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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
40/46

40話 咆哮

 部下たちの開けた突破口に躍り込みながら、ラルとマティスは剣を振るっていた。


 5人の騎士達は、見事に自分達を盾にしてマティスの突破口を開いてくれた。逃げながら振り返ると、一人、また一人と部下たちが倒されていく。


 唇を強く噛み締めながら、マティスは前を向いて走った。部下たちの犠牲を無駄にしない為にも。




 敵の包囲網を突破しても、マティスの姿を見た敵兵が追いかけてくる。


(くそっ この鎧は目立ってしょうがないな)


 鎧のお陰で生き延びてはいるが、逆に敵を引き付ける事にもなっている。


「殿下っーーーー!!」


 不意に正面から声が聞こえ、見ると味方の兵が5名ほど駆けつけてくる。マティスの姿を見た兵が駆けつけてくれた。5名の兵が並んで壁を作り、その後ろに駆けこんだ。


「はぁはぁはぁ……すまん」

「はぁはぁはぁ、殿下を……はぁはぁ お守りするんだ、はぁはぁ」


 マティスもラルも、敵から逃げて走り詰めだったので、息が上がっている。


「殿下! 指揮系統がメチャメチャです、なんとか立て直して撤退の指示を」


 そう言いながら敵に剣を振るうのは、隊長格の鎧を着て居る騎士だ。よく見ると、全員一般兵では無く、騎士の鎧を着て居る。5名の騎士達は、敵兵を簡単に切り倒していく。


 マティス達を追いかけて来た20名ほどの敵兵は、圧倒的な強さを持つ騎士達の姿に恐れをなして逃げ出した。


「はぁはぁ……お前たちは?」

「王国西方騎士団、西の砦守備隊です」


「そうか……お前たちが、とにかく助かった」


 帝国との国境に面した「西の砦」には、この王国でも最精鋭部隊が常駐していた。今回の戦で、マティスが国王に進言して砦から移動させた部隊だ。そのお陰で帝国の奴隷兵二万の侵入を察知できなかったのではあるが、思わぬ所で、その判断によりマティス自身の命が救われた形となった。


「とにかく指揮所に戻らないと、お前たち悪いが一緒に来てくれ」

「ハッ!」


 新しく5人の騎士と共に、マティスとラルは指揮所に向かって移動を開始する。


「お前たち5人の他はどうした?」

「わかりません、部隊もなにもバラバラです」


「そうか……隊長は君か? 名前は?」

「ノーランです。西方騎士団 西の砦守備隊21番隊隊長のノーランです」


「よろしく ノーラン」


 今回の野戦で、簡単に敵に突撃させない様に、落とし穴や柵、土の壁、塹壕等色々な工夫を行った。敵を分断させる工夫をして、纏まって行動させない様にしたのだ。数の不利を補う方法である。野戦の様に見せて、実は簡易的な要塞を平野に構築した。


 分断した敵を効率よく各個撃破する。シンが立案した戦法だ。


 こちらの指揮所は丘の上にあるので、全体の状況が掴みやすく、将軍の伝令が上手く運用されていれば、かなり有利に事を進められる予定だった。実際に途中までは上手く運用できていた。しかし指揮所が攻撃された事によって、味方同士も分断されて連携がとれなくなってしまった。


 シンがアニメやラノベで得た知識を使っての戦法であったが、こうなった時の対処法は考えて居なかった。




「敵も分断されていますし、炎の壁のお陰で、敵もこちらを把握しきれていません。敵も味方もバラバラで消耗戦を行っている状況です」


 落とし穴から上がっている炎の壁は、今でも健在で勢い良く火を上げている。そのお陰で敵の後方からは戦場の状況が良く見えない。敵の将軍は、戦場の状況が掴み難くなっているので伝令に頼った采配を行っていた。敵も味方も指揮が混乱して、その場の隊長の判断で戦闘を行っている状況だ。


 途中、10名単位の敵の小隊と遭遇するが、西方騎士団は圧倒的な強さで敵を斬り伏せて行く。


 ようやく、丘の指揮所へ向かう坂道の入り口に辿り着くと、そこには50名近い敵の騎兵隊が味方の兵達と戦闘中だった。


「流石にアレはマズイな」

 隊長のノーランが戦闘を見ながら呟く。


 さすがにこの人数で、50名の騎馬隊と戦う訳には行かない。しかもこちらは徒歩で、相手は騎兵だ。指揮所へ繋がる坂の入り口を守る兵達は、次々と倒されていく。


 このままでは、味方は全滅し、敵の騎兵隊が指揮所に殺到してしまう。


「流石にあの人数は相手できませんよ」

 騎士の一人がそう言うと、他の騎士達も同意する。


 マティス一行が離れた場所から戦闘の様子を見ていると、敵の騎兵の一人がマティスの目立つ鎧を発見した。


「敵の将軍が居たぞーーーー!!」


 その声に、敵の目が一斉にマティスに集中した。


「げっ! 見つかった」

「くそっ! やるしか無いか」


 騎士達が悪態をつきながら、剣を構える。


「殿下は下がってください」


 ノーランの指示でマティスは下がり、マティスを守る様にラルが前に立つ。


 馬蹄の音が響き、騎兵が一気にこちらへ駆けてくる。騎士達は、敵の迫力にゴクリと唾を飲んだ。騎馬隊の突撃を受けるなんて考えたくも無いが、今更逃げる訳にもいかない。


「くそっ! ここまでか……」

「く、くるぞ!」

「うぉぉぉぉぉーーーーー!……お?」


 騎士達が覚悟を決めた時、上空から大きな塊が落ちてきて、目の前の騎兵隊が吹き飛んだ。


『ガァァァァァァーーーーー!!』


 咆哮が響き渡り『ゴォォォォ』と音と共に敵兵が燃えて行く。


「ドラゴンだぁぁぁ!!」

「逃げろぉぉぉぉ」


 青紫色の鱗を持つドラゴンが敵の騎兵隊を押し潰しながら降り立ち、尻尾で敵を殴り飛ばして行く。尻尾の一撃を受けた騎兵は、馬諸共10m以上飛ばされ、二度と起き上がる事は無い。


 ドラゴンはファイアーブレスを放ち、火炎放射器の様なブレスが敵兵を燃やしていく。難を逃れて生き残った敵の騎兵は、突然のドラゴンの出現に慌てて逃げはじめた。


『ガァァァァァァーーーーー!!』


 怒り狂った様に咆哮を上げると、逃げる敵兵に容赦なくブレスを浴びせる。



 50名ほど居た敵の騎兵部隊は、あっと言う間に全滅した。




 目の前で敵が蹂躙されていく様子を、あっけに取られた顔で見ている騎士達。


「なっ?……ドラゴン??」


 その言葉に反応する様に、ドラゴンが騎士達を睨みつける。


「ひぃっ!」


 実際には睨みつけている訳ではないのだが、騎士達にはそう見えた。思わず後ずさる騎士達。ドラゴンを間近で見た事の無い西の砦守備隊の騎士達は、目の前で蹂躙された敵兵を見ているので、今にも腰が抜けそうなのを必死に耐えていた。


「助かったっ! ルイーズ!!」


 マティスの言葉に反応して、コクンと頷くと、ルイーズは翼を広げて飛び立って行く。


「殿下?」

 驚く顔でマティスを見るノーラン。


「大丈夫だ、あれは味方のドラゴンだ」


 飛んで行くルイーズの後ろ姿を見ながら、マティスは確信した。


「ルイーズがまだ味方して戦っているって事は、シンもきっと無事だ」


 その言葉を受けて、ラルも強く頷いた。シンに何かあれば、ドラゴン達が味方してくれるとは思えない。


「よし、指揮所に行くぞ!!」


 マティス一行は、指揮所に向かって坂を上りはじめた。




 ルイーズはシンの指示通り、陣地の各所にあるグレソに火を点けてまわった。最後に丘の上の陣地に火を点け、シンの元へ戻ろうとした時、丘の麓にマティスの姿を見た。


 見た所、マティスに向かっている騎馬隊は、味方ではなさそうだ。ルイーズから見て、乱戦になっている状態では、どれが味方でどれが敵かいまいち判断に悩んだが、シンが先ほど敵の騎馬隊に攻撃の指示をだしていた。


 その時の連中と同じ鎧を着て居るので、あれは敵に違いないと判断した。


 リネがやられた事に対する怒りを、思いっきりぶつける事にしたルイーズ。上空から騎兵を踏みつけて潰し、尻尾で思いっきり吹き飛ばしてやった。本来のドレイクドラゴンの戦い方だ。ワイバーンの遠距離攻撃と違い、肉薄して尻尾と鋭い爪で敵を蹂躙する。


 ドレイクドラゴンは接近戦を得意としている。


 シンはルイーズが傷つく事を嫌がるので、得意な接近戦が出来ずに今までイマイチ活躍する場が無かった。


シンの指定席だった自分の背中も、リネに捕られてしまった。戦争に参加する事になって、活躍出来なかった怒りも一緒に敵にぶつける事にした。


 ルイーズは敵を蹴散らして少し満足すると、シンの元へ飛び立って行った。





◇◇◇




 ルイーズがマティスの元で戦っている時、シンは敵兵10名に囲まれていた。


 墜落したドラゴンに止めを刺そうとやって来たエラン兵だ。シンはリネを庇う様にして立ち、剣を抜いて構えて居た。



 リネがやられた事で、シンは怒り狂っている。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 叫びながら敵兵に斬りかかるシン。


 魔法で身体強化をして飛び掛かり、一人の首を飛ばす。その隙をついて、シンの背中に斬りかかる敵。


『ガキーン』

「ぐはっ……いてぇーーな!!コノヤロー」


 振り返り、背中を斬りつけた敵の手首を飛ばす。鎧のお陰で斬られる事は無いが、剣の衝撃は伝わる。鉄の棒で殴られている感じだ。


「死ねぇぇぇぇ!!」

 怒りに我を忘れて無我夢中で剣を振るシン。


 いくら魔法で身体強化していても、戦い慣れた兵士10名を相手にするのは無茶だった。シンの剣の腕では、そんな無双が出来る訳が無い。怒りに身を任せて5名の敵を葬ったが、それが限界だった。


 敵を一人斬る度に、シンも斬られる。というか剣で叩かれる。ソフィーの鎧のお陰で斬られる事は無いが、鉄の棒で殴打されている様な物だ。


「くそっ……ハァハァハァ」


 魔法付与で軽いはずの剣も重たく感じる。あちこち殴打されて、体がひどく痛んだ。鎧の弱点である間接部分の隙間はグリフォンの皮で覆われている。これもまた、そう簡単に斬れる事は無い。


「なんなんだ、コイツの鎧は?」


 敵兵も斬れない鎧に戸惑いながら、シンを追い詰める。ジリジリとシンを囲う輪を狭める敵兵。



 ようやく冷静になったシンは、非常にマズイ状況だと認識した。生き残っている敵兵も身体強化魔法を使っているらしく、早さも力強さも同等だった。剣の腕も互角だろう。そんな相手を5人も同時に相手できる訳が無い。


 しかしこのまま逃げる訳にはいかない。


 リネの遺体を放置すれば、敵は戦利品として、リネの体を素材として解体するだろう。それだけは絶対に嫌だった。



【ルイーズ!! 何処に居る? ルイーズ?!】


 敵に囲まれる直前に、ルカとゾエから撤退すると念話が届いていた。ルイーズは無事にグレソを燃やしてくれた様だ。なら、ルイーズはきっとこちらに向かっているはずだ。


 剣を構えて、敵を警戒しながら必死に念話を送る。



【くそっ! ルイーーーズ!】

【シン?! 何処に居るの? シン??】


 それは、予想していなかった懐かしい声が念話で戻ってきた。








 サンスマリーヌの街の惨状を見たメルは、そのまま街道沿いに飛んだ。


 小さな宿場町に降りると、驚いて逃げ惑う街の人に話しかけて街の様子を聞いた。戦争が起きている事。今まさに王都近郊で決戦が行われている事を聞くと、王都の場所を聞いて、真っ直ぐに飛んできた。


 遠くに戦場が見えてきた時、シンの念話が飛び込んできたのだ。





【メルか?!! その声はメルなのか?】

【うん、私だよ~ 久しぶりぃ~! ねえシン? 何処にいるのよ?】


 目の前で敵と対峙しながら緊迫している所に、メルの気の抜けた念話が届く。懐かしい声と、その緊張感の無い声に、思わずシンの頬が緩む。



「なんだこいつ! なにニヤニヤしてるんだ?」

「恐怖で頭がおかしくなったか?」


 突然シンはニヤニヤ笑いだしたので、気味悪がる敵兵達。斬りかかって来ようとするが、シンが障壁を張ると驚いて警戒する。


 身体強化と障壁を張れる兵士など、滅多に居ないからだ。頭に血が上っていたシンは、先ほどまで障壁を張る事を失念していた。


【メル! 俺は戦場で敵に囲まれていて、絶体絶命のピンチの真っ最中だ】

【何ですってっ?! 何処に居るのよ?! 人族が多すぎてわかんない!】


【とにかく一発吠えて、こいつらの動きを止めてくれ】

【わかったぁ~】




『ギャァァァァァァァ!!!!!!!』


 戦場の上空で、殺気を込めたドラゴンの咆哮が響き渡る。


 久しぶりに聞くメルの咆哮は強烈だった。シンも敵兵と一緒に変な汗をかいて動けなくなった。


 心臓が鷲掴みされる感覚、呼吸すらできなく、体が動かない。


 それは、戦場に居る兵士たちが一斉に動きを止める、奇妙な現象を巻き起こした。


【メルフリード様! シン様はこちらです】


 いち早く復活したルイーズがメルに近づいていく。ルイーズも突然の咆哮に驚き、墜落しそうになった。しかし直ぐにメルフリードの声だとわかり、メルの元へと飛ぶ。



 人間達はまだ復活して居ない。


「ぶはっ! ハァハァハァ」

 やっと息が出来る様になるシン。


 敵兵も復活した様だが、驚愕の表情をしている。何が起きたのか理解していない様子だ。





『バサッ バサッ バサッ』


 懐かしい羽音がシンの上空から聞こえてくる。


 見上げると、そこには真っ赤な鱗をしたドラゴン。


 シンの姿を真っ直ぐに見つめ、その顔は嬉しそうに見える。



 その横には青紫色のドレイクドラゴン。更に上空には見た事の無い青色をしたドレイクドラゴンが二匹上空を旋回している。



 シンの元に、四匹のドラゴンが集まって行った。


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