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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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災害発生時安否確認サービス


聖都メルネシア 宮廷


 夜も更けて、街の中には明かりもなくなる時間、一つの部屋に5人の人が集まって、そのうち二人が真剣に手元にある紙を見ている。残りの3人は静かにそれを見守っている。


 片方が覚悟を決めた顔をして、相手の手元にある紙に手を伸ばす。


「おぬしよ、本当にそれでいいんだな」


「うん、僕は決めたんだ。これにするよ」


「さらば少女よ、引き給え」


 その言葉に触発されて、少女と呼ばれた小柄な方が相手が持っている2枚のうち、向かって右を勢いよく取る。


 勢い良すぎたために、その紙に書かれていたのは見えていないようで、恐る恐る表にする。


 そこには、光を反射しないような黒で大きな鎌を持った死神が描かれいる。


「うわああああ」


「やった!引いてくれたよ!」


「もう、ヤダ。なんで毎回最後に回ってくるの・・・」


 先ほどまでの張り詰めた空気はどこへやら、部屋からは笑い声と泣き声が聞こえてくる。


 他称少女は2枚の紙を手に持つが、相手は悩まずに左のを持っていき手元に死神さんが残る。相手は持っている2枚の紙を頭上にばらまき喜んでいる。そして少女の眼にはきらりとしたものが。


 そう、この者たちがしていたのは、なんでもないただのババ抜きである。


 今回の敗者、長谷川飛鳥(はせがわあすか)は四つん這いになって固まっている。この長谷川飛鳥、今夜の10回目のババ抜きにして10回目の敗北を喫したのである。ここまで運のツキもないとなると慰めるのも難しい。


 うんうんと唸りながら、はっと思いだしたかのように顔を上げて、諸手を上げて喜んでいる女子、林美奈子(はやしみなこ)を可愛らしい目でキッと睨みつける。


「さっき僕に、少女よ引き給え、とか言ってたよね?!僕は男なんだってば!」


「ええー、でもその見た目は女の子だよ?」


 「うっ」と、言われていることに自覚があるのか、飛鳥は言葉に詰まる。周りの女子も「うんうん」と大きくうなずいている。


 それを見て更なるショックを受けてしまい、壁際で体育座りをしてちじこもってしまう。


 周りの女子もやり過ぎたかと思い、いろいろとフォローを入れる。飛鳥君にも男らしいところはあるよーとどんどん褒めて慰めていく。


 しばらくして、ババ抜きの大敗の傷も男としてのプライドの傷も癒えたのか、女子の会話に戻ってくる。


「いやあ、異世界生活ももう10日だよ?初めはどうなるかと思ったけど、今のところ大丈夫だね」


「でもこの先どうなるのかわからないんだよ。不安じゃない?」


「でもそこは、飛鳥キュンに守って貰えば、ね?」


「うん、頑張るよ」


「やはり飛鳥キュンは癒しですなあ」


 飛鳥や美奈子の他には、島田涼子、矢倉芳江、橘かすみの3人が同じ部屋にいる。本来ならば5人部屋に女子4人でいたのだが、美奈子がつまらないとか言い出して、飛鳥を連れ込んだのだ。


 宮廷の人までもが飛鳥のことを女子として扱っていたため、女子部屋に飛鳥が連れ込まれたことに。何の問題意識も抱いていなかった。ただ本人のプライドと神経がダメージを負うだけである。


 この飛鳥、静の弟と合わせて高校の二大男の娘であった。165に届かない身長、線の細い体、声変わりしていないような声、顔つき、髪。どれをとっても女の子に負けず劣らず、むしろ勝ち越していた。


 そんな飛鳥なので、女子部屋にいても違和感はなく、男どもの反発もなくむしろ一緒にいるところはオアシスと公言までされていた。


 それでも、雅紀たちについて回っているうちに、宮城の道場に入り浸たることになって、校内では宮城流のおかしい4人に次ぐ実力者にまで育っていて県大会でも上位に入れるレベルであるが、飛鳥自身は、そんな実力をつけている自覚はない。比較対象があれなので、あれなのだ。


 部活は、飛鳥自身もかわいいものが好きで、手芸部でぬいぐるみ生産にふけっていた。


 二年生の中の三大女子は静、朱莉、飛鳥とする勢力が大半を占めていた。3人のうち2人は彼氏持ち、残る1人は男という時点で、何とも悲しいランキングのように思える。


 訓練はあるものの動けなくなるほどではないので、今までの生活習慣から、早くても11時を過ぎないと寝る気になれないず、こうして夜な夜なトランプで遊んでいるのである。


 しかしそれも10日目ともなると、新しい刺激が欲しくなるのである。もちろん、ババ抜きの最下位記録は飛鳥が持っている。


 召喚されたときに身に着けていて一緒に持って来ることができたスマホや財布しかない身では、簡単に作れるトランプで遊ぶしかないのだ。スマホも充電が切れ、ただの金属の塊に戻っている。


 それゆえ、しょうもないことを口走って暇を紛らわせているとき、それは訪れた。


ブルルルルッ!ブルルルルッ!ブルルルルッ!

ビクゥッ!


「え、なになに?地震?!」


「落ち着きなよ。この音は携帯じゃないかな?」


「あ、僕のスマホだ。誰からだろ?電池も切れて電波も来ていないのに」


「ふふふ、面白ければ何でもいいのだよ。さあ、電話に出るんだよ、飛鳥キュン」


「もう、美奈子さんは。えーと、雅紀からだ。えっと、もしもし?」


『お、つながったか。おーい、無事つながったぞ。あいよ、分かった。っと悪い、飛鳥、時間と場所大丈夫か?』


「ま、ま、まざぎー!ざびじがっだよー」


『お、おう。そっちも一応大丈夫そうだな。で周りに誰かいるか?』


「えっとクラスメートの女子4人だけだよ」


『じゃあ大丈夫そうだな。いやあ、召喚されたって聞いたから心配してな』


「雅紀、聞いたってことは今地球?」


『いや、飛鳥と同じ世界にいるぞ。静、康太、朱莉と一緒だ。別ルートで来たけどな』


 そこからは2人はこれまでの生活のあらましと情報を伝え合う。途中からは、雅紀だけでなく静たちと、置いて行かれていた女子も会話に参加し、盛り上がるのだった。


 召喚されてすぐに、王女を名乗るリーナ・メルネシアに邪神討伐をお願いされたこと。

 みんなでステータス鑑定した結果、伊崎晃平がスキル”勇者”を持っていて、勇者に選ばれたこと。

 それから持っていたスキルに合わせた訓練を受けていること。

 生活に問題もなく、脅されたりはしていないが、帰るには邪神を倒すように言われたこと。


 女子部屋でいろいろと口を挟みながら、これらのことを伝えた後は、逆に雅紀たちの森でのサバイバルから街までの苦難の道のりをさらーと流しで教えてもらった。


 軽く教えてもらっただけでも、イノシシ狩りしたとか、オオカミ狩りしたとか、オオカミの森の中で楽しくキャンプしてたとか、どれにしても現代人からは外れた行いだった。


「うん、やっぱり雅紀はどこでも雅紀だね。静ちゃんも朱莉ちゃんもだけど」


『おい、待て、どういう意味だコラ。心配したから掛けてるっつうのに』


「そこはありがとね。褒めてるから安心してよ」


『そういうことにしといてやるよ。おっとそろそろ切るぞ』


「あ、もう一時間近くも話してたんだね。また電話くれる?」


『気が向いたらな。じゃあ、気をつけて頑張れよ』


「そっちも気を付けてよ。バイバイ」


『そうだ、スキルを過信するなよ。やりたいようにやれ』


「え?どういうって、もう切ったの、もう」


「なんだか意味深だったね」


「雅紀は手が早いんだから」


「違う意味に聞こえるからやめときなさい」


「でも、いい気分転換になったんじゃない?飛鳥君、遠坂君のこと気にかけてたみたいだし」


「そうだね。雅紀も頑張ってるなら僕も頑張らなくちゃ」


「はいはい、それくらいにして今日は寝ましょ。もう遅いわよ」


「そうだった!明日も朝早いんだよ」


 電話一つでこの上なく盛り上がっていた女子部屋だが、明日も訓練となると、寝不足ではやっていけないので、いろいろと気になることができたようだったが各自のベッドに入っていった。


 この電話の持つ価値と意味に、飛鳥たちが気が付くまではしばらくかかる。





辺境伯地エリンエル


 長電話を終えて水でのどを潤し、心配事がいくつも解決すると同時に新しく気になる点がいくつも出てきてしまった。その中でも勇者という響きに好奇心が疼くのか、(マッド)科学者(サイエンティスト)3人の目は怪しい輝きをしていた。康太も慣れたのか何も言わず、寝る準備に取り掛かり始めた。


 寝る準備をしているうちに疼いていた好奇心が治まったのか、明日はどうする?、と予定を立て始めた。


 「お金には余裕がありますし、改めて身の回りの整理をした方がいいのでは」と衣服に問題意識がある朱莉が切り出す。どうも、森の中で生活する際に着ていた服しかないというのは、衛生的に気になるらしい。


 そう思うと、手持ちの道具や服も揃えるべきかとなる。今使っているのはどうにも現代過ぎて、この世界ではとても目立っているのを思いだす。


 それじゃあ、と明日は日用品の買い出しと武器の買いなおしに充てることにする。メインで使っている武器はトレント戦中に魔法で創ったものだが、思い返せば鉄をただ整形しただけで、脆いんじゃないかと心配していたりする。


 心配事をこの際解消しておくべきだなと、朱莉の提案に乗ることにする雅紀。


 だがこの4人がいて、静と朱莉が機会を逃すわけがない。


「じゃあ、明日はそれぞれデートだね!」


「「あ・・・」」


「いやあ、新しい街でのデートだよ。楽しみだね朱莉」


「そうですね静。男性に服を選んだりしてもらいましょう」


 キャッキャッと楽しそうに話している女性陣を傍目に、男性陣は顔から尋常でない量の汗を流し始める。そう、女性陣の買い物のお供である。あのお供である。


 女性のお買い物は長いことで有名で、その間荷物を持ってあげなければ男が廃る。だが、これはまだいい。体力と精神力に自信ある雅紀と康太にとっては軽いのである。男どもの嫉妬にも慣れてしまっている。


 それよりも重要になるのは、女性の選んだ服に対して、彼女本人の気持ちも汲んだうえで感想を言い、一着一着に違うコメントをしなければならないことである。過去に言ったコメントも避けつつ、ほめるようなセリフを考えなければならないのである。


 もちろん雅紀も康太も、静と朱莉との買い物が嫌いなわけではなく、むしろ好きと言ってもいい。それでも日用品全てを新しく買うとなれば、身構えの一つくらいはしてしまうのである。


 明日の買い物が何事もなく早く終わりますように。楽しそうに話す彼女たちを見て、心の中でお祈りする。


 そして、それは叶わない。


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