44話 エルディア王国
王宮で竜騎士の奇襲攻撃を受け、怪我をしたシンは、メルから癒しの力を受けていた。
王宮の庭には、シンを中心にドラゴン娘達が集まっている。そこへ王太子のマティスがやって来る。マティスの後ろには、見慣れぬ者が一名従っていた。
「シン大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですよ、メルのおかげで」
シンは、マティスの後ろに居る人物が気になって、視線がそちらを向く。
「紹介するよシン、こちらはエルディア王国の将軍、キャサリン殿だ」
「はじめまして、キャサリン・フォン・エクシードルンです、エルディア王国、侯爵家の娘になります」
キャサリンと名乗った人物は、豪華な白銀に輝く鎧姿で、綺麗なマントを付けている。
「姫騎士」と言う言葉がシンの脳裏に浮かんだ。
腰まである長い金髪、もみあげの部分を三つ編みにしているのが可愛らしい。綺麗で気品のある顔立ち。まさに姫将軍だ。
「はじめまして、竜族の使者、シンです」
シンも礼儀正しく挨拶を返す。
【シン!! そのメスに鼻の下伸ばさない!】
突然のメルからの念話。
【伸ばしてないっ!!】
相変わらずのメルのヤキモチが炸裂する。
「彼女はエルディア王国からの使者として、この国へ来たんだよ」
「使者ですか?」
マティスの説明によると、エルディア王国は正式に帝国と戦争をする事が国内で決定したそうだ。そして、共闘する為に使者として数名がこの国へ派遣された。
その一人がキャサリンさんと言う訳だ。彼女は軍人代表として来ている。彼女の他にも、文官が数名来ているそうだ。
「先ほどの竜騎士との戦い、実に素晴らしい! あの竜騎士をいとも簡単に全滅させるとは!!お見事です」
そう言って、シンの手を握るキャサリン。
シンは先ほどの戦いでは、何一つ活躍していないのではあるが、完全にシンのおかげで勝利したと勘違いしているキャサリンは、シンの手を固く握り、熱い目でシンを見ている。
【なにこのメス? なんかシンに馴れ馴れしいんですけど】
リネが面白く無さそうな声を出す。
【さっきは私達の活躍でしょ?何処見てたのよ、このメス】
【うん、さっきの戦い、シンは良いとこ無し】
ゾエとルカの辛辣な意見。
【メルっ! 殺気はダメだ、やめなさい! 相手は一国を代表する使者なんだから!】
メルから溢れ出す殺気を止めるようにシンが言う。
【だって……】
面白くなさそうなメルの声。
「それでシン、済まないが一緒に来てくれないか? 今後の事を話したい」
「わかりました殿下」
【皆、俺は殿下と話があるから、各自自由行動で。狩に行ってもいいよ】
シンの声で、ドラゴン娘達は自由行動となった。
【メル、人間の姿になって、一緒に来てくれ】
【良いの?シン】
【構わないよ、今後の行動方針を決めないといけないし、メルも同席してくれ】
【わかったぁ~】
「殿下、僕はメルを連れて後で行きますので、先に行ってください」
「うん、わかったシン」
マティスとキャサリンは先に王宮へと入った。
シンはメルの服を取りに行って、メルの準備を整えて、からマティス達が居る会議室へと向かった。
人間の姿になったメルを伴って、会議室へ入るシン。会議室の中には、国王と軍務大臣、国務大臣他文官達が数名居る。
更に、エルデア王国使節団と思われる人達。
「わざわざ済まんな、シン殿」
「いいえ陛下、それでお話と言うのは?」
国王がシンに声を掛け、エルディア王国使節団を紹介された。使節団の面々と先ほどのキャサリンは、シンの横に居る美少女を不思議そうに見ている。何故この様な少女がここに?と言う疑問と、その神秘的な美しさに惹きつけられている様子だ。
ジラール王国側の人間は、国王をはじめとして、人間の姿になったメルを既に見ているので、特に疑問には思って居ない。
「初めまして、竜族の使者、シンです。そして彼女が古代竜レッドドラゴンのメル」
『人族の国の代表者達よ、我は古代竜、赤竜族長の娘、メルフリードだ』
メルの威厳たっぷりな念話を聞いて、エルディア王国使節団は大いに驚く。
「まさか?……伝説は本当だったのか……」
「古代竜……」
暫くは、古代竜が人間に変身できる事に驚き、その説明に時間を費やしたが、ようやく全員が落ち着いたところで本題に入った。
「まずは現状の確認を」
マティスが現在の状況について、シンに説明を行う。
エラン・帝国連合は、撃退はしたがフロストの街に駐留した、その数2万2千。対するジラール王国の残存兵力は1万。ジラール王国単独でフロストの街奪還は難しい状況だ。
今回、エルディア王国は対帝国戦線に参加する事を決定した。手始めに、三ヵ国同盟を裏切ったエラン王国に侵攻を行う。
「我々エルディア王国は、エラン王国に侵攻します。その数は3万です。対するエラン王国の王都守備隊は総数1万です。十分に勝機はあります」
補足する様に、エルディアの文官が説明する。
「王都を攻められた場合、フロストに駐留するエラン王国軍は帰国せざる得なくなる。従ってエルディアは、敵が合流する前に、速攻で王都を落とす必要がある」
「敵が合流したら、敵の総数は3万2千、籠城する相手に同数以上では、勝機は無い」
「王都を落とせば、フロストの街から撤退した軍を、ジラール王国軍と挟撃します」
説明を聞いてシンも納得した。
エルディアはエランを落とし、ジラールはフロストを奪還できる。挟撃できれば、味方の犠牲は少くて済む。
「そこで問題が一つ。現在エラン王国を守る守備隊に、帝国の竜騎士が居る。少数の部隊が王都の守備に付いていることが判明している」
「シン殿! あなたには是非、私と一緒にエルディア王国に来て頂きたい!!」
キャサリンが、熱の篭った目でシンを見る。
「つまり、エルディアに同行して、エランの王都を守備する竜騎士部隊を叩けと?」
シンも、話の内容を理解した。
シンの言葉に会議室に居る全員が、その通りだと言わんばかりに頷いた。
作戦としては申し分無い。北上するエルディア王国。南下して挟撃するジラール王国。現状で考えられる最高の状況だ。敵が纏まる前に各個撃破するのは用兵の基本。
「お話はわかりました。ドラゴン達と相談させて下さい。僕一人で決定は出来ませんから」
シンの言葉に驚いたのはエルディア使節団の面々。
「ドラゴンと相談ですと? ドラゴンはシン殿の意いう事を聞くのでは無いのですか?」
その言葉を聞いてメルが口を開く。
『口を慎め人族よ。我等竜族が何故人族の争に手を貸さねばならぬのだ?我らは貴様らの家畜でも、ペットでも無いぞ』
「……」
メルにそう言われて黙り込む使節団。
「まあそう言う訳で、ドラゴン達が協力してくれるのか、相談しなくてはいけません」
シンとメルは、会議室を後にした。
中庭に戻り、狩に出かけたドラゴン達が戻るのを待ちながら、メルと話をする。
【メル、メルはどう思う? やはり協力は出来ない?】
【どーせ、ダメって言っても、シンは行くって言うんでしょ?】
【うん、出来れば力を貸して欲しいけど】
【あの娘達は、シンに着いて行くって言いそうね。私は戦争には加担しないけど、シンを守る事はするわよ】
【じゃあメルも一緒に来てくれるのか?】
【そうね、シンがこれ以上危険な真似をしないか監視しないと……それに放って置くと、あの人族のメスとイチャイチャしそうだし】
キャサリンのシンに対する態度を見て、面白く無いメル。
ドラゴン娘達が狩から戻ると、エルディア王国行きの話をするシン。
リネ、ルカ、ゾエの三人娘は、シンと行動を共にすると言い、ルイーズも了承した。
ドレイクドラゴンのオス二匹は当然、ルイーズと一緒に行動すると言い。
メルはシンがこれ以上無茶しないように監視するという事で、シンとドラゴン娘達の、エルディア王国行きが決定した。




