45話 同盟
エルディア王国行きを決めたシンとドラゴン娘達。
翌日にはエルディア使節団と会談を行った。
「本当かっ?! 本当に我がエルディアに力を貸してくれるのか?」
「はい、キャサリン様。ドラゴン達は了承してくれました。エルディアのエラン侵攻にご一緒致します」
「そうか、良かった、これで我がエルディアは勝利したも同然だな」
シン達ドラゴンがエルディアに力を貸す事を伝え、キャサリンは文字通り飛び上がって喜んで居た。使節団としての任務の成功も当然嬉しいが、何よりドラゴン達の戦いを目の前で見たのだ。
懸念事項だった竜騎士の存在を気にしなくても良いとなると、これ以上の喜びは無かった。
その後は、どのタイミングでエルディアが侵攻を開始して、どのタイミングでジラールが動くか、細かい打ち合わせが行われる。連絡手段の確保や、緊急時の合図等、挟撃を行う為には両国の密な連携が必要不可欠だ。
ある程度、打ち合わせが終わった所で、シンは素朴な疑問をぶつける事にした。ジラール、エルディア両国の代表が居る場所で、是非とも聞いておきたい。
「ところで、一つお聞きしたいのですが? 宜しいでしょうか?」
「なんだシン殿? なんでも聞いてくれ?」
キャサリンは上機嫌で答える。
シンが気になって居るのは、戦後処理の事だ。まだ戦っても居ないのに、勝った後の事など気が早いとは思うが、聞いておきたかった。
「エラン王国を攻めた後、エラン王国はどうなるのですか?」
「我々が勝利すれば、エラン王国は滅亡する」
「滅亡ですか……」
「そうだ、エランの領土は全て、エルディアに併合される」
「全てですか??」
意外な回答に少し驚くシン。二か国で協力したのなら、国土を二分するのかと思ったからだ。
「そうだよシン、我等ジラールはエランの国土は望んでいない」
マティスもキャサリンの言葉を肯定した。
「エランの王族は全て死刑、貴族は恭順を示した者のみ取り立てる。逆らうものは全て滅ぼす」
「そう、なりますよね、やっぱり」
「そうだな、そうしないと、いつまでも国内を平定できないから、致し方ない処理だ」
聞いていたシンの態度に思う所があるのだろう、マティスもキャサリンの意見を後押しする。
「シン? エランは我々を裏切ったんだ。その結果がジラールにもたらした物を、君も見て来ただろ?」
「そうですね、確かにそうです」
「ジラール王国は、決してエランの王族を許さない」
「わかりました、そこは僕が意見する所では無いですね」
「君は、そうだな、ちょっと世界観が違うからな、色々と思うことが在るかもしれないが、これは覆せないよ」
シンが異世界人だと知って居るマティスだからこそ、シンの心情を考える事が出来た。他の人は、エランの王族は死刑でなんの問題があるのだ? っという態度だ。
「それにしても、ジラールはエランの国土は不要ですか?」
「うん、別にこれ以上国土を広げる必要は無いしね、それに今回は、エルディアの案に我が国が乗る形だ。正直な話、エルディアの力が無いと、我々はフロストの街も取り戻せないからね」
「そうですね、わかりました」
その後は、エラン王国が滅亡した後、帝国の様にエラン国民を奴隷にしたりはしないと、キャサリンは言ったので、シンは安心する事にした。
シンが協力して、エランが滅亡した後、エランの国民が奴隷として戦場に駆り出されるのは、シンとしても寝覚めが悪い。
こうして、「エルディア・ジラール王国連合」が発足した。
会談も無事に終了して、会議も解散となった。しかしキャサリンに呼び止められるシン。ドラゴンについて、もう少し話を聞きたいと言われたので、シンも了承した。
二人で別室に移り、お茶を飲みながら歓談する。
話しの中心は、当然ドラゴン達の扱いについての話だ。ドラゴン達の狩場の場所や、家畜の運用等、実際にドラゴンを扱った事の無いエルディアへ、先に準備を進めてもらう為に色々な話をする。
「なるほどな、実際にドラゴンを運用するには、思ったよりも大変の様だな」
「そうですね、まあうちの娘達は、勝手に狩をしますけど、帝国はそうは行かないですから、もっと大変でしょうね」
「うむ、まずは家畜の確保か、早速本国へ早馬を走らせよう」
「お願いします、キャサリン様」
シンの言葉を受けて、キャサリンは微笑む。
「その、キャサリンと呼び捨てで構わないぞ、様はいらん。それに、これから戦友になるのだしな」
「え?いやでも……侯爵家のお姫様なんですよね?」
「そうは言ってもな、この通りのお転婆娘として国内では有名だしな、姫なんて言われた事は無いし、男は恐れて誰も近づいては来ぬな」
「え? そうなんですか? こんなに美しいのに?」
「なっ?! にゃにゃにゃ にゃにを言っとるのだ?」
顔を真っ赤にして狼狽え出すキャサリン。
(あはは、この人もシルフィードさんと一緒で、自分の美貌に無頓着な人か)
シンは懐かしのシルフィードを思い浮かべた。
「シン殿?? その様な残念な物を見る目はなんだ?」
「おっと、失礼しました。でも、キャサリンさん。ちゃんと鏡見た方が良いですよ」
「なにっ?!! 私の顔に何かついているのか??」
「いや、そうじゃ無く…キャサリンさんは、とても魅力的で美しいですよ」
「……っ?!! な、なんだと?? そんなバカな?!」
キャサリンの反応がとても面白いので、揶揄いたくなるシン。
「僕の故郷に「姫騎士」と言う言葉があります」
「姫騎士だと? 姫なのに騎士なのか?」
「まあ、お姫様の様に美しい美貌を持った騎士と言う感じでしょうかね。その人が戦場に立つと、兵士の士気があがり、言ってみれば「勝利の女神」でしょうか」
「勝利の女神か」
「正に、キャサリンさんは、その「姫騎士」みたいだなって思ったんです」
「私が……姫騎士なのか?」
「ええ、とてもお綺麗ですし、一緒に戦場に居ると、僕の士気も上がりそうですからね」
そこまで言うと、キャサリンは顔を真っ赤にして伏せてしまった。そして肩を小刻みに震わせる。
(おっと、揶揄い過ぎたか?)
照れていると思ったシンであったが、顔を上げたキャサリンを見て、今度はシンが呆気にとられた。
キャサリンの顔は怒りに満ちていた。
「貴様っ!! 何が目的だ?私を篭絡して何を企む?!!」
「へ? 何言ってるんですか?」
「私に取り入って、何かを企んでいるのだろう? そうは行かんぞ!!」
腰にある剣を抜いて、シンに向けるキャサリン。
「ちょっ? ちょっと待ってっ!!」
「私が美しいだと? そんな事、今迄お世辞でしか言われた事はないんだよ! 貴様もお世辞を言って、何が目的だ!!」
剣を向けるキャサリンの目が真剣だ……殺気まで出ている。
「いや、目的も何も、僕に協力を頼んで来たのはキャサリンさんですよ?」
「何? 私が何を貴様に……」
「僕は別に協力しなくても、構わないんですけど……ドラゴン連れて行くの、やっぱりやめますか?」
「なっ?……そうであった……ぐぅ! 卑怯な!!」
「いやいや、卑怯とか意味わからないんですけどね」
「そうか貴様、そんな顔をして、ずいぶんと腹黒じゃないか? ドラゴンの協力の見返りに、私の体が目的なのだな?」
剣をこちらに向けたまま、片手で体を隠す様な仕草を見せるキャサリン。
「いや、もっと意味わからんわっ!!」
「私を褒めて、その気にさせて体を要求するつもりだろう?」
「俺はどんな悪役だよ……」
キャサリンを揶揄うつもりが、変な方向に会話が発展してしまって溜息を吐くシン。
「僕は、体なんて要求しませんよ。正直、キャサリンさんの体に興味ないですから」
そう言うのは、ルルカとかミオとかエリスとかローラとかで……充分間に合ってます。それに、メルが居るので、そんな事をしたらブレスで跡形も無く消されそうで無理です。
「何んだと? この私の体はいらぬと言うのか?」
「いや、どっちなんだよ?!」
「む?…‥うぉっほん……面と向かって興味無いと言われると、ちょっと傷つくな……」
(姫騎士って残念キャラ設定が多いんだっけ??)
「とにかくですね、協力の見返りに体を要求するとか、ありませんから」
「そ、そうなのか?」
「ええ、キャサリンさんが美しいと言ったのは、僕の本音ですけどね。でも、体を要求したりはしませんよ」
「そうか……」
こうして、キャサリンとの会談は終了した。
姫騎士キャサリンは、シンがエルディア参戦を決めた事で、使節団としての任務を全うしたので、既に帰国の途についた。
ジラール王国も、フロストの街奪還、その後に控える挟撃戦の準備の為、騎士や兵士の再編を急ぐなど、急に王都が慌ただしくなり始めた。
シンも、エルディア迄の道中の、旅の荷物の準備に取り掛かる。今回はドラゴンが増えているので、荷物を分散させて運ぶつもりでいる。メルにシンが乗り、ルイーズに荷物運びを頼もうとしたら、ドレイクドラゴンのオスの、トマス、メイスンが荷物持ちを引き受けてくれた。
準備中のシンの元へ、マティスがやってくる。
「シン、東方騎士団の砦に寄るんだって?」
「ええ殿下、集合の約束まで時間はありますからね、エリス姫やローラ姫に、お別れを言おうと思いまして」
「お別れ?」
「まあ、一応戦場に行くわけですから、無事に帰って来れる保証も無いですしね」
「おいおい、縁起でも無い事言うなよ」
「あはは、死ぬつもりはありませんよ、でも、次はいつ会えるかわかりませんから」
「そうか……悪いがビアンカに手紙を届けてもらえるか?」
「もし良ければ、一緒に行きませんか? 帰りは無理ですが、行きはルイーズで送る事は出来ますよ?」
東にある東方騎士団砦を経由した後は、南西にある都市「メロンデニア」を経由して、一気にエルディア王国の王都を目指す予定だ。
帰りはこの王都に寄る事は無い。
(※24話:大陸地図 30話:拡大図3 参照)
「本当は俺もそうしたいのだがな、前回の戦いで将軍のほとんどが戦死した。今俺がここを離れる訳にはいかない」
「そうでしたね、わかりました。出発は明日の早朝の予定ですので、その時に」
「ああ、ではまた明日」
その後もシンは旅の準備を続ける。
シンの食料と野営セットを小分けにして、トマスとメイスンに括り付ける。二人には試験飛行をしてもらい、問題が無い事を確かめたりと、時間を費やしていった。
短い期間だったが、魔法や剣術を教えてもらった、エリスの元近衛騎士や、西の砦守備隊の面々に別れを告げる。
そして、ルルカとミオがシンの所へやってきた。
「シンさん……絶対に無茶しないで、無事に帰ってきてくださいね」
「シンさん、浮気はダメ。これ以上愛人は不要……」
ルルカの言葉に優しく微笑み、ミオの言葉に苦笑いのシン。
シンはルルカを優しく抱きしめる。
「大丈夫、無茶はしないよ。この戦いが終わったら、また会おうな」
「はいっ!」
ルルカを抱きしめながら、優しく頭を撫でて、猫耳を堪能する。
続いてミオを抱きしめるシン。同じように頭を撫でる。
「愛人は増やす予定はないし、そもそもお前達を愛人にしたつもりも無いぞ?」
「シンさん。わかってる。照れ隠しは不要」
ミオの言葉でシンは悪い笑顔になると、ミオの尻尾を握ってなでなでしてあげる。
「っ……?!! にゃっ!!!」
ミオは尻尾を触られて、真っ赤な顔をしてへたり込んだ。
「ぐっ! シンは鬼畜。こんな人前で凌辱されるとは……」
「はいはい、とにかく二人共、二人も気を付けるんだぞ? お互いに無事に再開しような?」
「「はいっ!」」
ルルカとミオ、二人ともお別れを済ませた。
――― 翌日。
早朝の王宮の中庭には、王勢の見送りが来ていた。
「シン、これをビアンカに頼む。そして、無事にエラン王国の王都を落として再会しよう!」
「マティス殿下。必ず再開しましょう」
マティスからビアンカ宛の手紙を受け取り、懐に仕舞うと二人は握手を交わす。
次に国王が前に出る。
「シン殿、我々がフロストを取り戻す為、エルディアへの援軍、よろしく頼む」
「わかりました陛下。吉報をお待ちください」
「うむ、では頼んだ」
次に、ラルが出て来る。
「シン殿! エリス様によろしくお伝え下さい。そして、ご武運を!」
「ラルさんもお気を付けて、無事にエランの王都で再開できる事を祈っています」
ラルともがっちりと握手を交わす。
ルルカとミオは、二人同時に抱き着いて来る。
「シンさん、お気をつけて」
「シンさん、今度こそ夜這いは成功させる」
「二人も戦場に出るんだろ? 絶対に無理はするなよ、無事に生きて会えたら夜の事は考えるよ」
「本当? 絶対に約束」
「わ、私も絶対に死なない様に頑張ります!」
ミオ、ルルカの力強いを返事を聞いて、二人と離れる。
「では皆さん! 行ってきます!!」
シンはメルに乗ると、ドラゴン達は次々と翼を広げる。騎士達は手を振ってシン達を見送る。
レッドドラゴン、ワイバーン3匹、ドレイクドラゴン3匹の計7匹のドラゴン達が舞い上がる。
大勢の騎士達に見送られながら、シン達7匹のドラゴンは東の砦を目指して飛び立って行った。




