へと変わっていく。


付き添いのオークの将軍も王を見て、同じように目の前で顔を顰めているヒトを蹴散らすようにして歩き始める。


 それが最高に到達したとき、オークの王の足がはち切れんばかりに盛り上がる。


 戸惑い、顔を動かすことしかできない冒険者たちを巨体が見下ろす。


 落ちてきた巨体は、今度は、地面の揺れを世界に轟かせる。誰の邪魔も入ることなく、行軍の目標だったヒトの集まる街へと更に近づくことに成功したことに気分を良くしたのか、もう一度と言わんばかりに膝を曲げ、腰を落とす。今度は街へと近づくだけでは飽き足らなくなったのか、それともただ思いついただけなのか、その視線の先に防壁の上を捉える。


 死を予見させるような行動に、防衛側の時の流れる速さがとてつもなく遅くなる。


 今しがた地面に巨大なくぼみを生み出した巨体が自分の上へと落ちてくるのを、ただただ見ることしかできない。守りたかったものの上に落ちていくのを、ただただ見ることしかできない。


 振り下ろされる剣が体にのめり込むのか、それとも飛んでくる土塊が身体を持っていくのか。そんな死に際を思い描くことしかできなくなってしまう。


 ああ、こんなところで終わりたくない。


 命が、そんな思いの静寂の中で閉じられる―――



「ああ、痛い。潰す」



 静寂の中に一滴の不透明の雫が落とされる。


 そして、時が止まった。

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