本領発揮
土交じりのオオカミを爆破、新しい壁を築上、予想通りに森からの魔物が流れていくのを確認して、雅紀は力いっぱい蹴り飛ばす。急激な加速で体にかかる力を楽しみ、草原に降り立つ。
ドワーフのボレル作の魔鉄製の剣を取り出すものの、何か迷う素振りを見せたかと思えば、今さっき出したばかりの剣を仕舞い、代わりにトレント製の剣を取り出す。その色はやはり、ボレルの庭で作った時に比べて暗いものの悪い色ではない。
草原を歩きながら、そこら辺をのっそのっそ徘徊しているオオカミを片っ端から首を落として回る。踏み込みで地面はひび割れ、踏み込んだときにはその姿を捉えられる魔物はいない。踏み込んでは消え、その姿を捉えることができたときには、消えた点と現われた点を結ぶ直線から一定距離内の命が刈り取られていく。もちろん草原の草も例外ではなく、根元からひっくり返される。
一歩、また一歩と足が進められる度に、草原には摩訶不思議な幾何模様が切り刻まれていく。何本も死の路を刻み込んだにもかかわらず、草原に流れ出る血の量がどうにも釣り合わない。雅紀自身も意図してやっているようではないようで、自作の剣を指で弾いてみたり光に透かしたりと確かめている。
それで納得したわけではないが、魔石を埋め込んでみたら魔剣みたいにならないかなあ、という目的で作ったという経緯があるために、しばらくは様子見することにしたらしい。本人的には血を吸う魔剣なんて、外部の人からしてみれば呪われた剣に見えてしまうのではないかと、内心ドキドキだったりする。
とりあえずいろいろと確かめるためにもこのまま使い続けるしかなく、再び突撃を始める。その姿はオオカミからしてみれば死神そのものだったようで、必死に逃げようとするオオカミとの壮絶な鬼ごっこの始まりであった。
視界に入った魔物を片っ端から切り捨てながら、少しずつ南に進んで行く死神。南の森が視界の大半を占めるようになると、東の森から出てきて南に流れた魔物が減り、南から進行してきた魔物が刈り取る対象のメインへと変わる。
ここまで進んでくる間に、よりアクロバティックな動きを身に着けた雅紀。結界を張ることなく、自分の足の裏を基準面として新しい情報を付け加える方法を採用。付け加える情報は単純で、加えられた力をそのまま返す、ということだけである。
結界としていろいろなものを遮るよりも、加えられた力だけに反応すればいいので、今まで以上にコストは軽い。靴の裏だけに展開、方向も決めれば、風などの空気を考慮することも無くなって、本当に足場としてのみ機能する。一方通行の壁として利用すれば、様々な場面で役に立ちそうな魔術である。変なところに力を入れる雅紀からしてみれば、臭い防止などという勿体ない使い方をしそうなものである。
今もオークが手を伸ばして何かを振っても届きようのない、それなりの高さから戦況を見下ろしている。冒険者が誰もいない区画を見つけては、そこを目指して宙を跳ねていく。
オークの群がる中に飛び降りる。オークがそれに気が付いて飛び掛かろうとするも、動き始める寸前に地面へと叩きつけられる。
力場改竄。ありとあらゆる空間には力場が存在し、重力場や電場、磁場、核力場が必ず存在している。もちろん場の影響がゼロの空間も存在する。その力場の情報を上書きする魔術。空間そのものに手を加える魔術と言えなくもない。具体的には、万有引力定数を大きくするだけで重力は何倍にもなる。
それぞれのオークに個別で力を加えても同じことが可能ではあるが、何に対して発動させるかを決める必要がなく、発動が速く必要な魔力も少ない。個別に指定しないため、軍隊などの数で勝負する場においては有効である。もちろん味方敵関係なく発揮されるため、注意が必要ではある。
もちろん発動者自身がその空間に入っても効果は発動されるが、自身のいる場所を除けばいいだけである。雅紀は面白がって、身体強化で体の強度を高めて嬉々としてその空間に飛び込んではいるが。完全に自重に耐えきれずに、ぺしゃんこになっているオークの近くに剣をずぶりと差し込んでみる。差し込んだのはもちろん、オークの血が溜まっている場所である。
ゴクゴク
そんな擬音語が似合いそうな勢いで、血の水たまりが枯れていく。完全に血の池を飲み干しただけでは満足せず、地面さえもカラカラにしていく。心なしか隣のオークの肉が悪くなったかのようにも見える。この結果を見て、手を地面につかずにはいられない。
「ああ、魔剣になるかな、って気軽に作った剣が、なんで水と魔力を食うなんつう変な剣になるかなあ」
面白半分で作ってみた剣が、思いもよらなかった方へと進化(?)を遂げてしまう。この世界の意味不明な、どこか闇を感じさせる話に、さらなる八つ当たりが決行されることになる。
オークを狩り続けながら、以前からやってみたかったことに挑戦していく。魔術を連発しながら剣を振ってみたり、久々に自重なしに大技を森へと向かって撃ってみたり、周囲の魔物から魔力を奪うようにして魔力回復してみたりとやりたい放題する。
周りに冒険者がちらほら見えるようになってからは、周りに出る被害を考えて二刀流への挑戦で収まる。ばれたらにやにやと笑われるかもしれないと、周りに知っている人がいないか内心びくびくしているのだが、周りからしてみればオークを一太刀で仕留めていく姿は憧れの対象になることはあれど、笑いの種にはならない。ただし、二刀流が中二病っぽいと考える感性の持ち主、例えば日本人などの見つかれば、嫌な予想が的中することとなるだろう。
両手に剣を持って暴れまわるうちに、空中を足場にする戦い方に慣れてきたのか、重力に逆らった姿勢で剣を振るい、脚までも使い始める。その姿は体操の床運動をしている選手に凶器を持たせているかのようであった。
さらに使いこなし始めた魔術。あるところで起きた事象について、そこから離れた場所で結果を重ねる。手元で剣を振るえば、その空間には剣が振りぬかれたという結果が残る。もちろん何もないのだから、何かが切られたわけでもない。その剣が振りぬかれたという結果の情報を、オークのいる別の空間に上書きする。そうすることによって、剣が届きようがない空間に存在するものでさえも切ることが可能となる。
さらには、ある空間に情報をすべて消去、または、新しい空間を挟み込むようになる。
どちらも、大きな魔力の存在する空間に対して発動させることは難しいが、オークやその上位種程度の魔力しか持たない魔物に対しては有効な手段となる。
実際になにか事象を変化させるのではなく、この世界の情報を変化させる魔術に大きな適性を見せる雅紀。情報を操作するという感覚は、デジタル化された世界に深く足を踏み入れているが故だろう。静は物質の操作、康太は身体の強化、朱莉は想像の具現化。同じ世界出身かつイメージで使える魔術で、得意とする分野にこれほどの差を生み出すのを、ちゃっかりと覗いている神様も面白がっていたりする。
この魔術を理解し使えるようになるまでは、魔力をエネルギーに変換することしか考えていなかった。静の得意とする魔術はこの段階であるけれども、いくつかの段階を踏むことで、複合的に驚異的な威力を手に入れた。朱莉は想像力にものを言わせ、康太は直感で操作している状態である。
そんな物理法則を変えるという神様じみた力を何となくとはいえ、使えるようになった雅紀は前から思っていたことが急に気になり始めた。
それは、人はどうしたら王者になれるのか、という疑問である。
単純に言えば、ある分野においては王者に敵うものがいないからである。ボクシングの王者は、ボクシングで誰よりも強いから王者なのである。けれども、他の面に目を向けてみれば、そこらの小学生でも勝てそうな面はある。
そしてある結論に至った。王者が王者たるために必要なのは、ルールだ。王者が得意な世界だけで競い合えるようにするルールが。
ボクシングという競技を成立させるためのルールであるように思えるのは間違いでもないが、王者を王者として守っているのもルールである。流石にボクシング王者でも、刃物を持った相手には必ず勝てるとは言えないだろう(もはやボクシングとは言えない)。
ならば、どうすれば王者になれるのか。
簡単だ。相手を無理矢理自分の土俵に引きずり込めばいい。いろいろな競技で言われている自分の土俵なんて可愛いものではない。
自分だけが知る。自分だけが動ける。自分だけが対処法を知る。
自分だけが勝てるルール、つまり世界を作り出してしまえばいい。
ここまではいかなくても、これに則って法則を捻じ曲げれば、王者ではなくとも勝者にはなれる。
超重力の世界。真空の世界。放射線溢れる世界。いくらでも自分を有利な状態に持ち込む世界は作れる。
この世界への切符を手に入れたのである。ならば、これからやることは当然、新しい世界作り、・・・。
しかし、それでは面白くないと思うのが遠坂雅紀である。自分よりも強い相手に出会ったからって、すぐさまその戦いを投げるような真似はしたくない。子供っぽいが、これまでの心の柱になっていた。師匠へ一発入れたい。そんな思いでここまで十年以上も我武者羅に頑張ってきたのだから。
もちろん大切なものがかかっているならば、どんなに卑怯な手を使うこともやぶさかではない。それでも、今のように余裕もあって相手と自分の競う世界が同じならば、それでねじ伏せてなんぼである。
こんなことを、命のかかった状態で考えるほどに優位に立っているのでは、どちらにせよ変わりがないように思えてしまう。一振りすれば首が少なくとも一つは飛び、オークの巨体の振り下ろされた腕の下、股の間、脇をすり抜け、素早く確実に草原の侵略者を屠っていく。
初めに色違いが出てきたときは、レアもんゲットだぜ、みたいに考えていたが、どいつもこいつも色違いになり始めてからは、テンションが上がっていた自分が恥ずかしかったのか、俯いた状態で八つ当たりが決行されるのだった。
そして、顔に登っていた血液が下り始めて、強烈な音と大きな魔力の反応、そしてその向かう先にいる冒険者の反応を捉える。
人の命がかかっているのならば自重することはなく、全冒険者の位置を把握、強制転移、防壁に合わせて結界を展開。魔法の進行を遮断するような結界を張る。見た目の問題から、術者が近くにいた方がいいかなどと考えて一足遅れて、着弾寸前に移動を終える。
周りを見渡せば、先日しつこくいびってくれたメルタが頑張ろうとして固まっていたので、煽っていくスタイルをしっかりと忘れない。
「もう心配しなくていい」
顔を青くしていた指揮担当には、優しく声をかけておく。これも神経を逆なですればいいな的な軽いものである。
「治療施設の近くまでオークが押し寄せてきたんですけれど、そっちは大丈夫ですか?必要なら手助けします」
直後に草原で急に雹が降り、静の声が聞こえる。自分の仕事は渡さない旨を伝えて、カッコよくオークに突撃しようかと思うも、腹ごしらえのほうが優先だと思い、自分で狩った分を炙って齧り始めるのだった。




