46話 旅立ち
東の砦に到着すると、騎士達が出迎えてくれた。
その中にはサンスマリーヌの騎士達も居て、懐かしい顔がある。ドラゴン娘達は狩りに行く様に指示をして、人間形態になったメルと二人で砦に入る。
会議室に通されるとそこには、エリス姫、ローラ姫、ビアンカ王太子妃、シルフィード伯爵代行、アビス、アンナ侯爵、エバンス隊長の顔ぶれで出迎えてくれた。
久しぶりの再会を全員で喜んだ。
特にエリスは、久しぶりに見るメルに抱きついて、相変わらずだった。
ビアンカにマティスからの手紙を渡し、其々の近況報告を行う。特に戦況については詳しく聞かれた。
この砦に入って来る一般的な情報だけでは、皆が不安になっている様だった。前回の戦いで敵を退ける事には成功したが、こちらも多大なる被害を出したとしか伝わって居ない様だ。
シンはエルディアと同盟を結んだ事、そしてフロストの街奪還の為、エルディアとの共同作戦が行われる事を話した。
ここには、まだエルディアとの同盟については話が伝わっていなかった。
そして、シンはエルディアとの共同作戦の為に、エルディア王国へ行く事を話した。エルディアへ行くので、暫く戻って来れないので、今回はその挨拶に来たと。
夜には、シンを送り出す細やかなパーティーを開いてくれる事になった。
「それでは、シン殿のエルディア王国での活躍を祈念して、乾杯っ!!」
パーティーが始まり、懐かしいサンスマリーヌの騎士達と歓談する。メルを初めて見るローラやビアンカ達に、メルも囲まれていた。
穏やかにパーティーは進んでいたが……
シンの所にエリスとローラ、そしてメルがやってくる。
嫌な予感しかしないシン。
『シン!ちょっとハッキリさせたい事があるんだけれど!!』
(やっぱり来たか……)
シンはメルが戻った時に、ルルカとミオがとんでも無い事をメルに吹き込んだのを思い出す。ルルカとミオはメルに対して、自分達はシンの第二夫人と第三夫人だと言った。そして第一夫人はエリスだと……
「どうしたんだ?メル」
『シンは誰とつがいになるつもりなの?』
「……っと言うと?」
『この前、あの獣人のメスが言ってたわよね? 自分達は第二、第三夫人だって』
「あ~……なんか言ってたっけ?」
『そして第一夫人は、このエリスだって言ってたわよね?』
「ん~~~~……そうだっけ?」
(マズイ、非常にマズイ……何がマズイってローラの顔が鬼の様になっている)
「ちょっとシン?! どういう事? シンは私と結婚するんでしょ? 何時の間にエリス姉様とそんな話になっている訳?!」
予想通り、ローラはブチ切れている。
『そしてもう一人、こう言っているメスが居るんだけれど? これはどう言う事なのかしら?』
メルも怒っている。殺気が漏れ出す寸前と言う感じだ。
二人とは対照的にエリスは、涼しい顔をしている……
(何故だ? 何故そんな顔をしているんだエリス??)
「メルちゃんも、ローラも少し落ち着きなさい」
「そ、そうだぞ、二人とも少し落ち着こうか? なっ?」
「誰を第一夫人にするか、それはシンが決めることよ、そうよね? シン」
「え? う、うん、まあ、そうだね……」
(げ? ここで俺に振るのかエリス??)
『だからシンにハッキリしてもらいましょうって言ってるのよ!』
「シン、ハッキリ言って、私を選ぶって!!」
メルとローラがシンに迫る。
「シン? 戦いに行く前に、あのバルコニーで話した事は覚えてる?」
エリスが前回のパーティーの時にバルコニーで話した事を言ってきた。前回とパーティー会場は同じ場所。エリスが指さすバルコニーは前回エリスとい二人で話をした所だ。
あの時に、自分が第一夫人で、ルルカとミオを第二、第三夫人にすると勝手な密約が結ばれたのだ。頭の痛くなる話だ。
「ちなみにメルちゃん? 私は人族の第一夫人で、メルちゃんは竜族の第一夫人、それでどうかしら?」
いきなりとんでも無い発言をするエリス。
『え?竜族の第一夫人??……第一夫人なのね?』
「そうよ、私はメルちゃんの事もちゃんと認めているから、メルちゃんも私を認めてくれるかしら?」
『でも、それは……』
「よく考えてみて? メルちゃんとシンの間に出来た子供はドラゴンでしょ?」
『うん……そうよ、ドラゴンの子が生まれるわ』
「私は人族の子を産むの。問題あるかしら?」
『そう言われると……』
「シンは人族なんだから、竜族の子だけじゃなく、人族の子も欲しいと思うのよ」
『それは、そうよね……』
「だからメルちゃんは竜族の第一夫人で、私は人族の第一夫人、何も問題ないでしょ?」
まんまとエリスの口車に乗せられているメル。流石は王族だ。エリスの言葉にはなんとなく説得力がある様な気がする……言ってる事は滅茶苦茶だけど……
『でも、あの獣人のメスはどうするのよ?』
「あの子達は第二、第三だもの、当然メルちゃんや私達より格下になるわね、それに獣人と人族の間には子供が出来にくいのよ、万が一出来てもあの子達が産むのは獣人の子よ、人族じゃないわ、だから問題ないの」
『そっか、なるほど……でも……』
「気持ちは分かるわ、でもよく考えてみて? 私達のお腹に子供が出来たら、シンの相手を出来ないでしょ? これ以上女がシンに増えない様に、あの子達に相手をしてもらうのよ」
『うんうん、そういう事ね!』
なんという事だ……あのヤキモチ焼きメルを、納得させてしまった。
(恐るべしエリス)
しかし、一人だけ納得できない人物が居る。ローラは鬼の形相でエリスを睨んでいる。ローラを無視して勝手に話を進めているのだから、当然の結果だ。
「姉様!! 勝手に決めないでもらえるかしら?」
「ローラ? あなたは私の様に、メルちゃんも、ルルカやミオも認める事が出来るのかしら?」
「うぅ……それは……」
「それが出来なければ、シンのお嫁さんになるのは難しいわね」
「で、出来るもん! 私だって他の子を認めるもん!!」
「そう? じゃあ第一夫人は、私かローラのどちらかをシンに選んでもらいましょうか?」
そう言って二人はシンを見る。
「えぇぇぇ? 何故そうなる?」
「シン、私達は王族よ。二人揃ってシンに嫁ぐ事は出来なわ」
「そうよシン、私か姉様のどちらかを選んで!!」
グイグイと二人はシンに迫る。
(うぅ、誰かヘルプを!!)
周りを見ると、興味深々でこちらを見ていた人達は、一斉に視線を逸らした。さすがに姫様二人の争いに割って入れる勇者は居ない様だ。
「ふぅ、とりあえず二人とも落ち着こうか?」
「私は冷静よ」
「私も落ち着いてるわよ」
二人は冷静と言い切るが、目が冷静じゃないんですが……
「申し訳ないが、俺はこれから戦場へ赴く身だ。今俺が何方かを選ぶなんて出来る訳ないだろ?」
「どうしてよ?!」
ローラは食って掛かって来る。
「無事に帰って来れる保証なんて無いんだぞ?」
「でも、私達の事を想えば、シンは無茶しないと思うんだけれど」
エリスはそう言うが……
「俺の故郷には死亡フラグってことわざがある」
「なんなのそれは?」
「戦場に行く前に、俺はこの戦いが終わったら結婚するんだ!って言う奴に限って、必ず死ぬって話だ」
「まさか?」
「そ、そんな……」
「だから、戦場に行く前に、そんな大切な事は決める事は出来ないよ、それにもし、俺がエリスを選んで帰って来なかったら、エリスは二度も婚約者を失う事になるんだぞ?それにローラを選んで帰って来なかったら、姉妹そろって婚約者を失う事になる。そんな事になってみろ!二人は呪われてるとか言われて、誰も婚約しようと思わなくなるぞ」
「「……」」
二人は黙ってしまった。説得の効果が出たみたいだ。
「それとも、二人は俺に死んでほしいの?」
「そ、そんな訳無いじゃない!!」
「私はシンに無事に帰って来て欲しいに決まってるわ」
「だったら、この話は戦いが終わってからにしよう、今は帝国とエランの問題を片づける方が先だろ?」
「うん、わかった!!」
「そうね……」
こうして無事に、二人の説得に成功した。
アビスが物凄い顔で睨んでいた事は、見なかった事にした……
パーティーの後には、エリス、ローラ、アビス、更にシルフィードを交えた会議が開かれたらしい……
―――――― 翌朝。
東の砦の前には、シンを見送る騎士達と、エリス達の姿があった。
「じゃあ行ってくるね」
「シン、絶対に無理をしないで、無事に帰って来てね」
「わかってるよエリス」
「メルちゃん、シンをお願いね」
『大丈夫よ、シンは私が守るわ』
続いてローラが前に出る。
「シン! 無事に私の事を迎えに来るのよ! 良いわね?」
続いてシルフィード。
「武運を祈ってるわ」
そしてアビス。
「シンさん! 私も信じてお待ちしております」
最後はエバンス。
「シン殿、無事に再開しましょう!!」
其々と別れを済ませる。
「では、行ってきます!!」
【じゃあ行くぞ皆!!】
シンの声で、次々とドラゴン達が飛び上がる。
手を振りながら、歓喜の声援で送り出してくれる騎士達。
【目標! エルディア王国!!】
シンとドラゴン達7匹はエルディア王国を目指して飛び立って行った。




