獅子の戦い
太陽が頭の真上を通り過ぎたか過ぎていないかの頃。
紅の獅子を先頭に、冒険者と騎士団の姿は街の最外壁の外に見られた。和気藹々と昼ご飯を食べてはいるがその顔には緊張が見え隠れしており、いつ始まるのかわからない戦いに意識が向いていることが分かる。今も雅紀が作ってくれたという防壁の上から目に自信のあるやつが森に目を凝らしている。
総大将を押し付けられた俺、ラルフも別に違いがあるわけでもなく、警戒を解くとこはなく昼飯を食べていた。
朝のうちに宿で用意してもらっていたサンドウィッチをぬるくなった水とともにいただくのが俺たちの昼めしだ。他の連中が干し肉や硬いパンにすごい顔をしながらかぶりついているのを見ると何ともましなものに思える。魔法の袋があれば、戦闘中にぐちゃぐちゃになることなんてないからな、多少は凝ったものが食えるというもんだ。
・・・。
しっかし昨日食った砂糖旨かったなあ。あんなものを簡単に作るってことは、あいつらは日常的にあれを食ってんのか。非常に羨ましい。甘いっていうなら果物だが、簡単に買える果物であんなに甘いのは珍しいからな。あ、でもメルタなら知ってんじゃねえのか。
「なあ、メルタ。甘いもので好きなもんってあるか?」
「ラルフが贈り物だって・・・。こうしてなんかいられないよ。ちょっと、いい?」
「ダメに決まってんだろ。別にそういうことじゃねえよ。昨日の砂糖でちょっと、な」
オズの野郎揶揄う気が満々のようで、いつものことながらイラッとくる。
メルタの奴は恋愛に関してはポンコツなんだから初心なんだら冗談も通じない。今も顔を赤くしている。どうやら家を飛び出したことも、実は婚約がどうとかと聞いたことがある。
「そういうことなら・・・。完熟したエプルとかいかが?」
「あー、でも、あの砂糖には比べらんないわな」
「果物の甘さと砂糖の甘さは別物ですわ」
果物は風味を合わせたのもんだからな、そりゃ比べらんねえかとため息を吐く。
しばらく雑談で時間をつぶしていると、草原の雰囲気が今までよりも嫌な感じになる。ただの勘だが、高ランクの冒険者なら大抵持っているものだろう。他の連中もちらほら気づき始める。どうやら、街に徹する時間も終わりになるようだ。
監視担当の方に顔を向けると頷いているから、感は外れてくれはしなかったようだ。手っ取り早く片付けて装備を確認し、周りへと声を張り上げる。
「今草原でオークを見つけた。もうすぐ戦闘になるから各自準備を始めろお!」
さあ、俺たちももっと前へと進むことにするか。
森がようやく見えるラインまで進み、そこで接敵してからしばらく経った。どれ位かははっきりとはしないが、太陽がさっきより傾いているから1時間は経っているだろう。
その間ずっと倒してきたわけだが、特に問題もないな。出てくる数もまばらで、どのパーティーも均等に敵を抱えることに成功しているから、そこまでの危険があるわけでもねえ。まあ、オークなんてBランク以上にとってはそこそこの金が手っ取り早く稼げるカモ扱いされているしな。
今もサーシャが1匹で歩いているのを見つけては突撃して、いろいろなものまとめてぶった切っている。切った時に血があんなにもかかっているのだがまったく気にした様子が見えないのは、年頃の乙女的にはどうなのだろうか。オークのことを敵視しているならば、オークが溢れかえっているこの戦場は地獄のように感じられることだろう。
前線に駆り出されるだけあってどのパーティーも実力は折り紙付きだ、というか良く知った仲で一緒に仕事をすることもあるのだがな。そういうわけで大抵は魔法の袋を持ってて、自分たちの狩った分をしっかりと懐に収めているわけだから、草原がオークの死体まみれにならずに済んでいる。そのうちどれくらいがお金に変わるかは知らんがな・・・、打ち上げで全部消えるんじゃないか?
こうして考え事をしている間にもどんどん出てくるから暇しなくていいが、そろそろ疲れ始める連中も出てくるな。おっと、背中見せてるのがいるな。駆け寄って足を払り、頭に一発。と簡単にできる奴らは稼ぎ時だな。
他の獲物を探しているのだが、大抵一発で決められてだんだん前に進むもんだから森の縁が見え始めてきた。これ以上前進すると壁に待機させている部隊のサポートが受けられなくなりそうだ。ここは一言掛けておくべきか。
「これ以上の前身は危険だ!ここをラインに待ち構えるぞ!」
「リーダー!あっちで上位種が固まって出たらしくて呼んでるぞー!」
ようやく職持ちオークのお出ましか・・・、だが、森で見た限りではこれからが本番だろうな。
呼ばれたんだがどうにも時間がかかるな。数が増えてきたみたいだな。今も移動直線上に片手で数えきれないくらいいるが、突っ切らせてもらおうか。・・・拾うのは諦めよう。
まずは足に魔力を纏わせて強化。これなら身体強化するには及ばないがほぼ魔力を使わないで済む。ついでに剣にも纏わせておく。魔剣だけあって魔力の通りは良いから、これも大した負担にはならない。
走り抜け様に足、頭、背中、肩、胴を切りつけていく。完全に息の根を止めることが出来なくても、機動力を削いで壁に近ずくことができないようにすればそれで十分な戦果になる。オークは体型的に足をやっちまえばただの的に変身するからやり易い。
抜けた先には言われた通りに職持ちがいるが、先客の冒険者がいるのようでやりづらい。勝手に獲物を横取りするのはマナー違反だが、緊急時たる今は許してくれるだろうとは思うが取り分がどうのこうのとかなりそうだ。面倒くさいから今回も拾わずに行くか。
数は1人で飛び込むには少し多いな。なんか付いて来てるやつに頼むか。
「サーシャ、付いて来てんなら手伝え」
「どこ?」
「後ろの遠距離系を潰せ」
ん、と返事しているようだが、相変わらず聞き取りにくい返事だな。伝えたことに何も言わないときは了承のようでしっかりこなしてくれるからいいんだがな。っと、目の前に集中するか。盾が2枚に剣と棒が1枚づつか。
まずは厄介なこん棒持ちから片づける。身体強化を施して踏み込み、って、こいつら脳内無いから振り下ろしがほとんどなんだよな。まあ、剣で逸らしながら横へ一歩、がら空きの首を落とす。続けて、ずれた頭を剣持ちに蹴りつける。弾くのに切る必要もないのに剣を振り切ったところで、肩を落とす。剣はやや速いから攻撃手段の無力化が先だな。
あとは盾っぽい何かを持つ2枚。サーシャの方からもブヒだのブモーだの聞こえてくるが、ここらで先客に声だけはかけておく。声を掛けるというより一方的に宣告しているだけなのだが。
盾が2枚もあるのに横並びとはやはり考えなしのようだな。少し脚捌きでフェイントを入れてやれば、ほら、あっさりと見失ってるから、横から盾を持っている両手の先を落とす。気付いてもすでに遅く、繋げて胴を分ける。
もう1匹が仲間がやられたことに怒って突進してくる。盾を突き出しての突進、こいつだけは色も違うからさらに上位の種か。どれ、今日初のお披露目といこうか。
剣を成せ。この一言で俺の剣の全力を引き出せるんだが、相変わらず恥ずかしい。魔力操作がうまければどんな魔剣でも一言も発さずに使えるらしく、非常に羨ましい。これは作成者の趣味らしく、他の魔剣や魔道具では発声は必要なく、魔力を流すだけでいいのがほとんどだ。無言の方が相手に気取られないから練習してるんだが、その時点ですでに羞恥心でやられちまう。いつ心を痛めるかの問題だな。
起動すれば剣が魔力を使い、炎を纏うことで一回り大きい刀身を生み出す。温度は込めた魔力量で変わる仕様で今回は最小量しか食わせなかったが、木製の盾ごとぶった切るには十分だった。金属となるともうちょい上げないとたいして違いが出ず、意味がない。
真っ二つにした断面からは、ときどき焦げ臭いがいい匂いが漂ってくる。しかし、さっき言ったようにもらうつもりはないが・・・、助けたパーティーがどうしても持って行ってくれというのならばしょうがないな、ああ、貰っていくことにする。
サーシャもとっくに終えていて疲れた様子もなさようだし、しばらくは上位種の対処に付き合わってもらうことにしよう。
その後もしばらくは上位種を取り除くことをメインに動いていたが、それが視界に入ったときは心が砕けそうになった。
草原にオークの上位種だけで構成され、バラバラに散らない集団。有望視されていたBランク冒険者の意識さえも刈り取る咆哮を扱う魔物。視界いっぱいを埋め尽くす魔法の弾幕。
群れから外れたものを刈っていたためにだいぶ前まで進んでいて、距離が近くて敵の魔法が少ないというのに、対処が間に合わないと確信してしまうほどの飛んでくる魔法。魔剣で炎の壁を広げて、一緒に行動していたサーシャもその影に引きずり込む。
近いだけあって、俺たちのところに一番に魔法が降り注いでくるようで、炎の壁に次々と当たってくる。レベル1や2程度なら問題はないのだが、それ以上は少しずつ魔力が持っていかれることになり、この数全てを防ぎきるとなると、この後の戦闘が厳しくなる。
ああ、魔法使いの補助が欲しい。
ああ、だが、お前じゃないんだ。
こんな常識壊すような魔法で助けて欲しいんじゃない。普通の防御魔法で援護してくれるだけでいいんだ。
ほぼ全員を壁の上まで移動させて、見たことのない魔法で創られた壁で飛んできた魔法を受け切ってくれなくてもいいんだ。
助けてくれたことには本当に感謝しているのだが、何事もなかったかのように伝説の魔法を立て続けに使わないでほしい。またこうしている間に、空中に雲ができたと思ったら氷の雨が降り注ぎ、破裂音まで響いてくる。群れの外側にいたオークはほぼ全滅し、内側にいたのも大きな被害を受けているのが壁の上から見える。
今のはシズカがやったようだが、どこから放ったものなんだ。治癒施設にオークが来た、とか言っていたが、まさかそこを守りながらここで魔法を使ったのか? だとすれば魔法を飛ばすのではなく、魔法の発動位置をこの距離伸ばしたっていうことだが・・・。
まあ、あいつらならやりそうだな。それと、マサキは旨そうに肉を食べている場合ではないと思う。なんか釈然としない。




