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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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その頃のAランク冒険者


南の魔の森


 雅紀たちが東の森に着いた頃。


 Aランク冒険者ラルフが率いる紅の獅子は、目的の森に向かって草原を走っていた。


 警戒しながら走るといっても、Aランク冒険者にとっては草原は、片手間に警戒できる。そのため、ただ走るのは暇だからと口が軽くなる。そして今回話題となるのは、Eランクにして同じ依頼を受け、メルタを倒した若者の話となる。


「それにしてもとんでもないルーキーが来たな」


 パーティーの壁役のドットが、ぼそりと呟く。その言葉にみんながみんな反応を示すが、ラルフとメルタの反応がひときわ目立つ。メルタにとっては、自分を圧倒した女の子は恐怖の対象となっている。今まで自分の自信の根拠となっていた魔法が敗れるだけでなく、身体強化を掛けた状態ですら期待外れと吐き捨てられる。こんなことを受け、その元凶に対峙して平常状態で対応出来るのならば、その者の肝は相当に座っている。


 ラルフは、朱莉の使っていた魔法の才能に驚いている。一瞬で移動する魔法、レベル5の魔法を打ち抜く魔法、辺り一帯に燃え広がる火を一瞬で鎮火する魔法。どの魔法も詠唱することなく、即座に発動される。メルタはそんなことができるのは魔道具だけだと騒いでいるが、ラルフからすると、高度過ぎる魔法技術が認められないだけのように思えてしまう。離れたところから見た限りでは、魔道具を持っていたようには見えなかった。魔法を使う瞬間が短すぎ、魔力の活性化を知覚することができなかった。


「多分だけど、あの娘だけじゃないよ。ほかの3人も同じくらい強いと思うんだよ」


 同じ弓を使う者として、オズは朱莉の技量を非常に高く評価している。弓を使っていた場面はほとんどなかったにも関わらず、その実力を周りに知らしめる朱莉。二つ名までもらっているオズが認める朱莉と同格のほかの3人。獲物は違えど、誰も彼もがその道の熟練者ということになる。


「ああ。立ち振る舞いもそうだが、みんなが対等にしていたから差はないと思う」


「ダメですっ!そんなことあってたまりますか!あんな化け物級が4人もだなんてありません!」


「でもさ、オークって聞いた時の反応見た?おいしそうって言ってたよ」


 コクコクと、サーシャも頷く。小柄な背中からは背丈を軽く超えている剣が覗いている。傍から見ると、剣に背負われているようだ。小さなBランク冒険者といえども、Aランク冒険者に手を届かせようとしている。もう少しという点は、ドットもオズも同じである。この暴走で功績を上げたら、そろそろいけるんじゃないかな、と考えたりしている。


 オークは、分厚い脂肪がついているため、途中で止められてしまう矢や槍は向いていない。叩き切る感じが最も適している。剣でもモノによる。しかし、このパーティーは魔法使いがいるだけでも恵まれている。



 この世界には一般的に魔法が広まっているが、どれもこれも生活に利用できる程度のものでしかない。身体強化などの補助魔法を使えるだけの魔力を持つのは、7,8人に1人である。それも戦闘中に使えるだけとなると、その半分以下になる。身体強化が使えるだけで、冒険者と貴族に使える騎士団のエリートの道を進む。そして、攻撃に使えるほどの魔力を持つのは全体の1パーセント程度に収まる。


 世間では魔力は親から子に伝わると考えられているが、実はそうでもない。実際は、強い魔力を浴びることで魔力量の限界が大きくなっていくのである。森の中で雅紀と康太が魔力にあてられ、目覚めたのもこれによる。その後、枯渇しては、膨大な魔力を狭いところで連発して放出していればどんどんと伸びていく。



 オークを魔法で焼いてしまえば、特に苦労することなく片付けられる。森の中なので火魔法は控え、風魔法で対応するつもりである。


 そして、雅紀たちの実力を気にかけ、是非ともどんな魔法を使うのか、どんな訓練をしているのか聞いてみたいと思いながらも、会話は続いていく。


「ところで、あの四人ってどうくっついているのかな?」


 会話の内容が、四人の関係性に流れていく。幼馴染とは聞いていたが、それだけでは片づけられないような親密さを醸し出していた。


「マサキとシズカ、コータとアカリ」


「サーシャ、毎度のこと気になるんだが、どうやって調べてるんだ?」


 普段はほとんどしゃべらないのだが、どうしてだか、重要なことについてだけは情報を持っているサーシャ。


「ん。直接聞いた」


「いつ?」


「チョーシくれてたメルがボコられてるとき」


「思い出させないで下さいます?!それから調子づいてませんっ」


 そんなメルタの自己認識を聞かされ、どうしてだか目線が斜め前へとズレていく。何の返しもないなと思うも、そんな目を見てしまっては口ごもってしまう。


「いやあ、若いっていいねぇ。うちで所帯持ってんのドットだけだからねぇ」


「帰る家があるのはいいぞ。ラルフも引く手数多だろう」


「いや、あんなギラギラした目で見られても、な?」


「良い娘もいるでしょうに。覚悟がないだけではなくて?」


 自覚はあるらしく、痛いところ突かれて会話から抜ける。


 これは面白そうなネタになりそうと目を輝かせるオズ、結婚という言葉から嫌なことを思い出すメルタ。それを見守るドットに、何を考えているのか読めない無表情のサ-シャ。


「あのカップルたちは、熟年夫婦かっていうくらい、お互いのこと理解しているみたいだったね」


「うむ。あれとかそれの指示語で会話してたからな」


「ん。シズカは良いお嫁さんになる」


「熟年夫婦のごとしだけど、嫁入り前っと。どうして?」


「料理上手。気配りできる。強い」


「最後の一つはなくてもいいかな」


 ちゃっかりとメルタがボコられていた裏で、静に餌付けされていたらしいサーシャ。お金をたくさん持ち、いろいろな店を回ったことがあるサーシャがおいしいと評価する料理。ズバズバという彼女が、おいしいと言うのは珍しい。そんなことなら頼み込んで作ってもらおうかな、なんて考えているうちにようやく森に到着する。


 戦闘になることを考慮して、体力と魔力を温存しながら走っていたために、それなりの時間が経ってしまっていた。雅紀たちのように、自由に消費できるだけの魔力は持っていないらしい。魔法使いと重装備の壁役にも合わせていたとこも影響している。魔法使いのくせして、全力疾走を続けるだけの体力を持つ方がおかしいのである。


 森の中に入るとすぐに、戦闘にドットとラルフ、その後ろにメルタとオズ、一番後ろにサーシャが並ぶ。言葉を交わさなくとも、普段から決めてある隊形に並び替える。この程度、迅速に組み替えることができないならば、Aランクパーティーになんてなれるわけがない。



 森の中を進む一団。出てくる敵を危なげもなく退け、順調に進んでいく。正面から飛び掛かれば槍に突き抜かれ剣に刻まれ、横か後ろから飛び掛かれば大剣に押し潰される。オオカミもイノシシも物言わぬ躯に変わっていく。


 草原での今までの空気はどこへと消えたのか、緩い空気は一変して、鋭い剣が付きつけられて言うような緊張感が支配している。モクモクと進んで行き、音が聞こえれば、即座に風魔法が撃ちこまれる。そして飛び出したところを叩かれる。


 このパーティーは索敵をオズに大部分を頼っている。つまり、今回の依頼で魔物の集団を見つけられるか否かは、オズの肩にかかっているといってよい。ラルフとドットはバリバリの近接職で視界の外を感じるのは厳しく、サーシャは本能と勘と運で過ごしているようなものだ。メルタは魔力感知ができるが、魔力の濃い魔の森では、鈍くなる。



 オズの感覚に従って奥へと進んで行く。森の木々の隙間もなくなり、差し込む日の光が無くなっていく。ここまで来ると、気を抜けばAランクパーティーでも崩壊しかねない魔物が出てくることがある。どんな些細な違いに注意を払い、より一層緊張感が増していく。


 そんな彼らの耳に、ガサガサと何かが草木の中を移動する音に交じって、ブホッという音が入ってくる。


 すぐさま木を壁にして身を隠す。木の幹越しに覗けば、オークが一匹でほかの魔物に食らいついていた。こちらに気づかずに無防備な背中を向けて、目の前の食事に夢中になっている。好機と見て、4人は次々に飛び出していく。ラルフが切りつけ、それに反応したオークをドットが押さえつける。そこに援護で矢と魔法が飛んでくる。体勢を崩したところで、獲物を構えたサーシャが振り下ろす。



 断末魔を上げる間もなく真っ二つにされたオークの周りに集まり、見下ろす。オークが出てもおかしくない深さではあるが、単独行動しているのは滅多にいない。大抵、群れを作って集団で行動している。これ以上ない手がかりを得て、安心する一同。


 あとは、オークが来た道を遡って、魔物の集団を見つけるだけになる。戦闘を行ったことで今まで考えないようにしていたことが、こぼれてしまう。


「なあ、あいつらに勝てるか?」


「また直接だねぇ」


「思っちまったんだからしょうがないだろう」


「無理。現に犠牲者はすでにいる」


「これ以上触れないでくださいませ・・・」


「俺の守り程度じゃ飛ばされるだろう」


「かあぁあぁっ!やっぱそうだよなあ」


 かすかに抱えていた懸念が肯定されてしまい、がっくりとしないではいられない。登録が遅かったために冒険者ランクが低くとも、強い存在がいるのは知っている。それでも彼らは自分と同年代以上の者たちであった。それゆえに、成人したばかりの若者たちに追い越されたことに衝撃を覚える。


「そもそも勝とうなんて無理」


「なんで」


「魔術師」


「あのお伽噺の?それが」


「4人とも魔術師」


「「「え???」」」


「そう言ってた」


「なんでさっき言わないですか?!」


「忘れてた。あと秘密にしてって言ってた」


 そんなこの上ない機密情報を、忘れてただの、秘密にするなら教えるだの、眩暈が止まらない。想像上の存在だと言われても、簡単に受け入れられない。



 理解を超えながらも、依頼を全うしようとラルフたちが奥へと進み、街では雅紀たちが教会でやりたい放題している中。


 森の深い深いところ、今までみじんも動きもしなかった岩が目を開ける。いや、岩ではない。大きな魔物が丸まって岩に見えていたものが動き出す。最終局面へと入っていく。


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