初依頼
ケイティにカードを渡し、依頼表を見るかと意気込んだところで、ランクアップの要件を聞いておきたくなったので、スーシーを捕まえる。スーシーは、雅紀たちのフォレストウルフ500匹というのを聞いて、昨日はよくもいけしゃあしゃあと嘘を垂れ流してくれましたね、えぇ?という乙女にあるまじき顔で睨みつけるも、後悔も反省もしない男、雅紀には意味を成さない。
「はあ、いいですよもう。それではランクアップですけれど、実力とギルドへの貢献度、これは達成した依頼の数ですね。これは、パーティーでクリアした場合、頭数で割って計算しています。それと、依頼のランクが自分のランクの一つ上になるたびに、達成数を2倍扱いですね。DランクがBランクの依頼をクリアしたならば、Dランク依頼4回分です。普通は上のランクの仕事をこなすのは無謀なので、やらないようにしてくださいね。いいですね、分かりましたか?」
やけに押してくる副ギルド長に、そんなに気苦労すると将来禿てしまうよ、可哀そうに、と口には出さずに心配していると、ギロリと睨まれる。サブマスは心が読めるようだ。
「依頼の条件ならばだいたい受ける依頼が100を超えた辺りで条件をクリアする方が多いですね。依頼のランクが上がるにつれて、一つの依頼にかかる時間も増えていきますね。それに加えてDランク、Bランクへの昇級には、ギルドの試験を受けてもらうことになります。Sランクへはギルドのほかにも国のお偉いさんの推薦が必要ですね。逆に試験はありませんが」
そのあとも補足を付け加え、説明が少々長くなってしまい、ケイティが更新したカードとフォレストウルフの代金を持ってきたのを区切りに、のどを休める。今回の処理の説明をケイティが始める。
「Dランク依頼のフォレストウルフの討伐を100回達成ということで、Fランク依頼200回分とEランク依頼100回分として処理しました。これで皆さんEランクへランクアップですね、おめでとうございます。それにしてもすごい数でしたねえ。フォレストウルフは森の浅くないところに生息していて、行き来に時間がかかる、森での野営は自殺願望の表れ、群れの数から複数パーティを組まないと危ない、さらには上位種のウィンドウルフが出てきたら壊滅決定、極めつけに報酬が安いときました。誰も狩りませんよこんなの」
いやあ、しばらくはフォレストウルフの素材には困りませんね、といい笑顔を浮かべるケイティの本性が気になってしまう。
「実力の方もマティとアーロンを含む一パーティーを一人で倒すくらいですから、期待してますよ。Aランクまであっさりと上がれちゃったりします?ふふ」
いえ、目立ちたくないです、という一言を抑える新人。旅するのにめんどくさそうという、周りの冒険者からしたらふざけた理由である。
マティとアーロンが瞬殺されたと聞いて、見た目からは想像もできない雅紀の実力に驚き、そして、マティの野郎ざまあみろと、冒険者とギルド役員の心が一致した瞬間だった。
一方でそんな心情も知らない4人は、誰もフォレストウルフを狩らない理由を聞いて首をかしげる。そこまで厳しいものだったか、と頭に?を浮かべている。森での野営はキャンプみたいで楽しかったぞとさえ思っている。
そして、ウィンドウルフと聞いて、森で狩った大きなオオカミがそうか確認してもらおうと、バッグの中から取り出すようにして引っ張り出す。
再び阿鼻叫喚に落とされるギルドカウンター。単体でCランクに分類されるオオカミは、大きさが大きさだけに、普通は皮と牙だけを剥ぎ取って持ってくるので、丸々の死体は怖いらしい。しかも、きれいに一太刀で決めているので、外傷が少なく、生きているように思えてしまうらしい。
もう乾いた笑い声しか出なくなったケイティとスーシーは、目の光が消える寸前である。解体を買取を頼んで、ギルドに押し付ける。
阿鼻叫喚図の中、銀貨700枚もの大金をカードに入れてもらって、手元に十枚くらい残し、雅紀たちは、なにか依頼を受けたいなあ、とぶらぶら探して、あれじゃない、これなんかどうか、わいわいと遠足の行先を決めるかのように話していた。そんな後ろ姿をみて、ああこの人たちも変人だ、とギルドのみんなが認めるのだった。
五分ほどして満足そうな顔をして持ってきたのは、まさかのEランクの薬草採取だった。持ち合わせている戦闘力に合わない依頼に、なぜかと理由を尋ねるケイティ。この街の近くは、城壁に沿ってしか薬草が分布しておらず、探すのが大変なので、この依頼を受けても労力に合わないように思えてしまう。
そんなケイティに、静がうふふ、と答えずに秘密のままにする。そんな静の様子に、またやらかすのではないかと心配になってしまう。そしてどんな未来になるのかをまだ知らない。
4人は、ギルドの酒場で簡単につまめるものを注文して収納し、街の外へと繰り出す。道筋は、昨日ギルドに連れてきたもらった道を逆に進み、門へと向かう。道中の店並みを眺めながら進み、気になった店を覚えていく。無駄に容量のある頭にいろいろと詰めていく。
門では、昨日の兵士さんが今日もいて、ここで初めて名前がヘーシュだと知る。今日もワイバーン狩るのか、と揶揄われたので、出てきたらそのつもり、と返すと、あからさまに顔を引きつらせていた。この世界のワイバーンは、そんな簡単に狩ろうとするものではないのだ。
雅紀たちを見送り、後ろから来ていたもう一組の冒険者の確認を終え、雅紀を探して顔を草原に向けると、すでに見える範囲からはいなくなっていた。異常な身体能力に唖然とするも、まあ、いいかとスルーするヘーシュ。この男、悩み事なんてしなさそうな男ランキングinエリンエルで一位を、毎年防衛しているだけのことはある。
門をくぐって30分。雅紀たちの姿は森の中にあった。
この少年少女たち、サブマスに能力がだいたい伝わってしまったから、もういいか、と全力を人の眼があるところでも出すことにしたのである。
そして、全力で強化して走った結果、20分ちょっとで草原を走り抜け、森の中に突入した。
また、この森こそが薬草収集依頼を簡単にこなす、秘密兵器的なものであった。誰も来たがらない森であり、見本として書かれている植物の絵に似たのを、街に向かう途中で見た記憶があった。これはもう
がっつりと採っていこうと、気合を入れている。
森の深くまで行ってしまうと日が差し込まず、薬草は育ってなさそうということで、森の浅めのところでどんどんとっていくことに決め、各自が散らばっていく。もちろん、動物か魔物を見つけた狩るのも忘れない。
森で簡単に昼食をとって、12時過ぎ。帰り道の時間とかギルドに行く時間も考えて、16時に同じ場所に集合にしたようだ。
30分後、ドン!ワオーン。
1時間後、ドバンッ!ドガッ!ワオーン。
3時間後、バンッ!ドゴンッ!バキッ!ワオ、ドバンッドバンッ!
今日も環境破壊が捗る。
始めは大人しく薬草を集め、オオカミは見かけたときしか狩らなかった。そのため、聞こえてくるのは、そこまででもなかった。
しかし、時間が経つにつれて周りの薬草もなくなり、目の前のものを摘むだけの地味な仕事にも飽きてくる。もちろんそうなれば、狩りに重点が置かれるようになってくる。そうして、今日も森からオオカミの悲鳴が響くのであった。
4人は街に戻ってすぐに宿を確保することにし、女将の面白がっている目に耐えながら、昨日と同じ宿で部屋をとった。今日は収入もあったので、気前よく3日分払うことにした。幸先のいいスタートを切ったと思われたようで、酒場に居合わせた冒険者から祝福の言葉をもらう。
ここの冒険者は、朝から仕事に精を出していたようで、昼間の雅紀プッチン事件を知らないでいた。駆け出しだと思っていた冒険者が、殺気で人を気絶させられると知ったらどうなるのだろう。
宿であれこれしていて、冒険者ギルドには17時過ぎに着くことになった。
昨日は、ギルドに来たのが夕方前だったので人はそこまででもなかった。それに比べてどうだろう。日が暮れ始め、活動ができなくなる前に戻ってきた多くの冒険者でカウンター前はごった返していた。
どの受付嬢の前にも長蛇の列ができていて、依頼達成には、なかなか漕ぎ着けそうにない。どこに並んで同じに思えるので、ならば顔見知りのケイティさんのところにするか、と並ぶ。
中には間に割って入ろうとする冒険者もいるが、周りの強面の男に睨まれて立ち去るか、周りから見えず感じられないようにして殺気をぶつけることで、雅紀たちは自分の番を死守していた。
列に並んで、今後の予定を話し合いながら15分ほど並んでいると、ようやく順番が回ってきた。
「お次のかたあー、どうぞー。あっ、マサキさんたちじゃないですか。薬草の方はどうでしたか?そこまで見つからなかったでしょう?」
「ああっと、街の近くでは探していないので、なんとも・・・」
「ということは、東の草原で探したんですか。能力的に大丈夫だとは思いますが、気を付けてくださいね、ってどうして顔背けるんです?まさか、森に行ったりしていないですよね?」
「ハハハ、モチロンソウニキマッテルジャナイデスカー」
「はぁ。行ったんですね、分かりましたよ。それでどれくらい採れたんですか」
「えっとね、雅紀のカバンがいっぱいになるくらいかな?」
「ええ、もう驚きませんよ、ええ。それじゃあ出してください」
「それとまたオオカミもいるんだけどいい?」
「なんでもいいですよもう」
簡単に今日の成果を聞いて、奥から大きな籠を持ってくるケイティ。普通は10株で1回分で、2回分採集出来たら運のいい方といわれている。
そんな薬草に対して、300株は入りそうな籠を持ってくるのだから、ギルドの中の視線を集めまくる。
見栄を張ってるだけだの、雑草との見分けもつかねえのかだのいろいろと聞こえてくる。中には、何株集められたのかで賭けを始めているグループもあった。
冒険者は何ともまあ、自由に生きる人種なのであった。




