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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
41/46

41話 決着

『バサッ バサッ バサッ』


 羽音と共に、メルがゆっくりと降りてくる。




「ひぃぃぃぃ ドラゴンだぁぁぁああ」


 メルを見た敵兵達は、慌てて逃げ出した。敵にとっては飛んだ災難だ。気が付けば自分達の周りに四匹ものドラゴンが居るのだから。悲鳴を上げて敵兵達は物凄い勢いで逃げて行った……




【助かったよメル!】

【何やってるのよシン! 危ない事しちゃダメだって言ったでしょ? シンは弱いんだから】


 相変わらずのメルの言葉に、シンも苦笑いだ。


【あのお喋り娘達は何処に行ったのよ? ちゃんとシンを守らないなんて、お仕置きが必要ね】


 そんなメルの言葉に、シンはハッっとなる。


【それが……メル……】

 シンはリネの亡骸を見た。釣られてメルもシンの視線を追う。


【ん? その子、酷い怪我ね】

 

 メルは地上に降りると、リネの所まで歩いていく。リネの様子を見たメルは、片手をかざすと癒しの力を使った。


 リネの体が青白い光で包まれる。


【え? メル??】

【ちょっと黙ってシン】


 メルは目を瞑って、魔力の行使に集中している様子だ。リネの体を包んでいる光が消えると、ゆっくりとリネが目を開けた。


「っ!!!!」


 驚いて声の出ないシン。


【うん、これは元通りになるまで、時間かかるけど…とりあえずはこんな感じね。この子もう少しで死ぬ所だったわよ】


 メルはドヤ顔でシンを見る。しかしそれどころでは無いシンは、そんなメルの横を素通りした。


【嘘だろ? リネ!! リネェェーーー!!】


 思わずリネの顔に抱きつく。死んだと思って居たリネが復活したのだ。シンは涙を流しながらリネの顔に頬ずりして「良かった、本当に良かった」と繰り返した。


【あはは、シン! くすぐったいよ】

【だって、死んだと思ったんだぞ! でも良かった、本当に良かったよ】


 シンはリネに抱きついたまま、本当に嬉しそうに泣いている。


【ね、ねえシン?……ちょっとシンってば……】

【なんだよリネ?】


【後ろ……ちょっと後ろ見て……】

【後ろ? 後ろがどう…】


 リネに後ろを見ろと言われて振り返ると、そこには物凄い怒った顔をして、仁王立ちのメル。メルの体から、殺気がジワジワと流出始める。


【ちょっと! 離れなさいよ! 何時の間にその娘とそんな関係になったのよ?!】

【いや、そんな関係って……何言ってるんだよ?】


【事と次第によっては、私が息の根を止めてあげるわ!】


 メルの殺気はリネに向けられる。


【ひぃぃぃ、メ、メルフリード様、誤解です。これは間違いです!】

【間違い?! あなた私のシンと間違いを犯したって言うのね!!!】


 メルの殺気はどんどん膨らんでいく。


【待て! 誤解だメル! 間違ってるのはお前の頭の中だ!】

【何よシン?! その娘を庇うの??】


【だから誤解だって! 落ち着け、冷静になれ。久しぶりの再会なんだから、そんな怒った顔じゃなく、いつもの可愛い笑顔を見せてくれよ】

【なっ?! 可愛い??】


【うん、メルの笑顔は可愛くて最高だろ?】

【なっ……何言ってるのよシン! バッカじゃないの?!】


 メルは嬉しそうな顔をしながらも、ツンと横を向く。


(うん、相変わらずメルはチョロくて助かる)


 ドラゴンの言葉が分かる人が近くに居れば、戦場で何をやっているのだと呆れられただろうが、とにかくリネが復活した事と、メルとの久しぶりの再会でシンは上機嫌だ。まるっきり戦争の事が頭から抜け落ちている。


 落ち着いたメルの説明によると、リネは危篤状態だった様だ。傷の影響で気絶したのを、シンは死んでしまったと勘違いをした。実際には、後一時間も放置すれば死んでいたそうだ。


 それと、上空を飛んでいる二匹のドレイクドラゴンはメルの配下だと教えられた。


【所でシン様? この後どうなされますか?】


 話が一段落したところで、ルイーズが話に入ってきた。


【おっと、そうだった】


 まだ戦場では兵達が戦っている最中だ。感動の再会をやっている場合では無い。


【なあメル? ちょっと手を貸してくれないか?】

【えぇ~? 人族の戦争に参加しろって事でしょ? 嫌よ】


【そんな事言わないでさぁ~ メルが協力してくれたら、あっと言う間に終わるんだし】

【だって、人族の戦争に加担しちゃダメって言われてるもん】


 古代竜の取り決めで、人間の戦争には加担しない事になっている。たとえシンのお願いでも竜族の掟を破る訳にはいかない。シンもその事は知っているので、なんと言ってメルを説得するか悩む。


【今回戦っている相手の国って、例のワイバーンを飼い慣らしている国なんだよね、そんでこっちの言う事を無視して逆切れして攻め込んできたんだよ】

【……】


【つまり、古代竜の言う事なんか、聞けるかバーカって言ってるのさ】

【……】


【ふぅ~ん、人族にバカにされたままで、メルは良いんだ?】


 かなり極端な意見ではあるが、実際にマティスから今回突然開戦となった経緯を簡単に聞いている。シンの言う通りに使者を帝国に送ったら、逆切れされたと。確かにこちらもワイバーンを使用しているのに、帝国に「竜騎士を廃止せよ」と言うのは理不尽な話だ。帝国がキレるのも無理はない。


【別にさ、ここに居る人族を皆殺しにしろって言ってる訳じゃなくてさ、相手の親玉にメルから一言言ってほしいんだよ】

【……何を言うのよ?】


【このままワイバーンを使って戦争するなら、おまえの国を灰にするぞってさ】

【そんな事でいいの?】


【実際に古代竜が出て来たら、相手も信用するでしょ? そのついでに少しだけメルの力を見せてあげれば、それで終わるよ】

【えぇ~? でもなぁ~? どうしようかなぁ~】


 メルはなかなか了承しない。当然と言えば当然ではある。竜族の掟はメル達古代竜にとって絶対だ。


【ふぅ~ん、俺さっきあいつらに殺されそうだったんだけど……メルは俺が殺されても良かったんだ? へぇ~? そうなんだ】

【なっ? そんな訳ないでしょ? でも原因はシンが弱いくせに戦争になんか参加するからでしょ?】


(くそ……引っ掛かからなかったか……)


【もういいよ、わかった。 じゃあルイーズ行こうか? こんな石頭放っておいてさ】


 えぇぇ? ここで私に振るんですか? って非常に迷惑そうな顔をするルイーズ。


【うぅ……私に乗らないで、その娘に乗るって言うの?】

【だってメルは協力してくれないだろ? 】


【……】

 メルから物凄い殺気が出てくる。


(げぇ? 本気で怒ってる?)


 メルの殺気の相手はルイーズだ、メルの殺気を受けて、ルイーズは涙目になってガタガタ震えている。


(ごめんね……ルイーズ)


【やめろよメル! 俺は竜族の使者としての役割を果たそうとしている、それなのにメルは協力してくれないで、協力してくれるルイーズを脅すのはおかしいだろ?!】

【だって……さっきからシンは他の娘の味方ばかりするじゃないのよ!】


【それはメルが協力してくれないからだろ?】

【だから、人族の戦争には参加できないって言ってるでしょ!】


【違うだろ? 俺は戦争に参加してくれとは言ってない! 竜族の使者としての役目を果たすから、協力してくれって言っているの!俺を使者に選んだのはメル達古代竜だろ? なんで協力してくれないんだよ?! そのついでに少しだけ力を見せてって言ってるだけだろ!】


【……本当にそうなの?】

【そうだよ! 他に何があるんだよ?】


【なんかさ、私シンに騙されてない?】

【ハハハ、ダマシテナイヨ】


 思わず目を逸らしてしまう。


【なんで棒読みなのよ……】


 なんとかメルが協力してくれる事になったので、リネの鞍を外してメルに載せ替える。リネはまだ飛ぶことが出来ない。元通りになるまでは、何日も癒しの力で徐々に治すしか無いらしい。前にシンが大怪我をした時も、ソフィーが何日も癒しの力を使って治してくれたので、シンも納得する。


 ルイーズにこの場に残ってもらって、リネの護衛をお願いした。


 幸いな事に、ここには「グレソ」が臭って来ていない。風向きが変われば大変な事になるだろうが……



 メルの上に乗ると、メルは上機嫌になった。


【じゃあルイーズ、リネの事を頼むね!】

【畏まりました、シン様も気を付けて!】


 メルは翼を羽ばたかせると、徐々に高度を上げて行く。


【メル! まずは味方の陣地へ行ってくれ、どうなったのか気になる】

【はぁ~い わかったけど……やっぱり私騙されてる?】


【ハハハ キノセイデスヨー】


 メルに陣地の位置を教えて、戦場の上を飛ぶ。戦場では数多くの兵士が今でも戦闘中だった。しかし、乱戦になっていて、上空からではどれが味方でどれが敵か、ぱっと見た限りでは判断できない状況だ。


(マズイな、かなり押し込まれてるな)


 陣地はまだ火かが上がっていて、兵達が消火作業を行っている。少し離れた場所に、真っ赤な鎧を着て居る人物を発見した。


(マティス! よかった……無事だったか)


 メルに指示をして、マティスの側に降りてもらう。メルが着地すると、マティスが走ってやってきた。


「シン! 無事だったか!」

「はい! 殿下も無事で良かったです」


「シン殿! 落ちて行った所を見た時は、胆が冷えたぞ!」

「あはは、ラルさんも無事でなによりです」


 再会を喜び合うと、マティスがメルを見る。


「シン? こちらが?」

「ええ、レッドドラゴンのメルです。メル、こちらはマティス殿下。この国の王子だ」


「初めまして、レッドドラゴンのメル殿」

 マティスはメルに礼儀正しく挨拶をした。


『シンが世話になったな、人族の王族よ』


 メルはシン以外の人間と喋る時は、偉そうに喋る。しかしエリスに揉みくちゃにされている事を知っているラルは、そんなメルを可笑しそうに見ている。


「ところでシン? メル殿は協力してもらえるのだろうか?」

「それは――」


 シンの言葉を、メルが遮った。


『王族よ、我ら古代竜は人族の戦争には加担しない、これは竜族の掟だ』

「そうですか……」


 メルの言葉を受けて、マティスはガックリと肩を落として落胆した。


「あー殿下? とりあえず、これから敵の本陣へ行って、撤退する様に説得してみますね」

「なんだって?」


 シンの言葉に驚くマティス。


「戦争には加担しないけど、説得はできますから」

「本当にそんな事が出来るのか?」


「まあ、見ていてください。それと敵が撤退を始めたら、追撃しないでこちらも引いてくださいね」

「ああ、それはもちろんだ。こちらはもう……追撃するだけの余力は無い」


 その言葉を受けて、シンはメルに乗る。


「じゃあ行ってきます」


 マティスとラルは、飛んで行くレッドドラゴンの後ろ姿を黙って見ていた。




【それでシン? どうしたら良いの?】

【う~んと、あそこ! あれが敵の本陣だ、あの前まで飛んでくれる?】


【わかったぁ~】


 上空から見ると、敵の本陣が後方に見える。千名ほどの兵が守っている敵の本陣。その手前には、敵の無傷の予備兵力がまだ三千名ほど残っている。


(まだあんなに居るのか……これは絶対に勝てないな)


 こちらは本陣近くまで攻め込まれているのに、敵はまだまだ余力がある。この戦力差では、絶対にこのままでは勝てないと痛感した。



 メルの両サイドには、二匹のドレイクドラゴンがやってきてメルと一緒に飛び始めた。メルは敵の本陣の手間でホバリングモードに移り、ゆっくと高度を落とす。


 三匹のドラゴンの出現に、あからさまに敵が動揺しているのがわかる。弓兵が弓をこちらの向けたのを見て、メルがいつもの咆哮で全員の動きを止めた。



『無駄な事は止めて置け、自分達の命を縮める事になるぞ!!』


 メルの咆哮で動くことの出来ない兵達に向かって、メルの威厳たっぷりな声が響き渡る。


『愚かな人族よ。我は古代竜、六翼が一翼、赤竜のメルフリードなり』



 ようやく動ける様になった兵達だが、メルに矢を射かける勇気のある兵は一人も居なかった。シンッと静まった戦場に、メルの声が響く。


『我ら古代竜の忠告にも関わらず、竜種を家畜の様に飼い慣らす人族よ。これ以上我ら竜族を愚弄すのなら、貴様ら人族の国は、灰となってこの世界から消えることになる。その時、貴様らはその身を持って、その愚かさを知る事になるだろう』


 敵陣の兵は、誰も喋る事無く、身動き一つしないで黙ってメルの言葉を聞いている。


『国へ戻り、自分達の王にこの事を伝えるが良い……そうだな、一つ余興を見せてやろう。このまま我らを愚弄するのなら、自分達の国が辿る未来の姿を』


 メルはそう言うと、上空に舞上る。そして、三千名の予備兵達に向かって、高出力のブレスを放つ。



 突然の眩しい光に、兵達は目を開けている事が出来ずに目を手で庇った。光が収まった時、兵隊が見たのは大きなクレーターだった。


 クレータの中心は熱で、土が溶けてドロドロになっている。三千名の兵は、一瞬で蒸発した。



『愚かな人族よ、自分の国へ戻り、今見た事を伝えるがよい。これが自分達の未来の国の姿だと』


 目の前で起きた信じられない出来事に、唖然として誰も動くことが出来ないで居る。


『早く帰らないと、こいつらがお前達の血肉を食らいたがっているぞ!』

『ガァァァアアアアア!!』


 メルの言葉に会わせて、二匹のドレイクドラゴンが咆哮を上げる。


「にっ! 逃げろぉぉぉぉおおおおお!!」

「撤退だぁぁぁ!!」

「早くにげろぉぉぉぉ!」


 兵達は次々と逃げはじめる。早く帰れと二匹のドレイクドラゴンは、地上に降りて兵達を追い掛け回す。ドラゴンに追われる敵兵は、必死の形相で逃げはじめた。



 上空からメルの上でその様子を見ているシン。メルの喋った言葉は、シンがメルに念話でセリフを伝えていた。メルにお願いして敵にブレスを放ったが、実はメルの全力ブレスを見たのはこれが初めてのシン。


 普段は肉を焼く時のブレスしか見ていない……


 以前、森を消滅させた事は知っていたが、正直な話、一撃がここまでの威力だとは思っていなかった。リネ達やルイーズのブレスを見ていたシンは、それよりも威力は上だと頭ではわかっていたが、まさか三千の兵が一瞬で蒸発するとは思っていなかった。


 あまりの威力にシンが一番驚いていたかもしれない。


【メルのブレスって、半端ないな……】

【えぇ~? あれでも威力押さえたんだよ?】


【マジっすか?】


【だから私達は戦争なんかしないんだって! これでわかった?】

【……】


(確かにこりゃ国が灰になるわ)


 本陣が慌てて逃げはじめたので、前線の敵兵達も戦闘を止めて撤退を始めた。


 メルの登場で辛うじて、ジラール王国は国を守りきる事に成功したが、その代償はあまりにも大きかった。

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