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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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対面2


 丁寧な対応をしただけで、いろいろな視線が向けられる。興味を持たれるだけならまだいいが、ラルフの向けるこんな対応もできるのかという驚きに満ちたような視線には、思うところがあるようだ。そして何より、スーシーから向けられている、ぬけぬけと嘘を吐くような詐欺師はこの程度は軽くこなしますよね、みたいな視線には声を大にして、言い返したい心境になる雅紀であった。


 護衛役の軍人も驚いたような表情をしている。


「トーサカ・マサキにサクライ・シズカ、シハラ・コウタ、ミヤシロ・アカリか、珍しい名前じゃな、っと今関係ないか。それでガストよ、暴走についての話し合いをしたいとのことだが、どうなっている?」


ギルドカードの表示とは名前が逆になったが、後で訂正しておくことにする。もちろん訂正するのは、楽な方である。珍しい名前で全員が名字持ちであっても、特に聞きたいことがあるわけではないらしい。


「情報収集をこの二組に依頼し、これから報告を聞くところです。こちらに足を運ばれたと聞き、ご一緒にお聞きになってはいかがか、と」


「堅苦しいのう。後ろのこ奴も気にせんからいつも通りに話さんか」


 普段からの付き合いを感じさせる発言に、何度か抵抗しては崩すように言われ、諦めたように口調を戻すガスト。後ろの護衛もそこにいちゃもんを付けるような人間ではないらしい。こっそりラルフに聞いたところ、ギルドマスターと領主では対等に話すことはなく、貴族に限って面倒くさいとのこと。


「それで報告を頼んでいいか。先にマサキたちから聞こうか」


「この街の東南東、距離70キロメートルのところにオオカミ型、イノシシ型、樹木系の魔物が多数集まっていました。数は合わせて三千から四千程度です」


「それで統率していると思われる魔物はいたか?」


 後ろでスーシーが冒険者ギルド出版の魔物一覧を手にしている。


「聞いていたものよりも一回り大きな黒いオークがいました」


 黒いと聞いて、スーシーの指がハイオークのページを探る。


「そのオークですが大きなイノシシに乗っていました」


 素早く指が動き、ハイオークライダーのページを手繰る。


「ついでにこん棒を振り回した挙句、拳からは魔法を飛ばしてきましたよ」


 ハイオークファイター、ハイオークマジシャンのページも開く。そしてもう一ページ開いておく。


「それを一匹のオークがやったのかね?」


「そうですよ?」


「間違いなくハイオークジェネラルですね」


「ちょいとそれやばくないか?」


「はい。かなりやばいです」


 聞いていくたびに顔を青ざめさせていく二人を見て、首を傾げる冒険者一同。領主も思いつめたような顔をしている。ラルフが代表して、どうしてそれほどまでに絶望しているのか尋ねる。するとスーシーが無言で一覧の件の魔物のページを開いて見せてくる。


 ハイオークジェネラル。ハイオークの上位種で黒いという特徴を共有する。姿と生態はオークと似ているが、大きさは小さくとも3メートル、大きければ4メートルにも届く。ハイオークの中でも能力のあるのが進化することで到達するため、ファイターやマジシャンなどの技能を併せ持つことがほとんどである。脅威度は非常に高く、Aランクパーティーでようやく互角に戦えるほどである。過去の暴走では、核の魔物となり、街を複数壊滅させたこともある。しかし、その肉は非常に美味で、並みの貴族では手が出せないほどの高値で取引される。


「うん。やばいですね。南にも同格以上がいるんでしょう」


「おそらく南にいるのはハイオークキングだ。東にオークがほとんどいなかったのに対して、溢れるほどのオークがひしめき合っていたからな」


「やはりか。それで猶予はどれくらいだ」


 今までに何度も暴走を乗り越えてきたといっても、今までは両方向から同時に攻めてくるようなことはなかった。故に今までの自信が少し揺らぎそうになってしまう。とりあえずできることから取り掛かるという現場の判断を優先していく。


 雅紀たちとラルフから到達予想時間を聞き出し、対策を立てるために、軍の責任者でもあったらしい護衛役のロジックも席に着く。ここの領軍はエリンエル騎士団と呼ばれていて、エリンエル領の戦力の大半が振られている。


 ギルドマスターと辺境伯と騎士団長とラルフたちが作戦を考えている後ろで、雅紀たちは暇になり遊び始める。静に至ってはフライパンを取り出している。光学迷彩魔術、リフレクションを使うことで何をしていても外からはわからない。気を付けの状態で立っている映像を流し、その中では座り込んで遊んでいる。


 雅紀は血を吸ったトレント材の剣を手入れを始めるが、どうにも色に違和感が感じられる。今までの渋みのある色が、黒みがかったかのように感じられる。康太と朱莉は、朱莉の短刀づくりを始める。ときどき質問が飛んでくるが、しっかりと返答することで注意を向けさせない。


 しばらく経って、だいたいの計画を練り終えた辺りで魔術を解く。突如として変わる風景に驚く騎士団長だが、気にせずにクッキーを差し入れする。城壁都市ではいい材料が入らないため、あまり満足のいく品にはならなかったらしい。バターも小麦粉も質が悪く、他に入れる茶葉やらチョコは見かけすらしなかった。


 毒見として静が責任もって一枚、次に騎士団長が一枚齧って急にむせ始める。辺境伯とギルドマスターの目つきが剣呑なものへと切り替わる。それを見て慌ててロジックが説明する。


「ゴホッゴホッ。すいません。思いもしなかった味でしたので」


「どうした。食べたことのない変な味でもしたか?」


「そうですね。ここまで上品な甘さの菓子は初めてです」


「ほう、菓子とな。砂糖は高級品だったと思うのだがどうしてそれを?」


「やっぱり砂糖って高級品なんですね」


 聞かれたことに答えるわけではない雅紀の返答。


 この世界の物流についてまだ詳しくは知らない雅紀たちにとって、貴族は物流を支配する側であり、情報を持っている側という認識である。砂糖も日本ではありふれているが、先進国以外ではそれほどでもない。科学が進んでいない世界ならなおさらである。


 辺境伯という立場でも、砂糖をふんだんに使った食べ物はそうそうお目にかかれない。好きかどうかは別とするが。しかし、今食べた菓子からは、それに類する甘さを感じられた。


「これほどの砂糖をどこで?」


「えっと、魔法を使ってもいいのでしたら、今ここで作りますが、いかかがします?」


「それは面白い。是非見せてくれ」


「かしこまりました。材料はそこら辺の草で結構でして、道具はこのガラス瓶です」


 森の中でいつの間にか作っていたビーカーを取り出す。成形なんかは魔術とスマホの計測頼りになっている。


「まず、ビーカー、このガラス瓶に水を入れます」


 魔術で空気中の水分を集めて、液体に凝縮させる。


「この水に対して魔法で無理やり電離させて、プロトンを増やします。ついで、この中にそこら辺の草を入れてぐるぐるとかき混ぜ、溶け切ったあたりでろ過して、水分を飛ばすだけです」


 ただのスクロースの加水分解なんですけどね、と呟くが、誰も理解していないようなので置いておく。


 ビーカーの中の水が空中に持ち上げられ球状になり、最下点から水を垂らし始める。ビーカーと水の球の間に大きさで結界を張れば、不純物が取り除かれて液体だけがビーカーに戻される。最後に減圧することで水分を蒸発させる。加熱してもいいのだが砂糖に熱を加えるとカラメルになってしまうためお勧めはしないことを付け加える。そうすれば、ビーカーの底に白い魔法の粉が残る。舐めれば幸せな気分になれる粉である。ここまで5分もかからない。


 騎士団長がペロリと舐め、「これは砂糖、ですね」と証言する。


 作り方に関しては、プロトンとか電離とかの単語が出てきた辺りで諦めている。それでも、この実験において静は手を動かすことなく、複数のビーカーで同時に砂糖の精製を行っていたため、魔法の技術が優れていたことは誰の目にも明らかだった。


 この反応は、セルロースの強酸による加水分解によるもので、街中に甘味が足りないと嘆いた静と朱莉が見つけ出した最も応用性のある方法である。そこら辺の雑草だけでなく、イモ類を使ってもできる。


 静にはちょっとした実験気分であっても、この世界の人からしてみればただの草から砂糖を作り出すのは、錬金術で金を生むようなものである。故に反応は過敏になる。


「まさか魔法で砂糖がこんなに簡単にできるなんてのう。まるで錬金術ではないか。白い砂糖なんて王族でも手が出せないと聞くぞ」


「流通させたら一大事になるじゃろうなあ。どれ、うちに卸してみんか?」


「ずるいぞ、わしにも噛ませろ」


 いきなり商売の話に飛ぶことは当然であり、見せた静も予想はしていたが、ここまで食いつくとは思ってもいなかった。その後も商売話が続こうとするが、騎士団長が話の流れを元に戻し、説明に入る。


「とりあえず非戦闘員は北と西に避難してもらうとして、南と東にそれぞれ討伐隊を組みます。聞いたところ南の方が重そうなので、そちらに大目に割きます。騎士団が街に近づいた魔物を対処し、冒険者には草原での迎撃を担当してもらいます」


「シズカには、まだ魔法使えるなら、いくつか防禦陣を作ってもらいたいんだが可能か?」


「問題ありませんが、今から作ってしまうとこれから戻ってきたり、明日出かける人たちが困ってしまいますが大丈夫ですか?」


 先ほどの確認できた魔法の腕前を見込んで頼んでみると、返事がこれである。頼もしい限りである。ガストはロジックとも顔を見合わせ、頷くことを持って了承としてそのまま依頼する。


「案内に自警団のものを回してもらうから心配しなくても構わない。なるべく早くで、できれば複数用意してい貰えるとありがたい」


「ASAPでっと、了解です。では今からやってきますので、ここで失礼します」


 またしてもよくわからない単語を口にして、早々に立ち去る雅紀たち。仕事が速いことは非常にありがたいのだが、今すぐにから始めるとは思ってもいなかった重鎮は驚き、その間に完全に立ち去る。


「それで、紅の獅子はどうやってここまで戻ってきたんだ?南の森でオークに囲まれたことは聞いたのだが、それって夕方の話だろう。そこからではどう頑張っても戻ってこれないように思えるが?」


 今まで聞かれなかったから、このまま流してくれることを期待していた質問であったが、やはり忘れてはくれなかったかと、肩を落とす五人であった。

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