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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
36/46

36話 開戦

 アルバント山にある洞窟に、二匹のドレイクドラゴンが居る。


「居ないな」

「そうっすね兄貴、きっと狩にでも行ってるのでしょう、隠れて待ち伏せしましょう」


 二匹のドレイクドラゴンは、黄竜アルフォンスの命令で、シンを暗殺しに来た二匹だ。


 アルフォンスに、シンはワイバーン三人娘と一緒に居ると言われ、途中で出会ったワイバーン達に聞き取りを行った。その結果、三人娘とドレイクドラゴンのルイーズが、ここアルバント山のソフィーの洞窟に居ると教えてもらった。


「ねえねえ兄貴? ルイーズってあの紫竜の愛人だったメスですよね?」

「そうだ、まさか赤竜の巣で隠れていたとはな」


「すっごい美人だって話ですけど、楽しみですねぇ」

「ああ、シンって人族をさっさと殺して……」


「ぐふふふ、お楽しみって訳ですね? いやぁ~ こんな所まで来た甲斐がありましたねぇ」


 ルイーズの美貌はドレイクドラゴンの間では有名た。二匹はさっさとシンを殺して、ルイーズを手籠めにする気で、ワクワクしながらルイーズの帰りを巣穴で待つことにした。


「ちっ…… 遅いな」

「そうですねぇ~ とっくに日は落ちてるんですけどねぇ」


「ん? 待て!! 帰って来たぞ、隠れろ」


 羽音が洞窟に響いている。二匹はシンの暗殺よりも、ルイーズを手籠めにする事に頭が一杯だった。こんな所まで、くだらない命令を受けて来たが、ルイーズと言う思わぬご褒美に二匹は大喜びだ。


 ノシノシと歩いて来る音が聞こえ、岩陰に隠れていた二匹は一気に飛び出した。


「ぐへへへ、 おかえりルイーズちゃん」

「俺達と楽しい事……ぐはぁっ……」


 飛び出した二匹は吹き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられた。


「な……なんで?……」


 そこには殺気を身にまとったメルが立っていた。




◇◇◇





 王都から10Km程離れた場所にあるマルモン高原。その平野には、整然と並ぶ二万の兵達が居る。兵達の視線の先には、小高い丘に設置された陣地に立つ国王。


 国王の横には王太子のマティスと各将軍達が居る。


「皆の者、帝国並びにエランのコソ泥共に、我が王国の力を見せよ! 敵を一歩たりとも王都へ入れてはならぬ! 二度と我が王国へ攻め込む気にならぬよう、徹底的に叩き潰すのじゃ!!」


 国王の声が風魔法によって、全兵士に行き渡ると、兵達からドっと歓声が上がった。国王自ら戦場に立っているのだ、兵士たちの士気は高い。


『全軍、配置につけーーー!!』


 将軍の声が響き、兵士達は各持ち場に移動していく。平野の向こうには、エラン王国軍二万五千と、帝国軍二万の計四万五千の兵が、続々とこの平野に姿を見せていた。


 シンとルルカ達が夜間の奇襲作戦を行ってから数日が経過していた。





 シン達の活躍によって竜騎士部隊ワイバーンの餌が無くなり、竜騎士部隊の大量投入が出来なくなった「エラン・帝国連合」は、帝国の奴隷兵二万が援軍に来た事により、少数の竜騎士と一般兵による侵攻を開始した。


 戦力比は二倍以上。竜騎士部隊が揃わなくても、余裕で勝てるとの判断だ。


 竜騎士部隊が多いに越したことは無いが、これ以上時間をかけると、今度は四万五千の兵を食べさせるだけの兵糧が不足する事態になる。従って通常戦力で王都を落とすことにした。




 丘の上にある陣地の奥には、ルイーズが一匹だけ翼を休めていた。ワイバーン三人娘はこの場には居ない。ルイーズの元へ、マティスが近づいて行く。


 今日のマティスは、シンから貰ったソフィーの鱗を使った真っ赤な鎧を着ている。王都の防具屋に発注していた鎧は、なんとかこの戦に間に合った。シンとお揃いの鎧は、この世界で最高の防御力を持っている。


 真っ赤な鎧に身を包んだマティスは、ルイーズの頭を優しく撫でている。


「今日は頼むな」


 マティスはそう言うと、ルイーズに騎乗した。


 エラン王国の陣地かには対ワイバーン用の、『グレソ』と言う植物を燃やした煙が立ち込めている。この匂いが苦手なワイバーン達は、ここに居る事が出来ない為、ドレイクドラゴンのルイーズだけが陣地に残っている。



 マルモン高原では両軍の配置が終わり、いよいよ決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。



 

【シン様、そろそろ始まる様です】

 

 戦場から離れた場所を、ワイバーン三人娘と飛ぶシンに、ルイーズからの念話が届いた。ルイーズをマティスの元に残したのは、戦場の実況中継をしてもらう為。念話石を持っているシンは、それなりに距離が離れても念話が通じる。


 『グレソ』が燃える臭いでワイバーンが戦場に近づけない為、ルイーズに念話による実況中継をお願いしている。更にマティスに万が一の事があると困るので、今日はルイーズに騎乗して指揮をしてもらう事にしている。そして、グレソの煙が完璧とはいかずに、万が一陣地に竜騎士の侵入を許した場合、ルイーズに迎撃してもらう予定だ。




――――――― エラン・帝国連合


 今回の侵攻軍はエラン王国が主体となっている為、連合軍総司令はエラン王国の将軍『ムスト』が総司令となっている。


「将軍、全軍の配置完了しました。竜騎士部隊の到着まであと半刻ほどです」


 副官がムストに報告して来た。


 竜騎士部隊は後方に待機している。出撃の伝令を送った時間から考えると、到着まであと三十分程度の予定だ。


「さて、敵は準備万端って感じだな、どう思う?」

 将軍は馬上からエラン王国の配置を見ている。横に並んだ副官に意見を求めた。帝国との連合軍の総司令に選ばれる男だけあって、それなりに優秀な男である。


「そうですね、兵数差があるので数で押すのも可能だと思いますが……」

「不自然だな」


「はい、敵の配置がどうも不自然ですね、嫌な予感がします」


 シンとマティスの罠のおかげで、この世界での通常の配置とは大きく異なった兵の配置となっている。将軍と副官は、その配置が不自然な事に気が付き、慎重になった。


「うむ、まずは竜騎士部隊で敵の陣地を攻撃させよう、敵が浮足だった所で突撃だ」

「宜しいのですか?」


「何か策があっても、竜騎士の攻撃でそれも崩れるだろう。それにこちらは敵の二倍以上だ、罠があっても、食い破るだけだ」

「ハッ!ではその様に致します」


 副官は各部隊長に作戦を伝える為にその場を離れた。





――――――― ジラール王国 陣地



「陛下、敵は恐らく竜騎士の到着を待って居ると思われます」

 

 整然と整列したまま動かない敵を見て、将軍が国王に状況の説明をしている。敵の竜騎士が来る事がわかっている状況で、このまま待機しているのは、将軍としては心臓に悪い。それなら突撃して乱戦になれば、竜騎士も味方を巻き込む恐れがあるので、おいそれと攻撃出来ないのでは? 通常ならそう考える所だが、今回は待つのが作戦だ。


「シン殿に期待するしかないな」

「ハッ! そろそろ、例の作戦を実行します」


「うむ」


 将軍が手を挙げると、陣地から照明弾が三発発射された。戦場に大きな爆発音が三つ響き渡る。昼間なので、照明弾を上げる必要は無いのだが、大きな音を響かせる為に照明弾を使用した。


 戦場に音が響き渡ると、陣地内や前線のあちらこちらから一斉に煙が上がる。


 各地に配置された『グレソ』の山に火が点けられた。そして、その山の近くに配置された魔術師が、風魔法で煙を敵陣の方へ送る。ジラール王国の陣地の上はグレソから出る煙で満たされた。





【シン様、陣地から煙があがりました】

【了解ルイーズ、引き続き報告を頼むね、あとマティス殿下をお願いね】


【かしこまりました】

 ルイーズからの報告を受けるシン。



【よ~し皆、いよいよ作戦開始だ、上空に一気に上がるぞ!】


【はいなぁ~!】

【臭いの嫌】

【臭いの来ない場所まで行くよ~】


 陣地から出るグレソの匂いが届かない高高度まで上昇する三人娘だった。





 一方の帝国軍、竜騎士部隊15騎は、戦場の高原に向けて飛行していた。彼らは先日の奇襲で味方を失い、更に大事な家畜を丸焼きにされて、かなり頭に来ていた。


 予定の数が揃わないまま、戦場に出る事になったが、ジラール王国程度は15騎で十分灰に出来ると確信していた。


(ジラールのドラゴン使いめ!! 絶対に許さんぞ!)


 この竜騎士部隊の部隊長は、味方の竜騎士がやられ、仇討ちをする気で闘志を燃やしている。そんな事を考えながら飛行していたら、突然騎乗しているワイバーンが鳴き声を上げた。


(な? なんだ???)


 ワイバーンが突然暴れ出し、いう事を聞かなくなった。周りを見ると、他のワイバーンも同様に暴れ出し、来た方向へ勝手に戻ろうとしている。


 何度手綱を引いてもいう事を聞かずに、ワイバーン達は戦場とは逆の方に飛び始める。


(いったい、どうしたんだ?)


 暫く飛行すると、ワイバーン達は落ち着きを取り戻した。しかし、戦場とは真逆に、来た道を戻っている形だ。周りの部下達も落ち着いた様で、隊長について来た。


 ハンドサインで部下たちに聞くが、全員頭を傾げている。


(いったい、なんだったんだ?)


 隊長はワイバーンが落ち着いたので、手綱を引いて再度戦場へ向かって飛び始める。しかし、ある程度飛ぶと、ワイバーン達は同じ現象を起こして勝手に真逆へと飛び始めた。暫く戦場とは真逆に飛ぶと、またワイバーン達は落ち着きを取り戻す。


(何が起きてるんだ?)


 隊長は、他の部下達と相談する為、着地のサインを送ると、街道沿いに着地した。15騎の竜騎士は街道に着地すると、ワイバーンを残して集まる。


「おい、どうなってるんだ?」

「わかりません、突然暴れ出していう事を聞かなくなります」

「俺も同じです、突然暴れ出しました」


「まずいな、このままでは戦場に着かないぞ」


 竜騎士達は、何が原因か分からずに、悩み始めるた。


 人間とは比べ物にならないほど嗅覚が優れているワイバーンは、戦場から送られて来る『グレソ』が燃える臭いに反応しているだけであるが、そんな事を知らない竜騎士達は、何が原因か分からずに悩んでいる。






【ん? ねえねえシン!】

【なんだ?】


【家畜君達、あんな所で休憩してるよ】


 リネが地上で相談している竜騎士達を発見した。


【どこだ? 見えないぞ】


 シンの視力ではまったく地上に居る竜騎士は見えないが、人間の何倍も優れたワイバーンの視力で発見した様だ。


【あ~、居るいる】

【本当だ、今なら一気に狩れるね】


 ルカとゾエも竜騎士達を発見した様だ。


【人族は乗ってないね。横で人族も休憩してるね、ご飯中かな?】

(こんな所で何やってるんだ? まあ、こっちは都合が良いけどね)


 シンも疑問に思う。『グレソ』が燃える臭いが、ここまで効果があるとは思って居なかったシン。グレソの匂いを嫌って、戦場に近づけないワイバーンを高高度から奇襲しようと考えて居たが、何時まで待っても竜騎士が来ないので、少し戦場から離れた場所まで足を延ばしてきたのだ。


【よ~し、急降下で一気に片づけるぞ! 狙うはワイバーン、人間は後回しだ】


【おっけぇ~】

【いっくよぉ~】

【これなら簡単ね】


 三人娘は一気に急降下を開始した。急降下を行いながら、次々と連続でファイアボールを撃ちだしていく。



 竜騎士のワイバーン達は、のんびりと翼を休めていた。自分達の主人である人族は、集まってなにやら話をしている。本当なら、餌の一つでも欲しい所だ。


 そんな事を考えながら、ボーっとしてるワイバーン達。野生のワイバーンなら、こんなに呑気にはして居なかっただろう。しかし、家畜であるワイバーンは、自分達に危害を加える野生のモンスターとは無縁の生活を送っていた。


 普段居る、ワイバーンの飼育小屋と同じ感覚で休憩をしていた。



 ふと、上空に魔力を感じて、一斉にワイバーン達は顔を上げた。空を見ると、無数のファイアボールが自分達目掛けて落ちて来る。慌てて飛び上がろうと翼を広げた瞬間に、ファイアボールが次々と着弾した。


 大爆発が起きて、ある者は爆風で吹き飛ばされ、ある者は直撃を受けて火だるまになる。


 15匹居たワイバーンは、上空から打ち出されたファイアボールによって、一瞬で全滅した。高高度から降下しながら、三人娘は次々とファイアボールを撃ちだしていた。その数は三十発以上に上り、雨の様に降りそそぐファイアボールは、次々と大爆発を起こし、


 近くに居た竜騎士も、その爆風に巻き込まれて全員が死亡した。




【うっひゃぁ~ すごい事になってるねぇ~】


 リネがそんな感想を漏らした。


 爆発が収まった地上は、大きなクレータが出来て、土が熱で真っ赤に溶けている。その一帯だけ、火山噴火でもあった様な惨事だ。ゆっくりとホバリングモードで上空から観察すると、吹き飛ばされたワイバーンの死骸と、同じく吹き飛ばされた、人間だったと思われるバラバラになった死体の一部が転がっていた。


(ちょっとやり過ぎたかな……)


 シンもその惨状を見て、ワイバーンの集中砲火の恐ろしさを改めて認識した。


【よーし、俺達は少し戻って上空待機だ】


 竜騎士部隊は全滅させたが、新たな部隊が来ないとは限らないので、シン達は引き続き上空で待機する為、空へと舞い上がって行った。

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