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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
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08話 帝国の内通者

「オラ、何時もの様に畑に出てただよ、そしたらあんれまぁ~ 大きなドラゴンの叫び声が聞こえて来てな、ビックラして漏らしちまっただよ、そんでな、どっかーんって大きな音がしたかと思えば、今度は山に ぽっかりと穴が開いてるでねえか、それはもうビックラこいただよ」


「わかった・・・協力に感謝する」


 騎士は農民へ礼を言うと、馬車へと戻って行く。


 ウェストリア伯爵家の調査隊は、現地に到着して早速聞き取り調査を始めていた。


「お嬢様、やはり5日前にレッドドラゴンが出た様です」


 農民は声を揃えてドラゴンの咆哮を聞いたと言い、山に穴が開いたと言っている。かなりの距離があるエスバンヌ連峰の山麓の森だが、その穴はここからでもハッキリと確認できた。山の中腹にある森が、すっぽりと円形に無くなっているのだ。


「一旦、村長の家に戻りましょうか」

「ハッ!」


 騎兵と馬車が2両、隊列を作って出発をした。


 四頭の馬に引かれる馬車は連結式で、人の乗るスペースの後ろに荷台をけん引している。その荷台にはシートの被った魔道具が設置されていた。


 対竜騎士用の対空弓。


 弓と言っても、発射されるのは長さ50センチ、直径3センチ程度の鉄の棒だ。これを秒速2発、連続で100発の弓を発射する装置である。風魔法の魔法陣を組み込み、魔力石を動力源に弓を上空にばら撒く。


 装置が大掛かりで、矢が重たいため馬車で運ぶ必要があるが、間違いなくワイバーンには効果的だと思われた。ジラール王国は、この先必ず起こると思われる帝国との戦争を前に、対竜騎士用の兵器を開発していた。調査隊は、帝国の竜騎士が姿を現すとの情報から、対竜騎士用兵器も持ち込んでいる。


 穀倉地帯の村なので、当然ホテルの様な宿などある訳が無い。


 従って、調査隊は村で一番大きい屋敷を持つ、村長の家をベースキャンプとして調査を行っていた。村長の家にある一室を会議室として、情報の整理を行っている。


「それにしても、ドラゴンが山を消滅させるとは・・・」

「今迄は、こんな事は無かったそうです」

「三十年前の、開拓村での事件以来だと村民は言っています」


 会議室では、騎士たちが報告を行う。


「困ったわね、ドラゴンの噂は本当だった、しかもかなり凶暴になっていると・・・」

「しかしお嬢様、人への被害が出た報告はありませんし、家畜への被害もありません」


「そうなのよね、今の所は姿を見せても何もしていないのよね」

「何かに怒り、森の一部を消滅させた・・・」と呟く騎士。


「ドラゴンは何に怒ったのかしらね?・・・帝国の竜騎士がちょっかいだしたとか?」



「そうだ! ドラゴンが出た日以降は、竜騎士の姿も目撃されておりません」

「やはり帝国の竜騎士が何かやったって線が濃いかしらね?」


 そんな話をしている最中に、別の騎士が会議室に入ってきた。


「ご苦労様、そっちは何か掴めたかしら?」笑顔で騎士を迎えるシルフィード。


 入ってきた騎士は、別働隊で少し遠くの農家を周っていたのだ。


「ドラゴンと関係あるかわかりませんが、ゴブリンが出ました」

「ゴブリンですか・・・・」


「ひょっとしたら、ドラゴンに怯えて山から下りて来たのかもしれませんね」


 ゴブリンは「一匹見たら十匹は居ると思え」と言われるほど繁殖力が高い。


「放ってはおけませんな、そのうち民家に被害が出ます」

「そうね、ゴブリン程度なら私達でも十分に対応できるでしょうし」


「では、ドラゴン調査と合わせてゴブリン退治ですな」

 そこに、更に別働隊の騎士が戻ってきた。


「ご苦労様、そちらは何か新しい情報はありましたか?」

「ハッ! 気になる情報を掴んできました」


「なんでしょうか?」

「竜騎士やドラゴンの目撃情報は、北に行けば行くほど高くなっています。まあ、森に近い方が目撃されるのは当然と思ったのですが、実は竜騎士と何度か接触している農家がある様です」


「なんですってっ?!」

「その農家は、竜騎士からモンスターの死骸を受け取って、換金しているそうで」


「帝国の内通者ですかね?」

「その可能性が高いわね」


「それで、その内通者の家は特定できているのか?」他の騎士が訊ねる。

「はい、それは大丈夫ですが、ここからかなり北へ行きますので・・・」


「わかりました、明日からベースキャンプを北に移しましょう。ゴブリンの件もあるので、北に野営地を作って、そこをベースに今後の調査を続けたいと思います」


 方針が決定され、調査隊は明日からの移動の為に準備へと移った。






 洞窟ではシンが暇を持て余していた。


 ソフィーに癒しの力を使ってもらい、なんとか起きて歩けるまで回復したシン。食事は相変わらずの毎日肉三昧だ。メルはずっとシンの側から離れようとせず、シンの看病をしていた。


「本当にゴメンねシン」

「もう良いって、ほんと、気にしてないからさ」


「うん・・・・」

 メルはシンを落としてしまい、結果シンがモンスターに襲われた事をずっと気にして謝っている。


「それよりもさ、そろそろテトの所に頼んでた物が届いていると思うんだよね」

「ダメ!」


「だってさ・・・・」

「この洞窟から出ちゃ絶対にダメ!」


 メルはシンがまた怪我をするのではないかと心配で、洞窟から出そうとしない。


「だけどさぁ~ メル」

「もう乗せないもん!」


「えぇぇぇ? それは無いでしょ?」

「シン弱いから、モンスターに襲われたら今度こそ死んじゃうし」


「いや、でもさ、俺、一匹はあの熊コウを倒したんだよ? 凄くない??」

「あんな雑魚モンスター倒したぐらいじゃダメ!」


「雑魚ですか・・・・」


 こんなやり取りを、シンが元気になってからずっとやっている二人。


「だいたいね、念話石を熊に千切られても気が付かないなんて、そんなドジは洞窟から出せません」


 熊から最初の一撃をもらった時、首に下げていた念話石が千切られていた。その事に気が付いて居れば、もっと早くメルと連絡が取れて怪我をせずに済んだかもしれない、メルはそう言っている。


 念話石を装備しているのと、していないのでは、念話による通話距離がまったく違う。


「そういうメルこそ、俺を落とした反省で、俺の言う事聞いてくれても良くない?」

「だから毎日シンのお世話してるでしょ? シンの好きなガガド巨鳥だって、あんなに沢山あるし!」


 メルの指さす方には、山の様に積まれたガガド巨鳥の死骸・・・・


 とてもじゃないが、食べきれる量ではない。食べる前に腐りはじめた肉は、メルが綺麗にブレスで消滅させている。


(あぁぁ・・もったいない、売れば金貨5枚なのにぃぃ!! 50万だぞ!)


 消滅したガガド巨鳥を見ては、内心でそう叫んでいたシンであった。




「あ~ぁ・・・せっかくメルに似合う可愛い服を頼んだのになぁ~」

「・・・っ!!」


「可愛いのになぁ~」


「・・・ねえ・・・シン?」

「なんだいメル?」


「その服着たらさ・・・」

「あの服着たら、可愛いメルがもっと可愛くなると思うんだけどなぁ~」


「そそそそ、そうなの??」

「うん、絶対に似合うと思う」


「もし、もしもの話ね」

「うん」


「もしもその服を着たら、シンは私とずっと一緒に居ても良いって思ったりする?」

「きっとそう思うだろうねぇ~ でも、外に出れないんじゃなぁ~ 服を取りに行けないしなぁ~」


「・・・・ちょっとだけなら」

「え? 何??」


「ちょっとだけなら、乗せてあげても良いけど・・・」


 メルは顔を赤くして、モジモジしながらそう言う。


「本当にっ? ありがとうメル」


 そう言ってメルの頭をナデナデする。メルは嬉しそうに眼を細めた。


「可愛いメルの姿を見るのが今から楽しみだよ、俺惚れちゃうかも」

「ババババ バッカじゃないの? そんなの絶対に着ないんだからねっ!」


 ようやくメルのお許しが出て、翌日にテトの家へと行くことになった。


 シンが怪我をしてから、一週間ぶりの空の旅となる。




 翌日、出発の準備をしているシンとメル。そこへソフィーがやってきた。


「シン、あなたはまだ体の調子が本調子では無いのですよ」

「え? もう大丈夫ですよ、元気元気!」


「メルフリード! あなたは分かっているでしょ? シンの魔力の状態を」

「う、うん・・・ごめんなさい母様」


「え? 俺は元気だよ」

「シン、あなたの魔力はまだ正常ではありません、せめてもう一日休んでください」


「えぇ? そうなの? もう一日寝たら良くなる?」

「ええ、今の回復の状態から見て、もう一日安静にしていれば、かなり良くなるはずです」


「わかったよソフィー、じゃあもう一日、ここで大人しくして居るよ」

 

 結局、その日テトの家に行くのは延期された。





 その頃テトの家では。


 テトの家を訪ねる3名の騎士の姿があった。


『コンコン』


 テトの家の扉が開き、テトが来客に対応する。


「騎士? 騎士様がいったいこんな場所に何用ですか?」


「テトだな?」

「は、はい」


「我々はウェストリア伯爵家の騎士団だ、貴様には、帝国との内通の容疑が掛けられている」

「はぁ? 帝国? 何の事ですか?」


「惚けるなっ! ここに竜騎士が何度も来ているって証拠は掴んでいるぞ!」

「いや、あれは竜騎士なんかじゃなくてですねぇ・・・・」


「言いたい事があれば、我々の野営地で聞く、ひっとらえろ!」

「ちょっ! ちょっと待って!!」


「抵抗すると首を落とすぞ!」

「あ、あなた?」「パパー!!」


 こうして、テトは調査隊の騎士に拘束された。




 ――――― 翌日。


 渋々ではあるがソフィーからの許可が下りたので、シンとメルはテトの家に行く事にした。メルに乗って、テトの家へと飛行する。


 テトの家に到着すると、玄関から奥さんのモニカさんが走り出て来た。


「おはようございます、テト居ますか?」

「そ、それが・・・主人がっ!!」


 モニカさんから、テトが騎士団に連行された事を聞いたシン。帝国の竜騎士の事や、スパイと間違われた事を簡単に聞いた。


「わかりました、僕が行って誤解を解いてきますね」

「お、お願いします!」


「おじちゃん! パパを取り戻して!」

「うん、おじちゃんに任せとけ!」


 奥さんと子供を安心させると、シンはメルに乗って、すぐに飛び立った。


【なあメル? 帝国の竜騎士ってなんだ?】

【しらなぁ~い でも、人族がワイバーンに乗っているのは知ってるよ】


【ワイバーンって人を乗せるの?】

【その子達は、産まれた時から人族と一緒に暮らしているんだって、前に聞いたことがあるの】


【そうなんだ・・・】

【所でシン? 人族がモンスターと戦ってるみたいよ】


【ん? 狩人か?】

【ちょっと違うみたい・・・大勢で戦っているみたいね、ここからじゃよくわかないな】


 ドラゴンの並外れた聴覚で、人族とモンスターの戦闘を察知した様だ。

 

【そうなんだ・・・・ちょっと見に行ってみるか・・・・テトが連行された野営地もよくわからないし、何が手掛かりがあるかも】

【はぁ~い! じゃあそっちに向かうね】


 シンはテトが連行された野営地について、他の人間が場所を知らないか、聞いてみるつもりでいた。





「くそっ! なんでこんなに居るんだよ!」

「オークなんて聞いてねぇぞ!」


 ウェストリア伯爵家の調査隊は、テトを連行して直ぐにゴブリン出現の報を受けて出撃していた。テトの尋問を後回しにして、ゴブリン退治に昨晩から出ていたのだ。


 昨晩ゴブリンと遭遇し、複数のゴブリンを狩る事に成功した調査隊。


 ゴブリンの巣を放って置くと直ぐに繁殖する為に、ゴブリンの巣を掃討する為、今朝は早朝からゴブリンの巣を捜索していたのだが・・・


 ゴブリンの巣には100匹を超えるゴブリン。更にオークまでもが現れていた。


 この世界のオークは人間や亜人、獣人の女を攫って犯し、繁殖に使う極悪非道な種族である。掴まった女性は必ず悲惨な最後をとげる。死ぬまで犯され、子供を産み続ける道具にされるのだ。ゴブリン程度ならなんとか対抗出来た調査隊であったが、隊長のシルフィードや、一緒に来ていた魔術師四名は全員女性だった。


 人間の女性を見たオークは興奮し、より一層凶暴化して調査隊に襲い掛かってきたのだ。


「シルク! メルル! あなた達は癒しの魔法で治療に専念して!・・・・怪我をした人は下がって!! そこっ!援護します! ウインドカッター!」


 シルフィードは陣頭指揮を取りながら、得意の風魔法でゴブリンを切り刻んでいく。


 しかし、100匹を超えるゴブリンにオークが10匹の集団に苦戦を強いられていた。


(マズイわね・・・このままじゃ・・・)


「アビス! エルマ! 障壁をお願い! 全員後退して隊列を立て直して!!」


 既に二名の騎士が帰らぬ人となっている。残りの8名も全員怪我をしていた。


 10名の騎士で支えるには、相手の数が多すぎたのだ。そして魔術師の女性達はオークの姿に怯え、いつもの力を発揮できないでいた。


 障壁のタイミングと後退のタイミングがわずかにズレた。その隙を逃さずに、一気にオーク達が駆け込んでくる。


「い、いやぁぁぁぁぁ!!!助けてぇぇぇぇ!!」

「アビス?!! このぉぉぉぉ!」


 一人の魔術師がオークに捕まり、足を掴まれて引きずられていく。


 シルフィードは魔法でオークを攻撃しようとするが目の前にゴブリンが迫り、攻撃を回避するので精一杯だ。




『ギャァァァァァァァ!!!!!!!』


「なっ・・・・・・・」


 突然咆哮が聞こえ、その場に居る全員の動きが止まった。


 モンスターも騎士達も、まるで時間が止まった様に全員がピタっと動きを止める。シルフィードも動くことが出来なかった。まるで心臓を鷲掴みされた様な恐怖感が沸き上がり、体が動かない。


 次の瞬間、周りがピカっと光ったと思った瞬間に、魔術師の足を引きずっていたオークの上半身が消し飛んだ。


 更に騎士達を囲んでいたゴブリンが一瞬で消えていく。体が燃えたと思った瞬間に、消し炭になっていくのだ。


『バサッ バサッ バサッ』


 頭の上の方から大きな羽の音が聞こえてくる。


 シルフィードは理解していた。今、自分たちの上を飛んでいる絶対的な強者の存在を。


 なんとか気力を振り絞って上を見る。そこには、真っ赤な色をしたドラゴンが宙に浮いていた。


「・・・・・っ!! ハァハァハァ」

 やっと呼吸を出来るようになって、体が動いたシルフィード。


 他の騎士や、モンスターも同じように動けるようになって、モンスター達は慌てて森へ逃げ帰ろうとしていた。


「メル、もう一発頼むわぁ」


 人間の青年の声、まるで緊張感も何も無い声が頭上から聞こえると、背中を見せて逃げていくモンスター達が消し飛んでいく。


(これがドラゴンの力なの??)


 一瞬で森の木ごと消し炭になっていくモンスター達。気が付けば、周りのモンスターは一匹も居なくなっていた。


『バサッ バサッ バサッ』


 大きな羽の音だけがこの空間を支配している。


 騎士達も、誰も言葉を発する事が出来ずに、上空を飛ぶレッドドラゴンを見上げていた。

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