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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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開戦


 スーシーによって出戻りする羽目になる主犯一同。肩を掴んでから魔法で拘束するまでが、非常に手慣れて速かったことに感心している。眠くて抵抗する気も起きず、大人しく引きずられることにする。小柄とはいえ、人を4人も引きながらも力んだ様子は見せないのは、冒険者ギルドサブマスターとしての意地だろうか、問題児たちへの対抗心故にか、どちらなのだろうか。


 冒険者で暑苦しい中を下から覗き込みながら、頭を抱えたげにしている人の下へと連れていかれる。


「ギルマス。主犯捕まえてきました」


「主犯とは穏やかじゃないのう。まあ、助かるのじゃが」


 顎が外れんばかりまで広げ、すでに隠すつもりもなく欠伸を漏らしている寝不足の学生勢。そんな腑抜けたような主犯の姿を目の当たりにして、心の中で顎が外れんばかりになっているギルドマスターのガストと紅の獅子にとっては、顔の血管が浮かび上がらせる姿に他ならない。頭を悩ませる原因が、のほほんと寝ぼけた顔を晒しているのである。


 寝ぼけ眼をクシクシと擦り、ズリズリと背中を地面で擦りながら引きずられた主犯たちの顔には、満足げな笑みが浮かべられている。大きな仕事をやり遂げた後の達成感に溢れたその笑みは、それ単体で見れば、かっこいいや凛々しいと評されるだろうが、どうにもズリズリ運ばれ、瞼がときどきバスンと落ちてくるのでは威厳は全くと言っていいほど感じられない。


 連行された主犯は、全冒険者の先頭にいたギルドマスターの前に座らされる。大勢の冒険者の注目を集め、強面のギルドマスターからは上から睨みつけられる中、眠気に抗うのをやめたのか、目を閉じたまま釈明を始める。しかし、それはもはや釈明と言えるものではなかった。それというのも、何やら語っているときの表情が目を見ずともわかるほどのドヤ顔を晒していたのである。



 瞬間で出戻りする羽目になり、その上、目立ちたくなかったにもかかわらず晒し者にされてしまうも、自信のある作品について聞かれたならば、答えるのが職人である、とのモットーに基づいて話し始める。


「今回ご用意した防壁は、同型の防壁4枚セットです。外から見て深さ10メートルで長さ20メートルの堀、続けて高さ10メートルで厚さ20メートルの土塁の1組で1枚ですね。これを500メートル程の感覚で配置しました。硬さは、そこの魔法使いが見せてくれた大きな魔法が数発で破れる感じですね」


 突然、比較対象として指さされたメルタは怖さを思い出してビクッと震え、周りの冒険者はAランク冒険者の大魔法数発を耐える即席の壁という壮絶結び付けがたい言葉に、顔を面白いように青くする。


「1組につき一発や二発は耐えられるということか?」


「いや、まさかそんな柔らかい壁作るわけないじゃないですか。うまくすれば1組で二桁耐えることもできると思いますよ」


 ここでも客観的な戦力分析ができずにいる新入りに上層部は頭を抱え、その実力を知らない冒険者は騒ぎ立てる。周りが騒ぎ出す中、雅紀たちはだいたいのことを説明し終えたと思ったら力を入れて頑張ったところをアピールし出した。どうにもプレゼンをしているときのスイッチが入ってしまったようだ。


 壁の途中には抜かりなく移動用の扉を設けた上、しばらくは壊れないようにしっかりと補強したとか。その上、防壁というのは機能性だけでなく見た目も追及しなければならないという考えの下、他の建物から予想された中世のような時代に有り得たもので日本らしさのあるものとして、戦国時代に見られた石垣、を模した装飾を表面に施したとのこと。最後の方には慣れてきて、遊ぶ方に力が回されることになったようだ。


「おいおい、そんな冗談みたいな話あるかよ」

「どうせそこまで硬くないだろ。メルタさんの牽制を全力でも思ったのか」

「見たことも無い奴らだし、そうに決まっている」


「分かった。ご苦労だったな、依頼達成だな」


「うっす。はあ、ようやく眠れる。何かあったら呼びに来てくださいね」


(これを徹夜で作ってたのか。とんでもないな)「分かった、あの宿だな。それと強度を試してみたいんだがいいか?」


「少しの傷なら直るようにしたので、派手にやらなければご自由にどうぞ」


 きだるげに手を振って今度こそ街の中心部に歩いていく。最後に爆弾を投げ込んでいくのも忘れず、そのせいで中堅の冒険者が勢いづいてしまう。自信満々に言い張るほどの硬さなのか、滅多にお目にかかれない自動修復がかかっているのか。どうせ手柄欲しさゆえの見栄だろうと推測し、その鼻っぱしを叩き折ろうと壁に向かっていく。駆け出しはデカい壁を作れるというだけで競う気すら沸かず、熟練者は立ち振る舞いから本当の実力の一端が分かってしまうのである。


 その日の昼、ギルドの食堂には暴走前だというのに、自信を失ったもの、武器を失ったものがたくさん溢れることになったとかならなかったとか。



 夜中にぶっ通しで作業していたものの、必要となる睡眠が長くなるわけではないようで、いつもと同じだけを朝からとるだけである。寝ぼけていると頭(特に倫理面)が働かないようで、何も戸惑うことも無く雅紀と静、康太と朱莉で別れて宿屋の部屋に入っていく。簡単に魔法で汚れを落としたと思ったら、ベッドに倒れこむようにして全員が全員寝入ってしまうのであった。


 そして寝ること7時間。何やら街のあちこちから、人の走る音に合わせて叫び声も響き、同じ方向から途切れることなく金がしきりに叩かれているのが聞こえる。その音でようやく目を覚ます4人。ぼんやりしていると今度は部屋の入り口が叩かれ、宿屋の女将がしきりに話しかけてくる。起きているのか、今すぐ動けるのかを聞いてくるので、緊急事態が起こっていることに辿り着く。そしてこの緊急事態が魔物の暴走に他ならないだろうことも理解する。


 未だに叩かれているドアの音を聞きながら着替え、勢いよくドアを開けて女将を置き去りにして走り出す。いきなり飛び出してきたEランク冒険者に何やら言いたいことがあったようだが、目の前でだんだんと体が薄くなって廊下の中頃で完全に見えなくなってしまい、言いたかったことが中途半端に口からこぼれて終わってしまう。そのいなくなった場所を少し見つめるも、鳴り響く鐘で気を取り戻してほかの部屋の確認へと回っていくのだった。



 街の中に張り巡らされた大通りのうち北と西に向かうものはさながら戦場のようだった。


 大きな荷物を抱えた街の住民たちが、我先へと進もうとして渋滞を作って押し競饅頭にいそしみ、それを解きほぐそうとして冒険者とみられる格好をした人が駆け付け、大きな声を出す。中には馬車のようにデカいものを運ぼうとして、周りから白い目で見られている商人もいる。しかし、街中に配置されている冒険者のランクが低いせいのか、それとも恐怖に煽られているからなのか、まったく統制が取れない状況に陥っている。


 そんな光景を足の間から()()()()ながら、雅紀たちは南門へと走り去っていく。魔法があるとはいえ建設技術自体はそれほど高いわけでは無く、ほとんどの建物は高くても四階までで収まっているため、地球でも広まっていたパルクールのような感覚で屋根の上を走り抜けることができる。魔法がある世界とはいえ、30階のマンションの上を走るのは感じ、魔法でその高さを飛ぶのは怖くないというのは何やら奇妙な感覚を併せ持つ状況に陥ってしまっているが。


 ギルド近くの宿をとっていたために街の外に辿り着くまでに少々時間がかかってしまうが、外に出てから情報を集めたり指揮官を探したりするのにかかる時間を考えればトントンといったところか。転移を使うことなく街の上を走り抜ける。街の中心に近いというのに、そこから防壁の外側の先頭で上がった煙や土埃が見えるということは、相当激しい戦闘が繰り広げられていることが分かってしまう。


 商店街の上を走ること15分。ようやく元あった街の防壁に辿り着いて外に出ることに成功する。そこは・・・


 いつも通りの草原が広がっていた。パッと見で装備からして街の中で避難誘導していた冒険者よりは腕が立つが、外で防衛に当たっている中では一番低いと思われるランクの冒険者がまばらに広がって数匹のオオカミやウシ型の魔物を狩っている。


 ついでに、先日立ち寄った教会で忙しく治療していたのを見かけた司祭が、そこそこ忙しそうに治療に当たっている。以前見たよりも白い法服を着ている人の数が増えているようで、疲労困憊している者は見受けられなかった。ホワイトな世界に戻ってこれたようで何より、と考えてしまう地球出身者たち。


 その隣で指揮を執っているギルドのブースは非常に殺伐としており、普段ならば人当たりのいい声で対応している受付嬢たちが、素を曝け出すようにして全力で各指揮系統へと送るべき情報と指示をまとめ上げていく。その奥では、地図を開いた机でギルドマスターと辺境伯が顔を突き合わせていた。と言っても、特に相談しているわけではなく、集められた情報をわかりやすいように再構成しているだけである。


 一番手っ取り早く情報を得られそうな場所を見つけ、周りの目を気にすることなく雅紀たちはその中へと入っていくと、のんびりと地図上にチェスのような駒(この世界の定番のボードゲームらしい)を置いている老人たちが、暇つぶし相手を見つけたかのように嬉しそうにする。作ってくれたものについていろいろと言いたいことが溜まっていたらしく、捕まえたら逃げ出せないような雰囲気を醸し出していた。


 もちろんそれを承知の上で中へと入る雅紀たち。捕まらないようにのらりくらりと会話の流れを変えていると、入る前に目配せしていたスーシーがここで合流する。しかしその顔には、いつものように雅紀たちへ向けている胡散臭い実力付き詐欺師を見るような目はなく、真剣そのものであり、初めて出会った時を思い起こさせる顔だった。

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