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投稿するかもしれないし、しないかもしれない

真夏の昼下がりである。

周りは見渡すかぎり緑という祖父母の家に隔離されてから、いったいどれくらい経ったのだろうか。

今年中学受験を控えている僕は、夏休みの間、受験勉強に励めるようにとここへ連れて来られた。車で2時間の道のりを、父が送ってくれたのだ。父は僕が車から降り、トランクから荷物を取り出し終えると「じゃあ、がんばってな」と言い残し、すぐ車を出して行ってしまった。

車の空調に当たっていたので、むっとした夏の熱気に呼吸が一瞬できなくなるようなあの感覚を覚える。

帰省するのは本当に久しぶりだ。ここ数年、この父方の家とはまったくと言っていいほど音信不通で、祖父が亡くなったときですら、葬式に顔を出すことは無かった。

夏の日光にじんわり汗ばみつつ、祖母の家へ続く小道をゆっくり歩いた。首元に感じる汗は心地良かった。

道の脇の伸びきった雑草の作る影を踏み踏み、首に下げるタオルでも持ってくればよかったかなぁ、などと思いながらしばらく歩くと目的地に着いた。

「田舎の実家」と言われたら誰でもが想像するような古民家である。

縁側の6つの扉がすべて開け放されている。近隣住民ならそこへむかって「暮谷さ~ん」と呼べば、祖母が出てくるのであろうが、なにせ祖母の声を聞くのも数年ぶりの僕がそうするのは、なんだかきまりの悪い感じがしたので、チャイム(インターホン)を鳴らした。呼び鈴の横の石の表札にはたしかに暮谷と彫ってあった。

呼び鈴は歯切れの良い音で鳴り、やがて一人の老婆が玄関まで出てきた。

(しゅん)かい、よく来たねぇ。しばらく見ないうちに立派になったねぇ、もう中学生だったかしら。」

「来年で中学生。まだ小6だよ」

「そうだそうだ、だからここへ勉強しに来たんだったねぇ。暑かったろう?中へお入り。」

といって玄関の段差をかけごえとともに上って、広い畳の部屋へ通してくれた。

「いま飲み物を出すから、座って待ってなさい。」といって、祖母はのれんをくぐって台所へ行き、冷蔵庫を開き、「ジュースか冷たい麦茶、どっちがいいかしら_」と訊いた。僕なりに遠慮したつもりで「麦茶」と注文したのだが、耳が遠いらしく祖母がもう一度聞き返してきたので、「ジュース!」とすこし大き目の声で返事をした。

オレンジジュースの入ったコップをくっと傾けると、カランコロンと中で氷が涼しい音を立てる。祖母は黙って僕がオレンジジュースを飲むのをうちわで扇ぎながら見ており、ジュースを飲み干して、なかの氷をばりばりと噛み砕き始めた頃、満足げな顔をして話しかけてきた。

「俊三や、恵美さんは、元気にやっているの?」

「父さんも母さんも元気だよ。特に変わったことも無いし。」

「そう、ならいいわ。」 祖母が庭に目をやりながら答える。

祖母はぼんやり庭を見つめながら、僕はほおづえをつきながら、沈黙が流れる。

べつに気まずいものでもないし、むしろ心地の良い静けさである。

続くのかな

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