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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
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06話 目撃情報

 エスバンヌ連峰の南側にあるジラール王国。


 そのジラール王国の王都サファリアの王宮では、最近ドラゴンの目撃情報で慌ただしくなっていた。国の重鎮が集う国政会議でも、ドラゴンの話題でもちきりだった。


「それで、ドラゴンが出る様になったと言うのは本当なのか?」国務大臣が口を開いた。

「本当だ、我が国の北側の穀倉地帯で、何度も目撃されている」それに答えたのが軍務大臣。


「レッドドラゴン・・・・なんとやっかいな」

 その一言を皮切りに次々と他の人達が発言をする。


「それにしても、今まで姿を見せなかったのに、ここに来てどうして?」

「山の餌が不足して人里に下りてきたのか・・・あるいは他の理由か」


「それとは別に、最近その近辺を帝国の竜騎士が単騎で偵察行動を行っているとの報告も入っています」

「なんだと?! 忌々しい帝国の竜騎士め!」


「ひょっとしたら、帝国の竜騎士がいらぬちょっかいを出して、レッドドラゴンを怒らせたとか?」

「ありえるな、帝国の考えそうな事だ」


「もし、ドラゴンの怒りを買って、穀倉地帯をブレスで焼かれでもしたら・・・・」

「我が国は食糧難に陥りますぞ!」


「う~~む・・・」全員が唸り、その後も不毛な会議は続いた。


「とにかく、あの穀倉地帯一帯はウェストリア伯爵家の領地なのだから、伯爵家に調査隊を出させるのだ」

「そうですな、それが宜しいかと」


「しかし調査と言っても何を調査するのですか?」

「決まってる! まず現れたドラゴンは本当にあのレッドドラゴンなのか? そして人里へ降りて来た理由は何か?次に、帝国の竜騎士の目的は何か? レッドドラゴンとの関係はあるのか? それが調査内容だ」


「わかりました、早速伯爵家に手配致します」


 こうして会議は過ぎて行った。






 リアン大陸、この大陸には大小複数の国家が存在している。その中でも、最大の軍事国家「グリエルド帝国」がある。


 一般的に「帝国」と言えばこの国を示す。膨大な軍事力を持って、周りの国へ侵略戦争を続けている国家である。そして、そのグリエルド帝国の東側に国境を接している、この大陸で三番目に国力を持つ「ジラール王国」がある。


 しかし三番目とは言っても、帝国の国力は膨大であまりにも桁が違う。


 現在帝国の侵略に一番怯えている国家である。


 シンがよく人里の上を飛行する様になり、このジラール王国の穀倉地帯ではレッドドラゴンの目撃情報が王都に伝えられていた。


 更に、帝国の竜騎士と思われる存在もシンである。


 ドラゴンの背に乗って飛行するのは、大陸の中でも「帝国の竜騎士」のみである。


 従って、レッドドラゴンとワイバーンを見分けられなかったとしても、住民を責める事は出来ない。ドラゴンに乗っているイコール「竜騎士」という認識なのだ。


 グリエルド帝国が侵略戦争で勝利し、国力を増強させる事に成功したのは、ここ十年ほどだ。


 それは、この竜騎士の力が大きい。


 上空から放たれるファイヤーボールによる攻撃は凄まじく、防衛線を難なく上空から突破して後方の補給部隊を叩くなど、この世界で唯一の航空戦力を持った攻撃は、どの国も対応する事ができなかった。


 何故帝国だけが竜騎士を所有しているかと言うと、帝国で偶然助けたメスのワイバーンが人間に懐いたからだ。何処かで聞いたような話であるが、懐いたワイバーンは野生のオスと交尾をして卵を産んだ。


 生まれたワイバーンを飼育して、また交尾をさせて増やして行った。


 しかし、いくら飼育してるとはいえ、そう簡単にワイバーンが懐く訳はなく、何十年もの試行錯誤を繰り返し近年ようやく「竜騎士」の部隊を設立する事が出来た。


 ワイバーン飼育の方法は最重要機密事項となり、帝国のみがワイバーンによる竜騎士を所有している。他の国では、野生のワイバーンなど手懐ける事は出来ないし、そのノウハウも無い。


 しかし、帝国でもワイバーンを飼育するのは莫大な費用がかかり、無尽蔵に竜騎士を増やす事は難しかった。





 人々がレッドドラゴンの出現に騒いでいる事なんか知らないシンは、今日も穀倉地帯を飛んでいた。メルの足にはバッファローの様な牛もどきが一匹ぶら下がっている。


 農家のテトの家を訪問してから、一週間が過ぎていた。


 貰った野菜は、ドラゴンブレスで焼き野菜にしてみたが、上手く行かずに美味しく食べる事が出来なかった。テトに調理器具が手に入らないか交渉する為、手土産を持ってテトの家へと向かっていた。


「おー 良く来たな」

 テトが笑顔で出迎えてくれた。


 今日はテトの家に居る間、メルは山に狩に行く事になっている。お土産の牛もどきを置くと、メルは飛び立っていった。


「この前のガトービックバード、アレな、なんと金貨5枚で売れたぞ!」

 テトは嬉しそうにそうにそう言った。


「へぇ~ よかったね」

 貨幣価値がよくわからないシン。


 今日はテトに調理器具の調達を頼むだけではなく、この世界の事を少し教えてもらうつもりだった。その為、滞在時間が長くなるのでメルは山へ狩に行く事にしてもらったのだが、メルがブーブー文句を言ったのは言うまでも無い。


 テトにこの世界の事を色々と質問をすると、すごく微妙な顔をされた。


「なあ、そんな子供でも知って居る様な事、何故知らないんだ?」

 当然の反応である。


「俺、記憶喪失なんだよ」

「記憶喪失? なんだそれ?」


「え? 記憶喪失って知らない?」

「ああ、初めて聞いた・・・」


「そうだなぁ~、分かり易く言うと・・・・テトの奥さんの名前は?」

「モニカだ」


「ある朝目が覚めると、モニカさんの名前どころか、顔も忘れてしまう病気なのさ」

「なに? 顔を忘れるだと?」


「うん、思い出せないから、モニカさんに「初めまして、どちら様ですか?」って聞くぐらい大変な病気なんだ」

「そうか・・・それは恐ろしい病気だな」


「うん、まあね・・・・」


 なんとか記憶喪失を理解してもらい、色々なこの世界の事を聞いた。


 まず、通貨の価値について。


石貨=百円

銅貨=千円

銀貨=一万円

金貨=十万円

大金貨=百万円

白金貨=一千万円


 正確ではないが、物価を聞くと日本円に換算してこれぐらいの価値観だとわかった。


(何?って事は、あのガガド巨鳥は、50万だと???)


 あまりの衝撃に目が眩んだシン。


 サラリーマン時代のシンの手取りはそんなに有るはずがない。それだもん、テトは上機嫌で迎え入れてくれるはずだ。


「なあ、それにしてもテトはモンスターに詳しいな、こっちの人は皆詳しいのか?」

「ん? いや俺は農家をやる前は、狩人だったんだよ」


 狩人、この世界で言う冒険者だ。魔物を狩って素材を売って生計を立てている人達。


「結婚してガキが出来たからな、狩人はいつ死んでもおかしくない商売なので、足を洗ったのさ」

 ここは、奥さんのモニカさんの実家だそうだ。


「じゃあテトは、モンスターの素材を売るのも慣れてるの?」

「ああ、元はその商売だからな、今日持ってきてくれたビッグバッファローだが、皮は高く売れるぞ」


(ビッグバッファロー・・・そのまんまのネーミングかよ!)


「最も肉は売る前に痛んでしまうから、俺達で頂くけどな」

「そっか、じゃあテトに頼みがあるんだけど」


「なんだ?」

「先日の・・・なんとか鳥、あれをまた持ってくるので、売ってきてくれないか? 報酬は手数料として金貨1枚出すよ」


「本気で言ってるのか??」

「うん、その変わり、調理器具を調達して欲しいんだ」


 シンは、なんとか巨鳥が金貨5枚で売れるなら、金貨1枚をテトの手数料に渡し、金貨1枚で料理器具を揃えて、残りの金貨は戻して欲しいとテトにお願いする。


「俺はそんな美味しい話は願ってもないが・・・・本気か?」

「うん、そして金貨もう一枚だすからさ、もっとこの世界の事を教えてくれないか?」


「・・・・・この世界の事?」

「テトだけじゃなくて、奥さんにも協力してほしいんだ。 俺の失われた記憶を取り戻す手伝をお願いできるかな?」


 シンは更に金貨1枚で、この世界の知識を買うことにした。最も元手はメルが狩るので、シンにとっては無料同然であるが。その後もこの世界の一般常識について、色々教えてもらった。


 台所で調理器具を見せてもらい、必要な物をお願いする。調味料も、庶民では買えない胡椒や砂糖とかもお願いした。当然、調味料入れとか諸々の家庭用品の購入をお願いする。


 テトも先日の金貨5枚があるので、その辺を充実させたいと思っていたらしい。


「ところでさ、テトは魔法使える?」

「はぁ? まさか魔法の使い方も忘れちまったのか??」


「・・・・うん」


 テトの使える魔法は肉体強化魔法、読んで字のごとく、魔力で肉体を強化する魔法だ。


 狩人のほとんどがこの魔法を使える・・・と言うか、この魔法が無いとモンスターと剣で戦う事なんて出来ないと言われた。テトの奥さんのモニカさんは生活魔法全般を使うことが出来た。


 火を着けたり、「クリーニング」で衣類を洗濯したりと便利魔法だ。


 今度来た時は、魔法の使い方も教わる事にした。魔法の話の最中にメルが狩から戻って来たのだ。メルを待たせると碌な事が無いので今日は素直に帰る事にした。




テトの家の帰り・・・・メルの元気が無い。


「メル? 何かあったのか?」

「ねえシン? そんなに人族が良いの?」


「へ? なんで?」

「だって、人族と一緒に居たら、シンはすっごく楽しそうなんだもん」


 どうやらテトの家から戻った俺は上機嫌で、メルから見ると人族の中に戻りたい様に見えるらしい。


「そんな事は無いよ、俺はメルと一緒に居ても楽しいよ」

「嘘よっ!」


「嘘じゃ無いって・・・・俺が楽しそうにしているのはね、この世界の事を学んでいるからだよ」

「この世界の事?」


「うん、メルと一緒に暮らすにしても、人族としてこの世界の事は深く知りたいのさ」

「私がシンの餌は面倒みるもんっ! 人族と一緒に居なくたって、シンはお腹空かさないもん!」


「あはは、ありがとうメル。でもね、俺は人族なんだ、メルとこの先一緒に居るにしても、きっと人族が恋しくなるし、元の世界に帰りたいと思うかもしれない」

「そんな・・・・戻りたいの? 元の世界に」


「今はそうは思ってないよ。メルと一緒に居たいよ」

「・・・・・っ!! 本当にっ?!!!」


「その為にも、人族とはそれなりに交流を持ちたいのさ」

「ん~~? シンの言う事難しくてよくわからないよ」


「そうだなぁ~ じゃあさ、俺が野菜を食べているの見てどう思った?」

「なんか、牛や馬みたいで、あんまり好きじゃない」


「そっか、牛や馬みたいか・・・でもね、俺は野菜を食べないと死んでしまうんだよ」

「嘘? 本当に???」


「本当だよ、メルはお肉は狩って来れるけど、野菜は持って来れないだろ?」

「う、うん・・・・」


「だから俺は、メルとこの先ずっと一緒に居る為にも、人族と交流して野菜を貰う必要があるのさ」

「そうだったんだ・・・・ごめんねシン。変な事言って」


「いいや、気にしてないよ」

「良かったぁ~」


 メルからシンに、心の底から安堵したオーラが伝わって来る。


「だから俺が人族と交流する事は、ちょっとだけ大目に見てくれるかな?」

「ん~・・・しょうがないなぁ~」


「俺が大好きなメルと、この先ずっと一緒に居る為にもお願いだ」

「・・・・大好き??? ちょっ!!! 何言ってるのよシンっ!!!! バッカじゃないのっ?!!!!」


 動揺したメルは、曲技飛行チームさながらの飛行を披露して、洞窟に戻ったシンがゲロゲロしたのは言うまでも無い・・・・

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