04話 空へ
今日はメルと一緒に狩に行く事になったシン。
朝食を取ると、早速昨日もらった鎧を着こむ。ドラゴン形態になったメルにソフィーの指示で鞍を乗せて固定する。
鞍はメルの首の付けねに装着した。鐙があり、そこから膝下までを鞍と固定する。
「なるほど、これなら宙返りしても落ちませんね」
鞍はしっかりとメルに固定され、シンは鞍と足を固定した。
鞍の正面には小さな手すりが付いていて、飛行中はそれに掴まる事になる。馬では無いので手綱は無い。
「そうそうシン、これを」
ソフィーが持ってきたのは、厚手のマントの様な物。
「これは?」
「この洞窟を出ると、外はかなり寒いですから、最初はこれを羽織っていると良いわ」
「なるほど、ありがとう」
俺はマントの様な物を肩に固定すると、全身を覆う。
「後はこれね」
次にソフィーがシンに渡したのは、赤い石が嵌ったネックレス。
「シン、鎧に付いているナイフが有ったでしょ? それで指を切って、この石に体液を垂らして頂戴」
「へ?・・・切るの?」
「大丈夫よ、ちゃんと癒しの力を使ってあげるから、すぐに傷は治るわよ」
ソフィーが渡してくれたのは、竜族と念話が出来るマジックアイテム。上空では風切り音で、メルと会話が難しい。メルは念話で話しかけて来るが、シンは声を出さないとメルに伝わらない。
その為の念話石だそうだ。
「これは私達竜族に伝わるマジックアイテムよ、これに体液を垂らすと、シンに同調して念話が使えるようになるのよ」
「へぇ~ それはすごい」
「あとは、翻訳機能もあるから他の種族とも会話できるわよ・・・・・・まあメル意外とは使う機会は無いわね」
「ありがとう、助かるよ」
「ただし、これは竜族だけの秘密なの、決して他の人族には言ってはダメよ? 悪用されると困るから」
「わかった、最も他の人族に会う事も無いと思うけどね」
シンはナイフで指を切ると、念話石へと血を垂らした。念話石が光り輝くと、シンとシンクロしたのがなんとなく感覚で分かったシン。
癒しの魔法で傷を治してもらうと、早速念話でメルと会話してみる。
【メル? 聞こえる??】
【うん、ちゃんと聞こえるよ!】
「おぉぉぉ! これは凄い!」
「ちゃんと使えたみたいね、では! いってらっしゃい!!」
ソフィーがそう言って少し離れると、メルが翼を羽ばたかせ始める。
「行ってきます!」
縦穴を垂直に飛び始めるメル。
まるでヘリコプターがホバリングで上昇している様な感覚だ。上を見上げると、ぐんぐん洞窟の出口が迫って来る。
【うっひょー! 飛んでる! 飛んでるよメル!!】
【当たり前でしょ? それよりも、ちゃんと外套着なさいよ! 洞窟を出たら寒いわよ】
シンは慌てて外套で体を包まる様にする。
洞窟の縦穴と抜けると・・・・・そこは絶世の景色が広がっていた。
目前には広大な森林が広がり、遠く離れた場所には人の住んでいる町の様な物が見えた。
【うへっ! 本当に寒いな】
二千メールを超える山の頂上だ、夏でもかなり気温は低い。
【シン! ちゃんと掴まってね、行くわよっ!】
メルがそう言うと、ホバリング状態から翼を広げて、一気に山に沿って降下を始める。
ぐんぐん速度が増して、息をするのも一苦労だ。
(目が・・・・・ゴーグルが欲しい・・・)
体感速度で時速150Km以上に感じる速度。
高度100m程度の高さで、メルは垂直飛行に移った。
【ねえねえ、どうだった?】
【どうって何が?】
【私、早いでしょ?】
【・・・・・・・・早いけど、息が出来なかった・・・】
【ええええ? それが感想? つまんないのぉ~!】
どうやらメルは初めてシンを乗せたので、張り切って最高速度を出した様だ・・・・
【なあメル? もう少し高度上げる事出来るか?】
【うん、出来るけど・・・でもそれじゃ獲物見つけるの難しいよ】
【いや、初めて空を飛んだから、少し景色を見てみたいんだ、良いかな?】
【わかったっ!】
メルは上昇気流を捉えるとグングン高度を上げた。
高度千メートル程度まで上昇すると、周りの景色が良く見える。メルはその高度でゆっくりと旋回をする。
【凄いな・・・・本当に異世界だ・・・・】
見渡す限りの森と平原。
現代社会では考えられないほど、豊かな自然。見える範囲には、高層建築物は一切無い。
平野には、野生動物が群れを成している。昔テレビで見たアフリカの様な自然の世界がそこにはあった。
そして・・・空には三つの月が白く見える。
(月が三つか・・・・本当に異世界なんだな・・・・)
シンはもう少し、この世界を探検したい衝動にかられた。
【メル? 山からあまり離れるとマズイかな?】
【え? なんで??】
【いや、色々と危険とかあるかなって思ってさ】
【大丈夫だよ、その代わり餌は少なくなるけど・・・良いの?】
【ごめん、狩より・・・もう少しこの世界を見てみたい】
【わかった! じゃあシンの行きたいところへ連れて行ってあげる! でもその前に・・・お昼ご飯は確保しようよ】
メルは急降下を始めると、牛の様な群れに向かって突撃する。器用に両足で二匹の牛の様な動物を捕まえると、巣のある山脈へと向かう。巣の入り口まで来ると、パっと足に捕まえている牛を放した。
入り口を垂直に落下していく牛もどき。
それを三回ほど繰り返す。
【お昼ご飯、ゲット完了!】
どうやらお昼の分は確保が終わった様だ。
【さてと、どっちに向かうのシン?】
【じゃあ、あっち! 人族の町があるだろ?】
【・・・・ねえ・・・シン?】
【何?】
【まさか・・・人族の街に戻るなんて言わないよね?】
メルは今でもシンが居なくなる事を心配している様子だ。
【まさか・・・言っただろ? 俺はこの世界の人間じゃないの、だから人族の町に戻るとか無いよ】
【本当?】
【うん、本当に! この世界の人族の暮らしを見てみたいだけだよ。そんなに心配なら地上に降りなきゃ良いだろ? さすがに飛び降りたら俺死んじゃうよ】
【そっか! うん、わかった!!】
メルは巣のある山から離れて、平野部へと向かった。高度300メートル程度の高さで飛行するメル。
人の住む町が近づいて来ると、街道には馬車が行き来している。人々はメルの姿を見ると、慌てて居るのがよくわかった。
【なあ、あまりこの変には来ないのか?】
【うん、ここまで人族の縄張りに近づいたのは初めてだよ】
(文明の程度はやはり、中世ヨーロッパって感じだな・・・・最もこの世界には魔法があるけど・・・・)
メルの姿を見た人々がパニックになっているのがよくわかり、町の上空へ行くのは止める事にした。
【メル、戻ろうか?】
【もういいの?】
【うん、今日はここまでかな】
【わかった、じゃあ戻るね】
メルは旋回して、巣のあるエスバンヌ連峰へと引き返した。山脈の麓の森へ差し掛かると、遠くから三つの飛行物体がこちらに向かってくるのが見えた。
【シン! しっかり掴まって!!】
【どうしたんだ?】
【ワイバーンが来た・・・・シンを狙っているのかも】
ワイバーン、竜種の中でも最下級の部類の一族だ。
竜種ではあるが体は小さく、ブレスは吐かずにファイヤーボールを吐く種族とメルが教えてくれた。最もまだ幼竜であるメルと大きさはそれほど変わらない。
三匹のワイバーンは、遠巻きにメルを囲んで飛行を始める。
【ちょっと! あなた達! 何か用なの?】
メルが苛立った様子でワイバーンへと話しかけた。
【古代竜が人族を乗せているなんて・・・・】
【その人族はあなたの旦那様なの?】
ワイバーンの言葉は、念話石を通じてシンにも理解が出来た。
【ちっ!!! 違うわよっ!!! 旦那様って・・・何言っちゃてるのよ!】
メルは慌てて反論するが・・・・
【え? 何照れてるの? 怪しい・・・】
【やっぱりその人族は旦那様なのね】
【これは大ニュースよ! 赤竜の娘が人族とつがいになったって!】
どうやらこのワイバーンは三匹共女の子らしい・・・・
キャアキャア言いながら、大ニュースだと言ってこの場を離れていいった。予想外のワインバーン三人娘がミーハーなのに苦笑いのシン。ワイバーン襲撃かと思っていた緊張が一気に吹き飛んだ。
メルは真っ赤な顔をして・・・元々赤い鱗だけど・・・・ 動揺しているのが手に取る様にわかった。
【ありゃ・・・俺と居る所見られてまずかった?】
【大丈夫よ、あの子達、本当に噂好きなんだからっ!】
【え? 知り合いなの?】
【うん・・・まあね・・・それよりもゴメンね・・・変な事言われて・・・気分を害した?】
【いや、別に俺は何とも思ってないよ、メルの旦那様か・・・悪い気はしないけど】
その言葉で更に動揺したメル。
【シンのばかぁ! 何恥ずかしい事言っちゃってるのよ!】
動揺したメルは突然激しい飛行をして・・・・巣に戻ったシンは思いっきりゲロを吐いたのはメルに内緒だ。