俺(私)の戦闘力は・・・
「この街を救うのに力を貸していただけませんか?」
真剣な目を向けられ、さらには自分たちのしていたことが引き金となっていたこともあって、断るのが厳しそうに思えてしまう。「相談を」と、強引に切り上げ、仲間内で話す。
(やばいやばい、俺たちがこの街の終わりを引き起こしてたぞ)
(ここは、手伝わないと後味がなあ)
(とりあえず、しらを切り通そう)
(あのトレントが暴走の原因だったとして、私たちはたまたま遭遇して応戦したことにしましょう。)
(そうすれば問題にならないだろうな。じゃあ・・・)
「ええ、微力ながら協力させてもらいます」
「まだ、しらを切りますか。ありがとうございます。あ、ここの支払いは持っときますよ。ではまたお会いしましょう」
苦笑いしながら立ち上がり、頭を下げて立って、伝票を持って去って行く。
お偉いさんがいなくなって、これ幸いと皿を下げに店員がやってくる。
机の上のものが全部片づけられ、今日の寝床を探そうと雅紀たちが席を立ったとき、ジョッシュがスキルについて聞いてくる。
「そういえば、スキルがどうこう言ってたな」
「スキルってどうすればわかるのかな?」
「カウンターの人に聞いてみましょう」
人の増えたカウンターを見て、ため息をつく。明日にするか、とおすすめの宿を兵士さんに聞いてギルドを出ていく。
ギルド前の大通りを下って、折れ曲がって少し歩く。ギルドから10分ほど歩いて、お勧めされた宿に着く。特に目立ったところのない、一階に酒場で二階と三階に部屋を用意している宿屋だった。
扉を開けると、「いらっしゃい」と元気な声が聞こえる。夕飯の時間なのか、一階の食堂には多くの冒険者らしき人がいた。そんなわいわいがやがやした食堂を通って、受付に行く。中の冒険者には、男二人女二人の新参者に視線が向けるものもいる。特に男は静と朱莉の美貌に目が釘付けになる。
「あの子可愛くね」
「美人さんだなあ」
「ぐぬぬぬ、あの男どもはもしや・・・」
「お前じゃ相手にならんから諦めろ」
好き放題言われて頬が引きつりそうになりながらも受付に辿り着く。雅紀が代表してチェックインする。
「いらっしゃい。美人さん連れて大変だねえ。けどね、そこが男の見せ所だよ」
「あははは、二人部屋二つ、飯なしでいいんだけど、いくら?」
「飯付きで銀貨六枚だから、飯なしで銀貨四枚だよ」
「おっと、あぶない、ギリギリだよ」
「男なら女の子には苦労させちゃだめよ?あっと、部屋は三階の304と305ね」
「明日の早くにでも換金に行ってくるよ」
二つ鍵を受け取って、一つを静に渡し、康太に声をかける。
「康太、俺たちは305だな。早いところ行こうぜ」
「ちょおと、待とうか。雅紀、逃げるつもりじゃないよね。はい、朱莉、これ鍵」
「ええ、しかと受け取りましたよ。うふふふ」
何か怖いものを背筋に感じて恐る恐る振り返る。
「ええっと、静さん?朱莉さん?何かありましたでしょうか?私めとしては一刻も早く休みたいのですが・・・」
「うん?大丈夫だよ。早く寝ようか。わたしと」
ダッ!!
雅紀は逃亡を試みる。康太を見る。
「康太も逃げるぞ、ってもう捕まってんの?!」
「腕に触れてきたなあと思ってたら、なんか関節決められて抜けません、はい」
「大丈夫よ雅紀、ここには師匠もお母さんもお父さんもいないから、ね。安心して私に任せて」
「やめてっ、そんな目を向けないで!俺はまだ死にたくな」バタッ
「うふふ。そんな必死に逃げようとしなくてもいいのに、まったくもう」
その場に居合わせた冒険者たちは、崩れ落ちた雅紀を背負って二階へと上がっていく静と、関節を決められて朱莉に連行される康太を見送る。一瞬酒場から音が無くなるも、すぐに元の喧騒が戻ってくる。
「くううう、女の子から誘ってくるなんて、うらやまけしからん」
「いや待て!大の大人を予備動作もなしに昏倒おんし、背負う女の子なんて滅多にいないぞ?!」
「もう一人の女の子もやばかったぞ」
「そんな女の子と付き合ってるのか。大変そうだな」
「いや、女の子と付き合ってる時点で有罪だ。爆ぜろ」
「もげろ」「ちぎれろ」・・・
目の前で起きたことに好き勝手に物申す冒険者。そんなことが聞こえていなかった雅紀は幸か不幸か、どちらなのだろう。
チュンチュン。
朝日が窓枠の隙間から差し込み、顔に当たる。ううん、と唸りながら上体を起こそうとして、右手に引っかかりを覚える。眠い目を左手でこすってから、首をギギギと鳴らしながら右に回す。
閉じられた垂れ目の瞳、上気した頬、シャツの襟元から見える鎖骨とかとか。
いつも見ているものでも、寝ているときにまき散らされる色気が加わると、雅紀には刺激が強かったようだ。顔面に血が登っていくのが感じられる。
ブバッ!
鼻血が出る音なのか、顔を背けた音なのかは本人にしかわからない。
落ち着いて、寝転がったまま頭を動かし始めると、なんで俺寝てるんだ、から始まって次々と疑問が出てくる。そして、静に沈められて運び込まれたことを思い出す。サァーーと顔から血が引き、恐る恐る布団をめくる。自分はワイシャツに制服のズボンで、静は昨日と同じもの。特に何もなかったことが分かり、ほっと一息つく。体を動かすたびに、静が何やらくる声を出すが鋼の精神で耐え抜き、元凶の静を起こす。何度も何度も肩を揺らし、その度に拷問に耐え抜く。
「ふああああ。おはよ、まさき。きのうは・・・」(ポッ)
「だああああ、何もしてないっつうの!」
「もう、雅紀ったら昨日は動けないほどだったのに」
「し、ず、か、が、やったんだろうが!」
静の髪をわしゃわしゃしながら文句をつけるも、あはは、と笑って誤魔化して、アイテムボックスから制服を取り出して着替え始める。着替えるときも、見てもいいのよ、と雅紀を誘うのを忘れない。
これが師匠かアンナさんにばれたら、死ぬんじゃないかと思い、現実逃避し始める雅紀を正気に戻して、康太と朱莉と合流できるのは、その30分後だった。
地球の時計で午前10時前、ギルドにある人の姿は少なく、カウンターはガラガラだった。やっぱり仕事の取り合いは朝早いのかと思いながら、昨日受付してくれた受付嬢のところに向かう。たどり着く前に向こうもこちらに気が付いたようで、挨拶してくる。
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか」
「昨日話してもらったスキルの確認ってできますか?」
「ああ、スキル確認でしたか。大丈夫ですよ。それではこちらですので、付いて来てください」
机の下から紙を一枚とって立ち上がり、雅紀たちに付いて来るように促す。受付嬢に付いてカウンターの横の廊下を歩いていくと、大きな訓練場に出る。まさか建物の中に天井がこんなにも高い場所があるとは思わなかったと驚くも、受付嬢には驚きが足りないです、と悔しそうに言われてしまう。日本の建物に慣れてしまうと、高さでは敵わないようだ。
その先のいくつかの小部屋のある廊下の突きあたり、そこに鑑定部屋があった。机も何もなく、ただ中央に人の頭サイズで、青く透き通った球体が台座に置かれているだけの部屋だった。受付嬢によると、なんでもこの球はあるとき突然に、神託とともに世界各国に現れ、人の強さの基準となるスキルがわかる代物らしい。数百年じゃきかない年月を経ているのに、一度も誤作動を起こしたことがないと言われている。そんな未知のものを見たら飛びつかないわけがない三人は、ペタペタ触って確かめている。
そんな怖いもの知らずの三人に肝を抜かしかけている受付嬢に、康太が気を紛らすように使い方を尋ねる。そう尋ねられて、はっ、と気を取り直して説明を始める。「自分の冒険者カードを球の台座に挿して球に手を置くだけで、スキルとそのレベルがわかるですよ、すごいでしょ」とないわけではない胸を張っている。
しかし誰も見てくれない。心をテープで補強する必要がありそうだ。
泣きそうな人は放っておいて、康太が動き回っている三人なんて見えていないように、おもむろに手を置く。淡い光が出てきて、部屋全体をうっすらと青に染める。一分ほど光り出す球を鑑賞すると、チン!と場違いな音とともにカードが出てくる。
不思議には挑戦したがるのか、我先にとやろうとする子供三人を後ろ目に、康太は受付嬢からスキルの取り扱いについて説明を受け、紙をもらう。人にむやみに見せない、スキルは絶対ではないので気を付ける、境界でも同じことができるなど書かれている。紙一枚にしっかりと書かれているのを読み、頭脳担当の静と雅紀にも無理やり読ませる。
読み終えたときには、テンションも元に戻り、見事な紳士淑女に戻っていた。変わり具合に受付嬢も驚くが、大事な仕事が残っているのでさらに頑張る。
「マサキさん。スキルの確認が終わったところで、一通りの見本を見せたいと思うのですがどうでしょう?」
「それって、スキルの使い方を教えてくれるってことですか?」
「ほんとに基礎的なことになってしまいますけどね。詳しくはギルドの所有の図録でお願いします」
「はーい」
「素直にレクチャーを受けてくれるようで安心しましたよ。ときには何も聞かずに飛び出してけがをして戻ってくるんですよ。それならまだしも、人様相手に怪我させてしまう馬鹿者もいて大変なんですよ、はははは。」
訓練場に歩いていく最中に、そんな疲れ切った顔で乾いた笑いをこぼされてしまい、どんな反応をすればいいのか戸惑う四人。とりあえず触れずに、時間が解決してくれるのを待つ。そんな乾いた笑みは、突然不審な行動をとる三人組には心に突き刺さるようだった。
訓練場に着くころには元の精神状態に戻ったようで、失礼しました、と恥ずかしそうに謝ってくる。そこで追撃を一つ。
「ところで、名前を聞いても?」
「あ・・・。私はケイティです。よ、よろしくお願いします」
何とも言えない空気になってしまい、気にしないで下さいと水に流すも、気恥ずかしかったのか、無理やりのテンションで次に進めようとして、宣言しようとする。
「では、改めまして。んん、んん。」
咳払いをして、空気が冷えていく。
「”ケイティの初めてのスキル講座”はっじめるよー」
どこから取り出したのか、眼鏡を掛けて指示棒を持って、可愛らしい声で、子供番組のようなタイトルコールをするのだった。




