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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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開戦・・・の前に


「それで、紅の獅子はどうやってここまで戻ってきたんだ?南の森でオークに囲まれたことは聞いたのだが、それって夕方の話だろう。そこからではどう頑張っても戻ってこれないように思えるが?」


 特に重要そうな感じもせず、今まで放っておかれた問題に言及され、ラルフが何とも言えない顔で、「あー」とか「えー」などとはっきりとしない。その返答にガストの顔が険しくなるが、朱莉の恐らく魔術で、森の中から一瞬でギルドに移動させられたことなど信じてもらえるとは思えない。そして、その非常識の魔術を使いこなす雅紀たちに頼んだ防御陣は、どんなものになるのか不安に襲われてしまう。


「信じてもらえるかわからないのですが、朱莉の魔法で気が付いたら森からギルドに移動していたんですよ」


 雅紀たち四人が魔術師であることは、一応伏せたままでラルフは説明を始める。サーシャに教えただけなのに、ギルドマスターや貴族にまで知れ渡ることは予想してはいないだろう。


「それは転移ということか。転移と言えば、Sランクにも一人いたな」


「いや、さっきのは転移というよりは、なんか門みたいのでここと森を繋いでましたね。そこをくぐると一瞬で門の先へと移動できる感じでした」


「つまり、Sランクと同じ魔法が使えるということか?」


「マサキは数百のオークを一瞬で潰してましたし、それくらいかと」


「そんなすごいのに任せきりで頼んじゃったよ?」


 ラルフたちと同じ懸念に至り、ガストとロジックは頭を抱えだす一方で、ガナルは大笑いしている。超一流と認められたSランクと同じ魔法を使いこなすのがEランク冒険者で、その冒険者が作るということがツボに入ったようだ。


 本当に気がかりでしょうがないが、上に立つものとして頼んだことが終わるまでどっしりと構えていなければならず、ガストにとってはなかなかに胃が来るものが大きい。そんな心配を笑い飛ばすように、ガナルは久しぶりにガストとともに晩酌を始めるのだった。


 そして翌日。


「おい、なんか街の外になんかやばいもんがあんぞ!!」


 懸念していた通りに、とんでもないものを作ってくれたらしい。



 その日の朝は、魔物の暴走が近づいていることが公表され、なかなかの騒がしさでホールが埋まっていた。これはある程度は予想されていたことであり、正式に公表されるのが早いか遅いかの違いであり、何度も乗り越えてきたこの街の人間にしてみればたいしたことではなかった。しかし、二方向から同時に今までと同規模の暴走が襲ってくるとなると初めてのことのようで、冒険者の間に戸惑いが広がりだす。


 この街に長期間住んでいる冒険者ほど経験が豊富であり、その危険性を理解しているが、逆にこの街に深い愛着を持っているようで、準備を素早く始めようとする。愛着があってもランクの低い冒険者は、魔物の討伐をそこまで経験したことがあるわけでもなく、暴走は未知のもので恐怖の対象となる。そんな冒険者は街中の避難誘導や負傷者の介護などの安全圏での仕事が回されていく。


 大人数での仕事となるため、ランクごとで大雑把に仕事を割り振っていき、その中で連絡がいきわたりやすいようにリーダーを決める。総大将は、もちろんこの街の象徴であるラルフ率いる紅の獅子である。騎士団とも連絡を密にとるように釘をさすのも忘れない。

 

 そこまで決まれば、後はいつも通りに依頼を探して仕事を受けるだけである。いくつかのパーティーは、いつものように草原と森に狩りに出かけていく。


 大まかに決まって解散し、しばらくの間、ギルドでは遅れてきたパーティーに対応していると、いつものように出ていった冒険者が、なかなかにすごい顔をしながらギルドに帰ってくる。


「なんか街の壁の外にもう一枚壁があんぞ!」


 やっぱり早まったか、と微妙に後悔するギルドマスターではあるが、冒険者の上に立つものとして、その者たちの前で情けない姿をさらすことは避けなければならない。いかにも、ようやく完成したか、みたいな顔をして視察しに出ることにする。昨日にはなく一日で作られたのに、ようやくか、と反応するのがいいのか悪いのかは何とも言い難いところではある。


「あれは、儂が依頼して作ってもらったもんじゃから、心配せんでええ、安心せい。今から見に行くがラルフも来い」


 威厳を保つように堂々とほらを吹き、リーダーを引き連れて街の外へと向かってギルドを出る。その後ろをたくさんの冒険者が付いてくる。ギルドマスターが多くの冒険者と共に、魔物の暴走に対応するために行動しているという、傍目からすれば素晴らしいことであるのだが、実際の心境は、どれだけやばいものを作ってくれたのか自分の目で確認しないと安心できない、という臆病なもので一杯だった。



 朝日が十分に高くに登り、朝から昼と言える時間に移り変わったころ。雅紀はあくびを噛み殺しながら街の北門へと向かっていた。街の中を移動してではなく、草原から北門へと帰っている途中だった。


 昨日の夜、ギルドにて依頼された防衛拠点づくりをようやく終えたところである。時間にして半日近くがかかっていた。ギルドで辺境伯とあったのが夜の6時過ぎで、話を聞き終えて街を出たのが9時前だった。


 北門へと続く街道を歩いていると、すでにほかの三人が防壁の一つに集まっているのが雅紀の視界に入ってきた。みんなしてあくびを噛み殺しながら、なんかのジャーキーを齧っていた。声を掛けると、返事と共に肉が投げられる。


「お疲れさん。ついでに、おはようさんっと」


「おはよう。なんか徹夜した後のおはようって違和感あるよね」


「おはようは、寝た後の挨拶って感じが強いですからね」


 もう一人は肉を口いっぱいに詰め込み、んごんごしていて、何を言っているのかがわからなかった。半日近く夜の草原を散歩することになるも、電話しながら取り掛かっていたためそこまで暇することも無く、この巨大城塞都市エリンエルの防壁の一回りも二回りも大きい防壁を、半円分とはいえ構築し終えた。そして現在、ようやく個人で作業し終えたのでこうして集まっているのである。


 外側の担当を勝ち取った(魔術が使う量が多いために取り合いになった)雅紀が、街に戻る途中で暇にかまけてワイバーン肉を燻していた残りに合流した形になる。膨大な量の魔力を消費するも、森の中でのようには食べていたわけではないので、一同はとてつもない疲労感と空腹に襲われていた。


 この後は、自警団の人間に任せてひと眠りしたくてしょうがないが、依頼である以上は依頼主であるギルドマスターの確認を取らなくてはならず、一休みしてからトボトボと足を動かし始める。作った壁を一枚二枚と超えた辺りで、今向かっている北門からではギルドが遠いことに気が付き、転移で済ますことにする。やはり睡眠が足りていない頭は、十全には働かない。


 この街の外壁の傍は何度も依頼で目にしているため、スマホを補助としてする必要もなくなっている。またも隠せないあくびを漏らしながら、ゲートを開かずに個人で魔術を発動させて南門へと飛んでいく。南門までは街中を突っ切っても10キロメートル以上あるのに気が付けていなかった辺り、かなりキていることの証だろう。


 ちなみに、大抵の魔術発動速度は、静>雅紀>朱莉>康太であるのに対して、転移などの周辺情報を利用する場合は、朱莉>(越えられない壁)>雅紀>静=康太の順になる。速度に差が出るといっても、普通の戦闘では差は出ないが、達人級の戦闘になると狙われ始めるかもしれないという、どうでもいいレベルである。


 移動すること10キロメートル、時間にして数秒、南門前まで移動した一団を迎えたのは、一夜にして現われた新しい壁を目の当たりにして、顎が閉まらない状態になっていて、突然現れた人にも何の反応も示さない冒険者の集まりだった。依頼人とも話せる感じではないので、昼頃にまたくればいいか、とでも考えて帰宅することにする。


 彼らの目の前に広がる現実では、高さ10メートル以上で厚さ20メートル程度の壁、そしてその壁の向こうに広がっている、その壁を地面から引き抜きましたかというような、同じサイズの堀が作られていた。そしてその幅は、南門から見渡せる範囲では途切れることはなく、壁の向こうにはまた壁、そのまた向こうにも、またまたその向こうにもと、()()にも及ぶ同じ壁が出来上がっていた。


 作った本人たちを知っている者からすれば、「ああ、やっぱりこうなったか」と頭を抱えたい衝動にかられ、お世辞にもいいとは言えない顔色になるが、何も知らされていない冒険者たちは、降って湧いた特ダネに大騒ぎを始める。


「なんだこの壁は!」

「いつの間に作られたんだ?」

「魔物がやったんじゃないのか?」

「けど、ギルマスは頼んだとか言ってなかったか?」

「じゃあ、こんなの作れる冒険者が来てんのか?」

「マジでか?!じゃあ今度の暴走も何とかなんじゃねえか!」

ワイワイガヤガヤ


 そんな連中を、何を騒いでるのか、やかましい、とでも言いたげな顔をしながら脇をすり抜け、門をくぐったところで、横からガッと肩を掴まれる。それと同時に強烈な寒気を感じて首をゆっくりと回せば、門の外からは死角になっているところに、にこやかな顔をしたスーシーが立ち、ヤバげな雰囲気を感じさせる。


「お、おはようございます」


「で?」


 朝からにこやかな顔を見せてくれたならば、挨拶を返すのが基本。そして、挨拶には挨拶を返すのも基本。でも挨拶は返ってこない。”Ⅰ☆殺”の気持ちなら返ってきた。


「えっと、徹夜して疲れたのでまた今度」


「ん?で?」


 またしても逃げの一手を打つも、返ってくるのは先ほど以上のドスのきいた言葉。気圧された一瞬で襟首を掴まれ、ご丁寧に魔法でぐるぐる巻きにされ、街の外へと出戻りする羽目になる。そのまま騒ぐ冒険者のど真ん中を突っ切ってギルドマスター前に突き出される。周りの冒険者の中には、あの薬草騒ぎの主犯だと気付くのもいたがそれはほんの一部で、残りのほとんどは見たことのない新顔に注意を払う。


 なぜか羨ましそうにしているものが見えたことは、全力で見なかったことにしたくなる虜囚であった。


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