09話 都市への招待
『バサッ バサッ バサッ』
シルフィードの目の前で、レッドドラゴンが地上に降り立つ。
騎士達も、シルフィードも何も言わずにその姿を黙って見ていた。
(人間?)
レッドドラゴンの背中には、確かに人間が乗っている。
(竜騎士じゃないわよね? ワイバーンじゃ無く間違いなくレッドドラゴン・・・でも、報告より随分と小さいわね)
シルフィードは冷静にシンとメルを分析していた。
【メル、攻撃しちゃダメだよ、威嚇だけにして】
【はぁ~い、出来るだけそうするね】
念話でメルと会話するシン。
「皆さん、無事みたいですね?」
シンはそう言って調査隊に話しかける。
「・・・・・・・・・」
しかし、調査隊は誰一人口を開かない。
シンは倒れている騎士二人に気が付いた。
【メル? あそこで倒れている二人、癒しの力でなんとかなる?】
【無理、もう死んじゃってるよ】
【・・・・そうか、わかった】
シンは気を取り直して、騎士達に話しかける。
「すみません、ここの領主の騎士団ってあなた達の事ですか?」
「・・・・そうです」
シルフィードが答える。
シルフィードを見たシンが意外そうな顔をした。騎士が大勢居るのに、答えたのは綺麗な女性だったからだ。
「それじゃ、テトを攫ったのもあなた達ですか?」
「?? テト?」
「お嬢様、例の内通者です」
騎士の一人が、シルフィードに小声で答えた。
「その男は、帝国の内通者である可能性があります、だから我々が拘束しました」
「あ~ それ誤解ですよ、テトが会っていたのは俺です、帝国の竜騎士じゃありません」
「貴様は何者だ?! 何故ドラゴンに乗っている?・・・・・っ?!」
騎士の一人が口を開き、その発言にメルが殺気を放った。
【ちょっとシンっ! なにこの人族? 偉そうでムカつくんだけど・・・踏み潰しても良い? 良いよね?】
【まてまて、潰しちゃダメだろ?】
メルの殺気に、シルフィードも騎士も変な汗を大量にかいている。魔術師の女の子の一人は・・・可哀想に失禁したみたいだ。
「あ~ このドラゴンが言っています、人族のくせに生意気だと、口の利き方に気を付けろ! だそうです」
「・・・・・し、失礼した」
「とにかく、テトは僕の友人です。彼の開放を要求します」
「我々が何故貴様・・・いや、あなた様の要求に従わないといけないのですか?」
「えぇ? せっかく助けたのに? この国の騎士って恩を仇で返すのですか?」
「・・・・・・・・・・」
痛い所を突かれて、シルフィードは黙ってしまう。
「じゃあ、続きをやりますか?」
「続き??」
「先ほどのモンスターの代わりに、僕たちが相手しますけど?」
「まままま、待てっ! 待つんだ!! 早まるな! とにかくあなたが何者か教えてくれないか?」
「僕の名前はシン。 この娘はメル、僕の相棒です」
「シン殿、あなたは帝国の竜騎士では無いのですね?」
「見ての通り、この娘はレッドドラゴンです、帝国の竜騎士はワイバーンと聞きましたが?」
「ええ、しかしドラゴン種に乗る事が出来るのは、帝国の竜騎士以外には居ないと思っていますが」
「それは、勝手にそう思い込んで居るだけでは?」
「・・・・・・・・」
「とにかく、僕は帝国の竜騎士じゃ無い」
「わかりました、出来ればもう少し詳し話を聞かせて欲しいのですが、我々の野営地に来て頂けませんか?」
「・・・・テトはそこに居るのですか?」
「ええ、彼は野営地に居ます」
「わかりました、その野営地とやらに伺います」
シルフィードはホっと安堵の息をついた。
【えぇぇ~~? 行くの? そんな事より狩りに行こうよぉ~!】
【ダメダメ、テトの無事を確認しないと】
【つまんなぁ~い お腹すいたぁ~】
そんなやり取りをしていると、シルフィードがゆっくりと近づいてきた。茶色い髪を綺麗に結い上げて、改めて見ると、とても綺麗な顔をしている。
シンもメルから降りる。
「改めまして、シルフィード フォン ウェストリアです」
「シンです・・・・ウェストリアって事は?」
「はい、私はウェストリア伯爵家の物です」
(へぇ~ 貴族様ってやつか、すごい美人だし、流石貴族様だ)
【ちょっとシン! その人族のメスに何デレデレしてんのよっ!】
【いや、デレデレなんてしてないだろ! それよりもその殺気をなんとかしろっ!】
「あ、あの・・・シン殿? なにかドラゴンが怒っている様子ですが・・・」
「へ? ああ、気にしないでください、お腹が空いてイライラしているだけですから」
「そうですか・・・では一緒に来て頂けますか?」
「わかりました、僕は飛んで行きますから先に出発して下さい」
調査隊は仲間の遺体を積み込むと、野営地に向けて出発した。
上空50m程度の高度で、ゆっくりと旋回しながら調査隊の上を飛ぶ。農家の家の側に大きなテントがいくつか立って居るので、野営地だとすぐにわかった。
野営地の側に着地する。
【メル、少し長くなるから狩りに行っても良いよ】
【わかった、すぐ近くの森に居るから、何かあったらすぐに呼んでね】
メルはそう言うと飛び立って行った。
メルの飛んで行く姿を野営地の全員が見守っている。野営地には、村で雇った農民達男女数人が働いていて、突然のドラゴン襲来に誰もが驚いていた。
騎士の一人が近づいて来ると、「こちらへ」と言ってシンを案内する。
大きなテントに入ると、そこはテーブルや机が置いてあり、野戦司令部の様な感じだった。
「テトは?」
「その前に、少しお話を聞かせて頂きたいのですが」
シルフィードは鎧を脱いでいて、ドレス姿に着替えて現れた。その美しさに思わず見惚れてしまう。鎧を着て居た時とは、印象が全然違った。本当に貴族のお姫様、そんな感じだ。
応接セットに座り、侍女がお茶を準備する。シルフィードの他に、騎士が2名立ち合っていて、騎士が会話を切り出した。
「まず、シン殿は何処の国の人だ?」
「・・・・・・何処と言われても」
「その鎧のエンブレム、エルディア王国の物だとお見受けするが?」
「え? ああ、この鎧は貰ったんですよ。ドラゴンからもらいました」
「そうですか・・・で?あなたは我が国の国民なのか?」
「アルバント山ってこの国の領地なのですかね?」
「いや、あそこは何処の国の物でも無い」
「・・・そうですか、では僕は無国籍? ドラゴンの領土ならドラゴン国の国民って所でしょうか」
「・・・・・」
「僕はアルバント山に住んでいます、以前の記憶はありません。大怪我をして倒れている所をドラゴンに助けられました、目が覚めたらドラゴンの巣に居たって訳です」
「ドラゴンの巣・・・・」騎士がポツリと呟く。
「レッドドラゴンに助けられたと言うのですか?」とシルフィード。
「ええ、その通りです」
全員が信じられないと言う顔をする。
「あなたはドラゴンと意思疎通が出来る様に見えたのだが、本当に出来るのか?」
「出来ますよ。どうやって意思疎通をはかっているか、その方法については喋る事は出来ません、そういう約束なので」
「そうですか」と騎士。
「レッドドラゴンは凶暴なドラゴンと聞いています、大丈夫なのですか?」
今度はシルフィードが質問する。
「んー凶暴とは思えませんが・・・っと言うか、ドラゴンと言う種族はどれも凶暴なのでは?」
「しかし、先日も森をブレスで灰にしています」
「あ~~アレね、あれはちょっと理由があって・・・詳しくは言えませんが」
「我々は、ドラゴンがブレスで人里を焼かないか懸念しています」
「無い!ないない、理由が無い限りそんな事しませんよ」
シンはあり得ないと言うが、シルフィードは30年前の開拓村の話をした。
(あ~ なんかテトもそんな話してたな)
「何の理由も無く、ソフィーがそんな事をするとは思えないけど、何か怒りを買う様な事をしたのでは?」
「ソフィー? あのドラゴンはメルと言ってませんでしたか?」
「へ? ソフィーはメルの母親です、僕がいつも乗っているのは、ソフィーの娘ですよ」
「ちょっと待って下さい! 今アルバント山にレッドドラゴンが二匹居ると言う事ですか?」
「そうですよ、母娘親子です」
「な、なんという事だ・・・・」
全員、信じられないと言う暗い顔だ。唯でさも凶暴なレッドドラゴン、それが二匹も居るのだ、全員の顔が暗くなる。
「あの、何故そんなに彼女達を恐れるのかわかりませんが、基本的に彼女達は人族に関心がありません。よほど何かやらない限り怒りを買う事は無いと思います。その開拓村の件は、ソフィーに聞いてみますよ。理由がわかれば、あなた達も安心出来る訳ですよね?」
「はい、その通りです。ではその件は宜しくお願いします」
シルフィードが頭を下げる。
「それにしても、今まで人里に姿を見せなかったのに、ここに来て何故?」騎士が訪ねる。
「それは僕のせいですね。僕がメルに頼んでテトの家に遊びに行ってるので」
「あなたはその農家で何をやっているのですか?」
「いやぁ~ ドラゴンと一緒なので、モンスターの肉には事欠かないのですが、野菜とか食べたいじゃないですか」
シンは人間らしい生活をする為に、テトにモンスターの換金をお願いして、買い出しを頼んでいる事を正直に話した。
話を聞いた三人は「そんな理由かよ!」って顔になる。
「それでは人里に住めば良いのでは?」騎士が素朴な疑問を口にした。
「それはメルがダメだって」
「何故?」
「きっと遊び相手が居なくなると暇だからでは?」
「・・・・・・・」
あまりにも緊張感の無い理由に、三人とも呆れ顔だ。
シルフィードは気を取り直してある提案をした。
「シン殿は人間らしい生活に憧れているとの事ですので、どうでしょうか? この後一緒にお食事でも?」
「ま、マジですかぁ??!!! 是非是非お願いしますっ!」
「え、ええ・・・宜しければ是非に・・・」
あまりにもシンの凄い食いつきに若干引き気味の三人。
念話を送ると、メルはブーブー文句を言ってきたが、なんとか宥めて食事にありつける事になる。テトも解放してもらうと、お互いに再会を喜んだ。
テトは貴族とは一緒に食事は出来ないと言って、騎士の一人に家まで送ってもらう事にして帰って行った。早く家族に顔を見せて安心させてあげたいのであろう。テトにお願いしていた品物は、既に購入済みとの事なので、後日改めてお邪魔する事にした。
久しぶりに人間の食事を楽しんだシン。食後、お茶を飲みながら歓談となる。
「シン殿、宜しければ今度、我が屋敷に遊びに来ませんか?」
「え? でも、メルが何ていうか・・・」
「ここから馬で1日の距離にあるサンスマリーヌと言う都市です」
「都市・・・・」
「シン殿が求める雑貨等は、都市の方が色々ありますし、失われた記憶も甦るかもしれませんよ?」
実に魅力的な誘いだった。それなりの都市に行けばこの世界の事はよく分かるはずだ。魔法だって学べるだろう。メルに念話で聞いてみると、ソフィーに相談しないとダメだと言われた。
「戻って、ソフィーに聞いてみます、彼女達は僕が人族と交流するのを、あまり快く思っていないので」
「そうですか・・・出来れば私としては、ドラゴンに乗って来て頂きたいのです」
「えぇぇ? メルに乗って?」
驚くシンと同時に、騎士達も驚く。
「お、お嬢様?? 何をおっしゃるのですか?」
「あら、あのレッドドラゴンの子供はシンにとても懐いて居るし、大丈夫でしょ?」
「ま、まあ・・・いきなり人を襲う事は無いと思いますけど・・・」
「是非、前向きに検討してくださいね」
ニッコリと笑顔でそう言われて、美人に弱いシンは前向きに考えると約束した。
明後日の早朝に、調査隊はサンスマリーヌの都市へ戻るとの事なので、30年前の事件の事をソフィーに確認して、明日もう一度来る事を約束して野営地を後にした。
洞窟へ戻る途中、メルはしきりに「人族のメスにデレデレして」とプンプンだった・・・
その日、夕食を終えてからソフィーに今日起きた出来事を話した。そして30年前の出来事について聞く。
「あら、人族ではそんな話になってるの? 失礼しちゃうわね」
そう言って、ソフィーは30年前に起きた出来事について話してくれた。
開拓村が森の開発を始めて暫く経った頃、村の中で疫病が発生した。開拓村を拠点にした狩人が、森のモンスターを乱獲して死体を放置した結果、毒持ちのモンスターの死骸から得体の知れない疫病が発生してしまった。
病気は一気に村中に広まり、三分の一の村人が既に死亡、残りのほとんども、病気に感染していたそうだ。それだけならソフィーも干渉しなかったが、病気になった人族を森のモンスターが襲い、それを食べたモンスターにも病気が広まって行った。
村を中心に、森まで疫病が凄い勢いで広まって行った為、ソフィーは疫病がこれ以上広がると森全体の危機になると判断した。そして村と森を焼くことにしたのだ。病気の病原菌が残らない様に、全て灰にした。
「なるほど・・・そうだったんだ」
「どちらにしても、村人の9割以上が感染していたわ、私が手を出さなくても誰も助からなかったと思うわよ」
「ありがとうソフィー、それを聞いて安心したよ」
「シンまで失礼ね、私が気分で村を灰にしたとでも思ったの?」
「いや、そうは思わないよ」
次にシンは、シルフィードに提案された「都市へ遊びに来ないか?」の話をする。
「別に良いわよ」
「へ?」
「えぇ? 母様? 良いの?」
シンとメルが同時に驚く。
「昔は人族とも普通に交流があったのよ、それこそ私が子供の頃にはね。今はもう、人族との交流が無いから、私達が人族の姿になれる事を知っている人族も居ないでしょうけど」
「そうだったんだ」
「人族の姿になれる事は秘密でもなんでも無いのよ」
「え? じゃあ人族の街で、私が変身しても良いの?」とメル。
「ええ、構わないわよ」
メル一人なら心配で許可しないけど、シンと一緒なら安心だと言うソフィー。
「メルも、人族や他の種族の事をそろそろ学ぶ時期だし、丁度良いわ。まずは人族の事を学んできなさい」
「うんっ! わかった!」
メルも人族の街には興味があるらしく、意外にも乗り気だった。
「それともう一つ、シンに頼みがあるわ」
「え? 俺に? 何??」
「先日、青竜ともちょっと話したんだけど、最近ワイバーンを乗り回している人族が居るって」
「ああ、帝国の竜騎士ね」
「他の竜達がかなり怒っているのよ、竜族を家畜か何かと勘違いしているんじゃないかって」
「その前に・・・他の竜? 他にも古代竜って居るの?」
「居るわよ、私達「赤竜」の他に「青竜、黄竜、白竜、黒竜、紫竜」ね私達はオスがなかなか生まれないけど、黄竜の所に若いオスが居るのね、それでメルに嫁に来いってうるさくてね」
「嫌よ! あんなヤツの所、それに白竜と紫竜の所からお嫁さんもらってるじゃないの! 三番目なんて絶対に嫌! あんなヤツと結婚するなら人族と結婚するもん!」
「はいはい、話がそれたわね。で、一番私達がその竜を飼い慣らしている人族に近いのよ、場所的にね」
「なるほど」
「それで調べて欲しいって、そういう話が来てるのよ」
「調べるって何を?」
ソフィーの話によると、古代竜達はこの世界に散らばっては居るが、定期的に連絡を取っているらしい。それで最近「帝国の竜騎士」の存在を知って「誇り高い竜族を家畜の様に飼い慣らす人族に鉄槌を!」と
怒り心頭らしい。特に黒竜が一番怒っていて、「人族を灰にしてやる!」との勢いだそうだ。
そんな事をしたら、人族VS竜族の全面戦争になり、決して良い結果は生まれない。
そこで、シンの存在を知った他の古代竜達が、シンを使って人族が何を考えて居るのかを探って欲しいと言ってきた。現在は交流が無い人族の所へ、いきなり古代竜が現れるとパニックになるだろうし、出来れば穏便に人族を説得して欲しいと・・・竜種を家畜の様に飼い慣らすのは止めるようにと。
(なんか、ドラゴン達の方が人間に気を使ってるのな・・・)
「ねえ、母様? なんで他の竜達はシンの事知ってるのよ?」とメル。
「あなた、シンを乗せてワイバーンの三人娘に会ったでしょ?」
「・・・・あいつらか」とメル。
噂好きのワイバーン三人娘によって、メルが人族を婿に迎えたと、竜族の間に一気に噂が広まったそうだ・・・
「まあ、そんなに急ぐ話じゃないし、追々で良いわよ」
「え? そうなの??」
「私達竜族の時間の流れと人族の時間の流れは違うのよ、竜族で最近話題になったと言っても、ワイバーンを飼育している人族は、実際には10年も前からやっているのよ」
「なるほど・・・僕ら人族にしたら今更って感じですね」
「そう、それを理解出来ない竜族と人族の感覚の違いがあるので、シンにお願いしたいのよ」
「わかりました」
「他の古代竜達もシンに頼むって言ってるので、シンは竜族の使者として人族と対話をして欲しいのだけど、良いかしら?」
「使者ですか・・・・・」
「別に大した事無いわ、人族って無意味に肩書に拘るでしょ? だからシンは竜族の使者って肩書ね、その方が人族も納得するでしょうし」
「なるほど・・・・そうですね、わかりました」
――――――― 翌日。
シンとメルは、調査隊の野営地を訪れていた。昨日ソフィーから聞いた、開拓村の話を伝える為だ。
「そ、そんな事が・・・・」
話を聞いて、驚きを隠せないシルフィード。
「まあ、そういう訳で、決してドラゴンが気分で村を焼いたりはしないって事は理解して頂けたでしょうか?」
「わかりました、そうですね、少し安心しました」
「それと、そちらの御屋敷に訪問する件ですが、許可が出ましたので、メルと一緒に行きたいと思います」
「本当ですか?!」
シルフィードは飛び上がって喜んでいる。
(そんなに嬉しいのか? ドラゴン好きには見えないけど・・・)
「では、何時頃いらっしゃる?」
「そうですね~ テトの所から買った物の引き取りもあるし・・・5日後ぐらいでどうですか?」
「わかりました、5日後ですね? それだけあれば、こちらの準備も整います」
「準備?」
「ええ、準備です。ドラゴンのメル殿は、庭に大きなテントか何かを用意した方が宜しいですか?」
「それは何故?」
「泊まっていかれるのでは?」
「そうですね、泊めて頂けるのであれば・・・・それって、メルの寝床ですか?」
「はい、やはり屋根がある方が良いですよね?」
「あ~ 必要ありません。その代り2部屋用意してもらえますか?」
「それは構いませんが・・・わかりました・・・」
シルフィードは、メルは泊まる事なく夜は山に帰るのだと考え、残念に思った。シンは、庭なんかにメルを寝かせて何かあったら困るので、人間形態で屋敷の中で寝てもらうつもりだ。
メルが庭で寝ている間に、いらぬちょっかいを出す人間が居ればメルが怒って、屋敷を消し飛ばす可能性がある。そういう配慮だ。
そんな訳で5日後の再会を約束して、野営地を後にした。洞窟への帰り道、テトの家に寄る。
「よく来たな!」
テトは笑顔で迎えてくれた。
「この前は済まなかった、僕のせいで変な容疑を掛けられて」
「いいって事よ、俺もお前には色々と借りがあるしな」
「そんな訳で、お詫びの印にガガド巨鳥もってきた」
「ガトービッグバードな、ちゃんと覚えろよ」
その後、頼んでいた物を見せてもらう。
「おぉぉ、良いねこれ、可愛い可愛い」
一番の目玉商品はもちろんメルの服だ。
「なあ? こんな服何に使うんだ? まさか・・・お前が着るのか?」
「・・・・俺にそんな趣味はない!」
テトは貴族のお姫様の様な服を何に使うか不思議がっている、まあ当然と言えば当然だ。
「悪いけど、奥さん呼んでくれる? ちょっと手伝って欲しいんだけど」
「おまえ・・・人の嫁に着せるつもりなのか?」
「そんな訳あるかっ!・・・まあ、見ててよ」
奥さんを呼んでもらい玄関で待機してもらう。シンは外で待っていたメルの首に布を巻く。
「メル、これで良いぞ」
「はーい」
シンとメルの会話。
シンは普通に言葉で喋り、メルは念話で返してくる。しかし、今日はメルの声は、ここに居る全員が聞くことになる。人族に変身できる古代竜だけの特殊能力だ。人族の言葉を、普通に声を出した時と同じ範囲の人間に念話を送る事が出来る。
「・・・・・・おい・・・今、ドラゴンが喋った???」
「・・・・あなた! 私にも聞こえたわ」
驚くテトと奥さんのモニカ。
次の瞬間メルの体が光り輝くと、どんどん小さくなって、そこには人族の美少女が現れる。
「「・・・・っ!!!」」
驚きのあまり言葉にならない二人。
ドラゴンの時に首に巻いた布が、丁度良いサイズでメルの裸体を隠している。
「メル、モニカさんに人族の服の着方を教わってくれ」
「うん、わかったよ~」
驚きのあまり、口をパクパクさせている二人。
「テト! おいテト!!」
「・・・・ど、ドラゴンが・・・人になった・・・・」
驚く二人をなんとか落ち着かせて、モニカさんはメルを連れて別室で服を着る訓練をしてもらう事になる。
居間で待っているテトとシン。
「しかし驚いたな・・・・ドラゴンが人間になるなんて・・・」
「まあ古代竜だからね、魔力も凄いし、何でもアリだよね」
「それにしても・・・・すっごいべっぴんさんだな・・・・」
「うん、人族になったメルは、本当に可愛いよね」
「おまえ・・・・」
「変な目で見るなよ、でもあの服を着せたくなる訳、わかるだろ?」
「ああ、確かにな・・・」
『ガチャ』
別室の扉が開くと、そこにはお姫様の様に可愛らしいメルが立って居た。
スカートの端をちょこんと抓み、ニッコリ微笑んで人間のレディと同じような挨拶をする。
「・・・・・・」
あまりにも可愛過ぎて、言葉にならないシン。
「どうかしら? 似合う?」
「・・・・・・・・・・」
「ちょっとシンっ! 人族の服を着てあげたんだから、何か言いなさいよ!!」
「あ? ああ・・・・凄い・・・似合ってる・・・ってか・・メチャメチャ可愛いな・・・」
「嘘っ? 本当に? 私似合ってる? 可愛いの???」
「うん・・・凄い・・・可愛い」
人間形態のまま、手で顔を隠してイヤイヤをやるメル。その姿も愛らしくて可愛らしい。あまり褒めすぎると、メルが暴走するので話題を変える事にする。
「メル? 服は一人でも着れそう?」
「私を誰だと思って居るの? 古代竜よ? 人族の服ぐらい自分一人で着れるわよ!」
「そうか、それはよかった」
よく分からない古代竜の誇りを言われてもそこはスルーだ。
これで、領都へ行った時に一緒に街を出歩くことが出来そうだ。
「ところでシンさん、サンスマリーヌへ行くそうですね?」
「え? メルから聞いたのですか?」
モニカさんはメルから聞いた様だ。
「そうなのかシン? だったらモンスターを持って行けよ、あそこなら更に高く売れるぞ」
「そうなの?」
「こんな田舎よりも高値で買ってくれるはずだ」
「そっか、考えてみるよ」
サンスマリーヌの都市に慣れたら、自分で売りに行くのも悪くないと思った。
「それと、お前の防具ボロボロだろ? モンスターの素材で新しい防具を作ってもらえ、素材は狩れば無料だろうから、俺の知り合いの店を紹介してやる」
テトは、狩人をやっていた時の、知り合いの防具屋を紹介してくれた。一度お店に行って、高ランクモンスターの皮で新しい防具を作ってもらう相談をした方が良いとアドバイスをくれる。
その後、色々なアドバイスをテトとモニカさんから教えてもらい、シンとメルはテトの家を跡にした。