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あやかし心療室  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
サトリの少女と心の声
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プロローグ

新作です。

8万字ぐらいの文量で、完結予定!

お付き合いいただきますと嬉しいです。

 春。変化の大きい季節。


 冬の寒さが遠ざかり、穏やかな暖かさに包まれてゆく中、佐藤リナはまったく穏やかではない気持ちで、50m走のタイムを測る列に並んでいた。


 高校に入学してから5回目ぐらいの体育の授業。

 なんとも憂鬱な気分なのは、走るのが苦手、という理由ばかりではない。

 リナの最近のもっぱらの悩みは、4月も下旬に差し掛かろうというのに、未だに新しい学校、新しいクラスに馴染めずにいることだ。


「今日、榊君休みなんて残念。走るところ見たかったなぁ。ちょうかっこいいよね。まじ、超高校級のイケメンって感じ。やっぱり金髪に青い目ってずるいよー」

「それに、入学式で総代してたってことはさ、頭もいいってことじゃん? もうほんとヤバイ。同じ学校ってだけでも最高なのに、同じクラスになれてラッキー過ぎるよね」


 待っている間、女の子達の楽しそうな会話が聞こえる。

 彼女達は、リナと違って仲良しのグループを作ることに成功したらしい。


 それを羨ましく思いながらリナは聞き耳を立てる。

 もしかしたら、今なら、『榊君、かっこいいよね!』という話に便乗して、このグループの女の子達と仲良くできるかもしれない。


 でも、突然話に割って入ったら、引かれたりしないだろうか?

 そんなことをくよくよと悩んでいると、いつの間にか女の子たちの会話は、榊君のかっこいい話から、担任の先生の髪の毛が薄いという話に切り替わってしまった。


 会話のテンポが、リナには早過ぎた。


 心の中で大きなため息を吐くと、ちょうどリナの前に並んでいた人が走り出した。

 そろそろ走る順番だ。


 リナは重い足取りでスタートラインに立ち、スターターピストルの音で走り出す。

 あまり走るのは得意とは言えないが、それでもタイムを少しでもいいものにしたいと、全力で走っているまさにその時。


 ふと、頭の中に響くような、声が聞こえてきた。


『アイツ、足おそ』

『やべえ、超胸が揺れてる』

『うっざ。何あれ、男子の気を引くのに必死過ぎ』

『おっぱいでけえー』

『あの子、走るだけで胸揺らし過ぎ。わざと揺らしてんじゃないの?』


 聞いたことのある声。同じクラスの子達の声のように思えた。

 でも、その声は直接頭に響くような声で、どう考えても、離れた場所にいるはずのクラスの子達から発せられるような感じではない。

 今まで感じたことのない感覚に、戸惑ったリナは、ゴール手前で走るのをやめて、クラスの子達の顔を見た。


 突然走るのをやめたリナに誰もが不思議そうな顔をして、こちらを見ている。

 誰もリナの近くで囁くように話しかけてはいない。


 でも聞こえる。さっきからずっとざわざわと、ざわざわと、クラスメイト達の声が聞こえる。


 リナは思わず耳を手でふさいだ。


 でも、頭に響く声は、止まらない。


『え、何、途中で止まってんの。目立ちたがり? ウケる』

『走るのやめたら、おっぱい揺れねぇじゃん』

『注目浴びたい系うざ。ちょっと可愛い顔してるからって、調子乗ってるでしょ』


 むしろ先程よりはっきりと、より強烈に、よりたくさんの声が濁流のように流れて来た。


 耐えきれなくなったリナは、思わずその場でしゃがみ込むと、以前話をしたことがあるクラスの女の子がリナのもとに駆けつけてくれる。


「佐藤さん、大丈夫? 気分が悪い? 保健室にいく?」

 クラスメイトの優し気な声と一緒に、リナのもとにまた頭に響くような声を聞こえた。


『ラッキー! 佐藤さんを保健室に連れてくって理由で、授業さぼれるじゃん。それに友達気遣ってる私アピールできるし』


 胸に響くその声は、間違いなく目の前で心配そうにリナを見ている女の子と同じ声。

 思わず、リナは「え?」と弱弱しい声を上げて見上げる。


「どうしたの、佐藤さん。立てる?」

『早く立ってよ。この子ほんととろい』


 同じ生徒の声で、全く違う言葉が聞こえてくる。


 リナは、訳が分からず瞠目する。

 しかしそうしている中でも、頭に響く声は止まらない。


 ずっとずっと頭に響く様々人の声が聞こえてきて、そしてそれらはとても綺麗な言葉とは言い難いものばかり。


 混乱の最中、リナは、この頭に響く声は、心の中でその人が思っている本当の声なんじゃないかと思えてきた。

 そんなはずない、そんなはずないと思いながらも、でも、一度そう思うと、そうとしか思えなくなってきて……。


 女子のリナへ対する嫉妬のような言葉、それに男子の下卑た声、それに囲まれながら、リナは思った。


 でも、この声が人の心なのだとしたら、もしこれが本当に、人の本心なのだとしたら、なんて……人の心というものは、なんて汚いものなのだろう。


 リナはそう思うと同時に、どうしようもない息苦しさを感じた。

 それでも、無理やりリナの心に響いてくる周りの声。声。声。


 ―――うるさい。


「やめて! やめて! うるさい! 静かにして!」


 リナは思わずそう叫んで、そして、その場でとうとう意識を失った。




完結するまで毎日複数話更新予定です。

よろしくおねがいします!

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