表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
34/46

34話 忍者

 フロストの街の北西にある、帝国領、「エスフルード」の街には、2万の奴隷兵達が行軍していた。


 奴隷兵達は、西の砦を迂回して、真っ直ぐフロストの街を目指している。帝国軍は、ジラール王国軍は王都で籠城すると考えており、籠城戦、更にはその後の王国支配の為の兵力として、奴隷兵2万を向かわせている。


 西の砦は既に「ロンデリーヌ騎士団」が、精鋭騎士団と入れ替わって警備をしていた。


 しかしロンデリーヌの騎士は数が少なく、偵察もままならない状況だったので、この帝国軍の動きを察知する事が出来なかった。




――――――― 東方騎士団本部の砦


 早朝、東方騎士団砦を飛び立つシン達。


 エリス、ローラ、アビス、シルフィード、ビアンカは近衛と共にシン達を見送った。


 これから帝国との決戦に向かう。もう二度と会えないかもしれない不安を胸の奥にしまい、笑顔で四人を見送る彼女達の姿があった。


 リネにはシンが、ルイーズにはマティスが、ゾエにはルルカ、ルカにはミオがそれぞれ騎乗している。4匹のドラゴンと4人は王都を目指して飛んでい行く。


 ゾエとルカには新調した新しい鞍を付けているので、ルルカもミオも、安心してドラゴンの背に乗って飛行している。


 王都に到着すると、ラルが待っていた。


 ラルは、エリスの近衛から移動になり、マティス直属の騎士団と言う身分になっている。近衛では無く、あくまでも前線で戦う騎士団だ。


 マティスの近衛はビアンカとエリスの護衛任務に付き、マティスは戦場で陣頭指揮を執るので、少数の近衛を連れて戦場を駆ける事になる。マティス直属の騎士団として、配下に元エリスの近衛がそっくり収まった形だ。


 エリスの近衛はほとんどが女性。そして魔術師の数が圧倒的に多いのだ。


 魔術師の資質は男性よりも女性に多く、エリスの近衛は剣で戦う騎士より、魔法で戦う近衛魔術師が圧倒的に多い。戦場で貴重な戦力となる魔術師を、後方でエリスの護衛として遊ばせておく余裕など無い為、ラル率いるエリスの近衛部隊は、そっくり移動となったのだ。



「おかえりなさいマティス殿下」

「出迎えご苦労、ラル」


 王宮の中庭に着地すると、ラル達騎士が出迎える。


「ルルカとミオは、ラルについて行って、作戦の説明を受けてくれ」

「わかりました」


「僕とシンは陣地の視察に行ってくるよ」


 マティスが二人にそう言うと、ルルカとミオを下したドラゴン娘達は再び飛び立った。




 王都より西側に10Kmほどの距離にあるマルモン高原。


 ここは過去に何度も外敵から国を守った最終防衛ライン。広大な草原は軍を展開させるのに十分な広さがあり、手つかずの高原の為、戦争で畑が荒らされる事も無い。


 小さな丘があり、その上に司令部を構築する事によって、戦場の様子を見渡すことが出来る。シンとマティスはドラゴンの背に乗って、上空から陣地の様子を視察する。


草原には、シンの提案した長細い落とし穴用の穴がいくつも掘られている。奥行3m横15m深さ3mほどの穴が、いくつも並んでいる。


 騎馬で突撃して、先頭が馬ごと穴に落ちる。後ろの者はその穴を回避して進むと、別の穴に落ちる。敵にしたらなんとも嫌な位置に、落とし穴が掘られている。


 穴の中には大量の油が含んだ枯草が敷き詰められ、一度火か着くと、落とし穴から上がる火は炎の壁となる。全ての落とし穴を回避して進んだ先は、対空弓の砲火に晒される事になる。


 対空弓は二台1セットで運用され、お互いにリロード時間をカバーする為、矢が尽きるまで永遠と砲火を浴びせ続ける。対空弓は連結馬車で運ばれ、荷台ごと設置される為、固定砲台の様なイメージだ。その周りは土嚢袋で固められ、敵の矢を防ぐ様になっている。


 上空から陣地の視察を終えて、丘の上の本陣へと降り立つ二人。


「準備は順調の様だね」

「ハッ! あと三日ほどで、全ての準備が終わる予定です」


「わかった、引き続き頼むよ」

「ハッ!」


 陣地構築の下士官とマティスが話をしている間、シンも陣地の様子を満足気に眺めている。


【うげぇ! ねえねえシン? 本気であれ使うの?】

【うへぇ……私達もここ飛ぶんだよ?】

【シンは鬼畜、ワイバーンの敵】


 三人娘がそう言いながら、ある植物の山を目にして嫌そうな顔をしている。


 それはネギの様な植物で、それが山積みされていた。


 エラン王国から戻り、戦争に参加する事を決めたシンは、ドラゴン娘達に弱点は無いか聞いてみた。そうすると、意外な答えが返ってきた。


『グレソ』と呼ばれる、普通の食卓に並ぶ野菜の一つ。これの燃える匂いが大嫌いだと言うのだ。山にも野生のグレソは生えている。それが山火事なんかで燃えると、ワイバーン達は誰も近づかなくなると言う。


 ちなみにルイーズは平気だと言っている。ドラゴンの種が違うと、苦手な物も違うらしい。


 ワイバーンだけが、この野菜の燃える匂いが苦手の様だ。それを聞いたシンは、その植物を陣地に大量に設置して、燃やすことにした。その煙でワイバーンの上空からの攻撃を防ぐのだ。


 当然三人娘も、その匂いは苦手なので、ここの上空での戦闘は不可能になる。しかし、ワイバーンの上空からのファイアボールを防ぐには、最上級の防衛手段だと思われた。


「あはは、そう言うなよ。ちゃんと匂いの届かないところで戦うから、安心してくれ」

【シンに教えたのが失敗。あんなの見たくも無い】

【これで人族は、間違いなくワイバーンの敵になるわね。ん?って事は最大の敵はシン?】

【悔しくてもファイアボールで燃やせないのが難点ね】


 彼女達の言うとおり、この匂いに頭に来てもワイバーンの最大の武器、ファイアボールを放てば、グレソが燃えて逆にワイバーンにとって不利になる。まさに、これを知った人族は、ワイバーンの敵になるだろう。


「殿下? 僕はそろそろ今夜の準備で戻りますが?」

「ああ、構わないよ。俺は馬で戻るから、先に戻ってくれ」


「わかりました、ではお先に」


 マティスを陣地に置いて、シンとドラゴン娘達は王都へと戻った。



 シンを下したドラゴン娘達は、そのまま狩りへと向かう。


 王宮に戻ったシンは、ラル達の騎士団が居る場所へ向かった。今夜から始まる反攻作戦の準備の為に。


「ラル隊長!」

「おお、シン殿! 丁度良い所に来た」


 シンに呼ばれたラルはそう言うと、ルルカとミオを呼んだ。


「シンさん!! どうですかこれ? 似合いますか?」


 ルルカとミオがシンの前に駆けてくる。


 二人は真っ黒なレオタードを着て居た。


 実際にはレオタードでは無いが、どうみても、レオタードにしか見えない。ハイレグで長袖タイプのレオタードに網タイツ。胸には革で出来た胸パットが当てられ、肩と腕にも防具がついている。


(これは、格ゲーのエロ忍者じゃないのか??)


 そう思いたくなるほど、二人の姿はエロ可愛い。


「二人とも、その恰好は?」

「えへへ、夜間の偵察用の戦闘服です」


 ミオは嬉しそうに言う。


「ちょっと恥ずかしいけど、これ凄いです。体に張り付くので、音が出ません」


 ルルカの説明によると、レオタードでは無く、モンスターの皮で出来た防具で、体にピッタリと張り付いて収縮するので、服の擦れる音が出なく、隠密行動に持って来いだと言う。


 レオタードのお尻の上から、可愛い尻尾が出ているのがなんとも言えない。二人はこの恰好の上から、マスクと帽子をすっぽりとかぶると、まさに忍者その物だ。ちなみに帽子にも穴があって、可愛い猫耳が飛び出す様になっている。


「うん、二人とも、よく似合ってるよ」

「本当ですか? 良かったぁ~」


「でも体のラインが出てちょっと恥ずかしいよねぇ~」

「そうか? 二人とも胸が無い……」


 シンは最後まで喋る事が出来なかった。喋り終わる前に、ルルカはシンの後ろから、ミオは正面から小刀をシンの首に当てていた。


「胸がどうかしましたか?」

「シンさん、首と体が離れますよ」


 殺気の籠った二人の声。


「うぅ……なんでも、ありません……」

 そんなシンの様子を、憐みの目で見ているラル。


 良く似合っているし、二人とも可愛いと褒めちぎると、二人は小刀を鞘に納めてくれた。


「ところで、二人とも作戦内容は聞いたか?」

「あ、はい! 聞きました」

「うん、バッチリだよ!」


「じゃあ今のうちに寝ておいてくれ、作戦は日が落ちたらスタートだ」

「わかりました!」

「そうだね、今のうちに寝ましょう」


「……で? 何故腕を組んでいるんだ?」

 二人は両側から、シンと腕を組んでいる。


「シンさんも寝るでしょ?」

「今日も一緒に寝ましょう!」


 周りの男性騎士から、殺気の籠った目で見られながら、シンはルルカとミオに連行されて私室へと戻って行った。




 ――― 夕刻。


 山の向こうに太陽が沈み始めた頃、ドラゴン娘達の天幕に、シン達の姿はあった。


 忍者姿のルルカとミオはそれぞれのドラゴンに乗っている。マティスとラルが見送りに来ていた。


「ルルカ、ミオ頼んだよ」

「お任せ下さい殿下」


 ルルカが元気よく答える。


「じゃあシン、宜しくね」

「わかりました殿下、行ってきます」


 シン、ルルカ、ミオを乗せた四匹のドラゴン達は、日の沈む空を駆けて行った。


 今日のシンは久しぶりにルイーズに乗っている。そのおかげで、ルイーズの機嫌はすごぶる良いが、リネの機嫌は悪い。四匹のドラゴンは夜間の闇の中、帝国エラン連合に占領された、都市フロストを目指して飛んでいる。


【シン様、フロストの街です】

 シン達の前方には、フロストの街が見える。


 夜間でも街のあちこちに外灯が灯り、暗闇の中に街が浮かび上がっていた。


【よし、旋回して街の南側へ】


 シン達は万が一にも見つからない様に、街を迂回してフロストの街から3キロほど南に離れた場所を目指す。高度を落とし、低空で飛ぶが暗くて何も見えない為、ドラゴンの勘に頼っての飛行だ。


(この辺か?)


 シンは鞍に取り付けてある小物入れから魔道具を取り出すと、明りを灯した。


 暗闇の空に小さな明りが点き飛んで行く。地上から見ると、なんとも不思議な光景にみえるだろう。


【シン様、右前方です】


 シンの燈した明りを見つけた地上の人間が、松明に火を点けて合図しているのが見えた。


【よし、目的地だ。全員着陸】


 松明を持った人間の元に、四匹のドラゴンた着陸する。ドラゴンを降りたシン達の元へ、松明を持っていた男が近づいて来る。


「諜報部の者だ、そいつらが暗殺者か?」

「シンだよろしく。二人が暗殺者のルルカとミオ」


「よし、じゃあ二人は付いてきてくれ」


 シンは二人を見ると、順番に抱きしめ、頭を撫でた。


「ルルカ、ミオ、頼むね。危険だと思ったら、すぐに逃げるんだよ」

「大丈夫ですシンさん」

「任せといて!」


「じゃあ明日、迎えに来る」


 シンはルイーズに乗ると、四匹のドラゴン達は、空へと飛びあがって行った。


 シン達を見送ったルルカとミオは、諜報部の人間と一緒に小さな農家の納屋へと入る。納屋の中は、巧みに隠された地下室があり。二人は案内されるまま地下室へと降りた。


 地下室の中は、テーブルと椅子があり、ベッドが四つ並んでいる。ここは諜報部の隠れ家だと言う事がわかる。


 天井には明りがあり、テーブルの上にある地図を照らしていた。


「よし、早速だが状況を説明する」

 男はテーブルの地図を指さしながら、二人に説明を始めた。




 ルルカとミオを下したシン達は、王都とフロストの街の間にある宿場町へと降り立った。


 既に街の住民は避難しており、ゴーストタウンの様に静かだ。そこには10名程度の、騎士団の斥候部隊が駐留している。


 騎士に案内されるまま、宿屋の一室に入り、シンは眠りについた。






 ―――――― 翌日。


 シンは駐留部隊と一緒に、ある物を準備していた。今夜の作戦に使う道具だ。


 ドラゴン娘達は、自由に狩りに行かせている。


 今夜も夜間飛行をしてもらうので、早めに狩りをして、ゆっくり休んでもらう予定だ。





 夕刻、日が落ちると、忍者姿のルルカとミオが、納屋の地下室から姿を現す。


 二人は頷き合うと、別々の方向へ暗闇の中を駆けて行った。


 これから、二人の初めての実戦が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ