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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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教会と救助


 神域から逃げるようにして現実に戻ってきた雅紀たち。そこは、神様たちの言うように、飛ばされた時とほぼ変わっていなかった。飛ばされる前にしようとしていたように、手伝いに走ることにする。とりあえずの治療が終わった人が包帯にくるまれ、何人も寝かされている光景は、災害現場を思い起こさせるものだった。

 手の空いているシスターがいないものの、指示を出していて、見た感じ偉そうな司祭に手伝いを申し出る。それを聞いた司祭は、顔を輝かせてお願いしてくる。猫の手以外にもいろいろと借りたい状況だったらしい。話している間も負傷者は運ばれて来て、手を休める余裕はない。

 指示通りに止血のための処置を手伝いながら、司祭の目を盗んで魔術を試してみる静。四人の中で最も人体に詳しい医者志望にとっては止血もお手の物で、ある程度の余裕は持てる。魔術で片っ端から試したいことをやってみる。変化の遅延、回復速度の強化、時間遡行、怪我の情報の書き換えなどなど、どう考えても人で試していいようには思えない魔術を魔法と言い張って、治療として有無を言わせずに行使していく。

 静本人は失敗する気はないようだが、隣で見ている怪我人のお仲間は心配そうに見ている。回復魔法を使える者は大抵は教会所属なのに、どう見ても冒険者の少女が対処しているのである。それに見覚えのある魔法とは何かが違うのだからなおさらである。

 今までは司祭の回復魔法のレベル的に三人程度しか同時に見られないうえ、止血にも司祭の魔法を使っていたが、雅紀たちが止血の対処を受け持ってくれたことで、魔力枯渇になることを避けられる。もちろん、雅紀たちもただで使われるだけで済ますわけもなく、回復魔法の原理を観察したうえで、静が試した魔術を真似て練習していく。ぶっつけ本番ではあるが、問題が生じなければいいのだ。こうして今度は時間操作やら人体の情報関連についての経験を貯めていくのであった。


 それから一時間弱が経って司祭たちだけで回せる程度に落ち着いてきたところで、怪我人からの情報収集を始める。司祭やシスターの表情から、いつもこんな状況を回しているわけではないことは明らかだった。だとすればその原因を知りたくなるのが道理というもの。

 寝ている患者の横でホッとしている人たちから話を聞いていく。


「草原の南でいつも通りに、ゴブリンとかチャージブルの討伐依頼を受けてたんだけどよ、なんか森の魔物が少なからずいたんだよ。それで、慎重に依頼をこなしてたんだが背後からフォレストウルフのの群れに襲われちまってな」


「お前らもか。奴ら足が速くて、逃げても逃げても追いつかれるんだ。どうしようもなくて倒すことにしたんだが、この様よ」


「俺らは、森の近くまで行ってたんだがオークにやられちまってな。ああ、いや一匹だったら何とかなったんだが三匹も来ると、な」


 似たような状況でけがを負うことになったらしく、待機していた冒険者が集まり出して、次々に自分の場合について話していく。待っているだけなのは暇ということもあったのだろう、話がヒートアップしていく。草原で紅の獅子を見た冒険者が自慢し出したときは、周りの妬みやっかみがすごかった。声がだんだん大きくなるも、寝ている人がいるところでは司祭が目を光らせているため、また小さくなって再開される。


 とりあえずの医療行為(人体実験)が終了した雅紀たちは、そろそろギルドに報告することに決める。教会を観光してから行けばいいかなあ、と考えていたのだが、神様との対面に治療行為で、とてもではないが観光できる状態ではなかった。

 とりあえずは、穴に落としたデカいオークはどうなったかの確認から始める。朱莉の残したマーカーを通じて、映像を確認すると、なにか今まで以上に大きくなったオークが竪穴の壁をゴスッ、ゴスッと殴りつけている。脅威としては大きくなったが、この分では抜け出すのにはしばらく時間がかかって、南の第一波、東の第二波になるのではないかと予想される。

 のんびりと観察した後、ハッとメルタを殴った際に追跡用の魔法を打ち込んでいたことを思い出す。もう1つディスプレイを展開するようにして、映像を流す。映像の中は赤で染まっていて、轟々と炎が上がっていた。



 森の中で火魔法を使うのは厳禁ということはほぼ一般常識であり、Aランクパーティーともあろうものが知らないはずもない。なれば、その制約などに構っていられない状況に陥っているのではないかと考えるのは当然のこと。追跡用マーカーを移動させ、より全体を俯瞰しやすい位置取りを探す。

 森の中は火が回っていて、上から見ると煙がひどくて何にも見えないため、必然的に低い視点から覗き込む形の映像となってしまう。見ずらい構図の上、音声も届かないために映像を見ているだけでは何が起こっているのかがほとんどわからない。それでも、地面の上に何体も積み重ねられたオークの死体に、その奥に埋め尽くすように立っていたオークは見て取れた。そして奥の手とも思われる、燃えているラルフの剣に、メルタの獅子型の炎が映像の端に現れては消えていく。

 撤退しようにもできないという本格的にきつい状況に陥っている。見ている中、サーシャが飛ばされるようにして、右から左へと消えていく。これを見た雅紀たちは、救助に向かうことを決め、長距離転移のゲートを開くための広さを求めて、冒険者ギルドへと走り出す。


 ギルドに駆け込み、説明も何もかもを後回しにして準備を始める。ようやく一組帰ってきたか、と覚悟を決めたような顔をした出てきたスーシーは、またしても見事に無視を決められ、唖然として見送る羽目になり、飲み飽かしていた冒険者は酒の肴を見つけたかのようについていく。

 訓練場についてすぐに、追跡用マーカーから位置を特定して、火に巻き込まれないように空中に開いて飛び込んでいく。ゲートからは森の中の火が逆流して噴き出すが、気に留めずに潜っていく。膨大な魔力が練られたかと思えば、突如として火が吹き荒れ人が消える、なんて手品のようなことが行われるも、外野は面白そうに盛り上がるだけ。


 飛び込んだ雅紀たちが目にしたのは、映像からは予想もできなかった数のオークによって取り囲まれ、身動きが取れなくなっているパーティーであった。空中から地面までの数秒で、計画を修正して取り掛かる。


「グラビティ」


 雅紀が練習していた、イメージなしの魔術名呼びで発動させる。

 一言呟かれれば、壁となっていたオークが地面に四つん這いになり、中には地面の染みになるのもいる。攻撃が止まる中、突然上空に現れた魔力に気を取られていたラルフたちを次々に掴み、宙を蹴って上空に開いたままのゲートへと向かっていく。雅紀はラルフとオズを、康太はドットを、静はメルタとサーシャを回収する。

 何か叫んでいるが、さっくりと無視してゲートの中へと放り込む。ついでとばかりにラルフの倒したオークを回収して、重力を強化して範囲内をすべて染みに変えた上で地面を陥没させる。いつものようにレーザーを撃とうにも日が出ていないために諦め、消火ついでに氷漬けをプレゼントすることで満足する。


 冒険者ギルドでは、しゃがみ込んだままの朱莉に声を掛けようと、一人の冒険者が近づくが、ゲートを通ってきたものに背中からぶつかられたうえ、下敷きにされる。急に上に乗ってきた奴を確認もせずに文句を口にするが、周りの連中が何やら騒がしいと思って顔を向けると、ラウフの顔がドアップで目に入ってき、言葉にならない謝罪を口にしながら逃げるように走っていく。

 次々に、何やら向こうがぼやけている輪っかの中から人が出てくることに驚くラルフに酔っ払い。康太と静に担がれたメンバーを見たうえで周りを見渡し、ようやく今いる場所が森の中でないことに気付く。突然の変化に問い詰めたいところをグッと我慢して、助けてくれたことに礼を述べる。


「危ないところを助けてくれたこと感謝する」


「いや、そうなる前に手助けには入れずに悪かった」


「近くにいたわけではないのだから、それが普通というものだ」


「あの、すいません。いろいろと聞きたいことがあるので、皆さん揃って付いて来ていただけますか?」


 ここで、無視されて置いて行かれたスーシーが、紅の獅子の面々の見た目から苦戦したことを読み取り、さらなる覚悟と共に、会話に割って入ってくる。周りの酔っ払い冒険者に注目されている中では、いろいろと不都合になるかもしれない情報が洩れてしまいそうなので、早々にここを立ち去りたいようだ。目がいろいろと物語っている。

 担いできた人を下ろした静と康太とゲートを閉じた朱莉は、今まで戦っていた面々を労いながら、早く移動するように促す。教会でのんびりとしていたために報告が遅くなったうえ、その報告がもう一組の依頼受注者と重なってしまったことに罪悪感を抱いている模様。雅紀はラルフに倒していたオークを歩きながら押し付けている。そっちまで気が回っていなかったラルフにしてみれば、報酬が何倍にも膨れ上がるのだからお礼の一つでもしようとするが、相変わらず旨い飯の情報を要求されどうするべきなのか、割と本気で悩むことになる。

 案内された部屋には、死にそうな顔をしたギルドマスターのガストに加え、ラフな格好ながらどこか高貴さを感じさせる服を着た老人が座り、その背後に軍服をピシッと着込んだ四十路過ぎの男が護衛として立っている。


「おほん。ラルフたちはお会いしたことがあると思うが、雅紀たちは初めてになると思う。こちら、この街の前領主のガナル・エリンエル辺境伯だ」


「よろしくのう。当主ではあるが実務の方はほぼ息子に譲っておるから隠居爺だとでも考えておくれ」


 突然のお偉いさんとのご対面に驚かされるも、顔には出さずに日本流ではあるが、世界で共通して通じるだろう礼儀にのっとって挨拶を交わす。


「お目にかかれて光栄です。Eランク冒険者の遠坂雅紀です。後ろが名前で、前が家族名です。後ろのが、桜井静、紫原康太、宮城朱莉です」


 街に出てきたばかりの低級冒険者とは思えない対応を見せる雅紀に、辺境伯は好奇の視線が向けるのだった。

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