高いところが好きなのは馬鹿と煙だけじゃない
北の山へ向けて出発し、高木のアーチの下を歩いていく。山側になると分布が変わるのか、オオカミが減って、虫系統の生物が増えてくる。
体長3メートルの巨大ムカデは、這い寄ってくるも気持ち悪いの一言に尽き、魔法で遠くから狙い撃ちして終わった。魔石を取りに行く担当決めじゃんけんはなかなかに白熱した。視覚強化でとことん後出しじゃんけんを極めた感じだった。
巨大バチやアリも遭遇したが、数匹狩ったところで、四人の魔力に気づいたらしく、遠くに離れていった。なかなかに危険察知能力の高い虫であった。
そして現在、雅紀たちは・・・
「痛い、痛い!つつかないで!」
木に登ろうとして、枝に巣を作っていた鳥に襲われている。木の枝の広がっている高さまで登れれば、あとは木の枝を蹴っていけばいいと思っていたが、どこからとなく鳥を呼び寄せているようで、はじめの二匹から二桁にまで数を伸ばし、雅紀だけを襲っていた。静、康太、朱莉はなにも遭遇することなく隣の木に登って、枝から雅紀を見ている。景色が見れるかもと気配を消すのを忘れたようで、一人たかられることになってしまった。
雅紀はしびれを切らしたのか、開き直って魔法で気流を乱し、鳥が離れた隙を見計らって枝の上まで駆け上がる。静たちもそれを追いかける。鳥居に再び追い回されるのが嫌なのか、いやに速い。
枝の上に出られた後は、重力を緩和しつつ、力をかけて宙を飛び、周辺で最も高い木の天辺に集まる。周りを見渡せば、一面の緑に、雲がかかって高さがわかりずらい灰色の山が背景に入っていい仕事をしている。東の方からは湖らしきものの反射が目に入ってくる。
「ほわあ~!いい景色だね」
「やはり見立ては間違っていなかったな。どうだ康太、こういう旅行もいいだろ?」
「なるほどなあ、こりゃいいな。いままで飯にばっか目え向けてたからな」
「神様からの突然の旅行プレゼントですか。悪くないですね」
「何となくだけど、帰れる気はするんだよな」
「雅紀の勘がそういうんなら、今はこの世界を堪能させてもらおうぜ」
この世界に飛ばされること一週間、街に入ることもなく大自然の中だけで生きていけたこの四人は、しバラク帰れないとわかったうえで観光していくと決めるほどの、野生児と言われてもおかしくない環境適応能力を見せたのだった。
「なあ、このまま魔法で飛んでいくのはダメなのか?見渡せる範囲に街なんてないぞ?」
「木があるからじゃないか?朱莉、見えるか?」
「10キロほど先が森の最奥で、そこから30キロほどが森で、その先10キロで街がありますね」
「森を一日20キロなら、二日で行けるか。なら別にいいか」
この森の中は現在地では、緩い上がり坂なので、何もないとして一日中歩くならば、大抵の人が20キロメートルは何事もなくいくが、ここでは大型動物が襲い掛かってくるのである。奥に行けば行くほど戦闘頻度が上がる。歩きならば、15分間隔で一戦して進むのである。遅々として進まない。結果として、一時間に2キロほど進めばいい方である。
その点、この四人組は異常ともいえるスピードで進んでいく。同じ歩きでも、探知役の朱莉と四人のばかげた体力によって、一戦の時間が短くなり、休憩を必要としないのである。その結果、20キロ程度ならば5時間もあれば余裕で歩き切れるのだが、寄り道は確定しているので、短めにしているのである。そして、この連中に魔法を含めて自重なしで走らせれば、平坦の10キロ程度、10分もかからない。
「明日の夕方に着けるように歩くなら、夕方にはあの峠は越えなきゃだめだな」
「それじゃあ、三時過ぎにあそこを目標に進もうか」
景色を鑑賞しつつ、計画を立て終え、再び進み始める四人。景色はしばらくは変わらないとわかっているので、進むことに専念する。
途中から、オオカミの群れが全く出てこなくなり、代わりに体長4メートル越えのオオカミが出てくるようになった。初邂逅では、魔石持ちらしく、体表に風を纏い素早く突撃してくるも、康太に正面から止められ、朱莉の援護で目を潰される。発狂して暴れるも、雅紀と静が手足の腱を的確に切り裂いていき、魔法で周囲のものを吹き飛ばそうとするも、ものの見事に魔法で相殺され、呆然としているところで首を落とされるという終わり方をした。それほど強くないと思いながら、きれいな皮だから売れそうだなあ、とか思いながら仕舞う。
深くまで来たのか、群れで出てくる動物はいなくなり、出てくるのは単体の巨大化した動物だけになった。四人でやっても、瞬殺できてしまい鍛錬にならないと、ついには一対一で戦い始めた。残りの三人はというと、先に進むというひどい仕打ちをしている。しかし、魔法に頼らず、それでも早く倒さないと置いて行かれるという状況を本人たちは楽しんでいる模様。
無事に三時には森の最奥に着き、木に登って街を確認する。最奥は魔力が濃いらしく、木の高さも100メートルを超え、雅紀的に新しい構図で森が見ることができ、子供のように興奮していた。
動物は魔力が濃い空気の中では、食事をする必要がないのか、出会っても襲い掛かってくることはなく、去っていくことがほとんどだった。ばったりと出くわした白いオオカミや赤い熊なんかは、敵意が全くなく知性を感じさせる顔つきをしていた。森深くまで入ってくる人間が珍しいのか、四人のことを興味深そうに見つめていた。
街が確認できたことで安心するとともに、街と森の間に何やら木が育っておらず、地面が見える部分が見えた。
「ミステリサークル見つけたから、近くまで行ったら見に行かない?」
「お、いいぞ、ロマンがあるじゃねえか」
「地球だといたずらとか自然現象でできたものだけど、こっちじゃどうなんだろう?まさか、本物の宇宙人がいたりして」
「静、私たちはこの星の人類にとっては宇宙人ですよ?」
「あ、そうだった」
三時のおやつに、森の深くで採れた果物を食べる。森の、くまさんが食べていたから安全だろうと思っているようで躊躇わずに食べていく。いざとなれば魔法で何とかするつもりなのだろう。緑一色の森の中に目立つ黄色があったようでたくさん採ってきたらしい。酸味の中にも甘みも感じられ、すっきりしたいときに向いている果物のようだ。ほかにも赤や白の果物ももいできたようだが、一つで満足したようで、立ち上がって進み始める。
その日のうちにはミステリーサークルにはたどり着かず、寝ることにした。森の中だろうと風呂に入りたいので、魔法で作り上げていく。今回は今朝までのキャンプ地とは違って、頻繁に襲撃があるので、結界を張っておく。この結界は、一定以上の大きさを持つものを内側に入れない、という情報を空間に与えている魔法である。結界という方が想像しやすいので使っているが、実際には物理的障害は全くない。
風呂にはいった後は、その証拠を隠滅し、安全な寝床を確保するために木の幹に穴をあける。力にものを言わせて殴ったのでは、きれいな穴は作れないので、個体の形状変化の魔法できれいに作っていく。森に入って初めて木に魔力を流すことになり、ここで初めて、ここの木材は魔力伝導が非常によいことを知る。ここでマッドサイエンティストの素質を持つ静以下二人は、「資料♪試料♪」と喜びながら、張り巡らされている枝をボキボキと折っていく。
流石に若い枝をダメにするつもりはないらしく、年老いた枝で光を遮ってしまっているものを次々と頂いていく。枝といっても幹が直径4メートルを超える大木の枝である。普通の丸太程度の太さはある。康太以外の三人で数往復して20本ほど持ち込んだところで、動物がやってきたようで、そこで切り上げて安全な基地作り戻っていった。
夕飯はもちろんイノシシ肉のステーキで、魔法で匂いをまき散らさないようにしながら焼いていき、堪能していく。初めは安全のために穴の中で焼こうとしたが、静シェフのストップが入り、地面の上で焚火をして焼くことになる。そろそろフライパンが欲しいとも思い始める。そう思えば、と今更だが金属製のものが欲しくなり出す。街に入ったら買うか、それとも鉱山から掘り出すかなど考えているが、匂いが流れ始めるとそちらに引き寄せられ、考え事は後回しにされるのだった。
雅紀はご飯を食べ始めると意識がご飯に向くのか、口が軽くなって今日もやらかす。
「ん~、旨い。これからもご飯作ってくれないか?」
ズキューーーン
静の心にクリティカル!!
静にしてみれば突然のプロポーズに聞こえるのだが、雅紀はそこまで頭が回っていない。普段なら言いもしない恥ずかしいセリフを連発していく。しかも、この状態は秘密などの重要なことは漏らさないで、恥ずかしいセリフを言ってのけるだけなのである。ただ、言った本人があとで穴に入りたくなり、言われた側が幸せになるだけである。学校でも家でも、一週間に一回は見れるので、周りも慣れてニヤニヤしている。
8時間ほどの移動はやはり疲れるのか、見張り時間を均等にするためなのか、魔法の実験もせずに早めの9時に就寝する。
翌日、歩き始めて1時間、お目当てのミステリーサークルに到着する。いざ、到着してみると、木が存在していない部分はだいたい直径300メートルの円形の広場であった。この森では昨日は見かけなかった小川も走っていて、中央に若い木が一本立っている。森林生態学でいうところのギャップの状態で、上空に伸びる枝による葉木漏れ日が、若い緑の葉と小川の水面に反射してまぶしい。昨日の景色が壮大さであらわされるものならば、こちらの光景は神秘さであらわされるものである。
見事なうっとりと魅入る四人は、周囲に敵対者の気配を感じているものの動かないで木を見ている。
「見事な光景なんだがなあ・・・」
「これはちょっと悲しいかな。もうちょっと見てたかったんだけどなあ」
「二人とも、現実を見てくださいな」
朱莉の言葉でようやく動き出す。スマホから木剣を出し、敵意が向けられている広場の中央に向かう。そこには幻想的な光景ではなく、何本もの木の根を地面から引き抜き、鞭のようにうならせている木の魔物、トレントがいた。




