スーシーの受難
輝く太陽、依頼を探して盛り上がる冒険者たち、そんな彼らを相手にして商売魂が疼いている店主たち。
長らくこのエリンエルの街で暮らしてきて、毎朝の日常になった光景です。そんな喧騒をバックに仕事を片付けていきます。この街はグリュール王国の南の砦と称され、王国内でも有数の冒険者の数を誇るため、冒険者ギルドの仕事もその数に比例して膨れ上がっています。そんな量の仕事をこなすのは、やりがいがあるというか、ありすぎる感がぬぐい切れませんね。
冒険者時代にはそこそこ名が売れていて、相方が冒険者から足を洗うというときに、ギルドからスカウトが掛けられたときは舞い上がって受けたのですが、今からしてみれば少し早まったかなって思います。当時は、受付嬢はそれなりに手取りがいいと聞いていたので躊躇いなく受けたのですが、冒険者上がりの受付嬢としては少し苦労させられました。まあ、冒険者時代に女だからって受けたものに比べれば大したものではなかったのですけれどね。
その後は、冒険者時代に培った洞察力を生かして頑張っていたら、気が付いた時には今のサブギルドマスターの立場にいたのです。この立場にいると街の人からは尊敬の視線は向けられますが、同じ一市民として接してくれる人も少なくなり、おまけに秘密が多くなってしまうために付き合ってしまう人もいなくなってしまうのです。是が非でも結婚とかしたいわけではないのですけれども、今になっても毎度毎度手紙をよこしたと思ったら、惚気るだけ惚気たと思ったら、恋人の一人もいない私のことを煽ってくるのですよ。ええ、本当にやめていただきたい。こっちは良い人が現れるのほ待ってて、そんな人が現れたときに捕まえられるように準備しているだけですよ。
え?自分から動かないと捕まえられないって?みんなして同じことを言うのね。元相方も手紙のたびに同じことを書きやがって。しかも本人としては心配しているつもりらしいから質がわりぃ。あのくそ頭お花畑が、先にゴールしたからっていい気になりやがって、好き放題言ってくれる。今度会ったときは、久しぶりに加減無しで一発かましてやるか。って、いけないですね。今は仕事中でしたね。
ここのところ、森の方でスタンピードの予兆ありとの情報を受けて対応に追われてロクに休めていないので、心が荒んでしまうのですね。恋人に一人でもいれば癒されるのでしょうか、あのお花畑さんによれば恋人はそれだけではないようですが、万年恋人募集中の私への当てつけでしょうかね、え? はっ!また引きずれ落とされるところでした。
加えて、聖王国の方できな臭いことが起きているとの情報の裏付けも取りたいところですね。この街の領主とギルマスが話していたのを聞く限り、早いうちに手を打ちたいがスタンピードにも対処せねばならず、困っているようでしたね。紅の獅子がこの時期に戻って来たのは、この街の防衛という観点では好ましいのですが、聖王国での諜報という面では何とも言えませんね。聖王国までの道のりはかなり厳しいですからね、凄腕の冒険者でもないと辿り着くことさえも難しいですよ。
そうそう、凄腕と言えば、新しくこの街に来た人の中に隠れた実力者がいたんですよ。ぱっと見はきれいな格好をしているから貴族か商人のご子息か何かかと思ったんですけれども、こそこそ話しているのを立ち聞きした範囲では、魔の森を抜けてきたっていうじゃないですか。あの森を軟弱な貴族が抜けるなんてまず有り得ませんから、なかなかの武芸者のようですね。本当に彼らとの対面には苦労させられましたね。
初めて会ったのは、スタンピードのことがもしかしたらのレベルで伝えられた後で、そうそう、どの冒険者を森に派遣するかをギルマスと考えていた時でしたね。突然、ギルマスの部屋にジョッシュが駆け込んできたのです。「人がワイバーンに食べられて、でも、食べられてなくて、ドシュってやったらワイバーンが落ちてきたんだよ、です」とか言ってましたね。今にしてもやはり何を言っているのかわかりませんね。そうですね、このときから私の心が致命的なまでにすり減り始めたんですね。
トーサカ・マサキ、サクライ・シズカ、シハラ・コウタ、ミヤシロ・アカリと名乗っていましたが、この辺りだけではなく、この王国や隣の帝国と聖王国でも滅多には聞かない名前ですね。カードを作ったときとは並びが逆のようですが、辺境伯への名乗りが違っているとは考えにくいですから、そちらの方が本来の読み方なのかもしれません。
本当に見た目はお金持ちの子供にしか見えなかったのです。言い訳するようですが、あんなに綺麗な髪の毛や肌をしている者が戦闘を生業としているはずがないのですから。まあ、その実力は見た目からはかけ離れたものでしたが。それと、一階に降りて食堂に向かい、ギルドの食堂で食事しているさまを見て、これは貴族ではないと考え、断定しました。貴族が食に飢えることはないのですから、このような光景を生むはずもないです。
そんな考えを抱え、サブマスとしての仕事にかかることになりました。もちろん、実力者へのスカウトです。この街はスタンピードがなくても、ただでさえ魔の森が近いことで強い魔物が流れ込んできやすいのですから、一人でも腕の立つ人間を抱え込む必要があります。しかも今回は、ギルドカードをこの街で作るということで、うまくすればこの街に定住してくれるかもしれない案件です。やる気が入らないわけがないです。年齢を聞けば17歳だっていうではないですか。これは逃がせませんね。
「!ワイバーンを一撃ですか。逸材ですね」
冒険者になろうとするものは、向上心が強いというか顕示欲がすごいというか、まずは褒めるところから始めます。実際、ワイバーンを倒せるのは条件がそろってもBランクのパーティーは必要ですから、称賛に値することです。これで、ドヤ顔晒すことでしょう、さあ。
「いえ、あれは使い捨ての道具です」
あれ?この人たちは誇らないのですか?な、なかなかに手古摺らせてくれますね。自尊心をくすぐるのは後にして別の方法、そうですね、同情心なんてどうでしょうか。実力があるといってもまだ子供ですし、何とかなりそう、というより、してみせます。
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どうしてでしょうかね、どうやってもうまくいく気がしませんでした。スタンピードのことを説明しても、何それという顔をしていましたし。ただ、時系列を説明する中で反応を示したところがありましたから、そこに掛けるしかありません。もう残り時間はあまりないので、ダメ押しに気付いてますよアピールとご飯の奢りでも仕掛けておくしかありませんでした。その夜に別の方面からの情報で裏が取れましたので、復讐を誓わせてもらいましたが。
その翌日には流血沙汰に薬草騒ぎ、昨日は謎の魔法に謎の魔法。そこで少しだけですがやり返すことができ私的には満足でしたが、よくもまあこんなに問題を起こせますね。しかも、謎の魔法の中は草原で、メルタさんが一方的にやられたとか。ああ、マサキさんたちは別の星に生きているのですか?まあ、その後に実力を知ることができましたが。
それにしても、突然にも辺境伯様へお目にかかることになったときの落ち着き具合は羨ましい限りですね。あと、あの惚れ惚れするような礼儀作法も羨ましいです。そして何よりも羨ましいのは、あの砂糖です。私だけでなく、辺境伯様でさえも見たことが数えられる程度の白い砂糖です。ただでさえ砂糖は高くて口に入らないというのに、それを捨てるかのように使ったお菓子は大変美味でした。
その砂糖は作れるとかで、目の前で披露してもらいましたが、ちんぷんかんぷんでした。電離?プロトン?聞いたことのない言葉でしたが、こちらが理解できないのを承知の上での説明のようでした。マサキさんの、やっぱり分からないか、という顔は非常にイラっと来ましたが頑張って我慢しました。砂糖に免じて追及はやめて差し上げましょう。
砂糖作りで披露された魔法はどれも洗練されており、あのレベルが攻撃用の魔法でも同じだと思うと冷や汗が止まりません。私も魔法使いとして活躍していたため他人の魔力を読むことができるのですが、分かったことは膨大な魔力をその体に秘めていることと発動が異常に速いことぐらいですね。是非とも、この街の中では暴れないでもらいたいですね。砂糖を作ってバラまくことだけに専念してほしいものです。
おっと、私事が漏れてしまいましたね。しかしまあ、こうしてみると、この街に来て数日でこうも問題を起こすとは、ある意味才能ですね。ふう。さて、回想はこれくらいにしますか、いい気分転換にもなったことですし。スタンピードが目の前に迫っている今、のんびりと休んでいる暇はないのです、さあ、この書類を
「おい、なんか街の外になんかやばいもんがあんぞ!!」
どうしてこうも仕事にならないのでしょうか。やはり、あの問題児たちのせい、なのでしょうか。もしもそうならば天誅を与える必要がありそうです。略式裁判、判決、一片の疑いなくギルティ。ということで、冒険者時代に名をはせた私の腕を見てもらうことにしますか。一世代前のものとして、これからを背負う若者に力を見せるのは悪くないことですから、しょうがないですね。決して私怨ではありませんからね、そこを動かずに待っていてくださいね。




