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あやかし心療室  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
サトリの少女と心の声
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サトリの少女アルバイトを始める①

「たぶんそれは、サトリと呼ばれる妖怪の力だ。美香子は……リナのお母さんは、人の心の声を読むことができた」

と苦し気な表情で語る父の話にリナは最初、何を言っているのか分からず、泣き腫らした目を瞬かせた。


あの学校の体育の授業で倒れて以来、部屋から一歩も出ようとしないリナを心配して、父が部屋に入ってきたのが先程。


あの時のことを話せば、いつも優しい父だってバカなことをいうなと怒るかもしれないという思いを抱えて、だんまりを続けていたリナだったが、何があったか話すまで一歩も部屋から出ない覚悟の父をみてとうとうリナは打ち明けたのだった。


 あの時の、体育の授業の出来事をリナは話した。

 父に打ち明けながらも、本気にしてくれないかもしれない、笑われるかもしれないと思っていた。

 だけど、父の反応はリナの予想を超えてその言葉をあっさりと受け入れ、なおかつ、その力は妖怪の力で、リナの母親も人の心が読めたのだと言った。


「……お父さん、何を言っているの?」

 やっと絞り出したような掠れ声でリナは父にそう問い返す。

 父から発せられた妖怪という耳慣れない単語に思考がショートしそうだった。

 まだ、寝ぼけているのだろうか、もしくはあの事件も含めて、夢だったのではないだろうか。

 しかし、いつまでたってもこの悪夢は冷めない。

 醒めないままずっと、今まで部屋に引きこもっているのだから。


「お母さんの一族は妖怪サトリの血が入っている。サトリというのは心の声を読み取ることができる妖怪で、たまにだが、一族の中には、リナのように唐突にその力が目覚めてしまう者がいるらしいんだ。お母さんもその一人だった」

 そう改めて父から説明された内容に、リナは眉をしかめる。


 リナの母は、リナが生まれて間もない頃に事故で亡くなっている。

 母がどんな人だったのか、もうリナは覚えていない。

 加えて、母の実家とも疎遠で親族に会ったこともない。

 リナの知る母というものは、写真に写る笑顔だけだ。


 その母が妖怪の一族だという父の言葉をリナは繰り返し心の中で反復し、そして結論づけた。

 自分はからかわれているのだと。


「ひどいっ! お父さんのバカ! 私が変なことを言ったから、だから、お父さんも変なこと言ってるんでしょう!? でも私は嘘なんて言ってない! だって、本当に聞こえたんだから! 本当に、本当の、本当で、本当の、こと、なんだからぁ……!」

 そう嗚咽混じり父に向かって、叫んだリナは、もう我慢できないとばかりに涙を流して顔を下に向けた。


 もう高校生になったというのに子どもっぽく喚き倒す姿がみっともないと思いながら、それでも喚かずにはいられないほど、ひどい気分だった。


「リナ……! 落ち着いてくれ」

 と父がそっとリナの背中を撫でると、そのままリナは父の胸の中で泣いた。

 リナは、普段はこのように声を荒げるようなことはなかった。

 性格は穏やかで、年齢にくらべてあどけない印象の、まだ反抗期すら一度もきていないような少女だった。


「リナ、すまない! 私はリナのいうことを信じていないわけじゃない、信じているからこそ、この話をしたんだ!」

 と父の声がきこえてきて。

 そして、同時に、聞こえないはずの声が聞こえて来た。


『言っておけばよかった! リナにはこういう時がくるかもしれないと、一言だけでも伝えておけば! リナがこんなに傷つかずに済んだのに! 力に目覚める人は、滅多にいないのだから、だからリナだけは大丈夫だと、そんな風に思って……思い込もうとして、リナを傷つけてしまった。美香子がいない今、リナを守ってやれるのは、俺しかいないのに!ああ、リナ!』

 その頭に直接響くような嘆きの声は、確かに父の声。

 ゆっくりと顔を上げて、リナは父を見上げる。

 父が泣いていた。


『「リナ、お願いだ。お父さんを信じてほしい。お父さんは、リナがこの世界で一番大事なんだ。リナにとっては、信じられない話だろうけれど、お父さんが言うことを信じてほしいんだ。そして、一緒に、リナとこれからのことを考えさせてくれ」』

 頭に響く声と、父の発した声が一致した。


 信じてほしい。

 その気持ちは、先程まで自分が感じていた気持ちではなかっただろうか。

 父には自分のいうことを信じてほしいと言いながら、自分は父のいうことを信じようとしていない。

 リナはそう気づくと、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

 そしてその衝撃は少しだけ、リナを冷静にさせた。


「お、お父さん、じゃあ、私は、本当に、妖怪……?」

 恐る恐るそう尋ねると、返事を返してくれたリナに少しばかりほっとしたようにして目元を緩めてから、徹は首を横に振った。


「リナは人だよ。お母さんだってそうだった。ただ、少しだけ特別な力を持っているだけなんだ。それだけだ」

「少しだけ、特別な、力……?」

「そうだ。お父さんは、そういう力はつかえないが、美香子から色々と話は聞いてる。大丈夫、それは無闇矢鱈に暴走するような力じゃない。落ち着いてやれば、力を自制できるんだ。美香子もきちんとその力を制御してた。力を制御できたら、今まで通りの生活ができるようになる。だから、一緒に頑張ろう」

 父は改めてそうリナに諭すと、心を読むサトリという妖怪についてのことを語り始めたのだった。



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